“マインド・リスキリング”の時代がやってくるスキルよりも意識変容

2025.08.07 10:00
目次
なぜ“スキルリスキリング偏重”では限界があるのかマインド・リスキリングとは何か?ある地方製造業でのマインド・リスキリング変革プロセスKANAMEによる“自律人材”の発掘と活性なぜ経営層がマインド・リスキリングに本気になるべきかマインドから始まる未来の組織づくり
なぜ“スキルリスキリング偏重”では限界があるのか
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な台頭により、必要とされるスキルの陳腐化スピードが劇的に加速しています。ある調査では「平均的なスキルの半減期は5年未満」であり、技術分野ではわずか2.5年とも言われます。


また、IBMのグローバル調査でも経営幹部の約4割が「今後3年で自社従業員の40%がAI導入の影響でリスキリング(技能再習得)を要する」と見積もっています。こうした変化に対応すべく、多くの企業は社員のスキル習得(リスキリング)に巨額の投資を行い、企業によっては収益の1.5%を学習・人材開発に充てているとも言われます。
ところが、こうした「表層スキルの焼き直し」に偏重した取り組みには明確な限界が見えてきたように思います。


第一に、従来型のスキルトレーニングは必ずしも業務上の行動変容に結びついていません。現場では「研修で教えれば人は変わる」という幻想が蔓延しがちですが、実際には研修で身につけた知識・技能が職場で発揮されない現象が多発しています。これは欧州の人材心理学でも「ソフトスキル移転問題(soft skills transfer problem)」として指摘されており、「対人スキル研修は望むような行動変容を職場で引き起こさないことが多い」との研究報告もあります。つまり、単に知識やスキルを詰め込むだけでは、現実の行動・成果に結び付かないのです。


第二に、急激な環境変化下では特定スキルの寿命が短く、学び直し自体が堂々巡りになりかねません。最新技術を習得しても、数年後には別のツールやプラットフォームが登場し、再び学習が必要になります。目まぐるしい変化に対して「イタチごっこ」のように表面的スキルを更新し続けるアプローチは、投資対効果(ROI)の観点でも持続困難です。企業にとって本当に重要なのは、環境変化に合わせて自ら進化し続けられる土壌ではないでしょうか。


以上を踏まえると、これからの競争優位の源泉は、単なるスキル(道具的な能力)ではなく、変化に適応・成長し続けるマインドセットそのものにあるとの問いが浮かび上がります。言わば人材の「自ら進化する意欲」こそが企業のOS(オペレーティングシステム)となり、スキルはその上で動くアプリケーションに過ぎません。


OSたるマインドが強固で柔軟であれば、新しいスキルというアプリも遅滞なく活用できるでしょう。逆にOSが古いままでは、どんな最新アプリ(スキル)をインストールしても真価を発揮できないのです。
こうした問題意識から当社が提唱しているのが、「マインド・リスキリング」というアプローチです。
マインド・リスキリングとは何か?
マインド・リスキリングとは、一言で言えば「価値観・行動様式の再学習」を指します。


従来のスキル・リスキリング(技能の再習得)がプログラミングやデータ分析など技術的知識の獲得に焦点があるのに対し、マインド・リスキリングは認知的・非認知的能力(ソフトスキルや内面的資質)の再構築に重きを置く点で異なります。
具体的には、以下のような非認知的能力を鍛え直すことがマインド・リスキリングの中核です。自律性:上司の指示待ちではなく、自ら目標を設定し行動する力自己認知:自分の強み・弱みや思考パターンを客観視するメタ認知力自己効力感:困難に直面しても「自分はやればできる」と信じられる心理的資質自己影響力:自分の行動で周囲や組織にポジティブな影響を及ぼす力(リーダーシップの源泉)進化意欲:現状に安住せず継続的に学習・成長しようとする内発的動機


これらはいずれもテクニカルな知識ではなく、人格や態度に関わるOSレベルの資質です。マインド・リスキリングとは、このOSをアップデートし、時代に適した意識・行動様式を再インストールするプロセスと言えます。


たとえば経済協力開発機構(OECD)の提唱する「未来のスキル」でも、認知スキルと並び社会・情動スキルの重要性が強調されています。OECDは「競争力を保つには、常に新しいスキルを学び続ける柔軟性や積極的な姿勢(好奇心・生涯学習マインド)が必要」であり、「社会・情動スキルは認知スキルと同等かそれ以上に重要になり得る」と指摘しています。


