阪神・淡路大震災から30年。逡巡を経て伝えられたのは、類稀なる「美味しさ」と、繋がれてきた「人の意志」

2025.01.15 10:50
阪神・淡路大震災を乗り越えた
を販売する日本酒ブランド「SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)」は、2025年で震災から30年を迎えるにあたり、兵庫県と神戸市の震災30年事業に共感し、未来に繋いでいくための企画を年間通して実施しています(
)。そのひとつとして、2025年1月9日(木)に神戸市で、神戸大学の学生と震災にまつわるトークイベント『学生記者に学ぶ阪神・淡路大震災の今。次の世代に繋ぐための視点』を開催しました。


SAKE HUNDREDブランドオーナー生駒龍史をファシリテーターに、神戸大学の学生記者 奥田百合子氏と、『現外』とともに震災を経験した沢の鶴株式会社 取締役 製造部部長 西向賞雄氏が登壇しました。奥田氏は、神戸大学公認の学生報道団体・
の代表で、阪神・淡路大震災で亡くなられた神戸大生のご遺族へのインタビューを複数実施したり、震災当時の状況を伝える企画展を神戸大学キャンパス内で開催するなど、震災の記憶や教訓を学生へ伝える活動に取り組んでいます。


震災を経験した世代の西向氏、未来を担う世代である学生の奥田氏、そして『現外』の物語を通じて震災の記憶を伝える生駒。三者三様の視点から、震災からの30年と、それを未来へつなぐための取り組みについて語り合いました。その対話の様子をお伝えします。
(左)SAKE HUNDREDブランドオーナー 生駒、(中心)神戸大学学生 奥田氏、(右)沢の鶴 西向氏
教科書の中の情報になりつつある、30年前の阪神・淡路大震災
生駒:神戸大学のニュースネット委員会は、震災を機に設立されたとのことですが、30年たった今もなお、活動を続けている背景を教えてください。


奥田:阪神・淡路大震災では神戸大生も多く亡くなったのですが、それを知らない学生がたくさんいます。私も活動前は、小学生の頃に親から話を聞いた程度で、まるで教科書の1ページの出来事のような他人事に感じていました。ニュースネット委員会の活動の中で、亡くなられた学生のご遺族にインタビューをさせていただいたり、震災で壊れてしまった六甲道や、神戸の震災に関する展示を企画したりするなかで、少しずつ震災について知っていきました。以前の私のように、震災を知らない若い世代と、被災された方を繋いでいきたいと思い、活動を続けています。
生駒:灘五郷は日本を代表する銘醸地として神戸の名産の地でもありますが、震災当時の話を蔵の方から聞いたことはありますか?


奥田:ないです。今日は初めて伺えるということで、いろいろとお聞きできればと思っています。
頑丈だと思っていた木造蔵が全壊した灘五郷の酒蔵。意志が繋ぎ続けたバトン
西向:当時の酒蔵は、木造の建物が数多く残っていました。梁なども立派だったので頑丈だろうと思っていたのですが、沢の鶴に7棟あった木造蔵はすべて倒壊しました。エネルギーの凄さを感じましたね。鉄筋コンクリートの建物は無事でしたが、中の設備が被害を受けました。タンクも台座が崩れて傾き、水道の配管も損傷を受けていて、地域の配水が復旧されても蔵内部には届かない状態でした。当時私は入社してまだ5年目で、会社は大丈夫かな…という不安もありました。
生駒:震災が起こって蔵全体を復旧させることに精一杯な中で、後に『現外』となるお酒がどう誕生したのか、世に出るまでの経緯をお話いただけますか。


西向:『現外』は、酒母を造っている段階で被災しました。タンクは倒壊せずに無事でしたが、次の工程である醪を仕込んで搾るための電気がなく、そのまま置いておくことしかできませんでした。気温が低く劣化の心配が少ない時期ではありましたが、1ヶ月ほど手付かずの状態です。その間に商品化できるお酒から優先的に対応を進め、送電線など、少しずつ設備が復旧していきました。


