光×アートから生まれた光の祭典「フェスタ・ルーチェ」の新たな挑戦

2025.03.31 18:00
和歌山の冬の風物詩の光の祭典「フェスタ・ルーチェin和歌山マリーナシティ」。オフシーズンの観光客減という課題解決のため、2017年からイルミネーションイベントを開催し、毎年約10万人の来場者を迎え、地域の賑わいづくりに貢献しています。
8年目となった今季、不要になった廃材をアート作品にアップサイクルする和歌山出身のアーティスト、石田延命所の石田真也さんとのコラボが実現し、会場に光る石田さんの作品が登場しました。今回初となるアート作品の起用。そのいきさつや作品にこめた想いなどを、屋外照明メーカー株式会社タカショーデジテックの代表取締役社長兼、フェスタ・ルーチェ実行委員会 会長も務める古澤が石田さんと共に語りました。
モノの命をずらす廃材アップサイクル
古澤:実は以前にも石田さんの作品とコラボはしてるんですよね。


石田さん:はい、最初にお会いしたのが2021年にアートイベントで友ヶ島に作った「虚構のアーカイブ」に協力をいただいた時でしたよね。商品や不要になった廃材を見せていただいて、最終的に捨てられるアクリルを蓄光サインに加工してもらって、それをパーツに落とし込みました。


古澤:最初に名前を聞いた時に、延命所ってなんだろうって思ったんです。
アートイベントで友ヶ島に作った「虚構のアーカイブ」


石田さん:モノの延命という意味ではあるんですけど、ゴミ拾いではないんです。例えば海岸に行っても僕は好きなものしか拾わない。海はホームセンターだと思っていて、僕が拾ったことでモノの時間がずれて延命できていく。そのずれが増えていけば、そこに何か可能性が生まれるんじゃないかと思っているんです。


古澤:話を聞いて考え方がおもしろいなと思ったのを覚えています。ちょうどエコ・ファーストの勉強をしていて、環境経営について考えていた頃。そんな時にできたのがリサイクルアクリルを使った「Re:SIGN」だったし、蓄光塗料が入った電気を使用しない「DEGITEC SIGN SUN」だった。作品に使ったのはこの蓄光サインですよね。
「虚構のアーカイブ」で使用した「DEGITEC SIGN SUN」


石田さん:そうです。作品を生きた生態系のようにしたくて、昼間に光を取り込んで夜に光を放つ蓄光サインはまさに理想的。光り方も好きで、ぼやっと光り始めてエネルギーがなくなると小さくなっていく。本当に生きているみたいですよね。ただ、実は友ヶ島は夜船が動かないので釣り人かキャンプした人にしか見てもらうことはないんですが。
古澤:それもおもしろいよね。僕はアーティストとしてだけでなく、和歌山で頑張って活動している仲間を応援したいし、一緒になって頑張りたいというのがあって。なので、話をいただいた時にはぜひ応援したいと思いました。でも実はアートイベントの展示中は設置の許可が取れなくて、期間が終わった後に取り付けたんですよね。普通はイベント中に無理ならそれで終わり。我々が無償とはいえ手をかけたモノを最後まで取り付けてくれるのは嬉しいなと思いました。
サメを起点に紡がれた物語
古澤:フェスタ・ルーチェでは子どもたちに本場のクリスマスを見せたいと7年間いろんな企画をしてきた中で、次の新たなステージは何かを考えていたんです。海外のフェスティバルを見ていると、アーティストが参画するというのが共通している。実際和歌山にはなかなか芸術を愛でる場所が少ない。もっと芸術に触れる場所が身近にあるといいなと、その時に閃いたのが石田くんでした。


石田さん:ありがとうございます。


古澤:お願いした場所は僕が会場で一番重要だと思っている場所なんです。坂を上がっていった先に現れるこの広場はフェスタ・ルーチェの1丁目1番地。ここにわかりやすくいろんな人たちが笑顔になれる作品を作ってほしいというのが僕の要望でした。