具体的な例として忍耐力(やり抜く力)や自己効力感、好奇心といった要素は学業や仕事上の成功に不可欠だとも述べられています。これらはいずれもマインド・リスキリングの射程に入る非認知スキルです。


また、近年ビジネス界で注目される「ラーニング・アジリティ(Learning Agility)」もマインド・リスキリングと軌を一にする概念です。


ラーニング・アジリティとは未知の状況から素早く学び、その学びを新たな挑戦に適用できる能力であり、グローバル企業の経営者育成では最重要視されています。コーン・フェリー社の調査では、ラーニング・アジリティこそが経営者の成功を決める単一最良の予測因子であり、知能指数や学歴よりも上位に来るとされました。


しかし高い学習敏捷性を持つ人材は全体のわずか15%程度**しかいないとも報告されています。これは裏を返せば、多くの人にとってマインドの変革・再学習が必要であり、それができれば大きな差別化要因になることを意味します。


さらに自律性や内発的動機づけの重要性もエビデンスが蓄積されています。自己決定理論の観点では、内発的に動機づけられた人ほど創造性やパフォーマンスが高まりますが、それを裏付けるメタ分析もあります。最新の研究では、「楽しさや価値観に基づく内発的動機づけ」が職場でのエンゲージメント(熱意)、仕事満足度、組織コミットメント、主体的行動と強く相関し、燃え尽きや離職意図を低減することが示されました。さらに仕事そのものの社会的価値を感じて動機づけられている場合(価値観による動機)は、業績にも最も好影響を及ぼすとされ、内発的・価値観ベースの動機づけが仕事上の成果の約67%もの分散を説明するとの分析結果もあります。要するに、人が心から納得し主体的に動く状態を作り出すことこそが、持続的なパフォーマンス向上の鍵なのです。


以上からも明らかなように、マインド・リスキリングは単なる精神論ではなく、時代に則した科学的な人的資本強化策と言えます。技術(ハード面)の再学習だけでなく、人間の内面的なOS(ソフト面)の再構築にこそ、本質的な競争力の源泉があるのです。
ある地方製造業でのマインド・リスキリング変革プロセス
ここで、当社が支援した地方の製造業A社の事例を紹介しましょう。A社は従業員数数百名規模の老舗メーカーで、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)波に乗り遅れまいとリスキリング研修に力を入れていました。


具体的には、現場リーダー層に対して生産管理のITツール研修や、若手社員向けにデータ分析講座を実施し、新技術の習得に投資していたのです。しかし、半年経って振り返ると、研修後の現場行動にほとんど変化が見られないことに経営陣は頭を悩ませていました。


例えば、生産リーダーのBさんは研修で最新の在庫管理ソフトの使い方を習得しましたが、現場に戻ると従来通りのエクセル手作業に終始し、新ソフト活用による改善提案はありませんでした。若手のCさんも、データ分析研修で学んだ手法を現場業務に活かすことなく、「忙しくて試す暇がない」と従来業務の延長線上で手一杯という状態です。研修講師からは「皆、吸収は早かった。テストも高得点だった」と聞いていたものの、「知っている」と「できている」「やっている」の間には大きなギャップが間違いなく存在しました。


A社の経営層は次第に閉塞感を募らせました。「これだけ研修をやっているのに、なぜ現場は変わらないのか?」という苛立ちと、「我が社の企業風土そのものに問題があるのではないか」という不安が渦巻いていました。リーダー層からも「正直、研修をやっても部下の動きは変わらない。結局現場は忙しさ優先で、新しいことに取り組む余裕がないんです」という諦めにも似た声が聞かれました。


この状況はまさに前述の「教えれば変わる」幻想の崩壊でした。


形式的な研修をいくら積み重ねても、社員の行動・意識が変わらなければ業績への寄与はなく、投資対効果は極めて低くなってしまいます。A社の場合、「現場力向上」という旗印の下に技能研修を重ねていましたが、実態は「表面的なスキル知識の焼き直し」に留まり、深層の行動変容につながっていない状態だったのです。このままでは研修投資のROIは頭打ちであり、むしろ現場の研修疲れ・学習無力感さえ招きかねない危機に直面していました。


こうしたA社の状況を診断する中で、私たちは「問題の本質はスキルではなくマインドにある」との仮説を立てました。一見すると「ITツールの使い方が定着していない」「データ分析スキルが活かされていない」というスキルの問題に見えますが、深層には「自律度合い」の低さという課題がありました。


