昭和オヤジには見慣れた「高速の標識文字」が様変わり! 40年以上使われた手作りの「和文公団文字」が終わりを迎えていた

2024.09.21 10:00
この記事をまとめると
■高速道路の案内標識に使用されるフォントは一般的なモノとは異なる
■標識が緑色なのは暗い場所での視認性がよかったことに由来する
■かつての文字は手作業で作っていたが最近では「ヒラギノW5角ゴシック体」が使われる
標識にまつわる裏話
  ふだん何気なく見ているものも、何かのきっかけでちゃんと注意して見てみるといろんな発見や新たな疑問が湧いたりします。
  ドライバーの環境では、たとえば信号機などはいい例でしょう。設置の現場を見たことがある人は実際のサイズが想像の1.5倍くらい大きい(横幅で125cm・LEDタイプは105cm)ことは知っているかもしれませんが、信号機の色の並びがどのような規則になっているのかを自信をもっていえる人は意外と少ないでしょう。
  正解は左から青>黄>赤の順に並んでいます。これは日本全国で共通です。
  同様に、道路標識についても知らないことは多いのではないでしょうか。
  職業ドライバーなら毎日少なくとも数十枚は見ているであろう道路標識について、ここではその視認性のカナメになっている表示フォントに注目して紹介していきましょう。
※今回はフォントについて掘り下げるための参考としてNEXCO中日本の広報部に話を伺いました。
■フォントの前に標識の概要について紹介
  ひとくちに道路標識といっても、その用途によっていくつかの種類があります。道路標識は大きくわけて「本標識」と「補助標識」にわけられます。そのうちの「本標識」は「案内標識」と「警戒標識」と「規制標識」と「指示標識」の4つにわかれています。
「規制標識」と「指示標識」は道交法のルールを伝えるものなので、交通管理者=警察の管轄内にある都道府県公安委員会が管理をおこなっています。「案内標識」と「警戒標識」に関しては道路管理者、つまり国や都道府県、高速道路会社などの管轄で管理されています。
「案内標識」というのは目的地や通過地の方向や距離、道路上の位置を示す目的のもので、目標地までの経路を案内する「経路案内」、現在地を示す「地点案内」、待避所・パーキングなどの附属施設を案内する「附属施設案内」の3種類があります。
  今回紹介する道路標識がこの「案内標識」です。ご存じのように一般道は青の色使い、高速道路は緑色の色使いで統一されており、それぞれの区別を認識しやすいように工夫されています。
「警戒標識」は交差点の種類や踏切、スクールゾーンなど、危険が存在する可能性に注意を促すためのもので、基本的に黄色がベースとなっています。
「規制標識」は、通行止め、追い越し禁止、指定方向外進行禁止、転回禁止など特定の交通方法の禁止や、速度、高さ、重量など特定の方法に従って通行するよう指定したりするのが目的の標識です。
  ザックリと禁止系が赤色、規制、指定系が青色の色使いというのがセオリーです。
「指示標識」は、自転車横断帯や横断歩道、停止線や規制予告など、通行上守るべきルールがある場所を示すための標識です。色使いは基本的に青ベースになっています。
「補助標識」はその名前の通りに「本標識」(主に規制標識)を補助、細かくするのが役割の標識です。白地に黒文字で、場所や時間帯などを知らせます。
■高速道路の案内標識が緑ベースになったワケ
  高速道路の標識は緑、一般道路の標識は青だということはほとんどのドライバーが知っていることだと思いますが、ではなぜ高速道路には緑が使われているのでしょうか?
  その理由は認識性の高さにあります。
  高速道路の標識に関するさまざまな決めごとは、昭和38年に日本で初めて開通した名神高速道路の運行のために「日本道路公団(現NEXCOの前身)」によって色使いや表記法、デザインなどが定められました。
  定められたといっても当時の日本はまだクルマ社会の後進国であったため、すでに運用されている欧州やアメリカの標識が参考にされたそうです。
  当時は欧州の主要国が青系主体で、アメリカが緑系主体でした。どちらも視認性に優れる色使いで説得力があったため、最終的には両方を高速道路の走行シチュエーションで実験し、ライト照射時の見え方などを検証した結果、高速道路は緑、一般道は青となったそうです。
  ちなみに運営団体が別々のためか、同じような緑を使っているのですが、首都高速とNEXCO系3社の使う緑は、その色味が若干異なるそうです。
かつて標識の文字は手作業で作っていた
■案内標識は「標識令」によって表示の方法が定められている
  標識板の色彩は、「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」(通称「標識令」)により定められています。
  前述の色使いのほかにも、出口や方面の単独表示の際には、メインとなる漢字の文字が50cm四方、補足の英文字が高さ20cmというような具合に細かく定められています。
  この文字の寸法はかなり巨大に感じますが、高速道路では高速で走る車両を運転するドライバーに遠くからしっかり文字を認識させるために必要な大きさです。そのため、一般道の標識の文字よりも大きく設定されています。
■標識のフォントは当初は手作りだった?!
