「未来と過去に対する責任」長崎からノーベル平和賞授賞式に向かった地元紙記者に聞く

2024.12.30 11:30
2024.12.30 up提供:RKBラジオ
今年のノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の授賞式が12月10日夜(日本時間)、ノルウェーの首都オスロで行われた。12月24日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』では、授賞式を現地で取材した長崎新聞社の佐々木亮記者に、旧知の仲でもあるRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が話を聞いた。
radikoポッドキャストで聴く
オスロで佐々木亮記者=本人提供
高齢被爆者「命がけの渡航」とスピーチ
金の折り鶴©Nobel Prize Outreach. Foto Jo Straube
神戸:オスロまで取材に行く機会はもちろん初めてでしょうけれども、現地はどんな様子でしたか?

佐々木:ちょうどクリスマスシーズンで、クリスマスの飾りに日本被団協のシンボルである、折り鶴がぶら下がっていたり、クリスマスマーケットの観覧車に折り鶴があしらってあったり、歓迎ムードにあふれていました。

神戸:緯度が違うから、日本とはずいぶん感じが違うんじゃないですか?

佐々木:朝は9時ぐらいまで薄暗くて、午後は2~3時ぐらいになると暗くなる感じで、日本の感覚で仕事をしていると「夜になったから早く原稿書かなきゃ」と時計を見たら、まだ夕方の5~6時だったり。

神戸:時差も結構ありますよね。

佐々木:あります、8時間です。

神戸:そこまで離れたオスロに、日本被団協の代表委員が行きました。高齢だから、大変だったんじゃないですか。

佐々木:飛行機の中で2泊し、実質4泊6日のツアーでした。60歳の私でもかなり体力的にきつかったんですけど、平均80歳を超える被爆者の皆さんはどれくらい大変だったか。「まさに命がけだった」と思うんです。時差もありますし、寒いですし、緊張もされるでしょうし。でもそこまでしても世界に訴えたいことがあったんだと考えると、本当に被爆者の皆さんの訴えをちゃんと真正面から受けとめたいなと思いました。
原稿にない訴え「意表を突かれた」
授賞式の会場©Foto Helene MariussenNobel Prize Outreach
神戸:2025年は、被爆80年。受賞までにすごく時間がかかりました。被爆者がどんどん少なくなっています。

佐々木:今回注目してほしいのが、代表委員の田中煕巳(てるみ)さんの演説です。インターネットで全文がアップされていますし、YouTubeのノーベル賞公式チャンネルにアーカイブがありますので、ぜひ見ていただきたいと思います。

佐々木:私たちは事前に「こういうことを話しますよ」という原稿をいただくのですが、田中さんはそこにはない「もう一度繰り返します」という言葉を加えて、被爆者に日本が国家補償をしていないことを知っていただきたい、と世界に訴えたんです。

神戸:全く想定外だったわけですね。

佐々木:「完全に意表を突かれた」と言いますか。同時通訳も入るので、できるだけ原稿通りに話すようにと要請されているはずなんです。田中さん本人も直前まで「間違えないように読まなきゃね」とおっしゃっていたので、おそらく報道陣の誰もが、ああいう一言を付け加えるのは想定外だったと思います。
スピーチする田中熙巳さん©Nobel Prize Outreach. Photo Jo Straube
【田中さんのスピーチから】
1994年12月、この2つの法律(注:原爆医療法と被爆者特別措置法)を合体した「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」が制定されました。しかし、何十万人という死者に対する補償はまったくなく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けております。
もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府はまったくしていないという事実をお知りいただきたいというふうに思います。
神戸:強烈なメッセージでした。

佐々木:これを、被団協と日本政府の狭い枠、低いレベルで考えてほしくない、と思います。戦争の被害は、原爆被害者だけではなく、残念なことに今でも世界中どこでも起きています。国際法では民間施設、民間人への攻撃は厳しく禁じられているはずなのですが、ニュースを見れば、たくさんの市民、子供たちが、巻き添えになって犠牲となっています。

神戸:ウクライナでも、ガザでも。

佐々木:日本政府の立場は「受忍論」。簡単に言うと、戦争は国家の非常事態なんだから、そこで起きた被害は「国民等しく我慢してください」「1人1人に補償するのも財政的には無理でしょう?」というスタンスです。しかしもう一度「戦争とは誰が起こしたのか」「誰が進めているのか」を考えると、やっぱり「戦争を起こした国家が、被害に遭った国民に補償するのは当たり前じゃないか」という意見もあるはずです。なので、これは日本被団協と日本政府の問題というよりも、世界中に向けて、「戦争を起こす国家」と「被害に遭った人々」という視点での問題提起だったと捉えるべきだと考えています。

神戸:空襲被害者も補償を訴えていますが、国はずっと門前払い。「受任論」だけでは時代は前に進まない、といつも思います。長崎、広島から「戦争の被害は、誰かがきちんと責任を取るべきなのだ」と言ったのは大きな意味があるんですね。
日本被団協に送られる拍手©Foto Helene MariussenNobel Prize Outreach
「過去への責任」と「未来への責任」
未来に向け振る手©Foto Helene MariussenNobel Prize Outreach
佐々木:今回の演説の中で、田中さんは2つの大きなことをおっしゃったと思います。ひとつはもちろん「核兵器廃絶」です。もうひとつは、「国家の戦争責任」。戦争責任を取るのは「過去に対する責任」を取ること。核兵器廃絶は「未来に対する責任」を取るということです。田中さんは演説で、今でも1万発以上の核兵器が世界中にあって、そのうち約4000発が実戦配備されているということも指摘しています。

