全国から選抜された15名の学生とトップシェフ4名が水産資源管理の未来に提言した期間限定レストランを東京・京都にオープン

2024.09.09 08:00
一般社団法人Chefs for the Blue
~「ディストピア魚屋」「マグじゃが」など日本の水産資源の現状を表現したコンテンツで1週間で240名満員御礼~

 持続可能な海を目指した啓発活動を行う、一般社団法人Chefs for the Blue(東京都渋谷区千駄ヶ谷、代表理事:佐々木ひろこ)は、次世代を担う学生たちと東京・京都のトップシェフ4名が、海の未来を考え、学び、実践する『THE BLUE CAMP(ブルーキャンプ)』を昨年に引き続き開催。その最終プログラムにて、東京は8月6日(火)~11日(日)、京都は、8月5日(月)~10日(土)で期間限定ポップアップレストランを開催しました。
THE BLUE CAMP 2024
THE BLUE CAMPロゴ
「THE BLUE CAMP」は、日本財団「海と日本プロジェクト」の助成を受けて行う、未来を担う次世代の若者を対象とした人材育成プログラムです。海や漁業、その持続可能性などについて学びや実践の機会を提供し、将来、海や水産物に関わる様々な分野で活躍できる人材の種を育てています。昨年に続き今年は2回目の実施となり、東京と京都の2拠点で選抜された15名の高校生・大学生・専門学校生たちがプログラムに参加。プログラム全体には、東京・京都のトップシェフ4名がメンターとして伴走し、3ヶ月間の学びと思考の内容を伝える場として、8月に期間限定レストランをオープンしました。
HP:
note:
<東京チーム  レストラン 『あおのいま』概要>
東京チームの学生8名が中心となって企画した、レストラン『あおのいま』では、4品の料理の提供と、プレゼンテーションが行われ、3か月の学びの軌跡と、日本の水産資源管理の現状に向き合った思いを発表しました。
東京チーム

レストラン会場では、メンターシェフである、【てのしま】林亮平シェフ、【御料理ほりうち】堀内さやかシェフとともに考案した、海の未来へのメッセージを込めた4品(前菜2品、定食、デザート)のコース料理を提供。レストランで提供するメニューは、魚種の選定から調理法、しつらえまで学生がアイデアを出し合いこだわり抜きました。


<プロローグ「ディストピア魚屋」>
レストランの待合室は、「ディストピア魚屋」。
来場したお客様を待ち構えた魚屋に置かれた発泡スチロールには、魚の代わりに、「マイワシ89%減」「サンマ96%減」などと書かれた札が並びます。この数字は、ピーク時からどれだけ漁獲量が減ったかを表すもの。プレゼンテーション担当の学生が、日本の水産資源の現状を真剣な面持ちで説明しました。
各魚種の漁獲量について「ディストピア魚屋」


<料理>
ディストピア魚屋からレストランに向かう扉が開き、ダイニングルームへ案内されたお客様をサービス担当の学生たちが出迎えました。客席には、大学で水産研究を行う学生を含む2名の学生がお客様と並んで着席し、提供する料理に込める思いや、三か月の学びを伝えました。
会場の様子


1.前菜 鰯の冷製油煮 トマトだれ
旬のマイワシを油で低温調理し、夏らしいさっぱりとしたトマトだれをあしらいました。日本人にとって身近な魚のひとつ「マイワシ」は、令和5年現在、海面漁業において最も漁獲の多い魚です。しかし、実際人間の口に入っているのは3割程度で、多くが水産養殖用のエサや、農畜産業向けの飼肥料として利用されています。イワシを食する重要性を知り、イワシの価値をあげたいという思いで提供しました。




2.揚げ物:黒鯛の米粉揚げ 夏野菜あん
二品目に使用したのは「クロダイ」。魚屋には並ぶことが多いものの、都心のスーパーであまり見かけることがないという現状に目を付けました。この場でクロダイのおいしさを知ることで、「魚屋」を訪れる人が増え、日本の魚食文化を支えている「魚屋」の重要性を見直すきっかけを作りたいという思いで選定した魚種です。



