「資源循環で新しい道を切り拓く」 スマート回収箱とアプリで分別意識促す

2025.03.13 14:00
カナデビア株式会社は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」を通じて、スマート回収箱とスマートフォンアプリを活用して、資源循環することの重要性や必要性を認識できるような取り組みを行い、来場者との環境意識共創として、行動変容を促すことをめざす。そのプロジェクトについて、4回のシリーズ企画で迫る。
※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。
※日立造船株式会社は2024年10月1日よりカナデビア株式会社に社名を変更されました。記事本文などには取材時の社名を表記しています。
「資源循環で新しい道を切り拓く」 スマート回収箱とアプリで分別意識促す Vol.1
アプリの仕様について話し合う


スマートフォンアプリを通じて、来場者に資源循環の大切さを考えてもらうスマート回収箱が、大阪・関西万博の会場に設けられる。手掛けるのは、ごみ焼却発電施設の建設を主力とする「日立造船」だ。捨てた後のごみの行方を可視化することで、正しく分別すれば、資源として何度でも活用できるというメッセージを伝える。


日立造船ほど、社名と会社の実態が乖離(かいり)した企業はない。日立製作所との資本関係は戦後まもなく解消。2002年以降は祖業の造船業を分離した。いまは、ごみ焼却発電施設の建設など環境事業がメインになる。焼却時に出る熱を利用し、電気などのエネルギーに変換する「ごみ焼却発電」の国内シェアは平均して20%ほどとトップグループの一角を担う。


小倉舞が入社したのは、環境事業の売上高が会社全体の半数近くに伸びていたころだった。当時の社内は「環境イコール、ごみ処理」だったという。だが、ごみ焼却発電施設の建設需要は、人口減少で右肩上がりとはいかない。


小倉は入社後、次の主力事業を創造する開発部門に配属された。ごみ焼却に代わる事業を考えようと、チームで協力して様々な取り組みに挑戦した。豚や鶏の糞を炭に変え、肥料原料として植物を育てるなど畜産廃棄物を活用する試みに力を注ぐうち、ごみを資源として捉え、循環させていく考え方に可能性を感じるようになった。


同社は18年、「SDGs(持続可能な開発目標)推進方針」を策定し、総力をあげてSDGsに取り組む姿勢を表明した。折しも、小倉はその年、現在の環境技術推進部に異動した。同業他社や大学の専門家らでつくる委員会に参加し、カーボンニュートラルやAI(人工知能)などをテーマにごみ処理をはじめとする廃棄物処理・環境衛生の今後について話し合う機会に恵まれた。「これからは焼却だけじゃなく、捨てる前にリサイクルさせる。電気などエネルギーだけじゃなく、ほかのものにも生まれ変わらせたい」。さらに思いは募った。


その間、国の政策も大きく動いた。G20大阪サミットを機に、「Reduce(削減)」「Reuse(再利用)」「Recycle(再循環)」の3RにRenewable(再生)を加えた「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行された。プラスチックをはじめとするごみの資源循環は一企業だけで完結できる問題ではない。


小倉は考えた。「企業、自治体はもちろん、一人ひとりの意識が変わってこそ、大きく進んでいくもの。環境事業を手掛けている日立造船だからこそ、まずは第一歩となる正しいごみの分別について発信していくことに意味があるんじゃないか」。そんな時、Co-Design Challengeの募集を知った。企業間取引が主体のBtoB企業だけに、消費者とつながれる千載一遇のチャンスと感じた。
環境事業本部 小倉 舞さん
スマート回収箱のデザインや仕様について打ち合わせる
「資源循環で新しい道を切り拓く」 スマート回収箱とアプリで分別意識促す Vol.2
環境事業本部 小倉 舞さん


分別の大切さを理解してもらう舞台装置として、特定の資源に絞った回収箱を設けることにした。Co-Design Challengeの取り組みのひとつで、大手商社「丸紅」が食品廃材を再生した循環型食器「edish(エディッシュ)」を提供することを知り、専用の回収箱で協業することにした。