「上司の承認がないと不安で動けない」「失敗を責められるのが怖い」「そもそも自分で判断する経験が乏しい」といった心理的なハードルがありました。


つまり、問題の本質はスキルの有無ではなく、自ら考え、自ら判断し、自ら行動するための“自律性”が十分に育っていないという、組織文化と個人マインドの課題でした。


要するに、A社では表層のスキルギャップ以上に、深層のマインドセットギャップが問題だったのです。


私たちは経営トップとの対話を通じ、「今必要なのは社員の意識構造OSを書き換えることだ」という認識を共有しました。スキル研修はその後でも遅くない、まずは自律的に動き変化を起こせる人材を増やすことが先決だ——これが私たちの立てた仮説であり、提案の骨子でした。


この仮説に基づき、従来とはアプローチを一変させるプロジェクトが始まります。それが次章で述べる「KANAME」による自律人材の発掘と活性という取り組みでした。
KANAMEによる“自律人材”の発掘と活性
A社で私たちが採用したのは、当社が提供する「KANAME(カナメ)」というサービスを活用したアプローチです。KANAMEは一言で言えば、組織内の「自律人材」――すなわち自ら学び動ける人材――を科学的に発掘し、重点育成するための国内初の人材アセスメント・抜擢ツールです。


研修や教育施策というと、一般的には「何を教えるか(What)」や「どう教えるか(How)」に目が行きがちです。


しかし私たちはA社支援を通じ、実はその前段にある「誰に教えるか(Who)」こそが最重要だと痛感しました。変革を起こす推進者を誤って選べば、どんな優れた研修コンテンツや手法も徒労に終わります。


逆に適切な人材を選び出しさえすれば、多少不格好な施策でも自走的に成果を出してくれるのです。


KANAMEの独自アルゴリズムは、これまでに蓄積した延べ10万人超の人材データをもとに、各組織内の上位3〜5%程度の「要(カナメ)人材」を炙り出します。この「要人材」とは、一言で言えば「最優先で育成すべき自律型人材」です。


具体的な評価指標には、社員それぞれの「自律性」「内発的動機づけ」「変化耐性」などが含まれます。言い換えれば、環境変化に対して主体的・建設的に対処できる資質を定量的にスコアリングし、高い順にリストアップするのです。これは前述のラーニング・アジリティや内発的動機といった要素を組織内で可視化する試みと言えるでしょう。


実際、KANAME導入後にA社で浮かび上がった要人材は全社員の約4%にあたる20名弱でした。興味深かったのは、従来の人事評価で目立つスター社員だけでなく、これまで埋もれていた隠れた逸材が含まれていたことです。例えば製造現場のベテラン女性社員Dさんは、普段は寡黙で目立たない存在でしたが、KANAMEの自律性スコアでは社内トップクラスでした。後の面談で彼女の内発的動機を探ると、「日々の小さな改善を考えるのが好きで、自分なりに色々試している」と語り、実際に製造ラインで独自工夫を凝らしていたことが判明しました。Dさんのような人材こそ、変革の「火種」になり得るのです。


私たちはこの選抜された要人材グループに対し、従来とは異なるアプローチで研修・支援を行いました。ポイントは彼らを変革の核(コア)として位置付け、トップダウンの指示待ちではなく自律的なプロジェクト推進者に仕立てたことです。


具体的には、要人材たち自身に現場課題の抽出と解決プランの立案を担わせ、小さな成功体験を創出する「変革リーダー育成プログラム」を実施しました。従来型の一斉研修とは異なり、対象者を絞り込み、彼らに裁量とリソースを与えて実践の場を提供したのです。


このアプローチの背景には、「組織変革はまず変わりやすい人から」という考え方があります。当社が提唱する組織活性化アプローチでは、旧来のように全員一律に足並みを揃えるのではなく、変化に前向きな要人材に経営資源を優先投下し、そこから生まれる成功例を波及させることで組織全体を徐々に巻き込む戦略を取ります。


A社でも、Dさんたち要人材が先陣を切って現場改善プロジェクトを成功させた結果、その噂が社内に広まり、従来は懐疑的だった他の社員も「自分もやってみようか」という雰囲気が醸成されました。まさに「変革の文化」がウイルスの如く伝播していく感覚です。


さらに重要なのは、このプロセスを通じて人的資本KPI(重要業績評価指標)を設定・計測したことでした。マインド・リスキリングは曖昧で測りにくいと思われがちですが、KANAMEのスコアリングや定量指標を活用すれば数字で語れる人材マネジメントが可能になります。A社では例えば以下のような指標をモニタリングしました。

