東京都足立区五反野に店舗を構える平成17年創業の『野村畳店』。優れた技術とサービスで足立ブランドに認定された畳店です。畳でお客様に笑顔を、という意味を込めた「愛畳(あいじょう)」をテーマに奮闘する、親子2代の畳職人。今回は2代目の野村祐一氏に足立ブランドや、多様化する “畳のこれから”についてお話を伺いました。
◆畳ひと筋、慈しむようにひと針一針を縫う
足立区にはかつて、道を歩けば畳屋が数多くありました。
「ひと昔前には足立の畳組合に加入している店だけでも100軒くらいありましたが、今は20軒くらいになっているのではないでしょうか」
そう語るのは現在43歳の『野村畳店』の2代目、祐一氏。
<野村祐一氏(左)と野村五男氏(右)>
『野村畳店』の創業は今から19年前の平成17年。畳屋といえば古くから店を構えているイメージが感じられ、比較的新しい畳屋さん、という印象を受けるのではないでしょうか。
社長の野村五男氏は昭和32年生まれで現在67歳。息子の祐一氏曰く「父は茨城県から15歳で上京。千住の畳店に住み込みで修行に入り、以来その畳店で 職人として働いていました。ですから職人としてのキャリアは50年以上のベテランです。」
一方、祐一氏も高校卒業後、18歳で他店に畳職人として弟子入り。
「高校を出たら特に何をしたいということがなかったのです。父の仕事を小さい頃から見ていたので、これならやってもいいかな......くらいの気持ちでした」と語ります。 五男氏は「息子が畳の仕事をするなら、店くらい構えてやらないといけないな。」との想いから独立を決心します。
良きめぐり合わせがあり、現在の場所に店舗兼住宅を構えることができました。 祐一氏は畳職人として8年の修業を経て内装リフォームの会社に入社します。
「畳が嫌だったわけではありません。襖や障子などトータルな和の空間としての畳について見聞を広めたかったのです。畳にとっても室礼(しつらい)や和室全体のバランスが大切ですから。 結果、大変勉強になりましたし、貴重な体験となりました」
◆「足立ブランド」としての認定
その後、お父様からの帰還要請もあり、父の五男さんともうひとりの職人、3人で働くことに。 平成17年に起こした『野村畳店』は、幕張メッセで行われた熟練した技能者たちが技能の日本一を競う「第24回全国技能グランプリ」に出場し、見事優勝。内閣総理大臣賞を受賞しました。畳業界初の内閣総理大臣賞受賞でした。
大会では国家資格に則った昔ながらの製法によって縫う技術、縫い目の間隔、隙間がなく 畳が納まっているか、縁の弛みや凸凹がないかなどトータルに審査されます。
開業してからは、こうした大会に優勝したこともあり、がむしゃらに働いたと言います。 そんな時、『あだち広報』紙で『足立ブランド』の記事が目に留まり応募しました。 認定後は、地域密着型の区民に愛される畳店として現在に至ります。
◆さらなる畳の可能性を求めて
正統派の本畳にこだわりを持っていましたがその一方で、現代のライフスタイルの多様化に目を向け、和室以外の畳の可能性も模索し始めます。最近では室内で飼うことの多くなったペットが足を滑らせず、傷もつきにくく、抗菌作用のある畳というのが注目されています。
また、和モダンなインテリアの和食店などで縁がない畳などデザイン性の高いものや、樹脂や、和紙を素材とした耐久性を高めた畳にも人気が集まっています。機能性、素材、デザイン、サイズ、配置するシーンなど、様々なお客様の要望に合わせた畳を扱っています。
中でも『野村畳店』が本畳以外で力を入れるのが、衝撃緩和型畳(ケアケア畳)です。高齢化時代の到来により、長年愛着のある畳の和室に暮らし、これまで通り畳のある部屋で 暮らしたいと願う年配の皆さんも増えています。足を滑らせてしまったり、転倒してしまうといったことがなく安全に暮らしたい――。 そうした願いのお手伝いしてくれるのが、衝撃緩和型畳(ケアケア畳)です。
転んでも衝撃を和らげ、滑りにくく、断熱効果も高い機能的な畳なのです。 一般住宅はもちろん、老人施設や介護施設、高齢者住宅、また小さなお子様へ汎用し、幼稚園や児童館、保育園などの施設でも「ケアケア畳」の人気が高まっているのだとか。
また嬉しいことに数年前、この製品を使った住宅改修に介護保険が適用されるようになりました。要介護度に応じ1〜3割が自己負担で、最大9割が介護保険から補助されます。現在お使いの畳から「ケアケア畳」への変更も対象となっているそうです。
「せっかく機能性の高い畳を知って補助金を受けようとしても、区役所への申請提出書類、見積もりなど、給付に関する面倒な手続きにお客様は戸惑ってしまいます。 『ケアケア畳』に替えるだけでなく、申請書の作成、書類を区役所へ持っていくといった細かい手続きに至るまで『野村畳店』が代行します」
単にリフォームや畳替えだけでなく、そうしたお客様に寄り添う思いやりも地域に愛される理由のひとつと言えるでしょう。
◆畳の未来を見据えて
生産効率を求め、段取りを優先したい祐一氏に対して、お父様の五男氏は職人気質やこだわりが強く、じっくり手間を掛けるタイプだそう。そういう意味でふたりの職人は仕事のことでよくぶつかることも多いそうです。
けれども「畳の入れ替えは、重いタンスを動かしたり、部屋まで畳を運んだりと、重労働。ひとりではとても大変です。父にはあと20年は頑張ってもらわないと」と笑います。その言葉の裏には元気で長く頑張って欲しい、という息子の父を思い遣る優しさが見え隠れするのです。
そんな祐一氏の近年の目標は、海外進出。
「海外進出というとかなり大げさですが、畳を知らない、見たことない、そんな海外の方々に畳を知ってもらいたいと思っております。」
現在は産地である熊本県もい草農家は約300軒と減り、畳を取り巻く状況も大きく様変わりしているようです。 それでも「畳にはたくさんの魅力、多くの可能性が秘められています。畳の香りはリラックス効果があり、多くの日本人にとって畳のある部屋は原風景のようなもの。フローリングなどほかの床材とは違う触れ心地、弾力性は畳以外に変わるものはありません。あらゆる点で“落ち着き”が感じられるのではないでしょうか。そうした穏やかな気持ちにさせてくれる畳を通して、世界中が平和になればいいと思っています。それが究極の願いです。」
その最後のひと言に、心優しい職人の心意気を垣間見せるのです
<畳が日本人にとって原風景であり続けてほしい>
企業情報
野村畳店
会社名:野村畳店
住 所:東京都足立区弘道1-25-1
電話番号:03-3849-1171
代表者:野村 五男
創 業:2005年
「足立ブランド」は、区内企業の優れた製品・技術を認定して、その素晴らしさを全国に広く発信することで、区内産業のより一層の発展と足立区のイメージアップを図ることを目的とした事業です。『野村畳店』は、この「足立ブランド」認定企業です。
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