3.お膳:マグロづくし
(血合いの煮つけ、山かけ、尾の身のつみれ汁、香の物、御飯)
メインとして提供した「マグロづくし」膳では、クロマグロの未利用部位を活用。普段捨てられていることも多い血合いは、実は鉄分やビタミンB群が豊富で、調理法を工夫すると、非常に美味しく食べられる部位だということを学んだ学生たち。生臭さや、食感のパサつきを抑えるため何度も試作を重ね、ほろりとした食感と、濃厚な旨味を感じる煮物に仕上げました。お吸い物のつみれには、同じくクロマグロの尾の身を使用。尾びれを常に動かす回遊魚のまぐろの尾の身は、筋力が発達するため、強いうま味としっかりとした肉質が特徴。皮と身の間の筋はコラーゲンが多く含まれるため、加熱することで柔らかな食感となります。資源管理の成果として資源回復傾向にある、クロマグロの現状からの学びと、未利用部位をおいしく活用することは、一尾の価値をあげることにつながるというメッセージを伝えました。



4.甘味:桃の水羊羹 海藻のレモン蜜漬け
甘味には、旬の桃を白あんと合わせた水羊羹に、海藻の蜜漬けをあしらった一品。海のゆりかごとも呼ばれる海藻類は、魚の産卵や子育ての場として利用されることも多く、海の生態系の中で重要な役割をになっています。
近年、「磯焼け」が問題視される中、海藻類の重要性を見直したいと、デザートとして活用しました。




<エピローグ「学生が残した3つのメッセージ」>
「100年後も魚を食べ続けるためには」をテーマの学生たちのブレストボード

1.魚は無限にない
3か月の学びの中で、まず直面したのが、1つめのメッセージ「魚は無限にはない」ということ。天然資源である魚は、「獲り過ぎ」ると減ってしまいます。3か月の学びの中で、未来へ資源を残していくため、「獲り過ぎ」ない工夫をしている漁業者と出会ってきた学生たち。しかし、それらの工夫はほんの一部に過ぎず、日本の漁業においては、まだ資源管理によって改善する余地があるということを訴えました。

2.希望と現実の葛藤「モヤモヤ」
ポップアップレストランの開催にあたり、学生たちは「100年後も魚を食べ続けるにはどうしたらよいのか」という大きな問いを立てました。

3か月の学びの集大成として、学生たちが出した結論は、その答えは出せないという「モヤモヤ」でした。「魚食に関する日本の技術や文化がすばらしいこと、そして資源管理が重要なことはよくわかった。でも最適な資源管理の方法はまだわからないし、消費者に何ができるか、についても解が出せない。

海を守るためには「獲らない、食べない」ことが一番のように思えるが、それでは魚食文化を守れない。資源管理の証としてのエコ認証魚を買うように勧めるのがよいかというと、それでは食べられる魚種が限定的になり、やはり多様な魚食文化が衰退する。認証がなくても、サステナブルな漁業を続ける漁業者がいる中で、『認証』の有無で魚や漁業者の良し悪しを決めるべきなのかがわからない。それとも、資源が減っているなら養殖で増やせばよいのか。しかし現状、養殖魚のエサには天然魚が必須であり、その漁獲が生態系に与える影響も大きい。…」

様々なプレイヤーから、海の現状を学んできたからこそ、「100年後も魚を食べ続けるにはどうしたらよいのか」という問いに対して、ひとつの最適解を出せなかったという学生たち。答えが出せないことは無責任だと感じ、大きな「モヤモヤ」が残った。それでも、学びの集大成として出した結論は伝えたいと、言葉につまりながらも、素直に葛藤とモヤモヤを表現した学生たちの姿に、涙ぐむ来場者も見られました。

3.知らなければ何も変わらない、知ることで何かは変わる
答えは出せなかったけれど、3か月の学びを通して海の現状を「知る」ことで、自らの思考や行動が大きく変わったことを実感した学生たち。食卓に魚が並ぶ機会が増え、行ったことのなかった魚屋に自ら足を運ぶようになり、調理したことがない魚も積極的に調理するようになった。そのような、変化を身をもって体感した学生たちは、「今日ここで感じたこと、知ったことを、身近な人に話してみることから始めてほしい。僕たちが感じた『モヤモヤ』の輪を広げ、少しでも多くの人に、海の未来に関心を持ってほしい」と締めくくりました。


