ジャスミー株式会社(以下、ジャスミー)は、誰もが簡単に安全に、そして安心して情報やモノを扱うことができるIoTのプラットフォームの開発・提供を目指しています。
そのため、ジャスミーは、私たちの生活から生み出される重要なデータを限られた企業が占有するのではなく、本来の持ち主が主権を持ち、個々人のデータを自身の管理のもとに利用できる仕組みを開発してきました。
技術的には、必ずしも相性が良いとは言われていなかったIoT関連の技術とブロックチェーンなどの最先端のWeb3テクノロジーを独自の発想で融合させ、さらに業界・業種の垣根を越えて幅広く利用できるプラットフォーム構築を実現してきました。
そして今回、究極の機微情報のひとつとも言われるゲノム情報を管理するため、独自特許とブロックチェーン技術を用いたオンラインストレージ型の個人情報管理・利用システム「Jasmy Personal Data Locker(以下、PDL)」をさらに発展強化した仕組みを開発。
さらに、Web3が理想とする仕組みの一つであるDAO(Decentralized Autonomous Organizationの略、日本語では「分散型自律組織」)的な発想も取り入れ、ゲノム研究への協力に伴う見舞金制度「ジャスミー研究支援見舞金(Mutual Aid Payment、略称:MAP)」を導入。ジャスミーが発行する暗号資産ジャスミーコインを活用しての見舞金の提供を実現しました。
本ストーリーでは、がんの治療法である「CTCネオアンチゲン樹状細胞療法」の推進プロジェクトの立ち上げとその背景について、また、同プロジェクトを通じて提供するジャスミー研究支援見舞金についての開発秘話についてお話します。
▼Jasmy「My Genome Guard」推進プロジェクトサイト▼
がんの治療法「CTCネオアンチゲン樹状細胞療法」の開発を支援するため、プロジェクトを立ち上げ
「ご存知ですか?2人に1人がこの病気にかかり、毎年3人に1人がこの病気で亡くなる日本人の死亡原因の第1位の病気を。」
よく保険会社のパンフレットなどで目にする内容ですが、もうお分かりですよね?
この病気は「がん」です。
そして、人類は古くからこの病気と戦ってきました。最初の「がん」の医学的な治療は、手術による切除から始まり、放射線治療、抗がん剤治療、免疫療法へとどんどん進化し、昨今は不治の病というイメージからは脱しつつあるように思われます。しかし、前述の通り罹患される方、亡くなられる方はまだまだ多くの割合を占め、この戦いは終息したとは決して言えない状況であることも事実です。そのような中、さらにがん遺伝子を解析して、個人ごとに異なるワクチンを製造して投与するオーダーメイドの免疫療法の研究が新たな治療法として注目を浴びつつあります。
その中のひとつが、「
」と呼ばれるものです。
ジャスミーは、この治療法の開発をサポートするため、この研究で先行するノバセラム株式会社(以下、ノバセラム)と細胞培養設備では業界草分けのバイオメディカ・ソリューション株式会社(以下、BMS社)とともに、3社で協業して“Jasmy「My Genome Guard」推進プロジェクト”を立ち上げました。
オーダーメイド治療に感銘を受け、畑違いの医療分野へ挑戦
ジャスミーは、ブロックチェーンを利用したIoTプラットフォーム開発を目指す会社であり、医療は全くの畑違いでした。そこに以前から社長同士が知己であったBMS社から細胞培養の製造工程管理での改ざん防止や培養室への入退室管理などでのセキュリティ強化にブロックチェーン技術を活用できないかという提案を受けました。
ジャスミーは、すでに「Jasmy Secure PC」というパソコンの操作ログをブロックチェーンで管理するソフトウェアを開発しており、セキュアなログ管理の需要が将来的に拡大する可能性を見据えて、この提案に乗ることにしました。
[画像:Jasmy Secure PC 操作ログ画面]
これがきっかけとなり、BMS社が新しい免疫療法の研究に興味を持ち、その社会貢献性を感じていることを知り、そのオーダーメイド治療の利点を学ぶにつけ、ジャスミーでも何か役に立てることがあるのではないかと考えるようになりました。
そして、いつしか3社でこの治療法の発展に向けて何が必要で、それぞれが持つ能力を活かして何ができるかを議論し始めるようになり、技術や役割が明確になった時点で、プロジェクトを立ち上げ、実現の可能性を追求することが最善だとの結論に至りました。何かを始めるにはまず行動しなければ、何も進まないという気概のようなものもありました。
クリアすべき法的対応や仕組みの構築、数々の課題に直面
プロジェクトを立ち上げ、検討と開発を進める中で、ジャスミー内でも想定以上の課題が浮かび上がってきました。
(1)Jasmy Personal Data Lockerへのゲノム情報の格納
