美味しさと健康を両立したラーメンを届けたい。ノウハウゼロから開発に取り組んだ担当者の想いとその開発秘話

2025.03.11 11:00
各社が販売している袋麺。茹でた麺をお湯で溶いたスープに入れるだけと、手軽に食べられる上に満足感が高いのが大きな魅力だ。そうした手軽さがある一方で、健康との結びつきは低いため、健康への意識が高い生活者は自然と袋麺を避けてしまう傾向がある。


それならば、美味しさと手軽さはそのままで、さらに健康に繋がる袋麺を作ることはできないか──。そうして生まれたのが、ミツカンが2024年3月にローンチしたブランド「Fibee(ファイビー)」から販売されている「Fibee ラーメン 香味野菜と濃厚みそ」である。


本ブランドは、腸内で善玉菌のエサとなる発酵性食物繊維に着目したことから誕生した。ワッフルやバウムクーヘンなど、発酵性食物繊維を多く含んだ商品を開発し、ブランドを通して生活者の健康をサポートしている。


本商品は、そんな「Fibee」の商品の特徴である“健康感”を確保しながら、ラーメンとしての美味しさもとことん追求した。今回は、開発者担当者である遠藤 聖に「Fibee」ブランドとしてラーメンを作ることの難しさと、発酵性食物繊維を含んだ麺作りにかけた思いを伺った。
遠藤 聖(えんどう きよし)。入社25年目。イノベーション開発部で商品開発や技術サポートを担当している
技術畑で25年。生活者の暮らしに寄り添う「Fibee ラーメン」の開発に挑む
遠藤は今年でミツカンに入社して25年目となる。スーパーに並ぶ商品を開発したいと思いミツカンに入社し、運よく希望していた商品開発の部門に配属されたという。入社1年目には、代表する商品のひとつである「〆まで美味しい キムチ鍋つゆ」の初期となる商品を開発した。入社から現在に至るまで、何らかの形で商品開発に携わってきた技術畑の人物だ。


「製造管理が4年、研究が6年、商品開発は計15年になります。私の人生の約半分をミツカンで過ごしていることになりますね」


その他にも「純トマト酢(※終売品)」や「甘熟りんご酢(※終売品)」など、今までにないお酢を作ってきた。お酢に関しては商品開発から製造、一部研究にも携わっており、既存事業の中でさまざまな新商品を開発してきたという。


スーパーに並ぶ商品を作りたい──。そうした強い思いから生活者の暮らしに寄り添う商品を開発してきた遠藤が新たにチャレンジしたのが「Fibee」での商品開発だった。
「Fibee ラーメン 香味野菜と濃厚みそ」参考小売価格:248円


「ラーメンの開発担当に決まった時は、正直不安を感じていました。社内にノウハウがない分、大変なことになるだろうと。ただ、私のような技術屋にとって新しいことにチャレンジするのはワクワクするものでして、なので不安感と楽しみと両方ありましたね」


遠藤は「Fibee」のチームに入る前、ミツカングループが手がける「ZENB(ゼンブ」というブランドで「ZENB NOODLE」の開発を担当していた。同商品は、黄えんどう豆のみを原料としたスーパーフードで、その開発期間は約3年。すでに麺作りという点で経験があったことから、「Fibee」でのラーメンを開発する適任者として声が掛かった。
試作を繰り返す日々。発酵性食物繊維が取れる美味しいラーメンを作ることの難しさ
2023年5月頃、ラーメンの商品開発が始まった。別ブランドで麺の開発を経験しているとはいえ、原料も製法も異なるためゼロからのスタートだった。


そこでまず遠藤が最初に行ったのは、製麺機メーカーが主催するセミナーに参加することだった。製麺機を使った麺の作り方を一から学ぶ必要があると感じたという。


「とにかく試作をしないと進まないのではないかという感覚がありました。なので、セミナーで麺の作り方を学んだ後は製麺機を購入し、社内に麺の作業ができる試作室を整えることから始めました」


試作できる環境をと考えたのには理由がある。「Fibee」の商品は、前提として発酵性食物繊維を多く含む原料を使用している。通常、ラーメンの麺は小麦粉で作られるが、それだけでは十分な食物繊維が取れない。「Fibee」としてラーメンを提供するからには、発酵性食物繊維が取れる原料の組み合わせを見つける必要があった。


発酵性食物繊維を含む原料は、穀類・根菜類・海藻類・果物類などさまざまある。多くの選択肢がある中で、どの原料を使えば美味しい麺が作れるのか、さまざまな原料を使った試作を行った。


「麺の風味として適性があるかどうかというところと、麺としての食感がちゃんと作れるかどうかをすごく大切にしていました。色々と試していく中で、オーツ麦と全粒小麦粉であれば発酵性食物繊維も確保しつつ、風味も食感もラーメンとして美味しく作れるのではないかと思い、そこで原料が決まりました」


原料が決まった後も苦難は続いた。通常の麺は小麦粉に含まれるグルテンによって生地が繋がり、麺独特の弾力を生み出している。しかし、オーツ麦やイヌリンなど、水溶性食物繊維を豊富に含む原料が生地に加わると、グルテンの力が弱くなり、麺が繋がりにくく、食感も弱くなってしまうのだという。試作は延べ100回以上。試作室にこもり、毎日麺を作った。


