この記事をまとめると
■ボディよりも内側にタイヤが奥まっている状態をカスタム業界では「電車」という
■ホイールとボディの面が均一である「ツライチ」というカスタムが鉄板だ
■1980年代以前のクルマは主にとある理由でタイヤが内側に設置されていた
「電車」という言葉はカスタムカー乗りの格好の餌食!
カスタム車のイベントに行くと、「おいおい、あのクルマ、電車じゃん(笑)」という会話が聞こえてくることがあります。
昨今のクルマは、ホイールがボディの面にどんどん近づいているということを意識している人はどれくらいいるでしょうか。ちょっと検索して昭和のクルマの画像を見てもらうとわかると思いますが、そのころのクルマのホイールって、「なんで?」というくらい奥まっていて、車高も高めに設定。リンゴが余裕で入りそうなくらいフェンダーとの距離が離されていることに気付くでしょう。
それに比べると、現行のクルマはミカンが入るかどうかというくらいまで隙間が少なくなっている車種も多くなっている印象です。とくに欧州車はひと昔前からその隙間が少なく、「なんかホイールがボディ面と同一でカッコいいな」と感じていた人も少なくないでしょう。
そしてカスタムの世界では、そのホイールがボディ面と同一なことを目指す傾向が強くあります。そのため、ホイールが奥まっている状態の車両に対して「未熟だ」と見る風潮があり、そういう状態が顕著なクルマを見付けると冒頭のような発言をすることがあったんです。電車は実際、ボディのかなり内側に台車(車輪)があるので、その構造がこの言葉の由来と思われます。
ここではそんなホイールとボディの距離感についてちょっと掘り下げてみたいと思います。
■「ツライチ」と「電車」
上記のようにクルマのカスタムの世界では、ホイールとボディ面がなるべく同一の状態がいいとされています。それは単純に「カッコよく見える」からです。その面が同一な状態を「ツライチ」と呼んでいます。おそらくですが、この言葉は建築などの会話で、出っ張りをなくしてフラットに仕上げるときなどに使われるもので、そこから引用したものだと思われます。
たとえば1990年代くらいの国産車の純正ホイールを、専用のスペーサー(ワイドトレッドスペーサー)で外側に数センチ出してやるだけでスッキリしたシルエットになり、踏ん張り感が強くなるので、かなり見栄えがよくなります。
その傾向が次第に定番化していって、「クルマのカスタムはまずホイール交換から」という流れが出来上がっていきました。
「カッコよくすること」に労力とコストをかけるのが評価の対象
そしてカスタムの定番メニューにもうひとつ「シャコタン」というものがあります。これは車高を下げていくと地を這うような独特の迫力が出て、それだけでカッコいい雰囲気にできるということで、ホイールの交換の次に、あるいは同時に行うという流れができています。
そしてそれが当たり前ということになってくると、ほかよりカッコよくするため、その探求が激しくなっていく人たちが出てきます。どれだけホイールとボディ面とを「ツライチ」にできるか、どれだけ地面に近く「シャコタン」にできるかということに労力、コストを注ぎ込み、1mmでも極みに近付こうと情熱を傾けていきます。
そしてそれが極まった車両に対しては、カスタム好きのクルマ乗りから賞賛が浴びせられ、しっかり評価されます。
カスタムの世界ではそういう流れがベースにあるため、ホイールとボディの間にまだまだ隙間があるクルマに対しては、ジムにも行かずにだらしないボディをしている人を非難するのと同じような目を向ける傾向があるのです。
ただ、「電車じゃん(笑)」といういい方は近頃では聞かなくなったと思います。先述のように、昨今はツルシの状態でホイールとボディの距離が近くなっているので、あまり電車の姿を連想できなくなりました。
■昔のクルマはなぜ電車のようにホイールが内に入っていたの?
「電車」といわれていたのはおそらく1980年代が最後ではないかと思います。では、その年代までのクルマはなぜホイールが内に入っていたのでしょうか?
その理由のひとつは、金属チェーンの装着を考慮しなくてはならなかったせいだと思われます。
金属のチェーンを装着したことのある人なら実感できると思いますが、金属チェーンはそれ自体が数センチの厚みがあり、構造上どうしてもたるみが出てしまうので、車輪が回転したときにタイヤの面から少し浮いてしまいます。それがタイヤとチェーンを専用設計したものなら浮きも最少にできますが、いろんな形状のタイヤと、汎用のチェーンでは浮いてしまう可能性がどうしても出てしまいます。
そのマージンを考慮しなくてはならなかったため、あの隙間が必要だったのでしょう。
そしてもうひとつの理由はプラットフォームなどの共用化の影響だと言われています。
コストを抑えるために違う車種で同じプラットフォームを共用するのはいまでも当たり前の手法ですが、昔はまだその活用がこなれていなかったため、車種の特性に合わせた足まわりを設計する際に多めの空間マージンを取らなくてはならず、それが外観にも現れてしまったというわけです。
その時代のクルマをカスタムのベース車両として見たときに、結果的にホイール交換をしたときの効果が高くなり、それが外観カスタムの定番として広まったという見方もできるでしょう。