AIが社会に与える影響と人財育成 AKKODiSコンサルティング×NTTデータ

2025.02.13 11:00
加速度的な発展を遂げているIT市場において、AI技術の活用は欠かせなくなりました。急激な社会の変化を捉え、最新技術に適応し、市場に対して新しい価値を生み出す人財をどう育てていくのか。株式会社NTTデータ 冨安寛 氏と、AKKODiSコンサルティング株式会社 伊佐俊紀が語り合いました。
「AIの現状と社会にもたらす影響」
冨安寛 氏[以下、冨安]:2022年にChatGPTがサービス展開されたことは、社会に非常に大きなインパクトを与えました。専門知識を必要とせず、誰でも気軽に使えるChatGPTの登場は、一般ユーザーのAI利用を急速に拡大させました。まさに全ての人がAIを使える時代になったと感じています。AKKODiSさまも日常業務においてChatGPTを活用されていますか?


伊佐俊紀[以下、伊佐]はい。ChatGPTも使っていますし、弊社では
しています。


冨安:ITリテラシーの有無を問わず、全ての従業員が使われているのでしょうか?


伊佐:社内調査から、75%の社員が何らかの形でCopilotを活用して自身の業務を効率化していることが分かっています。


冨安:日常的に使われているのですね。伊佐さん自身は具体的にどのような使い方をされていますか?


伊佐:一般的な検索や要約はもちろんのこと、SharePointやTeamsと連携させることで検索性をさらに高めています。私は埼玉大学の理工学研究科の教授も務めているのですが、学会や講演会などのプレゼン資料を作成する際にもCopilotが大いに役立っています。プロンプトを入力するだけでドラフトが完成するので、非常に便利ですね。


冨安:リテラシーのある伊佐さんだからそのレベルに到達されているのだと思いますが、社員の方々も同じくらい使いこなされているのでしょうか?


伊佐:弊社のマーケティング部は、競合他社情報を毎月レポートしているのですが、最近は全てCopilotを用いて作成していると聞いています。当然ながら内容の整合性は人間がチェックしなければいけませんが、全体的な生産性は相当上がってきていると感じます。


冨安:一方で、AIは自然言語で誰もが使える反面、個人レベルでの利用にとどまっているという話を複数のお客さまからうかがっています。


伊佐:確かに、一般ユーザーがAIを使って生産性を上げる話と、開発者がシステムの部分にAIを使って開発効率を上げる話は、色が違いますよね。我々も、Copilotを使ってユーザー視点でAIのリテラシーを高める話と、Microsoft Copilot Studio的な発想でいかに開発効率を上げていく話は別物と捉えています。


冨安:先程も出てきましたが、AIがこれだけ浸透してくると、情報の信頼性という懸念点が出てきますよね。誤情報の出力、機密情報や個人情報の流出、著作権侵害といったAI生成物によるリスクを考えておく必要があるかと…。


伊佐:調べてみると、過去にChatGPTを法的調査に利用して問題になったアメリカの事例がありました。とある乗客が飛行機内の配膳カートが膝にあたって負傷したとして航空会社を訴えたのですが、その際に弁護士がChatGPTで出力した存在しない架空の判例をそのまま引用した資料を裁判所に提出したとのこと。どうやら過去の判例が虚偽である可能性に気づいていなかったようなのです。


冨安:ハルシネーションですね。やはりAIガバナンス観点の検討は必要不可欠だと思います。


伊佐:そこで弊社がCopilotのライセンスを配布する際に行ったのが、社内におけるガバナンスのルールと規制の確立です。CopilotだけでなくMicrosoft Power Platform(以下、MSPP)も導入しているので、Copilotにどこのシステムのどのデータまで読ませるのか、誰にどこまでアクセス権を持たせるのかを決めるのは、かなり大変な作業でした。
「AI時代のビジネス戦略」
伊佐:2024年10月、NTTデータさまが発表されたSmartAgent™に基づく新たな生成AIサービスは、いわゆるエージェント型のAIでしょうか?