「小麦粉の選定から配合量の調整など、細部まで検討しました。グルテンを入れすぎると硬い食感になってしまうし、食物繊維を入れすぎると全然食感が出ない。数%で違いが出る世界です」


また、スープの開発にも時間をかけた。本商品は、オリジナルブレンドのみそをベースに香味野菜を利かせた本格的な味わいが特徴だ。約20店舗のラーメンを巡り、麺との相性が合う独自のブレンドを研究した。スープの王道は醤油や塩だが、麺との相性が一番良かったのが味噌だったという。


「オニオンソテーやニンニク、生姜を入れてパンチをきかせることで、麺との相性を良くしています。あとは隠し味としてごま油を入れることで、本格的な味噌ラーメンのスープになるよう仕上げました」
「出張先でも後輩とラーメン屋に」と遠藤。ラーメン好きが伺える。


遠藤は開発当初「お店で食べるラーメンに劣らないようなモノづくりがしたい」と考えていた。自身がラーメン好きだからこそ、強くそう思っていた。技術屋としての探究心が実を結び、オーツ麦や全粒小麦粉の素朴な味わいを感じられる麺と濃厚なみそスープが完成した。
「Fibee」のラーメンを美味しく食べてもらうために。お酢作りと麺作りの共通点
麺やスープの処方は完成したものの、協力会社と連携していざ商品として形にする段階でまた問題が発生した。「Fibee」のラーメンは、一般的な麺とは原材料が異なるため、思い通りの品質のモノが作れないことが続いたという。


そもそも麺はまるで「非常に繊細な生き物」の様なので、夏場と冬場で、同じレシピ・同じ条件で作ったとしても、同じ麺にはならないといわれている。湿度や温度にすごく敏感なところがあり、極端な話、晴れの日と雨の日で品質が変わってしまう。一般的な麺ですらそのあたりの微調整が難しい中、「Fibee」の麺は原材料に発酵性食物繊維を多く含む原料を使っているため、微調整にはさらなる時間を要した。


「協力会社にいる麺作りに長けた方であれば、感覚で調整ができます。しかし、1年を通して安定的に、そして誰でも同じ品質の麺を作れるようにするには、そうした“職人の勘”を数値化してレシピに落とし込む必要がありました」


そのため、冬場や夏場など条件を細かく変更して工場でのテストを重ねた。より良い品質を求め、「Fibee」ラーメンは発売後の現在も条件を変えて試作を続けているという。
「お酢も温度管理がすごく大事。麺作りとお酢作りは結構似ている部分がありますね」と遠藤。


「何度も心が折れそうになった」と話しながらも、遠藤の表情はどこか楽しそうだ。「ああでもない、こうでもないと考えながら手を動かしていると、1日があっという間に過ぎていく。大変だなと感じることもあるんですけど、充実しているんですよね。1つのモノを完成させる達成感があります」
「とにかく難しかった」と言いながらも表情は穏やか。


商品は1人だけでは完成しない。商品を企画する人、パッケージデザインを考える人、原料を調達する人──。多くの人の協力があって、やっと1つの商品ができあがる。そういった人たちをいかに巻き込むかということも、モノづくりをする上で大切なことのひとつだと遠藤は話す。
色んな食シーンで「Fibee」を取れるように。ラインナップを増やしていく
商品発売後の心境は「不安」だったという。「本当にこの商品を受け入れてもらえるのか、品質的に大丈夫かという不安があって。ただ、達成感もすごく感じていましたね」


実際に商品を食べた生活者からは、食べ心地が軽やかだというポジティブな意見があった。小さな子供から年配の方まで、幅広い層に受け入れてもらえているという。本商品は、現在(※取材時)ECショップでの販売がメインだが、今後はスーパーやドラッグストア、コンビニなど販路を拡大したいと考えている。


今後の展望について聞くと「Fibeeを通して、発酵性食物繊維の良さを広めていきたい」と返ってきた。発酵性食物繊維は、腸の中にいる腸内細菌のエサとなる。食べると腸内の善玉菌に届き、発酵することで、体の中から健康をサポートしてくれる。


今後も、いろんな食シーンで発酵性食物繊維を取っていただけるように、「Fibee」のラインナップを増やすことも検討しているという。
遠藤が関わってきた商品。左から「Fibee むぎゅっとワッフル」「Fibeeラーメン 香味野菜と濃厚みそ」「Fibeeレンジでもちもち 黒米と玄米ごはん」。


最後に、時には試作室にこもり、また工場にも足繁く通い、心が折れそうになりながらもFibeeラーメン作りに向き合い続けられた理由を聞いた。


「とにかくわからないことだらけで大変ですが、それが逆にワクワクします。年齢的に僕がミツカンで働けるのはあと少しですが、これからも色々とワクワクとした気持ちを感じながら仕事をしたいなと思っています」


食品メーカーとして、美味しさを一番大切にしたい──。Fibeeラーメンへの強い探究心が、美味しく食べ続けられ、それが健康にも繋がるラーメンの誕生に繋がった。

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