中小企業8社が集結し世界初の「バイオプラスチック製パイプオルガン」制作に挑戦  万博で伝えたい“これからのプラスチック”

2025.02.18 10:10
2025年大阪・関西万博での披露を目指して制作が進められている、世界初のバイオプラスチック製パイプオルガン。パイプや鍵盤などの主要部品・部材で、環境にやさしい植物由来のバイオプラスチックが使われています。スターバックスコーヒージャパンが2025年1月にストローで採用を始めたことから認知度が少し高まりましたが、まだこの素材は黎明期。パイプオルガンの制作では、長尺・大口径パイプの押し出し成形、緻密さや意匠性を問われる鍵盤の射出成形といった風に、個々のパーツにおいてもバイオプラスチックの希少な成形事例であることから、注目を集めています。現在、このプロジェクトは組み立て工程に入り、大詰めの段階を迎えています。「どうせやるなら図面を一から」「2オクターブでは演奏曲目が限定されるので4オクターブに」―。当初計画から二転三転しながら大きくなっている、パイプオルガンとメンバーの想いを取材しました。
どうせやるなら、自分たちで図面を一から
「実は最初、メンバーは皆『ヤマハ株式会社(以下ヤマハ)にお任せ』という雰囲気だったんです」。プロジェクトの計画や進捗を統括する旭化工(大阪府枚方市)の吉本叡社長は笑いながら当時の状況を明かします。それもしかたのないこと。このプロジェクトは、一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会(事務局:大阪市西区、会長:岩﨑能久)が、万博の大阪ヘルスケアパビリオン内に期間限定で出展する「リボーンチャレンジ」事業の一環として企画し、参加を募ったプロジェクトで、手を挙げた8社は皆プラスチック製造のプロではありますが、楽器に関してはシロウトです。


ヤマハから監修協力の承諾を得た段階で、メンバーたちは部品の製作に集中すればいいだろう、との考えでした。しかし、せっかくの万博への参加機会。「それでいいのか?」「どうせやるなら、自分たちで図面を一から書かないか?」。モノづくりに携わる者としてのプライドに火が付き、話し合いが熱を帯び始めて流れが大きく変わりました。結局、ヤマハから基本構造のレクチャーを受け、自分たちで図面を書くことにし、要所で助言を求めるスタイルに。メンバーにとっては、やりがいが高まり、ワクワクする計画です。ただ、この判断はプロジェクトを難化させ、想定以上の苦労を味わいました。
「どこで空気漏れてるんや?」「知らんがな」
パイプオルガンは、加圧した空気を鍵盤で対のパイプに送ることによって発音する鍵盤楽器で、空気を送り込む方式や、パイプの発音構造などで多様な種類があります。メンバーは、神奈川や神戸などの著名なオルガンビルダーにも教えを請うため、東奔西走。専門書や古い文献も搔き集め、知識を徐々に蓄えていきました。構造への理解がある程度深まれば、欲が出るのがモノづくりの技術者。2オクターブだった当初構想は、より多くの曲目に対応できる4オクターブへと拡大しました。ところが、実際に着手すると予想通りにいかないことばかり。各音階の標準的なパイプの長さと径の関係「ノルマルメンズール」を参考にしたものの、理論通りに製作するのはコストに無理があり、独自の方法をとったことで、音がプリンシパル(よく響く基本の音)にならず、発音の立ち上がりが悪いといった課題に直面しました。また、空気をパイプに送り込む風箱の組み立て後、空気漏れで音が鳴らないアクシデントにも遭遇し、「どこで空気漏れてるんや?」「知らんがな」と皆で途方に暮れたことも。吉本社長は「知っている人からすれば一本道でいけるところを、シロウトだからすべてが試行錯誤だった」と振り返ります。
プラスチックの存在感を際立たせるデザインに
知らない分野だから苦労する面がある一方で、新鮮であることの楽しみもありました。近年、プラスチック製品の会社は成形だけでなく、複数部品のユニット組み立てや、調整、検査といったワンストップサービスを手掛ける企業も珍しくありません。「でも、さすがにこの作業は初めて」と、ペンチで慎重にバネを曲げるのは、旭化工と共同で筐体などを担当する泉製作所(大阪府東大阪市)の浅井慎也工場長代理。鍵盤を押した際に感じる指への圧が一定になるよう、53本のバネを次々に同じ角度にし「アナログならではの面白さだね」と楽しそうに作業を進めます。


