読めるけど……何か違わない? 誤字!? 独自に「漢字の省略」までしてた高速標識の不思議な文字「公団ゴシック」が消えつつある理由

2024.09.14 13:00
この記事をまとめると
■高速道路の案内標識に用いられるフォントは2010年7月から新フォントに置き換えられている
■かつては「公団ゴシック」という道路公団が独自で手作りしたフォントが使用されていた
■ヒラギノへの置き換えが進んでいるためいつまで公団ゴシックを見ることができるかはわからない
10年ほど前までは高速道路には不思議な文字の案内表示板があった
  2010年以降にクルマの運転を開始された方は、とくに何も感じていないのかもしれない。だが現在、30代後半以上のドライバーであれば、ここ10年ほど、高速道路のICを通過する際などに「……ん?」というかすかな違和感を覚えた経験があるのではだろうか。
  違和感の正体は、高速道路の案内標識に用いられている「フォント」である。じつは2010年7月から順次、各地の高速道路上にある案内標識のフォントは「新しいフォント」に置き換えられているのだ。
  2010年7月まで使用されていたフォントは、俗に「公団ゴシック」と呼ばれている、道路公団(当時)独自の手作りフォントだった。
  1963年に標識レイアウトの原型がかたまり、名神高速道路で初採用された時代は、現在と違って多様な市販フォントは普及していなかった。そのため、限られた市販フォントのなかからなるべく視認性に優れるものを採用しようとしても、画数が多い漢字などはどうしても「遠くから時速約100kmで移動しながら見る」というシチュエーションにおいては「文字が潰れて見えてしまい、判読できない」という試験結果になってしまいがちだった。
  そのため、当時の日本道路公団は、ひとつひとつの文字を手作業でデザインした。そしてそれを40年以上にわたって使用し続けたのだ。それが、俗に「公団ゴシック」と呼ばれている独特な書体である。
  公団ゴシックは、公団ゴシックであるがゆえに「正しさ」よりも「見やすさ」を最優先してデザインされた。例えば、漢字の「ハネ」や「マゲハネ」と呼ばれる部分を独自の判断で省略したり、「縦画」を1本省略したり、あるいは「鷹」などの画数が著しく多い漢字においては、大胆な省略も行った。
見やすさを優先してデザインされたゆえに必ずしも正しくはない
  それらの結果として「よく見ればこれ、誤字じゃん!」となったりもしたのだが、その分だけ視認性には大いに優れ、また独特の味わいも感じられるフォントにもなった。それゆえ日本道路公団と、後のNEXCO各社は公団ゴシックを使い続けたわけだが、やはり問題がないわけではなかったし、近年では世の中の様相も変化した。
「問題」は、主には下記のとおりだった。
・視認性についての批判はなかったようだが、「誤字じゃないか」との指摘はあった模様
・長年にわたり多くの人手で制作されてきたため、文字ごとの筆致のばらつきが著しく、フォント全体としての統一感に欠けていた
・多くの字が「基準枠」全体を使って同寸法で作字されるため、複数の文字を並べると同じ大きさに見えず、バランスが悪く感じられることがあった
  最後のポイントについては若干の補足が必要かもしれない。フォントというのは「同じ大きさに作れば同じ大きさに見える」というものではなく、じつは文字ごとに微妙にサイズを変えることで、結果として「違う文字が並んだとき、同じ大きさに見える」という視覚現象が発生する。公団ゴシックは「基準枠全体を使う」というルールがあったため、この点において少々の問題が発生していたのだ。
  そして、「世の中の様相も変化」とは、以下のとおりだ。
・名神高速が開通した1963年と違い、いまは「視認性に優れる市販のデジタルフォント」がたくさんある
  そのため、NEXCO3社は「より認識しやすい標識レイアウト」にすることを目的に、高速道路標識の見直しを行ったのだ。
  検討段階では「ナウ」「タイプバンク」「新ゴ」「ヒラギノ」という4種類の和文フォントが検討対象となり、さまざまな試験が行われた。その結果、「ぬけのよさ」は各フォントに大きな差はなかったものの、ヒラギノにのみオブジェクト・エンハンスメント(視覚特性に合わせて対象を見やすくすること。ヒラギノの場合でいえば、文字の端部分を微妙に太くしている)が施されていることがわかった。そしてなおかつ、ヒラギノは「潟」や「都」の例ではサンズイやオオザトが大きく、遠方からの視認性にとくに優れていると判断し、「ヒラギノW5角ゴシック体」が高速道路の新たな和文フォントとして採用されたのだ。
  当然ながらヒラギノは優秀なフォントであり、公団ゴシックのようなハネや字画などを省略せずとも、抜群の視認性を発揮できる。そのためヒラギノW5角ゴシック体への変更に何の文句もあるわけではないのだが、ヒラギノは、Mac OS Xに標準搭載されている「見慣れたフォント」であるとはいえる。
  そんななかで、各地の高速道路でまだ見ることができる「公団ゴシック」は異彩を放っているというか、独特の味わいを、ドライバーに感じさせてくれるものだった。
  ヒラギノへの置き換えが順次進んでいるいま、いつまで公団ゴシックを見ることができるかはわからない。だがたまに見かけた際には「……ありがとう、公団ゴシック。君のほのぼのした感じ、僕はけっこう好きだったよ」という感じで、脇見運転にならない範囲にて、感謝の思いを伝えたいとは思っている。

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