トラックドライバーを守るための「430休憩」はやっぱり現場を知らないお役所仕事! 「現場のドライバー」からは非難囂々だった

2024.09.16 20:00
この記事をまとめると
■物流業界に2024年度から「430休憩」が定められた
■このルールの目的は長距離ドライバーによる事故を防ぐことにある
■「430休憩」が及ぼす影響について解説する
現場では歓迎されていないのが実情
  トラックが絡む重大事故が連日報道されている、現代の日本。そのような現状を危惧し、厚生労働省が平成元年に定めたのが、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」、いわゆる「430休憩」と呼ばれるもの。これはドライバーの連続運転に関する規則のことで、「連続運転は4時間が限度であり、運転開始後4時間以内、または4時間経過直後に運転を中断し、30分以上の休憩等を確保しなければならない」というもの。
  その休憩等には運転以外、つまり荷物の積み込み、荷下ろし、待機時間も含まれていた。その時間は1回につき10分以上であれば認められているため、必ずしも一度に30分とらなければならないというものではない。トータルして、4時間に30分以上であれば問題ないのである。
  そんな「430休憩」が2022年12月に改正され、2024年4月からは改正後の告示が適用されるようになった。その改正後の告示には、「運転の中断時には、原則として休憩を与える」とされ、休憩等から休憩に変更されている。つまり荷物の積み込みや荷下ろしなどは休憩に含まれないため、純粋に休憩時間を確保することが求められるようになったのだ。
  休憩時間の分割については「1回おおむね連続10分以上」となったのだが、10分未満の運転の中断が3回続いた場合は、3回目の中断時間はカウントされないため、10分以上の休憩を確保するのが無難だろう。また「(高速道路の)SA、PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合、4時間30分まで延長可」という規定が新設された。
  そのような「430休憩」だが、これは法律ではないため、罰則は存在しない。しかし430休憩に違反すれば行政処分の対象となり、車両使用停止や事業停止などの処分を受ける可能性がある。悪質な場合はより重い処分である運送業の許可取消を受ける可能性もあるため、運送会社はドライバーに徹底せざるをえないというのが実情だろう。
  そんな430休憩の狙いは、もちろん長時間運転によるドライバーの疲労を原因とする重大事故を減らすため。その目的自体は立派なものだが、内容的にはどうなのだろうか。実際にトラックドライバーとして長距離運転をした経験のないお偉方が考え出した規制であるために、現場では歓迎されていないのが実情である。
ペースを乱すだけの邪魔な存在になりかねない
  プライベートで長距離を走るときでも、ドライバーは自分のタイミングで休憩を取りたいと考えるのが普通ではないだろうか。それはトラックドライバーも同じで、さらに到着時間が決められているなかで走りきらなければならないため、つねに時間に追われているのだ。たとえば、休憩なしで走れば10時間で到着できる距離を走るとする。その場合は430休憩の影響で、最短でも到着時間は11時間後ということになる。
  つまり、1時間のロスになるのだ。一般人の感覚では「10時間も休憩なしで走れるわけがない」と思うかもしれないが、トラック業界では10時間程度走ることは珍しくない。むしろ目的地までノンストップで走りきり、現地でゆっくり寝たいと考えるドライバーのほうが多いのだ。それが不必要な休憩を取ることで仮眠時間が1時間も減らされてしまうのだから、たまったものではないのである。
  重大な事故を起こしてしまうトラックがあるのは事実だが、トラックが巻き込まれたカタチの事故も、意外と多い。もちろんトラックが絡む事故は死傷者を出す可能性が高くなるため規制が強化されるのは致し方ないことだが、トラックばかりが悪者にされる世のなかにはなってほしくない。
  歩行者や自転車と乗用車における事故の場合でも、弱者救済の観点から乗用車が悪者になってしまう傾向にある。しかし、歩行者や自転車が事故を誘発しているケースは多々存在する。乗用車のドライバーであれば、その部分は十分に理解できるのではないだろうか。それと同じように、トラックも無謀な運転をする乗用車に泣かされているのである。
  トラックの規制ばかりに捉われず、“弱者救済”というある意味おかしな部分を見直すことが先決ではないだろうか。歩行者や自転車側も乗用車やトラックを信頼するのではなく、身を守るために危機感を養ってほしいと願う。もちろん、トラックドライバーはつねに自分はプロであるということを意識しなければならない。
  それだけで、防げる事故もあるはずだ。運転のテクニックはもちろんのこと、休憩するタイミングもプロであればわかるはず。それゆえに、430休憩はプロのペースを乱すだけの、邪魔な存在になりかねないのだが。そんな窮屈な環境のなかでプロとしての誇りを持ち、日夜ハンドルを握っているトラックドライバーの皆さんに、陰ながらエールを贈りたい。

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