ジャスミーのPDLを使ってゲノム情報を管理する計画は初めからありましたが、まず一人あたり約10GBの情報をどう管理するかについて技術的な検討が行われました。現在の日本では、いくら自分のゲノム情報は自分のものだからと言っても、本人に個人のゲノム情報を全て開示することは許されていません。なぜなら、ゲノム情報から遺伝的な要素を知ることは、極端な言い方をすれば、自分の未来や運命を知ることになりかねないからです。もちろん、病気のリスクを事前に知ることで予防や回避が可能になる場合が期待できるからやる意味があるのですが、現在の医学が解決できない問題については、倫理的な観点から、医師を通じてでも伝えることは許されていませんでした。
このような背景から、複数の閲覧者を明確に制御し(勿論、ジャスミーも内容については一切閲覧できない)、情報の安全性を確保する必要がありました。ブロックチェーンはデータの改ざんに強く真正性を証明するのに有効ですが、一般的にはオープンな仕組みとして使われることが多く、様々な制御を加えることが難しいという課題がありました。
しかし、ジャスミーの特許技術がこの問題の解決に役立ちました。ジャスミーの個人データ管理技術を活用すると、本人には自身の情報の扱いについてのトレーサビリティが確保され、一方で自身の情報を委ねる相手に対しては匿名データとして提供することが可能になります。
具体的には、ジャスミーの技術を使用すると、ゲノム解析に従事する人々は検体の所有者を知ることなく作業を進めることができます。最終的に、本人に向き合うことを許された特定の医師が情報を受け取り、本人に伝える必要がある場合、本人はその情報を閲覧することができます。また、将来医学が進歩して対応できるようになるまで伝えるべきでない情報は、本人には伝えず、医師の許可なくしては閲覧できないようにPDLに保管されます。
[画像:Jasmy Personal Data Locker説明図]
このために、ブロックチェーンと連携したサーバーの追加や制御機能の開発が進められ、「スーパーPDL」と内部で呼ばれるシステムが開発されました。また、マイナンバー認証などの追加機能も搭載されることとなりました。
そして、安全性の面では、システムのセキュリティ国際規格であるISMS認証(ISO27001)の取得も進められました。このため、技術者たちは開発に加えて、資料の整備やマニュアルの作成、物理的セキュリティの強化などに忙しく取り組みました。努力の結果、2024年4月末にISMSの認証を取得し、ゲノム情報の取り扱いの準備が整いました。
(2)ジャスミー研究支援見舞金(Mutual Aid Payment、略称:MAP)の提供
プロジェクト参加中に「がん」に罹患した場合、Web3が理想の仕組みの一つとして掲げるDAO的な発想を取り入れ、集めたお金からのお見舞金の支払いを考えました。さらに、ブロックチェーン技術のもっとも顕著な成果物である暗号資産のJasmy Coinを用いることを検討し、これがMAPのアイデアの原点となりました。
一方で、これが保険金の支払いに該当するかについては、弁護士を交えて検討しました。結果として、保険に該当する可能性はあるものの、対象人数が少ないため保険業法の範疇には当たらないことが分かりました。
しかし、保険業法の範疇には当たらないとはいえ、保険の法律に従った仕組みを構築する必要がありました。弁護士からの指示もあり、保険契約に使用される約款や重要事項説明書の準備など、法的要件に準拠する作業が追加されました。そして、これに沿ったWebサイトや申込書の準備なども含め、約5ヶ月にわたる期間を要することになりました。
さらに、MAPや研究開発推進のための情報提供料の支払いにも暗号資産のJasmy Coinを利用することになり、これに対してもクリアしなければいけない法的な課題や仕組みの構築など、さまざまな対応が必要でした。そのため、プロジェクトがビジネスとしてスタートできるよう、技術開発以外の面でも忙しい日々が続くこととなりました。
[画像:CTCネオアンチゲン樹状細胞療法の受診とMAPお支払い概要図]
財産となった推進プロジェクト、開発のさらなる進化へ
正直、今回のプロジェクトだけで、ジャスミー側の収支を考えるとかなり厳しいものとなっています。しかしながら、この取り組みを通じて、ジャスミーのプラットフォームであるPDLの更なる開発が進み、そしてISMS認証も取得するなど、さらなる開発推進体制が整ったことは会社の財産として価値のある成果が得られたと感じています。
また、「CTCネオアンチゲン樹状細胞療法」の研究開発が進むことで、少しでもがんを患った方が救われることがあれば、ジャスミーとしてもこのプロジェクトを推し進めた甲斐があると考えています。
最後に、今回のプロジェクトを通じて、また一歩、ブロックチェーンの実ビジネスでの活用が進んだことは、業界としても意義があると感じています。今後も他社との連携を通じて、ブロックチェーンを活かしたサービス開発を推進していくつもりです。
▼Jasmy「My Genome Guard」推進プロジェクトサイト▼