そして、消費者とつながるうえで欠かせないのがスマホだ。もうひとつの仕掛けとして、edishに二次元コードを印字し、食品廃材からどのように誕生し、回収された後、最終的に堆肥(たいひ)となるプロセスをアプリで視覚的に理解してもらう。動画やクイズ形式など分かりやすい形で、気軽に接してもらえるような内容を考えている。海外と比べて日本の分別回収は進んでいるようにみえるが、回収されたその先に興味を抱かせる試みはまだ少ない。「食べて、捨てて、終わりじゃなく、どうやって作られたのか、手から離れた後にどうなっていくのかというところに思いをはせてほしい」。小倉は狙いを明かす。


2024年は、日立造船にとって節目の年になる。1881年に「大阪鉄工所」として創業し、1943年以来、使い続けてきた社名がいよいよ10月に変わる。新しい社名は「Kanadevia(カナデビア)」。日本語の「奏でる」と、ラテン語の「ビア(道)」を組み合わせた造語だ。「多様性を尊重し、技術革新により、オーケストラがハーモニーを奏でるように、人類と自然に調和をもたらす新しい道を切り拓いていく」という意が込められている。


「あなたは、何を、どのように成し遂げたいですか?」。万博開催地の人工島・夢洲が見える本社では、ロビーに貼られたポスターに社員に向けてこんなメッセージが書かれている。新社名の由来である「奏でる」、「奏」という漢字には「成し遂げる」という意味もある。小倉は入社以来、ごみに意味を見いだす仕事に力を注いできた。いつの時代もマイナスイメージしかないごみが、資源として循環するような社会変革を成し遂げる。それは、企業だけでかなうことではない。社会全体が行動や意識を変える必要がある。万博を前に痛切に感じていることだ。


「いきなりは無理かもしれない。普段はポイ捨てしたり、分別を気にしていなかったりした人たちが、私たちの取り組みを見て、少しでも変わるきっかけになってくれれば」。小倉は万博に願いを託す。
アプリ画面のイメージ
活発に議論を行う
「資源循環で新しい道を切り拓く」スマート回収箱とアプリで分別意識促す Vol.3
カナデビア本社に集うプロジェクトメンバー


2024年10月1日、日立造船は、「カナデビア(Kanadevia)」に社名変更した。目指すのは、「人類と自然が調和する社会」だ。小倉は「カナデビアの名前からは、何をやっている会社かまだ想像できないかもしれない。だからこそ、色々なことにチャレンジできる可能性が膨らむのではないか」と力を込める。2025年1月には、本社最寄りの大阪メトロ「コスモスクエア駅」から3.2km延伸した先に、万博会場の新駅「夢洲(ゆめしま)駅」も開業する。機運は盛り上がってきた。


小倉たちが万博で描く「持続可能な循環社会」は、こうだ。万博会場のフードトラックエリアに、スマート回収箱最大4台を配置。Webアプリで資源循環に関する取り組みを来場者が楽しく学びながら、自然に分解されやすい「生分解性プラスチック」を使った食器類などを分別回収するような行動変容を促す。Webアプリでは来場者に「資源循環したくなる」仕組みを提示する。


入り口となるスマート回収箱を担当するのは、廃棄物処理を手掛ける「大栄環境」と「大栄環境総研」だ。「静脈産業」とも呼ばれ注目の集まるごみ処理の現場だが、人手不足や清掃員の高齢化など課題は尽きない。今回のスマート回収箱にはセンサーが取り付けられ、ごみの量を感知し満杯になれば、フードトラック事業者に連絡が届く。こうして効率のいい回収作業が可能になれば、現場の人手不足解消にもつながっていく。