マインドリスキリング率:要人材に位置付けた人のうち、一定期間で明確な意識・行動変容を示した割合自律性スコア向上度:KANAMEスコアで自律性指標が向上した度合い(個人平均値の年次比較など)定着率(Retention):要人材グループの離職率(エンゲージメント向上により低下が期待される)創造的提案数:要人材から経営層への創造的な改善提案の件数(質と併せて評価)


実際、A社ではマインドリスキリング率(意識変容が見られた人材の割合)が初年度で60%を超え、要人材グループの離職者はゼロ、全社の改善提案件数も前年比で倍増するなど、成果が可視化される形で現れました。


これは経営層にとっても大きなインパクトでした。従来は研修の成果が不明瞭で「やって意味があるのか?」という声も出ていたのが、数値で前進が示されることで人的投資への納得感が生まれたのです。


以上のように、KANAMEを用いた自律人材の発掘と活性化アプローチは、A社の停滞打破において決定打となりました。それは「誰に注力すべきか」を見極め、「彼らを起点に組織を変える」という発想の転換でもありました。要人材たちは単なる研修受講者ではなく変革リーダー候補(次世代のリーダーシップ・パイプライン)として扱われ、彼らの成長がそのまま組織の進化につながる好循環が生まれたのです。
なぜ経営層がマインド・リスキリングに本気になるべきか
マインド・リスキリングは現場の改善にとどまらず、企業戦略の次元でも重要な意義を持ちます。経営層こそこのテーマに本気で向き合うべき理由を、いくつかの観点から整理します。


(1) 自律型人材は戦略実行力を高める無形資産である
自律的に考え行動できる人材は、変化の激しい経営環境下で真価を発揮します。トップダウンの指示待ちでは間に合わない状況でも、彼らは現場で機敏に判断し動いてくれるからです。これは企業にとって極めて貴重な無形資産と言えます。


事実、企業価値に占める無形資産の比重は年々高まっており、1975年にはS&P500企業の市場価値に占める無形資産比率は17%でしたが、50年足らずでそれが90%にまで跳ね上がりました。無形資産には特許やブランドも含まれますが、人材(人的資本)こそ知的価値創造の源泉であることは言うまでもありません。極端な例を挙げれば、ある先端テック企業の価値が一握りの天才的エンジニア(人材資本)の頭脳に支えられているように、人こそ価値の担い手なのです。


そんな中、投資家やステークホルダーの目線も変わりつつあります。近年は人的資本経営という言葉が注目され、企業が「人材をどう活用し価値創出しているか」を重視する機運が高まっています。J.P.モルガンのレポートでも「多くの投資家が企業の人的資本管理や社内文化に強い関心を寄せ始めている」と指摘されており、従業員エンゲージメントや離職率などが企業パフォーマンスの先行指標として注目されています。実際、従業員エンゲージメントが高く離職率の低い企業ほど業績が安定・向上する傾向があるとの調査もあり、人材のマインド面を整えることは株主価値にも直結する戦略投資になり得るのです。


(2) ISO 30414・人的資本開示時代の到来:見える競争力への転換
もう一つ見逃せないのが、人的資本の「見える化」を求める制度的圧力です。世界的にはEUが従業員500人超の企業に人的資本情報開示を義務付け始め、米国SEC(証券取引委員会)も上場企業に対し人的資本の開示強化を進めています。日本においても2023年3月期から人的資本の情報開示が上場企業に事実上義務化されました。さらにISO(国際標準化機構)は人的資本報告ガイドライン「ISO 30414」を2019年に策定し、企業が自主的に人材に関する指標を測定・報告する枠組みを提示しています。これらの動きの根底には、企業価値の源泉が人にある以上、それを適切に測定・開示しなければ投資判断もできない、という投資家側のニーズがあります。


では企業は何を示せばよいのでしょうか。財務諸表には載らない「見えない資産」である人的資本を、如何に「見える競争力」へ転換するかが問われています。従来、企業が人材を育成してもその費用は損益計上されて資産計上できず、他社から即戦力人材を採用すれば買収した人材の価値は暖簿上「のれん」として資産計上されるという会計上の不均衡がありました。そのため「自前で人材を育てるより、即戦力を外部から採用した方が財務上は有利」という歪んだインセンティブも指摘されています。


しかし持続的成長の観点では、採用ではなく社内人材の覚醒こそが真の価値創造です。言わば「採用ではなく、覚醒による獲得」を志向する発想への転換が、次世代の人的資本投資の鍵となります。


人的資本開示の文脈でも、前述のマインドリスキリングKPIは有用です。例えば自社のマインドリスキリング率や自律性スコアの推移、あるいはエンゲージメント指数やイノベーション提案件数といった指標を定め、公表する企業も今後増えていくでしょう。


