「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」のミッションのもと、リノベるでは、個人・法人・産業支援と3つの領域でリノベーションプラットフォームを構築し、「課題を価値に」変えるリノベーションを提供しています。
その一つが、法人向けの「CREリノベーションプラットフォーム」です。そこでは「まちの新しい価値になる」という事業ビジョンのもと、不動産の利活用を推進。事業企画、設計、施工、運営までワンストップでマネジメントする「都市創造事業」を展開しています。
2025年春、リノベるは、ゼネコンの奥村組と協業し、奥村組が所有する全国6棟の社宅を一括改修し、賃貸マンションとして再生・収益化しました。
※詳細:リノベる株式会社「奥村組はリノベると企業保有不動産(CRE)の利活用で協業」(2025/2/25)
また、そのうちの1棟である、兵庫県西宮にある、築48年の社宅については、積水化学工業を加えた3社協業により、一棟全戸をZEH(ゼッチ)水準化した賃貸マンションへ改修。4月から入居を開始しました。
※詳細:リノベる株式会社「奥村組、積水化学、リノベるの3社協業で 築48年の築古ストックを”一棟全戸ZEH水準化”」(2025/3/25)
今回の協業がどのように進み、CREリノベーションにどんな意義を生み出せたのか、本プロジェクトの中心となった、奥村組の丸山栄一氏と、リノベるの稲田拓朗、石塚侑也の3人に聞きました。
▲左から、リノベる稲田拓朗、奥村組丸山栄一氏、リノベる石塚侑也。奥村組オフィス前での一枚。
―今回の社宅6棟改修プロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか。
丸山(奥村組):
現在、奥村組では不動産開発事業の拡大のため、保有の土地・不動産の有効活用やストック活用を推進しています。その一環で、社内制度の見直しにより廃止された全国6棟の社宅の利活用を検討していました。
▲全国(神奈川県、埼玉県、大阪府、奈良県、兵庫県、広島県)で6棟が竣工。
丸山(奥村組):
有効活用の選択肢として「建て替え」「売却」「改修」がありましたが、「建て替え」は建築費の高騰により、解体して新築するとなると事業収支が厳しく、「売却」は投資効率の面で最も有効でありましたが、CRE戦略として資産価値の向上を図るべく、賃貸マンションへと転換し、収益化することに決めました。
奥村組としては、一棟単位でのリノベーション経験が少なかったことから、事業パートナーとして外部の専門家を募ることとし、10社程度に声をかけました。
▲株式会社奥村組 投資開発事業本部 不動産開発部 開発推進課 丸山栄一氏
―その中で事業パートナーとしてリノベるを選ばれた理由は?
丸山(奥村組):
決め手は3点あります。まず、事業性の検証から設計・施工、リーシング支援、運営マネジメントまで、収益化に向けた全工程を一元管理できること。次に、6棟の社宅が築年数やエリアの条件も異なる中で、同時期での一括の改修が可能だった点。そして、賃貸住宅としての稼働開始を繁忙期である2~3月に間に合わせる必要があり、スピード感が不可欠でした。これら3点すべてに前向きな姿勢を示してくれたのが、リノベるでした。
―リノベるが特に意識した点は何ですか?