冨安:概念としてはそうですね。複数のAIエージェントが自律的に連携して、利用者の業務をサポートすることで、業務プロセス全体の抜本的な改善を目指すものです。ChatGPTなどの生成AIに弁護士、あるいは会計士という役割を設定して、問題を投げると、具体的な指示を与えなくても業務を実行してくれるようなイメージです。SmartAgent™のサービス第一弾として、営業領域における各種業務を自律的に支援・代行する「LITRON® Sales」の提供を開始しました。


伊佐:それはエージェンティックAIがさまざまな特化型のAIを使うハブになっているイメージでしょうか?


冨安:オーガナイズするためのAIは必要になってきますね。


伊佐:なるほど、ますます可能性は広がりそうですね。中国のFESCO Adeccoでは、人間レベルの問題解決能力を備えたエージェンティックAIに近いものが組み込まれていると聞きました。例えば、AIに「有給休暇の残日数」を聞くと「20日」と答えてくれる。さらに「今月中に有給休暇を2日取得したい」とオーダーすると、「全ての仕事のワークフローを整えてくれる」というように、AIエージェント同士が協力・交渉して、より複雑な業務を行うマルチエージェント型が通常業務で使われているようです。


冨安:かなり進んでいますね。しかし、ファウンデーションモデルの構築は、終わりのない競争になってしまうので、我々NTTデータとしては、ChatGPTそのものを超えるものをつくり上げるのではなく、今ある特化型AIエージェントをどう組み合わせれば最適なのかを検討しようと考えています。


伊佐:SmartAgent™によって生産性はどのくらい上がるのでしょうか?


冨安:弊社の試算ですが、営業職においては、顧客に対する業務を2.5倍にまで拡大することができると見込んでいます。先程お話した「LITRON® Sales」は、既に金融業界を中心に多数の問い合わせを受けています。今後も機能の拡充を図り、このサービスを業界横断であらゆる業務シーンに提供することを目指しています。
「AI時代に活躍する人財の育成」
冨安:AI時代に新たな価値を生み出せるのはどのような人財だとお考えですか?


伊佐:AIはあくまでも手段です。AIを使いこなすだけでなく、それをビジネスにどう適用すれば生産性が上がるのかを考えることが重要だと考えています。そのためには、業務のことはもちろん、ビジネス全体や産業のことを知っておかなければいけない。そういう人財が今後必要になってくると思っています。


冨安:単に新しいテクノロジーを使いこなすだけでなく、それによってどういう成果や収益を得るのかまでを考えられる。つまり、経営者的な考え方を持つ人財ということですよね。いわゆる全員経営の発想は、AI時代に限った話ではないように思います。そうした発想を持つ人財は、御社にはどのくらいいらっしゃいますか?


伊佐:現状は1割程度でしょうか。


冨安:そうした人財は、座学の研修プログラムを受ければ育つのか、それともティーチングによって育つのか、どちらだと思われますか?


伊佐:カギを握るのはロミンガーの法則ではないでしょうか。これは、人が成長する要素の1割は研修、2割は上司や先輩からの薫陶、7割は業務上の経験によるという考え方です。こう言うと、7割の経験にフォーカスされがちですが、実は1割の勉強の時間を確保することが、かなり重要なポイントだと思っています。


冨安:例えば、月に160時間働いたとして、その1割の16時間を自己研鑽のために割いているかということですよね。今日一番の感銘を受けました!


伊佐:とはいえ、日々の業務に追われるなかで、個人の努力だけでそれを実現するのは厳しいと思います。やはり、1割の時間は勉強に充てましょうと会社側が指針を出さなければ進まない話ですよね。


冨安:海外にもこの話は当てはまりますか?


