能登半島・国道249号の災害復旧に先端技術で挑む - 令和6年能登半島地震 国道249号啓開作業その3

2025.03.04 09:00
日本海の荒波がつくり出した奇岩「窓岩」が崩落した曽々木海岸。地震により海底が隆起し、複数箇所で土砂崩れを起こしているため、国道249号では道路を海側にう回する形で、仮道路を通す啓開工事が進む(地図内①:国道249号啓開)


2024年元旦に発生した令和6年能登半島地震から、およそ1年がたった。最大震度7を計測したこの自然災害は、地割れや土砂崩れ、建物の倒壊、津波などの甚大な被害を及ぼし、石川県能登半島の風景や暮らしを一変させた。


大林組は発生直後に社員を被災地に派遣し、大林道路、宮本組と道路啓開(※1)を実施。応援要員も加わり、昼夜を問わず緊急作業に当たった。復旧工事が軌道に乗りつつある最中、豪雨災害という追い打ちに見舞われながらも、能登半島の各地で安全かつ着実に道路や河川などの復旧工事を進めた。それを支えてきたのは、さまざまな技術の導入と活用、状況に応じた工夫、そして何より大きかったのは、地域住民たちの後押しだった。


※1 道路啓開
緊急車両の通行のために最低限のがれき処理、段差修正などを行い、救援ルートを開けること
【大林組が担当する主な工事箇所】
(2024年12月現在)
令和6年(2024年)奥能登豪雨で被災した尊利地川と南志見川で大型の土のうの設置や流木を撤去(地図内②:河川対応)
令和6年(2024年)奥能登豪雨で被災した市道の啓開作業を実施した(地図内③:珠洲市啓開)
地震直後の国道249号。大規模な斜面崩落で、能登半島を一周する国道249号の各所が通行不能に(地図内④:地すべり緊急復旧)
大林組は2024年1月4日から道路啓開作業に出動。崩落の現状を把握し工事に着手するまでに時間を要した(地図内④:地すべり緊急復旧)
地震発生直後に被災地に入った大林組
1月6日、能登半島で見たのは
なんてすさまじい現場だろう──。地震の発生に伴い、石川県へ向かってほしいと本社から要請を受けたのは1月5日のこと。翌6日、被災地入りした所長の西中は、その目に飛び込む被災地のダメージの大きさに圧倒された。


能登半島を一周する重要な交通インフラ「国道249号」は、特に輪島市〜珠洲市間の土砂崩落や道路の陥没、隆起が激しく、長く通行止めが続いた場所だ。道路をう回する形で仮の道路を通す啓開工事のほか、能越道、のと里山海道、市道741 号、点在するため池の応急対策など、大林組がこの1年で関わった工事は広範囲にわたる。


被災直後の迅速な被災地入りを含めて臨機応変な動きの背景には、大林組がこれまでに蓄積してきた災害復旧工事の知見がある。今回の工事においても、安全性を維持しつつ効率的な工事を進めるためのさまざまな工夫が凝らされている。「発注者である国土交通省とコミュニケーションを取りながら、新技術導入を積極的に行っています」と西中は説明する。
大林組能登半島災害復旧工事事務所 所長 兼 奥能登災害復旧工事事務所 工事長 西中淳一
遠隔操縦技術を導入して安全かつ迅速に進める
啓開工事に複数の先端技術を適用
大林組が活用する先端技術のイメージイラスト。一日も早い復旧を目指すため、適用できる技術がないか検討して適用を進め、生産性を向上。地震への対策としては、初期微動(P波)を感知してアラートで知らせる、地震感知装置を設置した


先端技術を災害復旧の現場にどうフィットさせていくか、現場だけでなく、本社の支援部門と密に連携しながら導入を進めていった。2024年9月、自動充電ポート付きドローンを常設し、現場状況を日々デジタルツイン化する取り組みを開始。現場に設置したドローンは、毎日都内の
し、撮影した写真を低軌道衛星通信スターリンク経由でクラウドにアップロード。その写真から3次元モデルおよびパノラマ写真を生成することで、現場状況をデジタルツイン化する。


そして、地震の影響で地盤が緩い場所で工事を安全に進める上で、力を発揮したのが
だ。


一般的な建機に後付けすることで無人化施工を実現でき、二次災害のリスク回避につながる。導入の課題は「インフラが遮断されている中での最適な通信環境の構築でした」と職員の橋本は話す。オペレーターがリアルタイムに操縦できる通信環境があってこそ、サロゲートの機能が生きる。


遠隔操縦室から施工エリアまでの距離は約1km。映像を含む大容量データを送受信するため、今回は2種類の無線機器を組み合わせた。長距離に適した無線機器を中継地点に設置し、建機には移動体に適した無線機器を導入。電源供給の課題は、ソーラーパネルを用いることで解決した。橋本は「大林組の東日本ロボティクスセンター(埼玉)、西日本ロボティクスセンター(大阪)のサポートもあって無事に導入することができました」と話す。
大林組奥能登災害復旧工事事務所 職員 橋本貴斗
大規模な崩落・隆起も起こる海岸での道路工事には危険が伴うため、汎用遠隔操縦装置サロゲートを活用した無人化施工を実施した
サロゲートは建設機械を改造することなく、装置内のガイドレールの着脱のみで、搭乗操縦と遠隔操縦を切り替えることができる
工期短縮のアイデアを振り絞って
「東日本大震災の後の福島での復旧・復興工事の経験を生かしたいと考え、被災地入りしました」と語るのは工事長の貞野だ。