通常、お酒の廃棄は税務署の管理により簡単にはできません。しかし地震による被害が理由であれば、廃棄の許可を得ることはできました。私も捨てるのかな...と思ったのですが、当時の部門長が“酒母のまま搾る”という判断をしたんです。1ヶ月も放置した酒母はどんな品質になっているのかもわからない状態です。酒母を搾るということすら、通常では行いません。しかし、もったいないという精神と、仲間が一生懸命造ってきたお酒を捨てるには忍びないという想いがあったんだと思います。実際に搾ってみると、非常に酸っぱく、商品化はできませんでした。その後も、品質チェックのため毎年試飲をするんですが、「酸っぱいね」とその繰り返し。どうやって世に出すか、答えは出ないままでした。
西向:20年ほど経った頃、酸味が少しまろやかになってきました。お酒には麹菌が造った酵母の成分が溶けていて、熟成期間が長くなることで澱が沈んでいきます。その変化による影響だと思います。澱と一緒に、もともとあった重さが沈んでいったんですね。ただ、どうやって世に出せばよいかの課題は残ったままでした。そこで、生駒さんに相談をしたんです。


生駒:震災の時は、被災したお酒を廃棄していいという流れがあったんですね。会社経営の視点からいうと、搾るコストと在庫を抱えるコストから、捨てるほうが楽だったかもしれません。それでも遺すと決断した沢の鶴に、僕は「人の意志」の強さを感じたんです。


『現外』をSAKE HUNDREDにラインナップしようと決めたとき、どういう風にこの魅力を伝えていくべきかと悩みました。最初は「天運をまとった奇跡のヴィンテージ」を強くメッセージしていました。地震が起きて全壊するような状態の中で倒壊をまぬがれた、天運のあるお酒。しかし、今の話を伺って、違うと思ったんです。天運があるのは事実ですが、廃棄しようと思えばできたし、試飲しても酸っぱい状態が毎年続く。諦めていいタイミングはいっぱいありました。それを、毎回どのタイミングでも「諦めない」という判断を下した沢の鶴の歴代の方々の意志が繋ぎ続けたバトンなんだなと、強く心が動かされました。お酒の可能性を捨てないという、熟成の研究を先進的にやられてきた沢の鶴だからこその意志だと感じたんです。
西向:沢の鶴での熟成酒の研究は、私の三世代前から取り組み始めました。江戸時代までは楽しまれていた熟成酒の文化をもう一度復活させたいと、熟成のために仕込み配合を変えて造ったお酒が、今では熟成50年を超えるまでになりました。


熟成酒についてはまだ解明されていない部分が多いですが、ひとつだけ原則があると思っています。それは、「造ったときにダメだったお酒は、いくら熟成させてもダメ」ということ。品質は荒っぽくても特徴がはっきりしていて欠点がないお酒は、熟成すると良くなります。


生駒:個性も特徴もないお酒を良くすることは、原則的にできないんですね。そう考えると、後に『現外』になるお酒にも、当初から可能性を見出していたんですね。
生駒:奥田さんは、震災にまつわる話を数多く聞いてきていると思いますが、『現外』の話を聞いてどう感じますか?


奥田:震災で街全体が崩れてしまい、電気もなく日常生活も真っ暗な中で、育てようと決めて『現外』が残っているんだと初めて知り、「形を残す・記録を残す」ということで私たちの活動と通じる部分がたくさんあると気づきました。30年は、ひとつの世代が変わってしまう年月だと思いますが、何らかの形で残していくことが重要だと感じます。
一端でもいい。当事者以外の者が震災を語り継いでいく重要性
生駒:先ほど、天運のあるお酒か、人の意志が繋いだお酒かで伝え方を迷ったという話をしましたが、もうひとつ悩んだことがあります。震災に関わる商品を高い価格で提供することにネガティブな気持ちを抱かれないか、ということです。


これをどう乗り越えたかというと「圧倒的な美味しさがある」ということだったんです。『現外』というお酒は、日本酒のプロフェッショナルとして素晴らしいものだと自信を持って言える、この無垢な想いが出発点でした。震災に関しては「当事者じゃないのに」と言われる可能性もありました。しかし、時間が経てば経つほど、当事者以外が伝えていかないとバトンは繋がっていきません。だからこそ僕は、『現外』が持つストーリーの中で震災の一端を伝えることで貢献できるものがあると、いろいろな逡巡を経て考えるようになりました。
生駒:震災を経験された西向さんから見て、当事者ではない人たちが震災を語ることや商品を販売することを、どう受け取られていますか?


