株式会社友安製作所は、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」で、端材と廃材を活用した中庭スツールとテーブルを提供する。「MOTTAINAI」という精神のもと、その端材を活かし、棄てるものに新たな価値を創造することをめざす。また、地域特有の資源であるものづくりを「エンターテインメント」に捉え、普段は一般公開していない製造現場に潜入できる体験企画も予定している。そのプロジェクトについて、3回のシリーズ企画で迫る。
※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。
町工場の廃材がアートに変身。随所に光る八尾、堺の町工場のスゴ技・底力 Vol.1
端材と廃材を活用したスツールの試作品
日本のものづくりを支える町工場が集積する大阪府八尾市。職人たちの確かな技術ととがったアート作品を掛け合わせれば、出会わなかったものが巡り合い、新たな価値が創造できるのではないか。八尾に本社を構える友安製作所が、Co-Design Challengeで仕掛けるのが「端材と廃材を活用した中庭スツールとテーブル」だ。体験企画では、工場見学を取り入れて「非日常の体験」もエンターテインメントとして楽しんでもらう。テーマは「LIVE!SM(ライブイズム) 生きるが、醸す」。ものづくりの現場を舞台にした取り組みが幕を開ける。
プロジェクトを統括するのは、友安製作所執行役員の松尾泰貴だ。同社は、ネジや金属製カーテンフックなどを製造していたが、2000年代に海外製品の流入で需要が激減。一時は、販売に特化した時期もあったが、危機を乗り越えると、原点に立ち返り、鉄、木材の加工技術を使ったオリジナルのインテリアなどを製造販売している。
そんな会社で働く松尾が、なぜまちづくりに取り組むのか。大学卒業後、八尾市役所に入庁した松尾は産業政策課などで勤務し、2020年に町工場の公開を中心としたイベント「FactorISM(ファクトリズム)」を発足した。21年に縁があって同社に入社したが、その後も活動にかかわり、現在は八尾市だけでなく、門真市、堺市などの91社が参加、見学者も2万人を超える企画に成長した。
町工場の現場を知る松尾が気になっていたのが、製造過程で出る端材や廃材だ。リサイクルが進んでいるとはいえ、捨てざるを得ないものも大量に出る。一方、イベントで知り合ったアーティストたちは作品の素材に使う端材をわざわざ買っているという。「もったいない。なんとか両者を結び付けられないか」。アーティストを対象に「端材を見に行くツアー」を企画してみると、これが好評だった。
「端材を活用し、職人の技術とアーティストのデザイン力を組み合わせれば、無価値なものから価値が生まれるのではないか」。松尾は、町工場の底力を広くアピールできる絶好の場所として、世界から多くの来場者が集まる万博を選んだ。「仕事には夢を まちづくりには愛を」。行政マン時代から貫いてきた志だ。人と人を結び付け、新しい企画のプロデュースが得意な松尾。「不安はあるが、誰もやったことがないことに挑戦したい」。驚かせることが好きな松尾のワクワクが止まらない。
友安製作所 ソーシャルデザイン部 担当執行役員 松尾 泰貴さん
体験企画でも予定される友安製作所での木材加工の様子
町工場の廃材がアートに変身。随所に光る八尾、堺の町工場のスゴ技・底力 Vol.2
友安製作所工場で溶接を体験する様子
友安製作所は「ワイワイガヤガヤ」、ざっくばらんな雰囲気の会社だ。社長も含め社内では全員がビジネスネームで呼び合う。社長は「Boss」で、松尾は「Will」。製造現場では、力こぶ自慢の「Popeye」が、軽々とボンベを転がしていく。
そんな友安製作所が中心となって手掛ける、万博に提供するスツールが、通り一遍のものであるはずがない。「この世に1個しかないものを」。個展などで作品を発表しているアーティストからは4脚の斬新なスケッチが持ちこまれた。万博会場でも間違いなく異彩を放つ物品となる予定だ。
このスケッチを形に仕上げていくのは、町工場の出番だ。物品に使われるポリカーボネートの端材、アルミニウムの削りチップ、金属の円形の端材、金網などの素材を各企業から集める。デザインありきのスケッチを熟練の職人たちが知恵を出し腕によりをかけて、実用性も備えた物品に仕上げていく。年内には試作品が完成する予定で、家具工場で耐荷重試験を行うなど安全面にも抜かりはない。むき出しのカーテンレールを多用するテーブルはさらにとがった物品となりそうで、着々と構想を練っている。