稲田(リノベる):
6棟一括の同時改修は、私たちにとっても初めての経験でした。関東・関西の両本部が連携し、プロジェクト体制を構築して臨みました。設計・施工のパートナー企業も23社以上にのぼりました。これまで20棟超手がけてきた社宅の賃貸化実績の集大成ともいえる取り組みでした。限られた時間の中で、社内外のリソースを最大限に活用することで実現しました。
▲関東・関西も、企画・設計・施工チームも横断し、知恵と技術を集結させ取り組んだ。
稲田(リノベる):
また、提案の中で評価いただいた点の一つが、マスターリース※1による賃貸事業へのコミットです。私たちから数十社のサブリース会社に声をかけ、最終的に旭化成不動産レジデンスに決定しました。
事業主様の立場に立てば、工事費を抑えながら収益性も高めたい。そこをしっかり実現するためにも、旭化成不動産レジデンスとは、提案前段階から、設計のフェーズに入ってからも綿密なコミュニケーションを続けてきました。実際、マスターリースとPM・BM※2委託の2案を提案させていただきましたが、サブリーサー(旭化成不動産レジデンス)がリーシングまで担い、マスターリースの「保証賃料」がご満足いただける水準で、毎月の収益が安定する固定収支でご提案できたことが、大きなポイントだったと思います。
旭化成不動産レジデンスとは過去にも実績があり、リノベるのデザインや商品企画を評価いただいた保証賃料で査定頂けるため、事業主様の収益最大化に貢献できるパートナーと考えています。
※1 マスターリースとは:建物を一括で貸し出し、サブリース会社が入居者に再貸する方式。空室の有無にかかわらず、所有者に毎月固定額の家賃が支払われる。
※2 PM・BM委託:PM(Property Management)・BM(Building Management)委託。不動産管理会社に賃貸経営の管理業務と建物管理業務を委託することを指す。
▲本プロジェクトのスキーム。事業主は奥村組、事業企画・設計は奥村組とリノベるが共同で実施。設計監理・施工、サブリーサーマッチングをリノベるが担当。西宮大箇の物件についての温熱計算を含むZEH水準リノベーションの設計には積水化学が協力。
▲リノベる株式会社 都市創造本部 事業開発部 事業開発1課 課長 稲田拓朗
―プロジェクトにおける「リノベる」ならではの提案とは?
石塚(リノベる):
6棟といっても、築6年と浅いものから、いちばん古くて築48年と築年数もバラバラでした。そのため、一律に改修コストをかけるのではなく、物件ごとのコスト配分にメリハリをつけた提案を行いました。事業性を重視した柔軟な提案ができたのは、リノベるならではだと考えています。
▲リノベる株式会社 都市創造本部 都市創造1部 PM2課 課長 石塚侑也
石塚(リノベる):
また、リノベるのエンドユーザー向けのリノベーションサービスにて、7,000戸を超える実績の中で蓄積したデザインやテイストのノウハウも活用しました。リノベる独自のツール「sugata」を使い、170種類の中から物件に合うテイストをセレクト。マーケットの中でも差別化しやすく、ターゲットに刺さりやすい商品企画が提案できました。
デザインの事前決定により設計効率も向上し、スピード面でも効果がありました。その点でも今回の企画にマッチしていたと思います。
▲住戸の提案時のパース(上)と実際の住戸(下)。西宮大箇の物件では、リノベるのデザインツール「sugata」の中から人気の高いシンプルな北欧テイスト「mode」を採用。
―6棟のうち、西宮の1棟については全戸ZEH水準化しましたが、振り返ってどう感じていますか。
丸山(奥村組):
取り組んでよかったです。提案当初は、社内でも「コストをかけてまで行う効果があるのか」という声がありましたが、賃料の上昇や話題性にもつながりました。
―そのような声がある中で、なぜZEH水準化に?
丸山(奥村組):
やはり、近い将来にZEH性能は当たり前になると見ていましたし、脱炭素化を会社として推進しています。改修での1棟全戸ZEH水準化は全国的にもまだ珍しく、今回のプロジェクトの目玉にもなると思いました。
石塚(リノベる):
新築マンションやハウスメーカーのプロモーションでZEH化住宅を目にする機会は増えましたが、既存住宅や賃貸住宅では、まだマーケットとして確立されておらず、賃料や立地が選定基準になりがちです。そうした中で、ZEH水準化した西宮の物件が一定の入居率を得ているのは、ユーザーの関心が高まりつつある表れだと思います。
丸山(奥村組):
事業性を重視する立場からすると、専有部の内装・配管類をすべて解体・撤去するスケルトン工事は、常に前提とするものではありません。ただ、西宮は築48年と築古で無断熱、配管更新の必要もあったので、全住戸をスケルトン改修することでZEH水準化が可能になりました。
最近ではリート(不動産投資信託)や不動産ファンドが省エネ性能を評価項目の一つとして重視する傾向にあり、資産価値向上の面でも意味があったと感じています。ZEH化は今後も踏み込んでやっていくべき施策だと思っています。
▲「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO(オーシー レジデンス アール 西宮大箇)」は、バイオフィリックデザインでウェルビーイングな暮らしを提案する環境配慮型賃貸マンション。専有部のZEH水準化だけでなく、共用部のバリューアップや大規模修繕も行っている。
―入居者からの反応はいかがでしたか?
