東京都足立区青井に工場を構える「株式会社鈴木製作所」は戦後まもなく創業しました。会社のスタッフとお客様、地元足立区を大切にして約80年。現在は製品制度が重視される電車の車輌部品を筆頭に多彩な金属加工を行っています。3代目社長の鈴木孝昌さんに同社の軌跡を伺いました。
◆金属加工技術を人々の幸せのために。
初代鈴木正雄氏は戦時下、戦闘機の製造工場におり、そこで板金加工技術を学びました。そして昭和20年、日本において大きな転換期であるこの年、鈴木製作所の歴史が開かれます。
<創業当時の鈴木製作所>
「創業時は金属加工専門では無く、終戦直後は資材も乏しかった為、樹脂パイプを拾い集め丸く加工してフラフープを作ったり、空き缶を開いて板状に加工し、簡単なおもちゃを組み立てたりしていたようです。そういった仕事を続けているうちに利益も増加し、それを元手にプレス機を導入。空気銃の玉やカバンの取っ手などを製造し、徐々に金属加工を専門にし始めたようです。」と、3代目社長の鈴木孝昌氏は語ります。
「昭和35年に現在の青井に引っ越した2年後の昭和37年、法人となりました。現在もお付き合いのある、五反野で教育施設用備品の企画・開発を行う教材教具メーカー『三木工業』を主要顧客とし徐々に手を広げて行ったようです。」
その後、正雄氏を筆頭に当時の従業員が一丸となり、様々な製品の依頼や要求に応え、実績を積み上げます。
「高い精度が求められる電車の部品や什器のメーカーなど、多業種の企業からお声掛けいただきました。現在でも、多品種で高度な技術が必要な製品と、迅速な納品など付加価値のある製品製作で各方面から支持される会社へと発展していきました。」
ーー初代の経営理念について
「祖父は利他的な精神を持つ人で、会社の利益よりも人の為や社会への貢献を重んずるする人でした。現在もその精神は受け継がれ会社の経営理念にも入っています。
元々祖父が学んだ加工技術とは戦争のために学んだ技術でした。それに心を痛めていた祖父は平和になった世で人々の笑顔のためにその技術を生かそうと決心し創業したと話しておりました。」
(右写真は初代社長の鈴木正雄氏)
◆大いなる変革を行った2代目の功績
昭和47年、初代は早々に後進に道を譲る形で勇退。2代目である現会長邦司氏の時代が始まりました。時は昭和50年代、オイルショックもあり世界経済が低迷する中、日本がいち早く不況から脱出し、安定成長の軌道に乗った時代です。
昭和52年に銃刀法が規制強化されると、主力事業の空気銃向け弾丸製造の売上がほとんどなくなりました。邦司氏は会社の立て直しをするため、プレス主体から、より多くの金属加工に対応するために、新しい機械を積極的に導入しようと考えます。
ーー2代目の功績について
「父(2代目)は当時から先進的な考えをする頭のいい人で、『いつまでもプレス加工だけではダメだ、簡単に景気に左右されてしまい、いずれ行き詰ってしまう。これからは総合的な技術と最新の能力を活用すべきだ。』と初代社長に進言し、新しい機械を早い段階から導入していたようです。
また、自身の経営方針を定め、最新機器の導入、新製品の開発、技術の多様化を行う事で安定した事業の継続を可能にし、鈴木製作所の基盤を揺るぎ無い物にしました。」
(左写真は2代目社長で現会長の邦司氏)
「2代目は企画力のある人で、初代の技術と自身の製図能力を活かし製作した『無電源自動販売機』などがあります。1970年代にホテルやデパート、駅のトイレなどに置かれていた紙の自販機で、今でも古い旅館で見かけたりします。新製品開発や自社製品の製造を精力的に行うことで、過去最高の売り上げを計上し、木造の工場から鉄骨の工場へと新社屋を建設し、その後も研究開発を続け、スポーツ用ソリの特許を取り、発明学会でトップ賞を受賞するなど、売り上げ以外でも子としても後進としても尊敬できる功績を残してくれました。」
<2代目邦司さんが作った無電源自販機。SDG'sの先駆けですね>
「小さい頃、旅館に連れて行ってもらうと、館内のゲームコーナーに自社の自動販売機がありました。子供ながらに誇りに思った記憶があります。」
◆事業継承を経て3代目社長就任
孝昌氏が鈴木製作所を継いだのは東日本大震災のあった年、2011年6月の事。
ーー社長になって初めて行った事は?