福島では、土の性質上導入できなかった盛り土の品質管理システム
を、試験施工などを重ねて本現場での導入を現場で推進した。従来、盛り土の締め固め管理には、砂置換やRI法(ガンマ線と中性子線を地盤に照射し、地盤の乾燥密度や含水量を計測する方法)などの現場密度試験により品質確認を行うため、多大な労力と時間がかかる。AtlasXは、複数のIoT機器によって自動計測し、リアルタイムにデータを確認・取得できるシステムだ。
大林組奥能登災害復旧工事事務所 工事長 貞野祐司
AtlasX( 土工事・舗装工事の品質管理システム)を活用。多点計測により施工エリア全面の品質を確認でき、人の目では気付かないような脆弱部を発見できる


貞野は「工期短縮のため、本社の土木部門とAtlasXの導入を進めました。本社担当者も頻繁に現場まで足を運びました」と、大林組のワンチームでのバックアップ体制を強調した。


新技術の活用と併せて、現場での柔軟な対応も欠かせない。被災地では一刻も早く道路を開通させて復興を加速させたいと願う声が日増しに高まっていくばかり。とにかく工事を前進させること、工期短縮のアイデアを積み上げていった。アイデアの一つが、運搬距離を短縮し、盛り土量を減らすこと。「当初は指定された土取り場の1カ所でしたが、盛り土場近くの土取り場も利用して運搬距離を短縮。さらに、舗装の計画高さを下げて盛り土量を減らし、効率化を図りました」と貞野は説明する。
地域とも"ワンチーム"で復興のスピードを上げる
近隣住民の協力で環境改善へ
「着任当初は電気も水も止まっていて寝泊まりする場所もありませんでした。2週間はキャンピングカーの中で寝袋を使って寝る日々でした」と西中は振り返る。


厳しい生活環境が改善されるきっかけになったのは偶然の出会いだった。復旧工事の指揮を執るために被災地入りしていた大林組北陸支店土木工事部 部長の佐々木は、宿舎を探す中で輪島市の民宿・横岩屋の女将さんと出会ったという。女将さんの大阪に住む弟が仕事上関わりのあった大林組に良い印象を持っていたこと、一日も早い被災地の復興を意気込む大林組への共感から、宿舎として貸してもらえることになった。


西中は「女将さんは事務職員が足りないと言えば探してくださり、現場事務所の土地の手配も手伝ってくださいました。さらに、それまでは食事は金沢から運んでいた弁当だったのですが、近隣のレストランを紹介してくださいました。9月からは温かいおいしい食事が毎日取れ、食事のありがたさを改めて実感しました」と語る。


地域の協力に対してお返しをしたいと、大林組社員も奮闘した。例えば2024年9月、能登半島では「令和6年(2024年)奥能登豪雨」が発生。8月時点で完了していた河川応急工事も、大量の土砂や漂流物の撤去を余儀なくされ振り出しに戻るなど、自然災害の脅威が再びこの地を襲った。その際には、避難所に低軌道衛星通信スターリンクによるWi-Fi環境を整備し、通信インフラ確保を支援。また、停電によってガソリンスタンドで給油できなくなったと聞けば給油機械に発電機での通電を試みたこともあった。
当初は仮設ハウスやオフィスカーを事務所や宿舎、休憩所として利用して工事を進めた
横岩屋で食卓を囲む大林組社員
提供:朝日新聞社 令和6年(2024年)奥能登豪雨の発生翌日に現場に向かう大林組社員
災害復旧工事は大林組の使命
啓開工事は2024年12月に交通解放、2025年3月の完了を予定している。その先には本復旧工事入札が予定されるが「被災地の皆さんのためにもぜひ携わりたい」と西中は話す。更地が増え、人もいなくなって、1年前には誰も予想できなった風景に変わってしまった被災地。西中は「自然の力にはあらがえないことを痛感した以上に、それでもインフラを造っていく、生活を取り戻していく、その気持ちの方が強いんです。大林組の使命は"つくる"ですから、これからも必要とされる会社であり続けたい」と決意を語る。


橋本は、発災後、水・電気が止まっていた横岩屋さんで、機電職としての知識を発揮し、皆がお風呂に入れるようにした。「社員だけでなく、近隣の方々にも利用してもらい、感謝の言葉をたくさん掛けていただきました。普段の業務の中では経験できないことですし、大林組に入社した意味や自分ができること、主体的に動くことの大切さなどさまざまなことを感じた一年でした」と、内面的な変化についても触れる。


一人ひとりがこの現場で得たものは、いつかまた新たな場所で、形で、大林組の原動力となっていくに違いない。
大林組-プロジェクト最前線
「能登半島・国道249号の災害復旧に先端技術で挑む」
工事概要
名称 令和6年能登半島地震 国道249号啓開作業その3
場所 石川県輪島市
発注 国土交通省北陸地方整備局
概要 盛り土(切土)10万m³、路盤工1万2,600m²、舗装工1万2,600m²、
   法面工(吹付)2万2,000m³、法面工(法枠)3,000m²
工期 2024年2月7日~2025年3月31日
施工 大林組


※2024年11月に取材実施。情報は当時のもの

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