全世界で累計4.6億ダウンロードを超える大ヒットアプリに成長したモバイルペイントアプリ「ibisPaint(アイビスペイント)」を開発・運営する株式会社アイビスは、「モバイル無双で世界中に"ワォ!"を創り続ける」をミッションに、高度な技術力を元に挑戦を続けているベンチャー企業です。
株式会社アイビス代表取締役社長 神谷 栄治
このibisPaintを設計・開発したアイビスの創業者で代表取締役社長の神谷栄治が次なる挑戦として選んだのが、2023年10月16日にリリースしたクラウドストレージサービス「ibisStorage(アイビスストレージ)」です。
端末認証機能を持つゼロトラストセキュリティ対応のクラウドストレージサービスで、主に法人向けに高いセキュリティレベルの実現を提供しています。
ibisStorageでは承認された端末のみからアクセス可能
本ストーリーでは、ibisPaintとは異なる領域に挑戦する新たな製品開発の裏側をお届けします。
ibisPaintが軌道に乗るまで10年、そこからBtoB領域へ
ibisStorageの構想が動き出したのは、ibisPaintのリリースから10年が経った2021年のことです。コロナ禍によるStay Homeの影響もあり、ibisPaintは2020年頃から急速にユーザー数を伸ばし、利益率も大きく向上しました。2018年頃からは開発責任者を当時、モバイル事業部主任だった丸山(現・モバイル事業担当取締役)に引き継いでおり、ibisPaintの大きな成長に伴い「次の製品開発に本格的に取り組めるタイミングがきた」と判断した神谷は、会社のメインコンテンツで成長ドライバーでもあるibisPaintには引き続き注視しながらも、一定の距離を置いて全体を見渡すことができるようになりました。
その中で生まれた時間的・精神的な余白を活かし、次のチャレンジとして選んだのがBtoBの領域である法人向けのクラウドストレージの開発でした。
ibisPaintの技術をビジネスアプリへ
ibisPaintは、「スマートフォンに指一本で本格的なイラストが描ける」というニッチな市場に焦点を当て、数多くのクリエイターの皆さまにご支持いただいてきました。現在では、全世界で4,000万の月間アクティブユーザー(MAU)を擁するBtoC向けの大人気アプリに成長しています。
この成功体験をもとに、アイビスはBtoB市場への挑戦を始めました。
一方で、新製品開発には現実的なハードルもありました。ibisPaintはすでに多くのユーザーを抱え、売上の見通しも立てやすいプロダクトです。そのため、「エンジニアを1人追加すれば、これだけ収益が増える」という試算が可能でした。しかし、ibisStorageのような全く新しい製品で同じことはできません。
ソフトウェア開発にはスピードが求められますが、限られた人員のなかで、どこにどれだけのリソースを投下するかの判断は難しく、開発体制の構築には慎重な見極めが必要でした。チャレンジには先行投資が不可欠です。長期的な視点でマイナスを見越してでも、意志をもって踏み込むことが新製品開発には求められ、神谷自身がその見極めでチャンスを逃したこともありました。
40万フォルダ・400万ファイルに耐えるストレージ
ibisStorageは、単なるファイル置き場ではありません。日常的に膨大なファイルを扱う業務現場において、ストレスなく使える操作性こそが最も重要だと考えました。自社でのテスト運用では、実際に40万を超えるフォルダと400万件以上のファイルが格納され、クリック一つで次の階層へ進めるような軽快な動作を目指しました。
こうした仕様は一見シンプルに見えても、想定しているシステムは極めてヘビーです。特に法人向けの製品としては、誰がどのフォルダにアクセスできるか、編集権限があるかといったきめ細かなアクセスコントロールが求められます。可視・不可視の設定を含め、複雑な条件下でも0.1秒で画面が表示される。この水準をクリアしなければ、業務用途としては実用に耐えません。
表示速度や動作速度の向上には特にこだわり、社内テストからさらに3か月をかけ修正をおこないました。検索機能は初期段階で20秒を要していましたが、改良を重ねて5秒以内へと短縮。将来的には1秒以内のレスポンスを目指しています。このような“スピード感”へのこだわりは、モバイル端末という限られたリソースの中でサクサク動くということに尽力してきたibisPaintの開発経験に根差しています。