「社長になって初めて取り組んだ事は、5年分の確定申告書を確認し、会社の状況を把握することでした。既存顧客が減少し、多額の支払いを滞らせる会社があり、売り上げも低下の一途を辿っていました。」
<3代目孝昌氏(左)と2代目邦司氏(右)のツーショット。互いの信頼が伝わってきます>
「今、自分には何ができるのか」と考え、新たに車のマフラー製造なども手掛けます。26ミリの厚さが切れるレーザー加工が可能な機器や、曲げ加工では220トンを曲げることができるベンダーなど新規に導入することでかなり製作できる製品の幅が広がったそうです。
<車のマフラーを取り付ける治具>
「2020年(コロナ禍で2021年開催)の東京オリンピック後は仕事が減少することはわかっていたので、それまでに積極的に設備投資をしなくてはならないと考えました。ここで新しい機械がなきゃダメだと思っていたので、導入に躊躇はありませんでした。最近では補助金を活用してレーザー加工とタレットパンチプレスの複合機も導入しました。」
<その時に実際に購入したマシン「LC-2012C1NT」>
補助金などの知識は、足立区のマッチングクリエイター、公社、中小企業振興会などの先生と積極的にコミュニケーションを取り情報を得ているそうです。
◆足立ブランドの参加について
技術も設備も自信があるのに売上げは上がらず不景気で既存顧客は減っていく。
結局は新規顧客の開拓を行なっていない。自社の周知が行われていない事に気づき、どうすれば自社を知ってもらえるのだろうと悩んでいる時、足立区のマッチングクリエーターの廣瀬先生が当社を訪れ相談に乗ってくれました。その時、足立ブランドを紹介され参加するに至りました。足立ブランドに参加する事で自社の周知に成功し、多彩な依頼を受ける事でさらなる製品製造の幅が広がりました。
「マッチングクリエイターの先生は税理士の資格を持っていたりと様々な分野に精通していて本当に頼もしい存在でした。足立ブランドについても“ブランド”とは他者から認められる存在ですし、安心感が得られます。」
そうした“ブランド戦略”が功を奏したこともあります。
区役所に「足立ブランド」としてディスプレイされた製品をたまたま目にした方から、什器の仕事を依頼され受注に至ったという事例もありました。
「足立ブランド」に認定、新ロゴマークになったことを記念に孝昌社長がプライベートで作った金属製の「足立ブランド」のロゴマークは、足立ブランドの紹介記事によく用いられるので目にした方も多いでしょう。
「厚みの違う銅やアルミ、ステンレス、真鍮、鉄など様々な金属を溶接や曲げなどしてアルファベットを作り、表面にはマットやメタリック、パンチングの加工でテクスチャーにバリエーションを持たせ、金属のもつ美しさ、可能性を表現しています。」
その技術の高さを象徴しています。
◆株式会社鈴木製作所の強みとは?
足立ブランドへの参加で認知度が上がり、製品製造の幅が広がるにつれ顧客も増加し、多彩な仕事が増える分、製品制度の底上げと生産能力の向上が不可欠と考え最新機械の導入と資格の取得に臨みました。
まずは26ミリの鉄が切れる最新レーザー加工機の導入です。アルミやステンレス、鉄等の金属の加工範囲を広げ製品精度と生産能力の向上が為されました。次に220トンの圧力を有するベンダーを新規導入することによって0.3ミリから16ミリまでの精度の高い曲げ加工が可能になりました。
<最新レーザー加工機で加工範囲を広げ、精度と生産能力が向上>
高い安全性と強度が求められるアルミ製鉄道部品の製作に対し信頼性を担保する為に、アルミ溶接の国家資格も取得しより高い安全性と信頼性を得ました。社員の過半数が社長を含め40代であり、成長性の高い部分が強みです。
「弊社ではアルミ溶接ができるのも強みです。アルミの溶接免許を持っている会社は少ないのですが、アルミ溶接は電車関係の仕事では不可欠なんです。新規も大切ですが、まずは既存の取引先に目を向け、潜在需要を引き出すことが大切です。車輌関係の製品を作っている弊社としては、車輌を組み立てる現場に行って納品されている他の部品を見て、これならうちで作れるよ......と仕事をもらってくるような営業、人と人のご縁、納品のスピード感。そうした地道ですが信頼を積み重ねることで仕事を増やしてきました。」
こうして孝昌社長は自動車のマフラー、什器、工場内設備関連など製品の幅を広げてきたそうです。
「同じ業種の会社や限られた会社に頼ると、そこが駄目になると売上が大きく落ち込む可能性があります。様々な会社の異業種多品種を作ることが大切です。例え売上が小さくてもそれは大きなリスク分散に繋がりますから。」
孝昌社長になってもうひとつの改革は、
「新しい機械を導入する時は、きちんとテーマを持って購入する」ことだそうです。
「先代の時代はそこまで具体的な目的意識は持っていませんでしたが、今は例えば、複合機なら電車のLED取り付け盤の仕事がたくさん増えることを見越したり、ベンダーは厚物で仕事の幅が広がることを確信してから導入するなど、ある程度仕事の見込みを確信してから購入しています。」
<機械は仕事の見込みを確信し、テーマを持って購入>
◆ゆとりのあるライフスタイルを目指して
今後もご縁を大切にし、どんな仕事でもしていきたい、と孝昌社長。
「楽しく、新しいものを作り、人が喜ぶ仕事を」とも。
「足立区役所の人はみんな親切で心強いです。常に味方でいてくれます。困っているはことないかと、常に心に留めてくれて有難いです。」
「家族や従業員の生活が一番大事です。会社の規模を大きくすることより、利益率が大切です。大量生産をして利益率を下げて無理をすれば、みんな身体が疲弊します。少し仕事をセーブしても利益率を上げて従業員もゆとりがある暮らしをして欲しいと思っています。なぜなら自分がそんな働き方をやれと言われたら嫌だからです。」
限界まで身を削って働いても、人は幸せにはなれない――それが孝昌社長の答えです。
<ゆとりのある暮らしが幸福度を上げる、町工場に変革を!!>
企業情報
株式会社鈴木製作所
会社名:株式会社鈴木製作所
住 所:東京都足立区青井3丁目32-18
電話番号:03-3887-5183
代表者:鈴木孝昌
事業内容:
重機製作、シャッター部品製作、コンベヤー製作、ダクト製作
電車車両部品製作、学校向け機材(椅子、机等)部品製作
その他金属加工(曲げ・プレス・レーザー・溶接)
「足立ブランド」は、区内企業の優れた製品・技術を認定して、その素晴らしさを全国に広く発信することで、区内産業のより一層の発展と足立区のイメージアップを図ることを目的とした事業です。
『株式会社鈴木製作所』は、この「足立ブランド」認定企業です。
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