テラスマイルは農作業の記録や作物の育成状況など、農業に関するあらゆるデータを活用し、それを「見える化」することで農業の生産性向上をサポートしています。
そんなテラスマイルが提供する、経営管理クラウドサービス「RightARM(ライトアーム)」を活用してくださっている方々との対談を通じて、農業現場の現状や、農業における経営課題がどのように解決されてきたかをお伝えする連載。
今回ご協力いただいたのは、長崎県南部の南島原市にある「ながさき南部生産組合」の代表理事の中村大介氏と髙木凪沙氏 。同組合はRightARMを利用した気象データ分析に関する勉強会を開き、農業現場の生産性向上に取り組もうとしています。この取り組みの背景や今後の展望について、テラスマイルCEO・生駒祐一とともに紹介します。
勘に頼った生産による生産量の「ブレ」解消のため、気象データの分析を開始
―テラスマイルとながさき南部生産組合の出会いのきっかけや、当時抱えていた課題について教えてください。
中村さま:ながさき南部生産組合は140名の組合員がおり、取引先との間で価格と販売数量を決めた「契約栽培」を主としています。2週間前に収穫量を予想し、取引先に量や価格を提案するのですが、これまでは勘に頼って生産していたため、生産量にブレが生じていました。そのため、予定より多く生産できた分は安く売らざるを得ず、逆に予定より生産量が少なくなった場合は取引先に迷惑をかけてしまうこともありました。
こうした生産のブレを何とか解決できないかと考えていたところ、長崎県庁を通じて紹介していただいたのがテラスマイルです。
―テラスマイルの提供する「RightARM」を本格導入する前に、まずRightARMを使って気象データの分析をする勉強会を開催されていると聞きました。その意図は何でしょうか。
中村さま:農作物の収穫量に一番大きな影響を与えるのは気象データのため、まずはその分析から行うのが良いと考えて実施しています。
データ活用に関しては、これまでにも他の企業にお声がけいただき、取り組もうと思ったことが何度かありました。ただ、データを取って提供しても、それを生かして生産効率を上げるような具体的な動きにまで発展することはありませんでした。そうした苦い経験もあり、今回はまず必要なデータの「勉強会」という形でスモールスタートさせることにしました。
データ分析で「最低気温が下がらない」ことへの対策を意識できるように
ーどれくらいのペースで勉強会を開催し、具体的に気象のどのようなことを学んでいるのでしょうか。
中村さま:勉強会は月に1回もしくは2か月に1回のペースで開催しています。加えて、本勉強会に参加するメンバーとテラスマイルさんのLINEグループを作り、週に1回農作物の開花データなどを共有しあい、気象データと照らし合わせることで、「今花が咲いた作物が、いつ頃実りそうか」といったことを見ています。
生駒:RightARMでどのようなことができるのかをご理解いただくとともに、農業経営においては、関係者とのつながりの構築や情報交換も重要だと感じています。そうした思いから、新たなシナジーが生まれるようなサポートを行っています。
ーこの勉強会に用いる現場のデータ収集を担当されているのは、新入社員の髙木さんだと伺いました。データを集めたり、勉強会を開催する上での苦労や工夫した点を教えてください。
髙木さま:データ活用の勉強会を開催するためには、ながさき南部生産組合内のデータを集める必要がありました。そのため、組合員の皆さんがデータを提供しやすいよう、フォーマットを作って依頼をするようにしています。初めは進行方法に悩み、不安もありましたが、メンバーの「何かあればいつでも相談して」といった声が支えになり、取り組みを続けることができたと感じています。
特に気象データは収穫量、ひいては生計に密接に関わるため、慎重に分析し、責任感を持って伝えるように心がけています。そのために、これまで行ってきた気象に関する情報収集や防災士の資格の取得にくわえ、気象予報サイトの比較なども行い知識を深めています。
勉強会では、気温の変化が農作物の成長に与える影響が実感できたという声が聞かれ、データ分析が新たな発見やこれまで意識していなかったことに気づくきっかけになっていると感じます。季節が秋から冬へ移る中、作物の成長スピードが変わることを実感し、データ活用の重要性を改めて感じています。