伊佐:海外は人財の流動性が高く、雇用が保障されていないため、自己研鑽のマインドは日本よりも高いかもしれません。


冨安:確かに、「何も勉強していません」では、おそらく就職できないですよね。


伊佐:仰る通りです。


冨安:続いて、我々NTTデータグループが取り組んでいる人財育成についてお話したいと思います。現在、NTTデータグループは”Gen AI Driven Company”を目指して、労働集約型からAI駆動型ビジネスへの転換を図り、各種施策を実行しています。その一環として、全世界の社員およそ20万人を対象に、生成AIに関する大規模な人財育成フレームワークを整備しています。このフレームワークはWhitebelt、Yellowbelt、Greenbelt、Blackbeltと4段階のレベルに分かれており、各レベルに応じた明確な評価基準を設定しています。最初のステップであるWhitebelt(基礎的な生成AIリテラシー習得を目指すIBT研修)は既に実施済みです。次のステップとして、2026年度までにグローバル全体で3万人の実践的なAI人財を育成する目標を掲げています。


伊佐:弊社も社員のAIリテラシーを高めるために、Microsoftと連携してADKAR ®モデルを用いた研修プログラムを開発し、実行に移しているところです。ADKAR ®のAはAWARENESS(認知)、DはDESIRE(欲求)、KはKNOWLEDGE(知識)、AはABILITY(能力)、RはREINFORCEMENT(定着)を表しており、それぞれのプロセスにおいてゴールを定めています。


冨安:プログラムの内容について詳しくお聞かせください。


伊佐:全体としては、営業や経理、法務、マーケティングなども含めた一般社員向けのプログラムです。特定のトピックに関するセミナー形式による研修、生成AIやCopilotのスキルを身に付けたい方向けの実践的なトレーニング、リーダーや経営者向けのワークショップスタイルの研修など、職種や目的に応じたさまざまなプログラムを用意しています。


冨安:先程のお話によると、こうした研修プログラムは一過性ではなく、継続的に行われるということですよね?


伊佐:はい。企業文化として、学び続けることを当たり前にしていくのが重要だと考えています。そのためにも、AIを用いて生産性を高め、空いた時間を使って自己研鑽に励むという正のスパイラルを生み出すことを目指しています。


冨安:一方で、AIでどうやって収益化を図るのかという課題もあります。例えば、御社の社員が1日10回AI活用をされているとして、「1回に1,000円程度を自分で払いますか?」と問うと、「そこまでは払えない」という答えになる可能性もありますよね。いくら良いシステムでも、開発するのに何億円もかかるのでは、お客さまは「AIを導入しよう」とはなりません。


伊佐:そこが難しいところですよね。弊社では、お客さまにCopilotとMSPPをセットで活用していただくために、社内のDXを進めています。現在、営業のプロセスと人財と案件のマッチングの見直し、経営のダッシュボード的なツールの作成を進めています。そのために、営業のタスクを作業レベルで可視化したところ100個くらいのタスクに分解されました。同様に、お客さまにAI Transformationを提案する際も、タスクレベルで分解していき、この部分はRPAやMSPPで自動化できる、この部分はCopilotを使えば効率化できると説明した方が分かりやすいですよね。まずは、業務の棚卸しと可視化からスタートして、そのテンプレートを現場のテックコンサルタントに展開していき、将来的にはお客さまの業務効率化を支援していきたいと考えています。


冨安:既存の業務プロセスを全体的に見直して再構築する、要するにBPRですよね。とはいえ、AIを入れてもドラスティックに状況が変わらない場合もあります。そうなると、このままで良しとなるケースも出てきそうですよね。


伊佐:ですから、時間とコストをかけてBPRを継続的に行っていく領域と、クイックウィンとして短期間で成果を上げる領域とをしっかりと色分けすることが大事なのかなと思っています。
「共に目指す未来」
冨安:最後に、両社の今後の展望について語り合いたいと思います。


伊佐:やはり社会変化と関係してくると思います。人口減少による労働力不足は社会問題となっており、その解決に生成AIの活用は有効だと考えています。今後あらゆる領域でAIが浸透し、それによって我々人間の役割は大きく変化することが予想されます。例えば、これまで1から10まで人間が行っていた業務を、5割は人間、残りの5割はAIを使って行うというように。そのため、弊社でもマインドセットも含めたチェンジマネジメント的な手法で従業員への意識付けや教育を進めようとしています。


冨安:その方法としては二つあると思います。一つは、ワークフローを渡して個人の裁量に任せる方法です。マインドセットを持つ人は、自ら問題解決の糸口を見つけようとするはずです。もう一つは、AIと人間がやるべきことを棲み分けて、機械的に進めていく方法です。御社のマネジメントはどちらでしょうか?