実証実験も済ませて最終段階に入った回収箱に大栄環境総研の壺内良太は将来への期待を託す。「きちんと分別できれば、ごみも資源となり、後工程での時間短縮にもつながる。データを基にごみ箱の最適配置だけでなくごみ箱自体の数を減らすことも可能となる。まずはきっかけ作り。万博での経験がもたらすものは大きい」。


Webアプリのコンテンツ開発に知恵を絞る小倉は、訴求力を考えてターゲットを小学生以下とその親に絞った。回収した資源が増えるにしたがってパズルのピースが埋まっていき、満杯になればデザインが完成するのはどうだろう。クイズやパズルに挑戦してもらい、達成できれば特典が得られたり、数か月ごとにイラストを替えてストーリーを追ったりできれば、楽しみながら学んでもらえるのではないか。1月には部分公開したいと追い込みにかかる。


Co-Design Challengeがなければ実現しなかったかもしれない2社の〝共創〟。一歩先の未来へと確かな歩みを刻みつつある。
開発中のアプリ画面
スマート回収箱のイメージパース
「資源循環で新しい道を切り拓く」 スマート回収箱とアプリで分別意識促す Vol.4
Webアプリ「しまじろうとSDGsを考える。」と
スマート回収箱(5台の回収箱のうち、左側2台)の完成イメージ


未来を担う子どもたちに循環社会を楽しく学んでもらいたい。カナデビアが開発するWebアプリのタイトルが「しまじろうとSDGsを考える。」に決まり、一部は先行公開も始まった。


昨年10月、81年ぶりに社名を変更したカナデビアは、ごみ焼却発電施設を中心に環境分野の売り上げがグループ全体の約7割を占めるなどサステナブルな社会の実現に取り組んできた。Webアプリ開発に当たってきた小倉は、この万博を機に子どもたちにも地球のために「今」できることはなんだろうと考えてもらいたい、そんなメッセージを込めた。


Webアプリには、子どもたちに人気のキャラクター「しまじろう」「みみりん」「とりっぴい」「にゃっきい」らが登場。先行公開されている「おはなし」は、スマート回収箱や資源循環を絵本形式で説明する。また、万博のスタートに合わせて「ARクイズ」や「いいところ探し」のほか、資源の回収量に応じてパズルが完成していく「スマートパズル」などのコンテンツを用意する。


しまじろうたちが「大阪・関西万博で、やってみよう!」と紹介するスマート回収箱もほぼ完成した。大栄環境と大栄環境総研が担当する。シグネチャーゾーンに4台を設置し、フードトラックで提供される食器を回収する。この食器は、生分解性プラスチックで作られており、回収後は生ごみと同様にたい肥化される予定である。また、スマート回収箱内部の天井部に設置されるセンサーで、食器(資源)の量を計測し、設定値を超えると食器収集を促すメールが事業者に送信される。


Webアプリの中でしまじろうたちが「スマート回収箱に入れたお皿は〝ごみ〟ではなくて、地球にとって大切な〝資源〟なんだ」と紹介する場面がある。大栄環境総研の壺内は「きちんと分別してもらって初めてごみが資源となる。それを考えてもらえるきっかけになれば」と期待する。万博の期間中に集まるデータもWebアプリ内で活用していきたいと言う。


カナデビアはブランドコンセプトで「技術の力で、人類と自然の調和に挑む」を掲げ、大栄環境は「未来は、信頼から生まれる。」をサステナビリティーの基本方針とする。アプローチの仕方こそ違うが、ともに循環型社会を支える企業として歩みを進めてきた。多くの人が分別の大切さを知って行動変容につなげてほしい。万博の場で各社の思いが未来を奏でる。
スマート回収箱(左側2台)
(左から)大栄環境総研 取締役 壺内 良太さん、カナデビア 環境事業本部 小倉 舞さん







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Co-Design Challengeとは?
Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。
万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。
Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。


※EODCでの検討の結果は
をご覧ください

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