  先にいってしまうと、現在NEXCO3社が採用している和文用のゴシック体フォントは「ヒラギノ」です。
  いまでこそ和文用のフォントもさまざまなものが作られていますが、高速道路用の案内標識の原型がつくられた昭和38年当時は活版印刷用の限られた文字しかありませんでした。
  その文字はあくまでも書籍や印刷物用のものであったので、高速道路で速い速度で移動する車両を運転するドライバーの目に一瞬で誤認することなく認識させる目的に適しているとはいえず、必然的に独自の書体を生み出す必要があったそうです。
  当時はグラフィックソフトなどなかった時代なので、書体を生み出す作業はすべて手作業です。しかもひと文字ひと文字を、認識性を高めるという一点を向上させるため、個々にアレンジしていったそうです。
  そのために設けたルールは、まず認識率を高めるためには大きさが有効だという考えから、基準枠をいっぱいまで使ったレイアウトとすることでした。それによって画数が多い文字でもすき間がつぶれることが抑えられます。
  もうひとつは直線を基調としてなるべくシンプルにまとめることです。
  この2点を文字に反映させることでかなり認識率を高める方向性にまとまりましたが、そこで立ちはだかるのが漢字ならではの画数の多い文字の複雑さです。要するに線が多すぎて余白がつぶれてしまい、文字の認識率が保てないのです。
  開発者たちはここで大胆な手法を採る判断をしました。認識性を高めるため、文字に断捨離を施したのです。
  具体的にはハネなどの装飾として見なせる部分を切り捨てます。そしてさらに横棒が連続する部分の一本を端折ったりと、さまざまな工夫を臨機応変に凝らしました。
  その試行錯誤しながらの手作業による努力が実を結び、機能性の高い文字が完成。「和文用公団文字」として、大きく変わることなく40年もの長きにわたり活用されてきました。
■時代の変化により、見直しの必要に迫られる
  40年もの間、本当に多くのドライバーに情報を伝える役割をしっかり果たしてきた「和文用公団文字」ですが、徐々にその文字に対する懸念が囁かれるようになってきます。
  そのひとつは公共の場に「正しくない文字」を掲示するのはどうなのかという点です。
  先述のように和文用公団文字は、認識率を高めるために文字の一部を削っているので、正しい文字とは食い違ってしまっています。
  たとえばその文字を、漢字を勉強中の子どもが見てそのまま覚えてしまった場合、矯正しない限りそのまま間違った記憶で過ごしてしまうことになります。それは日本を訪れる外国人にもいえることで、国際社会に対する責任を考えた場合、そのままでいいとはいえないでしょう。
  また、和文用公団文字は手作りで作成されたため、文字ごとの筆致のばらつきが生じてしまいフォント全体の統一感に欠けているという指摘もあったようです。
  また、デザイン的な面としても、画数が異なる文字でも基準枠いっぱいのレイアウトにしているため、並べた際のボリュームのバランスが良くないという面もあります。
  それらの点を考慮して、2010年に文字の見直しが図られることになりました。
■新しい和文体は商業フォントから選定
  和文用公団文字が開発された時代とは異なり、2010年の時代は認識率に優れるデジタルフォントが多く作られていますので、そのなかから従来の文字と同等かそれ以上の認識率を持つフォントを選ぶことになりました。
  候補は以下の4つです。
・ナウ 印刷機メーカーが1987年に発売したグッドデザイン賞受賞歴のあるフォント。
・タイプバンク クリエーター系文字メーカーが1988年に発売。鉄道会社がサインシステムに採用していた「ゴシック 4550」との類似性に着目して選出。
・新ゴ 写真植字機メーカーが1990年に発売。先に道路会社が標識のデジタル化に採用実績がある
・ヒラギノ クリエーター系文字メーカーが1994年に発売。2001年にMac OS Xのシステムフォントとして採用された実績を考慮して選出。
  認識率を確認するため、文字つぶれの再現としておこなわれる「ぼかし印刷」という方法で比較した結果は、4つのすべてのフォントが合格点で、大きな差はないと判断されたそうです。
  そこで細かく評価を行い、そこで優位点として認められたのが「オブジェクト・エンハンスメント」の面でした。
「オブジェクト・エンハンスメント」というのは、文字を拡大縮小した際に文字の先端部が欠けてしまう現象を避けるために三味線のバチのように末広がりに処理することです。
  この点が優れているとして、新しい標識の和文用文字に「ヒラギノW5角ゴシック体」が選ばれました。
  新しく採用されることになったこのフォントは、新しく設置される標識から徐々に切り替えが行われているので、いまではいろんなところで確認できるでしょう。
  旧式の「和文用公団文字」に愛着をもっている人にとっては寂しい状況ですが、変わりゆく新しいものを受け入れることも必要なのでしょう。
  実際に新旧のフォントを並べてみると、遠目には極端な違いは感じられないくらいに雰囲気が似通っているので、走っている状態で見わけるのは難しいかもしれません。
  少しだけ気にして標識を見て見ると面白い発見があるのではないでしょうか。

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