昭和キッズにもトラック野郎にもけっこう嬉しいスポットだった! SAや道の駅に押されて絶滅寸前の「ドライブイン」って何?

2024.10.02 13:00
この記事をまとめると
■昭和の時代には街道沿いに多くのドライブインが存在していた
■ドライブインには広い駐車場とトイレ、レストランと土産物屋などが設置されていた
■高速のSAや一般道の道の駅が整備されてドライブインは徐々にその数を減らしている
トラック運転手のオアシスだったドライブイン
  近年の猛暑も9月の後半になると気温が下がり始め、いよいよ待望の秋の行楽シーズンが訪れます。山々は夏に生い茂った新緑から徐々に紅葉が始まって色づき始め、それを目当てにこぞって観光客が訪れるでしょう。あるいはブドウや栗など、秋ならではの美味しい食材も最盛期を迎え、それもまた観光の目玉として多くの人を呼び寄せます。
  そうして行楽シーズンには多くの人がクルマで各地を訪れることでしょう。場所やタイミングによっては渋滞に遭遇して長時間の乗車を余儀なくされることもあると思います。
  そんな長距離のドライブで問題になるのがトイレと食事でしょう。高速道路なら「あと○km先にパーキングエリアあるから我慢してね」と乗り越えることができますが、一般道ではそういう設備が都合良く見当たらないケースもあったりします。
  こんなシチュエーション、昭和の時代であれば「ドライブインに寄りましょうね」というのが当たり前でした。家族でクルマに乗って遠出するときに、子どもゴコロにドライブインに寄るのを楽しみにしていたという人も少なくないでしょう。
  そのノスタルジーも、いまの30代以下の人には通用しなくなっている気配を感じます。「ドライブインって、なに?」といわれてしまった年配の方もいることでしょう。
  ここでは、いまや絶滅を危惧されるほど数が少なくなってしまったドライブインについて、ちょっと掘り下げてみようと思います。
■「ドライブイン」をカンタンに解説
  ドライブインは英語で「Drive-inn」と書きます。ドライブ中に「in」する施設かと思いきや、「in」ではなく「inn」が正解です。
「inn」というのは小規模の宿を意味する英語で、ホテルより気軽に安く泊まれる施設のことを指します。日本では「民宿」が近いでしょうか。
  発祥は自動車大国のアメリカで、1920年頃のことだそうです。それまでも街道沿いにドライバー向けの店はありましたが、普通に駐車場を備えた飲食店やスーパーのような店舗がほとんどでした。ドライブインがそれらと異なる点は、訪れたドライバーのところに専門の店員がクルマまで注文を聞きに来てくれるサービスを始めたことです。いまではマクドナルドなどのチェーン店でドライブスルーが当たり前に普及していますが、当時は画期的で、瞬く間に全国に広がっていったようです。
  その広まる過程でさまざまなサービスを売りにするところも出てきたりして、ベッドでしっかり休憩を取れる「inn」の施設を併設するところも多くありました。
  そのドライブインが初上陸したのは沖縄だという説が有力です。アメリカの文化が米軍基地から流れてくる沖縄の風土に初めてドライブインスタイルのレストランができたといわれています。
  日本では1960年代あたりから自動車による物流やレジャーなどの移動が盛んになり始め、その勢いに合わせて街道沿いにはドライバー向けの飲食店などが増えていきました。
  その活況のなかで、広い駐車場とトイレを備えた、レストランと土産物屋などの複合型の店舗も生まれ、アメリカに倣って「ドライブイン」と名乗るようになりました。
  そのころ、街道は多くのトラックが走っており、主要な街道は深夜の交通量もそれなりにありました。そんな「トラック野郎」たちのために、店舗が閉まったあとも休憩所として駐車場を開放しているところもあり、自販機などの無人販売でそれなりの収益を得ていたところも多かったようです。
  昭和の長距離ドライブというと、観光地付近のドライブインに寄ってご当地の名物を食べたり、お土産を物色したりするのが楽しみのひとつとされていました。
サービスエリアと道の駅に取って代わられたドライブイン
■なぜ数が激減してしまったのか
  そんなドライブイン、最盛期はガソリンスタンドと同等か、それ以上の数が街道沿いに点在していましたが、1980年代くらいから徐々に数が減っていき、いまでは全国で数百カ所といわれるくらいに減少してしまいました。あれほどもてはやされていたのに、いまでは絶滅が危惧されるほどの希少な存在になってしまったのです。
  その理由はいくつか挙げられます。
  まずは高速道路網が整備されたことです。戦後の日本復興の計画で、物流の主力が鉄道から自動車(トラック)へと方針転換されたことで一気に道路網の整備が進みました。その計画の目玉が高速道路の建設です。
  1963年に名神高速の一部の開通に始まり、東名高速、中央道、関越道など徐々に高速の道路網が充実していきました。
  それまでトラックの主要ルートは一般街道でしたが、速いスピードで信号もなく快適に走行できる高速道路に主要ルートは移っていきました。高速道路には一定の距離ごとにサービスエリアやパーキングエリアが設けられていたので、わざわざ速度が遅く信号で停止を余儀なくされる一般道を選ぶドライバーは激減しました。
  また、レストランのチェーン店やハンバーガーショップなどのファストフード店の台頭もドライブインの衰退に輪をかけました。
  観光地ではご当地の人気食や土産物を買いに立ち寄る需要はありますが、途中の区間ではできるだけ速やかに食事や休憩を済ませたいと考えます。そのため、気軽に入れて安くて早いファストフード店の人気が高まり、しだいに街道沿いのシェアを占めていきました。
  そしてトドメを刺した存在といえるのが「道の駅」です。道の駅は1990年代初頭から姿を現した、広い駐車場とトイレ、売店、飲食施設を兼ね備え、24時間利用することができる施設です。一般道のパーキングエリアといってもいいでしょう。
  主要な街道を中心に、ドライバーの休憩ができる設備を求める声に応えることと、地方の地域振興のための設備を作るという、官民双方の需要に応えるために構想されました。
  まだ数こそ最盛期のドライブインには及びませんが、まさに現代版のドライブインといえる拠点なので、ドライブインの必要性が薄くなってしまったといえるでしょう。
  そんな向かい風の状況ですが、いまでも観光地で細々と経営を続けているところもあるようで、昭和のノスタルジーを愛する身としては有り難い限りです。
  ちなみにそんな昔から続く文化を愛しむ雄志が、現存するドライブインをメディアで紹介するなどしているようで、わざわざ何百kmも移動して訪れるなど、一部で密かに人気が再燃する動きもあるとか。気になったという人は、見付けた際にはぜひ立ち寄ってみてください。

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