佐々木:一方で「核兵器があるから安全が守られているのだ」という主張ももちろんあります。「核のタブー」という言い方をノーベル委員会はしていますが、今は核の危機に瀕しています。使われる可能性が高まっているのです。本当に使われたらどうなるのでしょうか。局地的な戦争で済むのでしょうか。気候変動とかで世界中に影響を与えるでしょう。戦争だけではなく、事故も起き得るわけです。田中さんが記者会見で「核兵器で国民を守れるのか? 守れない」と訴えていたことを、真正面から見るべきなのではないか、とこの6日間の取材で感じました。

神戸:「未来に対する責任」を私達は負っている。なるほど。
「スタートラインに立った」
手を振る日本被団協の代表団©Nobel Prize Outreach. Photo Jo Straube
神戸:長崎新聞の記事は、福岡でも読むことができるんですか。

佐々木:長崎県内でしか配達してないのですが、長崎新聞のホームページでノーベル平和賞関連の記事は全て無料で公開しています。全国紙とは一味違った視点で、長崎ならではの発信をご覧いただけます。

長崎新聞「ノーベル平和賞2024」特設サイト
https://www.nagasaki-np.co.jp/feature/nobel_peace_prize/

神戸:先ほど私は「80年もかかって遅すぎた」と感想を言いましたが、逆に今だからこそよかったのかもしれません。お元気なうちにちゃんとスピーチをしていただけたことの価値を感じました。最後に、取材した立場でお伝えしたいことがあれば。

佐々木:被団協の代表団は、現地でもあちこちで「おめでとうございます」と声をかけられたんですね。これまでの被爆者運動が国際的に認められたという意味でお祝いすべきだと思うのですが、これは半分の意味。やはり「核兵器廃絶」「核なき世界の実現」に踏み出せた時に、残り半分の「おめでとう」が言えるんじゃないか、と思います。今回の受賞は、「我々が被爆者から大切なメッセージを受け取って、次の世代と一緒に核なき世界を目指していく、ひとつのスタートラインに立った」と言いますか、「ここからまた新しく始まるんだな」という気がしています。

神戸:私達の「子供たちに対する責任」かもしれませんね。佐々木さん、どうもありがとうございました。
田畑竜介 Grooooow Up放送局:RKBラジオ放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分出演者:田畑竜介、橋本由紀、神戸金史
出演番組をラジコで聴く
田畑 竜介橋本 由紀神戸 金史
※放送情報は変更となる場合があります。

あわせて読みたい

「身の毛もよだつような人、人、人…」Xで大注目の「わたくし95歳」70年以上語れなかった長崎の被爆体験を綴る
PR TIMES
「雲仙のホームドクター」太田一也さん逝く…普賢岳災害を取材した記者が回想
radiko news
素材本来の無垢な味わい「御用邸ホワイトチーズケーキ」数量・期間限定発売
PR TIMES Topics
自然災害からウクライナ戦争の復興まで 「女性・平和・安全保障」で日本はもっと世界に貢献できる!
Wedge[国内+ライフ]
ロシアの脅し、深刻に受け止めるべき ハンガリー首相
AFPBB News オススメ
東京駅初!焼き菓子専門店【J.DEUX CERCLE】東京駅に常設店舗をオープン
PR TIMES Topics
対イラン強硬派を要職に指名、トランプ政権下で高まる核の危機【池上彰・増田ユリヤ】
ダイヤモンド・オンライン
日本被団協、核なき世界を訴え ノーベル平和賞授賞式
AFPBB News オススメ
ホワイトデーギフトにぴったり!スイーツをイメージした洋傘登場
PR TIMES Topics
【日本被団協 ノーベル平和賞受賞】谷川俊太郎「反戦の詩」 かこさとし「戦争の悲惨」… 子どもと大人たちへ「戦争と平和」を考える本【4選】
コクリコ[cocreco]
「ノーベル平和賞」10日に授賞式 原爆投下で何が起きたのか…原爆被害について詳しく知る本4選
コクリコ[cocreco]
『チーズバタール誕生祭』を全店で開催
PR TIMES Topics
日本被団協、プーチン氏に核兵器の危険を警告 平和賞授賞式前に会見
AFPBB News オススメ
「ノーベル平和賞」10日に授賞式「日本被団協」とはどんな団体? 戦争体験を知る本12選
コクリコ[cocreco]
【Chai Apothecary】オンラインショップオープン。出雲の素材を使ったチャイシロップ
PR TIMES Topics
広島・長崎両市長、トランプ氏に被爆地訪問要請 原爆投下から80年
AFPBB News オススメ
きょう10日に授賞式「ノーベル平和賞」をきっかけに読みたい本・黒柳徹子さん、やなせたかしさん、水木しげるさんの戦争体験
コクリコ[cocreco]
【世界最高峰のEV】が都内を疾走!話題の世界大会とは?
antenna
ノーベル平和賞受賞記念! 子どもに戦争をどう伝える? 親子で読みたい「平和と戦争」の本12選
コクリコ[cocreco]
ケアから取り残される犯罪被害者遺族の子供たち…アドボカシーの重要性
radiko news