を運営しているKURAND株式会社。「新たなお酒の価値の提供」を目指して、日本酒やワイン、クラフトジンなどさまざまなジャンルのお酒を開発し、ラインアップを増やしています。
そんな中で「果実酒」(クランドでは果実を使ったお酒)の新たな価値の提供を目指して挑戦したのが、「翠氷(すいひょう)」シリーズ。「冷凍して味わう果実酒」というユニークなコンセプトをもち、これまで累計10万人以上から応募があった人気商品です。希少なブランド果実を使用しており、限られた数しか生産ができないとことから、数量限定の抽選で販売をしています。
ユニークな商品が生まれた裏側には、造り手の果実酒への思いと知恵、そして匠の技術がありました。本記事では翠氷がどのように生まれたのか、またこれまで深く語られてこなかった開発の苦労や味わいを支える技術力についてを語ります。
「冷凍して味わう」新感覚の果実酒
28度以上のアルコール度数が高いお酒は、家庭用の冷凍庫に入れても凍ることがほとんどありません。「翠氷」はそんなアルコールの特徴を生かして開発した、「冷凍して味わう」というコンセプトの果実酒です。
飲み方は一晩冷凍庫に入れ、小さなショットグラスなどに入れて一気に喉元に流し込む「パーシャルショット」。これにより、とろりとなめらかなテクスチャーと、「生の果汁」があふれ出すかのようなジューシーでフレッシュな香りが体験できます。
翠氷シリーズで扱う果実は、製造元の信頼する農家さんが厳選した希少な果実のみ。加えて「シャインマスカット」や白イチゴのブランド品種である「初恋の香り」といった、誰もが知るブランド果実を贅沢に使用しています。原材料にこだわりながら、これまで7商品のラインアップを広げてきました。
新たな果実酒の概念に挑戦するパートナーを探して
翠氷が生まれたのは、造り手である「株式会社日本果汁」との出会いがきっかけでした。KURANDは全国200社以上のパートナー企業と商品の開発を行っています。
これまでKURANDでは「日本一理系な兄弟蔵元が、綿密な酒質設計をもとに造った日本酒」や「梅畑の香りを閉じ込めた梅酒」などさまざまなコンセプトのお酒を世に送り出してきました。
そんな中でも人気の高いジャンルである「果実酒」に関して新たな挑戦をしたい。そのためには酒蔵だけでなく果汁メーカーや加工メーカーで酒造りができる企業が必要、という考えの中で出会ったのが、日本果汁でした。
国産果実を生かし、果汁やピューレ、ペースト、お菓子などさまざまな加工品を提供している日本果汁。「日本果汁さんの魅力は、原料調達からお酒にするまでを一気通貫でできるという点にあります」とKURANDで商品開発を担当する三寺悠仁さんは語ります。
一般的に果実の加工では一次加工(カットや搾汁、加熱殺菌など原料を加工する工程)をする原料メーカーと、二次加工(ピューレやジャムといった食品にする工程)をする食品メーカーで分かれることがほとんど。そのため、一次加工と二次加工の間では移動などの時間が空き、品質保持を目的とした殺菌のための加熱工程を通します。そうすると、加熱によってフレッシュな生の風味は失われてしまうのです。
一方、お酒づくりを許可される酒類免許をもつ日本果汁。果汁を搾ってすぐに殺菌の効果をもつアルコールと合わせることが可能です。そのため、果実の最も美味しい「生」の果汁の状態を提供できるのです。
冷凍だからこそできた「生の風味」の保存
日本果汁で研究開発を担う竹内千明さんは「リキュールや果実を使ったお酒は常温保存をしても、高濃度のアルコールが入ることで基本的に腐敗はしませんが、中に入ってる果汁が劣化してしまい、だんだん美味しくなくなります。そんな中、冷凍であれば風味感を保存できるんです」と言います。その興奮のままにクランドへと送られたサンプル品こそ、
の原型でした。