西向:商品を販売することに関して、売り方の正解はわかりません。しかし、『現外』についてはSAKE HUNDREDに託すことができてありがたいと思っています。奥田さんは今日初めて『現外』を飲んで「こんなお酒があるんだ」というのが率直なところだと思います。『現外』も最終的には震災に繋がっていますが、まずは「美味しいね」から、お客様に楽しんでいただけることが一番だと思います。


奥田:『現外』は私が初めて飲んだ熟成酒でしたが、とても美味しかったです。『現外』を手に取った時、少し離れていても届いてくる香りが印象的でした。酸味は最初に少しだけ感じ、普段日本酒をあまり飲まない私でも「飲みやすいな」と思いました。甘い和菓子とペアリングでいただきましたが、とても相性がよかったです。
生駒:最後に、私たちそれぞれの世代と立場で活動をしていくなかで、次の未来に向けてどのような広がりをつくっていきたいと考えていますか。


奥田:私は今21歳で、震災を直接経験したわけではなく、被災された方や、大切な方が亡くなられた悲しみを100%理解できるかというと、そうではないと思います。30年というひとつの世代が変わるタイミングで取材させていただいたご遺族は、苦しい記憶を思い出したくない気持ちがありながらも、何か記録として残したいという葛藤があるように感じます。被災した学生がいる大学の学生記者として、被災された方々と、震災を知らない学生を結べるような、世代間の想いのバトンを繋いでいく活動がでればと思い頑張っています。


西向:『現外』はSAKE HUNDREDとの繋がりで世に出ることができましたが、日本酒の魅力はまだ気づかれていないことが多いです。2024年12月に日本酒はユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、これも契機として、価値あるものが身近にあると気づき、飲んでいただければと思います。想いを繋ぎ、自分達が持っている大切なものを再発見する商品をお届けすること、お客様の心が潤うお酒を造ることが、我々の仕事だと考えています。


生駒:SAKE HUNDREDは、震災を通じて生まれた『現外』というお酒があり、この美味しさの背景にあるストーリーによって、震災を伝える一部を担っていくことができます。震災のすべてを語る人は減っていくかもしれませんが、一端を話すことができる人が増えれば、いろいろな形で教訓や学びが広がっていきます。最初に抱えていた、当事者じゃないのに震災について語ってもいいのか、という葛藤は、30年の節目に関わるにあたり消化されていきました。震災のすべてを語ることはできませんが、一端をしっかりと担い、伝え続けていこうと思っています。
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熟成30年 ヴィンテージ日本酒『現外』先行予約販売を1月17日から開始
SAKE HUNDREDでは、阪神・淡路大震災を乗り越えた、30年ヴィンテージ日本酒『現外』の先行予約販売を1月17日から開始します。


30年前の1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災。7棟あった木造の蔵がすべて倒壊するほどの大きな被害を受けた兵庫県神戸市の酒蔵で、奇跡的に残ったタンクには「酒母」と呼ばれる、醸造途中の液体が入っていました。醸造設備の被災により次の工程に進むことが叶わず、やむなく酒母の段階で搾られ清酒となりますが、当時は香味のバランスが取れておらず、商品化はできませんでした。これが、後に『現外』となるお酒です。


熟成による味わいの変化に一縷の望みを託し、熟成庫で眠りにつくこと数十年。そのお酒には、造り手すら想像しなかった味わいがもたらされました。長い歳月によってもたらされたアンバー色の風格、複雑でいて芳醇な香り、甘味・旨味・酸味・苦味が一体となった凝縮感を充分に味わいながら、口づけから余韻が消えていくまで、透明感すら覚える上質な体験が続きます。『現外』は阪神・淡路大震災を乗り越え、震災以降の厳しい環境下でも日本酒の可能性を信じた「人間の意志」が宿った奇跡の一本です。
商品名:現外|GENGAI
製造者:沢の鶴(兵庫)
内容量:500ml
価格:¥286,000(税込)
先行予約販売期間:2025年1月17日(金)から4月7日(月)まで
通常販売開始日:2025年4月8日(火) ※会員限定で販売
商品発送予定時期:2025年4月8日(火)より順次発送
購入方法:ブランドサイトより販売

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