佐原化学工業(大阪府八尾市)の忠島祐也工場長も、「歌口やふいごなど、パーツのほとんどが初めて聞くワードで、とにかく面白い」と目を輝かせます。「吉本さんの探求心とこだわりに刺激を受けた」と強く触発された様子。パイプは、広い会場内で見栄えがするよう高さを出した設計にし、「あえてプラスチックとわかるよう」色は青みがかった透明を採用しました。普段はプラスチックを素材に用いていることをわざわざ主張する製品はありませんが、今回の万博は別です。プラスチックで、かつ新たなバイオ素材で大きなパイプをつくるのですから、存在感を示したいのです。パイプは大きいもので、長さ1630ミリ、直径101ミリ。大小さまざまなサイズの53本の透明パイプが並ぶ姿を、会場で披露することを楽しみにしています。
「子どもや若い人が、プラスチックで何か作りたいと思ってくれたら最高です」
「鍵盤はR形状(部品の角やエッジの丸み)の美しさにこだわりました」と誇るのは、サカエ(大阪府東大阪市)や不動プラスチックス製作所(大阪府八尾市)といっしょに鍵盤を担当した旭化工の栗山卓真技術主任。鍵盤だけでなく角一化成(大阪府吹田市)と共同で歌口も担当しました。歌口とは、パイプの下部に設けられたスリットから下部の開口部に空気を吹き当て、空気の渦を巻き起こして「音」を発するための、音色を左右する重要な部品です。同社は、中国で樹脂コンパウンド工場を持っており、生分解性プラスチックの一種であるPLA(ポリ乳酸)で3Dプリンター用フィラメントを開発。それを使用して、3Dプリンターで歌口を製造しました。


プリンターで、どの向きにどう配置すれば、多数の歌口を効率的に材料の無駄が少なく作れるかで工夫を凝らしたといいます。3Dプリンター特有の課題である積層のわずかな段差が、パイプとの嵌合や、音に影響するトラブルに苦悩しましたが、後加工を施して見事に完成。また、鍵盤はパイプとの色の統一感にもこだわっています。厚みや形状が異なる部品の場合、青みがかった透明などのクリア素材は色合わせが難所。透明と青の配合率を同一にしても、見た目の色が同じにならないのです。「つくってみないとわからない」。鍵盤は複数を試作し、現物の見た目合わせでした。栗山主任は「こういった繊細な部品がプラスチックでつくれることや、環境に配慮したプラスチックがあることを万博の来場者に知って欲しい」と願っています。特に、近年はプラスチックが環境面でネガティブに捉えられがち。「将来を担う子どもや若い人が、プラスチックで何か作りたいと思ってくれたら最高ですね」と期待が膨らんでいます。


プラスチック製造の中小企業が手を組んで、一から始めたパイプオルガンづくり。吉本社長は「材料を無駄にした失敗もあったが、やろうと思えば解決策がたくさんあることや、知見のない分野は知っている人に聞けばよい、ということがわかったのが最大の収穫だ」と振り返ります。新たな素材の活用や、未知の構造への取り組みは業界にとって大きな壁ですが、乗り越えることは可能です。その象徴であるバイオプラスチック製オルガンが万博で披露されるのは、8月19~25日。現在、オルガン奏者の選定が進められており、会場でその音と姿を披露する準備が着々と進められています。
(世界初の「バイオプラスチック製パイプオルガン」については
2025年1月 インターネットによる自社調べ)



パイプオルガン制作プロジェクトの参加企業(五十音順)
旭化工株式会社、株式会社泉製作所、角一化成株式会社、サカエ株式会社、
佐原化学工業株式会社、株式会社三共プラス、株式会社昭栄精化工業、
  有限会社不動プラスチックス製作所


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