伊佐:現状は後者寄りでしょうか。ただし、会社は万能の神ではないので、現場レベルでの創意工夫がなければ、新しい使い方やアイデアといった本当の意味でのイノベーションは生まれないという感覚を持っています。ですから個人の自由な裁量は大事にしていきたいと思っています。


冨安:ソフトウェア開発に焦点を絞ってお話すると、生成AIによってプログラミングが自動化されれば、人間ができることはこのくらいしかないのかって愕然とするかもしれません。プログラマは不要になり、テストができる人しか有用ではなくなる可能性があります。しかし、本当にそれで良いのかなと疑問に思います。箸の上げ下げまでAIに任せるのはどうかなと。もっと個人に裁量を与えて、色々なAIを自由に使ってもらって、最終的にはアウトプットで評価するのが、今の時代には合っているように感じます。


伊佐:仰る通りです。


冨安:人によって働き方が違うので、裁量を持ってどのAIを使うのかを考えることから始めたい人と、この部分だけやってあとはAIに任せたいという人もいますよね。働き方によって、給料の支払額は変わってくると思います。


伊佐:今の話を発展させると、AIを使う側になるのか、AIに指示される側になってしまうのかという話になりそうですね。もともとNTTデータさまは顧客ファーストで、お客さまのビジネスに入り込んで伴走されることに力を入れていらっしゃいますよね。ここ数年はそこをさらに強化されているように感じます。そうした人財が多いというのは、競合他社に比べてアドバンテージが高いと思います。


冨安:ありがとうございます。しかし、需給ギャップという課題も抱えています。AIを活用することで人手が要らなくなる一方で、技術系の人手はどんどん不足していく…スキルのミスマッチが浮き彫りになっています。人手が足りないなかで、八百屋を突然魚屋にするような話は、非常に難しいです。


伊佐:いわゆる先端的なAIを使いこなす人は不足していくことが指摘されていますよね。経済産業省の調査によると、先端IT人財は、2030年には最大80万人不足すると推計されています。ある程度それは事実と受け止めつつ、いかに市民開発をしていくのかが重要だと思っています。技術的な部分をAI がもっとやってくれるのであれば、業務を理解している人が専門的な時間を割かずにこなしていける。そこを目指してまず社内で実現しようとしています。そのノウハウをお客さまに提案することで、お客さまも内製化を進められる。需給ギャップを逆手にとるという考え方です。


冨安:市民開発の必要性は分かるのですが、AIを使っても結局時間給のような働き方では働き手のモチベーションは下がってしまいますよね。例えば、100時間分の成果物を、創意工夫によって50時間で仕上げた場合には、100時間分の給与を支払うといったように、アウトプット型で評価しなければ、人手不足は解消されないと思います。これは経営者側の課題ですね。


伊佐:だからこそ、AIに真似ができないスキルを持つ人の仕事は、今後どんどん増えていくものと予想されます。


冨安:そうした未来に備えて、AKKODiS社の研修をNTTデータでも活用していくことが考えられます。御社の研修は海外の最新コンテンツを組み込んでおり、非常に有益だと感じています。AKKODiSさまはコンテンツの更新、NTTデータは最新コンテンツによる人財育成の強化ができ、より良いコンテンツを両社で構築することで、お客さまに提供することもできるようになります。また、研修のみならず、NTTデータのお客さまに、AKKODiS社のサービスや人財を提案していくことも考えられます。両社が持つアセットを活用し、お客さまの課題解決に最適なソリューションを提供できるように協力していきたいと思っています。


伊佐:今後ともぜひよろしくお願いします。本日はありがとうございました。


冨安:こちらこそありがとうございました。


<関連情報>
AKKODiSコンサルティングが提供する、アカデミー(研修サービス・人材育成)
企業変革を支援するデジタルスキル標準に準拠した人財開発のカリキュラムを策定します。対面トレーニングやeラーニングを通じ、最先端技術からビジネス基礎まで幅広い研修メニューをご提供。顧客のニーズに応じた柔軟なカスタマイズも承ります。

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