体験企画では、「一芸」をテーマに町工場を巡るツアーを実施する予定だ。町工場を巡り、溶接やプレス機の操作など、ここでしかできない体験を通じて、「ものづくり」の最前線を感じ取り、堪能してもらうのが狙いだ。車のパーツの金型を作るのに使われる1600トンもの巨大なプレス機。稼働すれば地鳴りがするような機械も、工場の中では日常に過ぎない。一転、外部の目で見れば、そこは非日常でカッコいい景色に変わる。普段は黒子の職人たちがヒーローとなり躍動する。
「熟練の職人仕事や大きな機械が動く瞬間は、なかなか見ることができない。製品になってしまえば、町工場が技術を注ぎ込んだ部品の持つ背景価値がそぎ落とされて、見えなくなり、消費者にはなかなか伝わらない。見せることが価値づくりになる。どんどん発信していきたい」と松尾は言う。参加する町工場91社の思いも背負って、無理難題のプロジェクトと向き合う。「でもそれをやれるのは、この町くらいしかない」。松尾の覚悟は決まった。
体験企画でも予定される友安製作所工場での木材加工の様子
町工場の廃材がアートに変身。随所に光る八尾、堺の町工場のスゴ技・底力 Vol.3
穴の開いたウォールナット材と鉄の端材などで制作したテーブル
町工場から出る端材、廃材。捨てられるとゼロにしかならないものに価値を吹き込み、再生させる。職人たちの挑戦が最後の仕上がりに入っていた。
1948年創業、1本のネジ作りから始まった友安製作所。木工、鉄工と自社一貫製作の強みを武器に、設計図なしで作り上げたテーブルが工場の一角にあった。
始まりは1枚のウォールナット材だった。中央部が腐敗し大きなへこみとなり使い物にならない。「カッコよく生まれ変わらせて万博に持っていく」。職人魂に火が付いた。鉄工の渡邊陽大が、パズルのように配置を模索しながら端材でへこみ部分を埋めていった。土台部分にも端材を使い、1個1個溶接を重ねた。木工の目賀弘二も、レジン(樹脂)をへこみの上に流し込み、ひたすら磨きをかけていった。鉄工と木工の職人が着地点を共有し、イメージの世界を手繰り寄せてたどり着いたテーブル。高い技術力を受け継いできたDNAの証しだ。
2人のアーティストと町工場のコラボで作るスツール4脚も、スケッチ図から飛び出しアートへと姿を変える。
美和いちこは「生命体のようなアートチェア」をテーマに、2脚を手掛ける。うち1脚は土台部分に、業務用家具などを作るオーツーで廃番となって眠っていた椅子を活用。それをどろっとした樹脂で覆い、モンスター感を出す。毛のようなイメージで使われるのは、八尾金網製作所で切り落とされていた超極細のメッシュ素材だ。
「マイナスの廃材からプラスの作品」を制作テーマに取り組む高田雄平も、2脚を手掛ける。うち1脚は、パイプ加工の小泉製作所の職人が、数値ではない感性をいかして手作業でスツールの骨組みを加工。座面や背面には、松村釦(ぼたん)のボタンを抜いた後に残るフレームが使われ、高田が新聞紙をオーブンで焼いて粉末状にしたオリジナルの黒色が循環を表現する。プラスチック成形の河辺商会で射出成形という工法の際に出る樹脂の端材は、高田が装飾に変えた。
体験企画では、製造現場においてしか体験できないものづくりの高い技術力をリアルに体感できるプログラムを実施することに加え、町工場を舞台に海外のビジネス客にターゲットを絞ったツアーの開発も進めている。こちらのツアーでは無理難題も解決する工場の一藝(いちげい)や日本の長寿経営や人的資本経営を学んでもらう予定だ。ものづくりを進化させながら永続的に仕事を続けてきた町工場は、海外からの関心も高く、新たな受注につながる機会になればと期待をかける。
テーブルとスツールは、万博会場で初めて一緒に展示される。強烈な個性がぶつかり合い、醸し出される世界観。作り出したのは、町工場の名もなき職人たちのスゴ技なのだ。
4脚のスツールとプロジェクトメンバー
(左から)友安製作所・森さん、アーティスト・美和さん、オーツー・梶原さん、
小泉製作所・小泉さん、河辺商会・福田さん、アーティスト・高田さん
(左から)友安製作所 森さん、松尾さん、渡邊さん、目賀さん
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Co-Design Challengeとは?
Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。
万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。
Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。
※EODCでの検討の結果は