凶器にもなり得るクルマだけにある程度のハードルは必須か? トラックのプロが「AT限定免許」に疑問を唱えるワケ

2024.10.29 20:00
この記事をまとめると
■大型トラックは日々進化している
■AT化やエアサス化も当たり前となってきた
■大型トラックの進化には懸念点もある
あえて板バネを選択するドライバーも存在
  近年では大型トラックの進化が著しく、ミッションのAT化やサスペンションのエアサス化が当たり前となってきた。そのことによってドライバーの負担が減り、荷物に与えるダメージも少なくなった。そう、大型トラックを運転することがいろいろな意味で容易になったのだが、果たして手放しで喜んでもいいのだろうか。
  トラックのエアサスとは、荷台の水平性を保ちつつ、衝撃を和らげてくれるというとても便利なシステムである。その機能により荷崩れを防ぎ、強い衝撃による貨物事故を減らすことができ、かつ乗り心地もよくなる。まさに至れり尽くせりのシステムだが、現代でもあえて板バネを選択するドライバーも少数派ではあるが存在する。それは重量物の輸送をメインとするもので、重たい荷物の場合は板バネの方が強く、走行性能が高いと感じるドライバーが多いためだ。AT車も同様に、雪道や悪路を走ることが多いトラックドライバーには好まれない傾向にある。
  いくら便利だといってみても、当然のごとく万人ウケするわけではない。そのため、いずれトラックドライバーという職に就く可能性がある人たちには、AT限定免許はおすすめしない。会社によってはMT車を任されることもあるからだ。それ以前に、自身のスキルを上げるためには、AT限定免許というものに頼らないほうがいいだろう。
  昭和中頃までの乗用車は、クラッチが存在するマニュアルミッション、いわゆるMT車が一般的だった。やがて自動でギヤチェンジをしてくれるAT車が増えるようになり、自動車を運転するというハードルが飛躍的に低くなった。そして、1991年にはAT限定免許制度が導入され、あまり技術をもたない人たちでさえも自動車を運転することが可能になったのである。
  そんなAT限定免許は、もともと身障者向けに考案されたものだった。だが、いつのころからか社会全体に広まったのである。AT限定免許はとても便利なものだが、それと同時にドライバーの質が低下したように感じられてならない。事実、MT車では免許取得が困難または無理だった人が、AT限定免許であればすんなり取得できたという話も聞こえてくる。
ドライバーの質が低下する恐れも
  近年では、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故が多発している。これは高齢ドライバーに多いのはいわずもがなであるが、クラッチが存在するMT車であれば、状況は大きく変わっていただろう。文明の発達は得てしてわたしたちの暮らしを快適なものへと導いてくれるが、ときとして牙をむくことにもなりかねない。
  それゆえ、大型トラックのAT化も例外ではない。明らかに技術不足だと感じるドライバーが増えているのだ。運転が容易になったことで生じる弊害は、それだけではない。眠気を誘い、そしてスマホなどを見ながら運転して(できて)しまうという悪循環を招いている。さらには乗り心地がよくなるエアサスの普及により、プラスの反面マイナス的な要素も大きくなっているのである。そんな現在であるからこそ、大型トラックの事故が多いのもやむなしだと感じてしまうのだ。
  かつてのトラックはMT車が当たり前で、また板バネと呼ばれるサスペンションが用いられていた。そのころと現在を比べると、その進化には素直に驚かされてしまう。しかし、そんなせっかくの文明の発展も、乗り手側の行動によってマイナスへと動いてしまうのだ。運転がラクになったからといって、緊張感をなくしてはならない。
  最近ではトラックが好きで乗るのではなく、仕事だから仕方なく乗るという割り切った職業ドライバーが増えてきた。それもトラック事故を増やしている要因であるのは間違いないが、いくら便利なものであっても使い方を間違えると、簡単に他人の命を奪ってしまう凶器へと姿を変えるということを忘れてはならない。
  個人的には諸手を挙げて賛成できない、AT限定免許制度の導入。2023年では、AT限定免許が約7割だという統計が出されている。国がドライバーの質を下げるように誘導をしておきながら、交通事故が絶えない責任をドライバーに押し付ける。そんな時代を駆け抜けるのは大変なことだが、妙な運転をする車両からはすすんで距離をとるなどの対策をしながら、なんとか乗り越えていきたいものである。

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