丸山(奥村組):
管理運営を担う旭化成不動産レジデンスによれば、リーシング好調とのことです。最も良い反響で言えば、奈良。築浅ではありましたが、交通の便があまりよくなくて、コンペ時も他の事業者様から奈良は苦戦するだろうと評価されていました。ところが実際にふたを開けてみると、20室が1か月半で満室に。内装のデザインの良さが後押しし、近隣の進学校に通うお子さんのいるファミリー需要を取り組むことができました。
また、西宮は、募集から概ね成約し、ZEH水準やデザイン性を評価いただき、20〜30代の新婚夫婦の入居が増えています。この世代は省エネ性能への関心も高いです。新築と並行して検討されていた方も多く、内装の比較をしても遜色ないと選んでくださったと聞いています。
石塚(リノベる):
今後は、旭化成不動産レジデンスと連携して、入居者からの声も収集したいですね。ZEH水準の性能をどう感じているか、住まい方や暮らしにどんな変化があるかなどをヒアリングすることで、設計に活かし商品性を高め、リーシング時のユーザー訴求にも役立てられるのではと思います。
-今回のプロジェクトを経て、今後のCRE活用への取り組みに変化はありましたか。
丸山(奥村組):
今回のプロジェクトで、CRE戦略のひとつとして具体的な実績ができました。既存改修における賃貸事業は初めてだったので、既存建物を活用した賃貸ブランドには、「OC RESIDENCE R(オーシー レジデンス アール)」という名前をつけました。今後、開発する新築は「OC RESIDENCE(オーシー レジデンス)」です。安心・安全を提供する奥村組のレジデンスとして、二本柱で今後も展開していきます。
不動産開発部を志望する26卒の学生の中にも、志望動機として、「こういう仕事がしたい」と話す方もいましたよ。
稲田(リノベる):
それは嬉しいお話ですね。このプロジェクトをきっかけに、旭化成不動産レジデンスと共に、奥村組が東京・綾瀬で社宅として区分所有している分譲住宅の改修、39戸にも取り組ませていただくことになりました。6棟一括という大規模プロジェクトの中で、一定の収支が見込め、事業化できたという実績を評価していただいたからだと思っています。
奥村組では、丸山さんが各所の意見を取りまとめ、社内調整を一手に引き受けてくださったことで、とても円滑にプロジェクトが進みました。
丸山(奥村組):
さまざまな意見はありましたが、みな協力的でした。やはり、やるべきことだという共通認識があったからでしょうね。
石塚(リノベる):
ゼネコンとして歴史と実績のある奥村組と協業できたことで、私たちの事業提案やリノベーションに対する自信にもつながりました。
技術的な視点からのアドバイスをいただきながら進められたことは非常にありがたく、メンバーにとっても大きな学びとなりました。こうした経験を得られたこと自体が、非常に貴重だったと思っています。
稲田(リノベる):
環境配慮は、今やどの企業にとっても重要なテーマです。今回、ZEH水準化を提案の選択肢として盛り込めたことで、私たちにとっても引き出しが増えました。
丸山(奥村組):
このプロジェクトは、企業保有不動産を活用して収益化するという不動産開発事業のモデルケースとなりました。企業価値向上のためにも、有効活用にこれからも取り組んでいきたいと思います。
▼企業不動産利活用の事例はこちら(リノベる 都市創造事業)