中村さま:髙木さんは週に1回のデータ収集に加えて、そのデータをきちんと全体に共有してくれています。そうすることで、皆さんも「きちんと協力して進めよう」と思ってくれていると感じますし、そのおかげで勉強会が続けられていると思いますね。
ー気象データの活用により、具体的にどのようなことがわかりましたか。
特に2024年は他の年に比べて最低気温が高かったことがわかった
中村さま:この10年の気象データをグラフで見える化したことで、あきらかに最低気温が上昇していることが見て取れました。
夜間に気温が下がらないということは、農作物が夜間もエネルギーを消費し続けてしまっていることを意味しています。それがわかったことで、農家の方々の危機感を醸成できたとともに、夜間に気温が下がらない中でどう育てるのか対策をしようという気持ちになれたのは大きかったです。
今年の夏の暑さは特に異常で、作物にも目に見えるダメージがあり、虫の大量発生により有機栽培を断念した農家も出たほどでした。こうした気象データの分析は引き続き行い、きちんと活かしていきたいです。
県や取引先も巻き込み、次世代が就農しやすく、きちんと儲かる農業を実現したい
ー勉強会には長崎県や取引先の方々も参加されているようですが、こうしたケースは珍しいと聞きます。県や取引先との連携について、どのようにお考えでしょうか。
中村さま:長崎県も農業イノベーション推進室を設置し、気象の変化への対策や農業のIT化自体は進めていますが、データ活用に関してはまだ手探り状態だと聞いています。長崎県の普及センターだけでなく、本庁の技術リーダーの方たちも巻き込み、南島原市役所からも参加して、こうしたデータ活用に関する情報を共有していくことで、県をあげて農業の課題を解決していくことにつなげられると感じています。
また、このような取り組み状況を取引先とも共有することで、作物の価格が予測できる可能性が高まります。そのため、将来的には「このタイミングで特売をしよう」といった具体的なお話が進めやすくなると期待しています。来年には、テラスマイルの予測技術を活用していく準備を、現在進めています。
ー次世代がより働きやすくなるようにデータ活用されていると聞きました。データを活用し、今後どのように取り組んでいきたいですか。
髙木さま:これからも勉強会を続け、農家の方々が「頑張って続けて良かった」と思えるような成果が出せるよう、プロジェクトメンバー全員で協力しながら、日々精進していきたいです。
1月にオープンしたながさき南部生産組合が経営する直売店
中村さま:気象のデータを活用し、将来的に収穫量の予測を行うことで、きちんと儲かる農業を実現していきたいです。ながさき南部生産組合は、環境にやさしい農業を目指して設立されており、有機栽培や農薬・肥料を通常の半分以下に抑えた特別栽培を行っています。その一方で、農家の自立を支援することも一つの目標です。有機栽培や特別栽培でさまざまなデータをきちんと活用していくことで、農業経営がさらに円滑化するよう取り組んでいきたいです。
また、ながさき南部生産組合で生産された野菜は、基本的に生協やモスバーガーなどのお取引先企業か、組合の直売店で販売されており、市場に流れるのは全体の2%ほどです。今後はさまざまなデータを活用して収穫量予測を行い、さらに直売店を増やして農家の手取りをしっかりと確保していきたいと考えています。その取り組みの一環として1月に直売店をオープンしたので、今後もさまざまな場所に出店していきたいです。
生駒:髙木さんのようなしっかりとした担当者が勉強会を運営されていることもあり、気象データに関する理解はかなり深まってきました。今後は農作物の生育調査や開花調査を行い、ながさき南部生産組合に入ってくる方々がきちんと稼げるための栽培指針の策定を行っていきます。その後販売データなど活用することで、翌年の収穫予測や販売予測を行い、取引先との特売を企画するなどの具体的な取り組みを実施していきたいです。
また、ながさき南部生産組合さんでは、国の支援を受けながら有機農業を推進する「オーガニックビレッジ」の取り組みも行っています。こうした取り組みの先進事例となれるよう、データ活用の面でしっかりとご支援していきたいです。