<京都チーム  レストラン『さざなみ』 概要>
京都チームの学生7名が中心となって企画したレストラン『さざなみ』は、来場者に「体験」を提供するユニークなコンセプトのレストランです。3か月にわたる学びを通じて得た日本の水産業への思いや葛藤を、デモンストレーションや擬似体験を通じて表現しました。
京都チーム

6日間のレストラン営業では、メンターであるカリナリーディレクター 中東篤志シェフ、【日本料理研野】酒井研野シェフとともに考案した、海の未来へのメッセージを込めた5品(前菜2品、主菜、定食、甘味)をコース仕立てで提供しました。

<料理>
1.先付け:真昆布と本枯節の一番出汁
一品目に提供したのは、和食の根幹である「出汁」。出汁の基本となる真昆布は、10年前と比べ97%も漁獲量が減少、鰹節用のカツオも減少しています。和食における出汁の重要性、温かみを感じてもらい、出汁の美味しさを未来に残したいと、提供を決めた一品です。



2.造り:2024年の皿
(ヒラのお造り、和風セビーチェ、海苔巻き)
ヒラのお造り、和風セビーチェ
二品目で提供したのは、岡山県以外ではほとんど食べられることのない「ヒラ」という魚。小骨が多いために調理が難しく、岡山県以外では「未利用魚」に分類されることも多い魚種です。岡山県倉敷で126年続く魚屋、魚春さんにて、ヒラをふるまってもらい、その美味しさに感動した学生たち。さまざまな食べ方でヒラの美味しさを知ってもらいたい、食べ方・美味しさを知らないだけで、「未利用魚」と呼ばれることへの違和感も投げかけたいと、姿形の異なる3種の表現で提供しました。
海苔巻き




3.掬う湾:揚げだし豆腐
資源管理のひとつの手法として、網目を大きくすることで未成魚の漁獲を避ける方法を知った学生たち。その手法を体験してもらおうと、表現したのが主菜の「掬う湾」です。シラス(カタクチイワシの幼魚)などの小さな魚を使用した餡を、大小2つの網目のお玉で、揚げだし豆腐にかけていただきます。網目の大小による、掬える魚の量の差を体験してもらうという演出を行いました。



4.ごはん海議:マグじゃが、イワシの梅煮、スズキの味噌柚庵焼
資源管理の難しさだけでなく、成功事例や可能性も知ってもらいたいと、選んだのが太平洋クロマグロとスズキ、マイワシです。一時、大きく資源量が減ってしまった太平洋クロマグロですが、国を挙げた資源管理に取り組んだ結果、近年資源量は回復傾向にあります。今回は、家庭料理の定番である「肉じゃが」の肉をマグロでアレンジし、「マグじゃが」として提供。「肉」を「魚」に変えるだけで、おいしく魚が食べられるというメッセージを込めました。

また、スズキは千葉県の船橋で自主的な資源管理に取り組んでいる、大傳丸の大野和彦さんから仕入れたものを使用。国や個人漁師、規模は違えど、それぞれのレイヤーで行う資源管理の重要性を訴えました。マグロやスズキといった、大型魚を支えているのが、小型魚のイワシ。食物連鎖の下位に位置する小型魚が減ってしまうと、当然それらを食べる大型魚も減ってしまいます。イワシを始めとした、小型魚の重要性にも改めて目を向けてほしいと、思いを込めました。



5.甘味:昆布と鰹節のアイスクリーム
デザートのアイスクリームには、一品目で出汁をとった昆布と鰹節を使用。残った食材を余さず、使い切る工夫を「また会いましたね」というメッセージとともに表現しました。




■海をとりまく葛藤を、食卓で体験してほしい
京都チームがこだわったのは、食卓でのおいしい体験を通して、海の現状と未来を考えてもらう、体験型ポップアップレストランの設計です。