細かな権限の設定など複雑な条件下でもサクサク動く環境を実現
現在では大企業の業務においても快適に動作するレベルに到達しています。PCはもちろん、スマートフォン版のアプリでも同等のスピードを実現しており、「どんな環境でも快適に動く」ことにこだわり続け、今後もさらなる高速化とユーザビリティの向上を目指し、進化を止めることなく改善を続けてまいります。
後発だからこその課題と、パラダイムシフトに乗って切り拓く可能性
2023年のリリース時点で、クラウドストレージ市場はすでに多くのサービスがひしめく、いわば“群雄割拠”の領域でした。正直に言えば、ibisStorageの参入はその中でもかなり遅いタイミングで、結果として、最も大きな顧客獲得のチャンスを逃したと言えるかもしれません。
ibisPaintが先発として市場を切り拓けたのは、当時まだ一般的ではなかった「モバイル端末で画面に直接指でイラストを描く」というジャンルにいち早く着目し、技術的転換の波に乗れたからです。では、ibisStorageはどうやってこの差を埋めていくのか。
その答えは、同じく“技術の転換点に乗る”という発想にあります。ibisStorageは後から機能を積み重ねることのできる基盤、つまり「拡張柔軟性」を強く意識して設計しました。すでに高いパフォーマンスと柔軟な設計を備えた土台ができているからこそ、ユーザーが求める機能をすばやく実装し、プロダクトの方向性を柔軟に調整することが可能になっています。
実際に導入いただいた企業の方からは、「ときどき操作に迷う」「必要な情報が見つけづらい」といった声や、「ブラウザ以外の操作環境も欲しい」「共同編集をもっと管理しやすくしてほしい」といったご要望もいただいています。
そうした声に一つひとつ向き合いながら、ibisStorageは着実に機能を拡張しています。クラウドストレージとしての基本機能の完成までに約3年を要しましたが、その後に実装した電子帳簿保存法対応機能は、3〜4か月で開発できるなど、より良いプロダクトへのアップデートを続けています。
2024年5月13日に実装した「AI-OCR自動認識」 使用イメージ
ビジネスに特化したAIツール群でビジネスソフトの新ブランド確立を目指す
まだ大きな成果としてお伝えできることは多くありませんが、ibisStorageはすでに次のステージに向けた準備を進めています。現在開発中の新機能も構想から4か月ほどで形になりました。これは、3年かけて構築した基盤があるからこそ可能になったスピードです。現在も、顧客ごとのニーズを見極めながら、最適な機能を素早く組み上げていく“プロダクトマーケットフィット”のフェーズにあります。そこには、大きな変化の可能性と、技術的なチャレンジの面白さが詰まっています。
今後は、ibisStorageをクラウドストレージの枠にとどまらない、ビジネス現場で求められるAI機能を柔軟かつスピーディーに搭載していくツール群へと進化させていきたいと考えています。最終的には、ibisStorageを基盤とした新たな企業向け製品グループを立ち上げ、ブランドとして確立することが目標です。その構想のもと、神谷自身が設計にも深く関わってきました。今後もその姿勢を貫きながら、ibisStorageはさらなる進化を目指していきます。
ホームページ黎明期からAI時代まで、時代とともに進化するアイビス
神谷自身が大学時代にインターネット黎明期に「小次郎」という日本製初のホームページ公開専用FTPソフトを公開しプチヒットを生んだように、アイビスではこれまで時代の変化を捉えてチャンスを掴むための挑戦を続けてきました。スマートフォンの普及とともにibisPaint、そして現在では法人業務のデジタル化とAIの波に取り組んでいます。AIは技術革新を超えて、社会全体のあり方を変えるような大きなパラダイムシフトです。そうした節目をチャンスに事業を成長させてきた私たちにとって、見逃すことのできない機会だと考えています。
ibisPaintでユーザーの“描いてみたい”を支えてきた私たちは、これからの10年、ibisStorageを通じて働く人たちを支える存在を目指します。この時代の変わり目に新たに挑戦を続け、テクノロジーの力で現場を後押しすることが、次の私たちの使命だと感じています。