「メロンは繊細で、殺菌するときゅうりのように瓜系の風味が出てしまいます。そんなメロンの課題を解決したのが、【冷凍】でした」(竹内さん)。
高級メロン「マスクメロン」の中でも、最高級の品質を持つと言われる「クラウンメロン」。その華やかな芳香と上品で濃厚な甘さを出すために、生の果肉ピューレを使用。そして果皮や種から芳醇なメロンの香りを抽出した糖液を加えることで、生のクラウンメロンそのままの美味しさをボトルに閉じ込めることに成功します。2023年11月に応募開始した
よりリアルな果実の風味を引き出すために
翠氷シリーズは2025年4月現在までの間に7つのブランド果実を使用して展開してきました。しかし、新商品を出していくのは容易ではありません。毎回壁となるのが「翠氷に適した果実の選定」です。
まず翠氷には「向いている果実」と「向いていない果実」があります。向いている果実として重要なのが「風味」。翠氷では凍らないために「アルコール度数28度以上」となるよう、ウォッカなど非常に強いベースアルコールを使用する必要があります。そのために、アルコール感をカバーできる風味が不可欠なのです。
柑橘などの風味が強い商品はアルコール感を打ち消すことができ、味わいの設計がしやすい果実です。一方で「爽やか」というイメージがあるものの、香りの印象も少なく果実味が薄い「キウイ」は商品化が難しかった果実の一つとなりました。
また、「香りのわかりやすさ」も向いている商品の特徴です。例えば初回の「メロン」をはじめ、「シャインマスカット」や「洋梨」は、華やかな香りのイメージがパッと浮かびあがると思います。
一方で難しいのが桃や苺。甘さや甘酸っぱさといった味わいが先行し、じつは香りが出にくいのです。
香料などを入れれば、簡単に香りを出すのは容易になりますが、生の果実味を突き詰める上で大切にしたのは「果実丸ごと活用すること」。例えば、ピューレを作成する工程の中でも果肉や果汁、皮、種や葉などさまざまな残渣が生まれます。それらを捨てるのではなく、糖液やエキスを抽出して加えることで、よりリアルで自然な果実そのままの香味を瓶内に閉じ込めることに成功しました。
では、「砂糖漬けした桃のペースト」に「桃の味と香りを抽出した濃密なシロップ」を活用しました。細かな味わいの調整によって「生の味わい」が生み出されます。
こうして出来上がった商品をまずはそのままで美味しいか、炭酸で割ってもいけるかを確認。その後、本来の楽しみ方である凍らせた状態、そして凍らせた状態の炭酸割りでも美味しく飲めるかなど、さまざまな飲み方を試した上で、改めて商品化が決まるのです。
高級果実の魅力を最大限にお酒で伝えていくために
改めて翠氷の「最大の魅力」を竹内さんに尋ねると「高級果実を生に近い風味で味わえること」と語ります。「翠氷ではシャインマスカットや初恋の香り(白イチゴの品種)など、ブランド力のある”いい素材”を使用しています。手に入れるのが大変な果物を、生に近い風味で味わえるというのがまず一つの魅力です」。
「お酒だからこそ、通常高級なフルーツなどを購入しても2~3日で食べきらなくてはならないところを時間をかけて楽しむことができます。これもお酒の魅力だと思います」。
日本果汁では代表取締役の河野聡さん自ら全国各地へ出張し、長く付き合える農家さんを探しています。自身の五感を頼りに見極めて入手した果実の中から、翠氷に合う「知名度とブランド力のある果実」「旬の果実」「質の良さ」「生で一定量を確保できるもの」を基準に日本果汁でリスト化。その中からKURANDと相談を重ね、商品化につなげているのです。
世にあるブランド果実は、数多。「冷凍」という手段を用いて果実の魅力を最大限に伝えていくために。幾重にも広がる果実の可能性と向き合いながら、新たな翠氷の原石となる果実を探し続けています。