そのひとつが、掬う湾で提供した揚げだし豆腐です。
小魚や小海老などで海を表現した餡を、大小網目の異なるお玉で掬っていただくことで、漁師さんの日々の葛藤を体験していただきました。

「海の中には、大小さまざまな魚がいますが、これを網目の大きいすくいでとると、大きい魚が取れて小さい魚はとれません。逆に、網目の小さいすくいでとると、小さい魚もとれてしまいます。小さな魚は、将来のために、残したほうがよいのはもちろんですが、小さい魚も立派な収入源です。近年魚が獲れなくなって、燃油代も上がり、漁師さんの収入は厳しいです。このままだと、小さい魚もとらないと家族を養えない。生きていけない。でも、今小さい魚をとらなければ、1年後2年後に資源が増え、魚の値段も上がり、魚が食べ続けられるかもしれない。どの選択をすることが、最適なのだろうか。そんな葛藤が、漁師さんの気持ちであり、資源管理の難しさです」

また、おいしい体験とともに、海の未来を考えたいという思いから、二品目「2024年の皿」の後に提供したのが、「100年後のお造り」。お皿の上には料理ではなく、漁師・魚屋・料理人という、海の未来を思う3人からの手紙を乗せました。
漁師・魚屋・料理人という、海の未来を思う3人からの手紙を読むお客様


<参加者の声>
■K.Iさん
単なる食事の提供ではなく、食を通して社会課題と活動の総合プレゼンテーションとしてデザインされていたことに感動しました。異なる年代や分野のメンバーがしっかりと課題意識を持ってコラボレーションしていることに感動し、刺激を受けました。これからみなさんの活動は社会に変化を与えていくことになると思います。とても大切なきっかけを与えていただきありがとうございました。

■君島 佐和子さん(株式会社料理通信社)
食材選択とその生かし方が理に適っていて、魚種と部位・調理法・味わい、全てが腹落ちしました。学びがレストランに落とし込まれていくキャンプの組み立てがすばらしいと思います。レストランという場が持つ可能性や社会的な役割を、プロのレストラン従事者がもっと認識しなければいけないと感じたのも事実です

■山本徹さん(株式会社フーディソン 代表取締役CEO)
(記憶に残ったことは?という問いに対して)複雑ですぐに解決できない問題に対して向き合ってモヤモヤしていたこと。とっつきやすい答えを出してスッキリする選択をしなかったことに、今後難しい問題に向き合う胆力を感じて感動しました。

■松島 博英さん(水産庁 資源管理推進室)
今回の活動を機に、水産関係者「以外」へのアプローチ活動の重要性をさらに感じた。いわゆる一般消費者の皆様は、水産資源の現状を単に知らないだけで、我々が情報共有をしていくことで、関心を持ち、さらに行動にも移してくれるのでは、という希望を感じた。今後はさらに、対外的な活動を積極的に行っていきたい。


<THE BLUE CAMPダイジェストムービー>
<一般社団法人Chefs for the Blueについて>
Chefs for the Blueは、2017年5月、日本の水産資源の現状に危機感を抱いたフードジャーナリスト佐々木ひろこの声がけに応え、東京のトップシェフ約30名が集まりスタートさせた海についての深夜勉強会を起点とする料理人チームです。2021年9月には京都チームも発足しました。「日本の豊かな海をとり戻し、食文化を未来につなぐ」ことを目標に、研究者やNGO、政府機関などから学びを得ながら、持続可能な海を目指した自治体・企業との協働プロジェクトやフードイベントなど様々な活動を行っています。




【概要】
法人名 :一般社団法人Chefs for the Blue (シェフス フォー ザ ブルー)
設立日 :2018年6月6日(活動開始は2017年)
住所  :東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13東急アパートメントB1
代表理事:佐々木ひろこ フードジャーナリスト
理事  :岸田周三【カンテサンス】 オーナーシェフ
     石井真介【シンシア】オーナーシェフ
     米澤文雄【ノーコード】オーナーシェフ
     坂本健【チェンチ】オーナーシェフ
     花岡和佳男「シーフードレガシー 」代表取締役社長
相談役 :村田吉弘【菊乃井】主人
公式HP:
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。公式HP:

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