そうした指標が向上している企業は、投資家に対して「当社は変化対応力ある人材基盤を持っている」というメッセージを発信できます。ISO 30414も、単なる数値開示に留まらず「人材ストーリーの可視化」を提唱しています。すなわち、自社の人的資本戦略と価値創出の関係性を語れる企業こそが、資本市場でも高く評価される時代が来ているのです。


(3) 次世代の人材戦略:「変化できる組織」への進化
最後に経営戦略的な視座から述べれば、マインド・リスキリングは企業を「変化できる組織」に進化させるための中核戦略です。イノベーションが求められるVUCAの時代において、5年後10年後の事業計画は不確実性に満ちています。固定的な職務記述書や従来型組織図に囚われていては、生き残りは困難でしょう。したがって経営陣は、将来どんな事業機会や脅威が訪れても自律的にチャンスを掴み、ピボット(方向転換)できる人材の集団を作っておかねばなりません。


これは単に研修計画を充実させれば良いという話ではありません。むしろ経営トップ自らが「人材OSのアップデート」を企業変革の柱に据え、リーダーシップを発揮する必要があります。GEのジャック・ウェルチがかつて「変化のスピードが会社の外部より遅ければ、終焉の時は近い」と語ったように、変化に適応できるマインドを備えた人材をどれだけ抱えているかが企業存続の死命を制します。自律人材の発掘・育成は単なる人事施策ではなく、経営戦略そのものとして位置付けるべきなのです。


幸い、A社の事例が示すように、一度社内に自律型人材の成功モデルが確立されると、その影響力は周囲に波及し組織全体が変わり始めます。自律人材は一人で成果を出すだけでなく、周囲を巻き込み牽引する力(自己影響力)も持ち合わせているため、リーダーシップ・パイプラインを内部から強化することにもつながります。これは中長期的に見て、外部採用に頼らず内部昇格で次世代リーダーを生み出せるということであり、経営の持続性・一貫性を高めます。


事実、A社ではKANAME要人材の中から後に幹部候補に抜擢される社員も現れました。経営層が本気でマインド・リスキリングに取り組めば、そのリターンは組織学習能力の向上やイノベーション創発力の強化となって現れるでしょう。
以上のように、マインド・リスキリングは単なる社員研修の話に留まりません。人材ポートフォリオの質を高め、人的資本という無形資産を強化し、企業全体の変化対応力を高める——まさに攻めの経営課題として、CEOをはじめ経営トップ自らがコミットすべきテーマなのです。
マインドから始まる未来の組織づくり
最後に、本稿の結論として強調したいのは、「変化できる組織」とは「変化を歓迎できるマインド」を持った人の集合体であるという当たり前の事実です。


どんなに先進的な戦略や技術を導入しても、それを扱う人々の心が変化を拒んでいては組織は進化しません。逆に言えば、社員一人ひとりが進化を楽しみ、学習し続けるマインドを持てば、組織はいかようにも姿を変え、新たな未来を切り拓いていけるのです。


いま企業に求められているのは、単に知識や技能を教える「学習機会」の提供ではなく、社員が自ら「進化」を起こせるような土壌づくりです。それは心理的安全性のある風土であり、挑戦が称賛され失敗から学べる文化であり、そして自律的な人材が正当に評価されリードできる仕組みと言えます。マインド・リスキリングはその土壌を耕し、組織のOSをアップデートする営みなのです。


AI時代に入った今、「人間にしかできないこと」とは何でしょうか。
それは一言で言えば「学び、考え、創造し、変化すること」でしょう。
これらは全て人間のマインドの働きです。だからこそ企業は、人材のマインドにこそもっと目を向け、大切に育てるべきです。スキルは後からついてきます。


意識が変われば行動が変わり、行動が変われば結果が変わる——このシンプルな真理を胸に、私たちはこれからの人材育成に臨まねばなりません。


“マインド・リスキリング”の時代はすぐそこまで来ています。自ら進化できる人材を社内から掘り起こし、彼らを起点に未来への航路を描く——その先にあるのは、どんな荒波にも対応できるしなやかで強い組織です。


変化を恐れず、変化を糧にできるマインドを持った人々が集う組織こそ、次代の選ばれる組織となるでしょう。今こそ経営者は、人への投資の新たなステージとしてマインドから始まる組織づくりに本気で踏み出すべき時ではないでしょうか。未来は常にマインドから生まれるのです。 

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