石田さん:いつも、モノを作る時は「場所とモノ」を大事にしていて、そこで出会った人と喋る中でモノが集まって、その中でメインになるモノが現れたらイメージが固まるのですが、今回は今までやった規模感じゃない。古澤さんの想いも聞いていたので正直プレッシャーもあり、どうしようかと思案していたんですよね。そんな時にふと工房で見上げたら、目に入ったのが「サメ」でした。


古澤:今回のメインになったわかやま館の「サメ」ですね。(※わかやま館=和歌山マリーナシティにあった複合施設。2021年に閉館)
石田さん:そうです。2021年までわかやま館で展示されていたサメをもらってきていたんですけど、出番がなくて工房の天井に吊るしていたんです。そういえば会場はわかやま館のあったマリーナシティじゃないですか。地産地消ではないですけど、モノが本来あるべき場所で進むと、物語が進むんです。今回もそうでした。


古澤:サメをメインにしようとなって、そこから作品に落とし込んでいくのってどういうプロセスがあるの?


石田さん:まずサメが何を考えているかなと思いを巡らせました。解体されるかと思いきや、変な芸術家に拾われて、使われるかと思ったら吊るされて…。
ちょっと話が変わりますけど、南方熊楠の考えた「南方曼荼羅」には、常に動き続けるいろんなものの動きが「萃点(すいてん)」で重なった時に理解が深まるという思想が描かれています。この作品の、例えば空き缶を見ていても、素材が何か程度にしか空き缶のことは理解できない。でも飲んだ人や場面など、いろんな角度で俯瞰して見た時に何かと出会うことがあるんです。僕はサメのことを理解できていないなとおもって、ちゃんと見ることにしました。そうすると、出会う廃材や人の関わりでどんどんサメを見るための装置ができていくんですよね。例えば門型の鉄骨が見つかって、そこからイメージを膨らませてサメを載せよう、という風に。


古澤:なるほど。使う素材に対して深い解像度があって初めて作品が生まれるんですね。ちなみにそれまでと規模が違ったということでしたけど、制作段階でも何か違う点はありました?
石田さん:例えば個展の時は自分だけで完結するものだったんですけど、イベントは人が関わるじゃないですか。いろんな人が僕の作品のことを考えて動いてくれて、そうするとどこかで自分の作品が自分の手を離れる瞬間がある。譲れないところはあるけれど、今までできていなかった作り方でした。


古澤:人の手や光が入ることで違うテイストが加わったと。それも1つの萃点ですね。石田さんの作品は光との親和性がすごくあるんです。反射するものが多かったり、空間の隙間をうまく使うと光が入ると陰影がきれいに出る。そこにちょっとした違和感が出たりして。そういったことは意識しましたか?


石田さん:そうですね。見るにしんどい違和感ではなく、あれ?くらいの違和感ですが。僕もそこまで光や照明の知識がないので、今回ふんだんに光を使わせてもらって今までにないレイヤーや立体感のある反射を作ることができました。
自由な鑑賞スタイルで見る人の感性に委ねて
古澤:階段を上っていくと、隠れエリアがあるじゃないですか。あそこって、どういう風にできたんですか?


石田さん:あそこが一番自分に近い空間ですね、心理的に言うと胎内めぐりのような感覚で、この階段を上ったら内部にいけるぞというイメージです。
古澤:確かに石田くんっぽさが出ている気がします。作品自体は正面だけでなく斜めからも横からも見られて裏側にも行けて、感じ方がきっと人それぞれ違うんだろうね。


石田さん:10人いれば10人の感じ方で見てもらえたら。素通りする人、じっくり見る人、サメに気づかない人もいて、おもしろかったです。
古澤:そういえば、流れている音楽も石田さんが選曲?


石田さん:そうなんです。最初はそこまでできると思っていなかったんですけど、決めていいと言われて知り合いのアーティストに依頼をしました。そこもあえて違和感という意味で日本語にしました。


古澤:フェスタ・ルーチェで日本語の歌詞が流れるのはクリスマスマーケットぐらい。でもギリギリの違和感は許容範囲なのでOK。リズムが心地よくて、サメと一緒に戯れている感じがしていいなと思いました。そのあたりも含め、「やりおったな」という感想(笑)。ほんとにイメージ通りにしっかり子どもたちを含め見る人へのインパクトができたし、あのヨーロッパの建築に不思議とマッチして心地いい場所になりました。ありがとうございます。


石田さん:こちらこそありがとうございます。フェスタ・ルーチェは認知度の高いイベントなので、子どもの幼稚園の送迎時に声をかけてもらったりしました。作り続けるってやっぱりしんどいことで、難しい。そういうご褒美がないと続かないのですごく嬉しかったです。
光×アートをもっと生活の中に
石田さん:古澤さん的にはまちにアートって必要だと思いますか?


古澤:石田さんを含めいろんなアーティストが活動、表現できる場所がもっと和歌山に増えれば子どもたちの感性も磨かれると思っています。今回和歌山でそういった場所が作れてよかったし、今後も何かアートとのコラボができたら。石田さんのように今活動しているアーティストもいれば、芸大生たちも作品発表ができればいい。光をうまく使った作品なら協力できるし、そうでないなら夜に光をあててあげればいい。これは何を表現しているのかと、見た人が映画鑑賞後みたいにあーだこーだ語りあったりできたらいいよね。


石田さん:最高ですね。子どもの頃はアートではないけれどまちにもっと異物に感じるものがあったと思うんです。それを作るのがアーティストだと思っていますし、見る側の感度がどんどん下がっていく中で、シチュエーションを作っていかないと、忘れてしまう感覚がある。そういう意味でもこれだけの人数に見てもらえる作品が作れてよかったです。
古澤:今年のフェスタ・ルーチェは「VIVID CHRISTMAS(ビビッドクリスマス)」がテーマで、石田くんの作品はいろんなものが重なって、本当にいい演出をしてくれました。フェスタ・ルーチェファンの方も初めましての方もきっと良さを再確認してくれたと思います。僕らの思うインフラ=光とエサと蜜の「蜜=エンターテイメント」の部分にアートは間違いなく入っている。この部分を石田くんと共にもっと膨らませたらというのもあるし、逆に自分も出したいと言ってくれるアーティストが増えてくれたら嬉しい。いろんなアートの視点があるので、たくさん集まればけやき芸術祭もできるんじゃないかな。


石田さん:そういうアートを絡めた取り組みがますます広がっていくと…と考えるとわくわくしますね!


古澤:まちにアートが点在して、興味のない人も絶えずそれに触れながら生活をする。そんなまちの活性化を目指して何かしていこうと思うので、今後もよろしくお願いします。今日はありがとうございました。
2017年からスタートした「フェスタ・ルーチェ」。今年その光にアートという視点が加わり、新たな化学反応が生まれました。これを機に、今後もアート分野と光の可能性を追求していければと思っています。どうぞご期待ください。


■石田延命所プロフィール
石田 真也1984年 和歌山生まれ2008年 大阪成蹊大学芸術学部テキスタイル学科卒業。
「みえない力」をテーマに、主に廃材(不要となったもの)を素材にし、作品を制作している。
モノが生まれてから無くなるまでのサイクルに僕が介入することで、そこに小さなズレが生じる。その狂ったサイクルに何か可能性はないだろうか。
国内外を問わず訪れた土地で集めた廃品や漂着物、人が不要となった物を主な素材として立体作品を制作している。

■タカショーデジテックとの過去の取り組み
虚構のアーカイブ(https://takasho-digitec.jp/digispot/14409/)
友ヶ島の遺跡などからイメージの余白を見出し、公園で不要になった遊具や漂着物、コンクリートなどを使用したアート作品。友ヶ島に恒久的に展示されています。

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