ユネスコエコパークに認定された自然首都・福島県只見町で、米焼酎「ねっか」を造る「ねっか奥会津蒸留所」。私たちは只見の豊かな自然の中で酒米を栽培し、米焼酎を造ることで、美しい田園風景を未来に残す取り組みを続けています。
これまで以上に只見の自然を守り、地域の雇用と資産を創り出すには、酒蔵として何をすべきか――。導き出した答えは、酒米を原料にしたウイスキー造りでした。
当連載「ねっか奥会津蒸留所のウイスキーものがたり」では、私たちがこれから新たに挑戦するウィスキー造りについて、ここ只見町に新たに蒸留所を建設する意味と、その取り組みの過程を全10回にわたってご紹介していく予定です。第一章となる今回は、米焼酎蔵がウィスキー造りをはじめる理由をお話したいと思います。
地域の田園風景を守り雇用を生み出したいという想いから、米焼酎「ねっか」が誕生。
福島県只見町は、ユネスコエコパークにも認定される自然首都であり、日本有数の特別豪雪地帯でもあります。夏は米やトマトなどの栽培が盛んな地域で、冬は積雪3mを超えるのでスキー・スノーボードや雪祭りで賑わいます。
そんな美しい日本の原風景が今もなお広がる只見で、「自分たちが育てたお米を使いながら、地域を守り、未来にバトンをつなげることはできないか」との思いから、2016年に米焼酎「ねっか」の蒸留をスタートしました。これが「ねっか奥会津蒸留所」の原点です。
米焼酎ねっかは、只見の気候風土を知り尽くした米農家(自社田を含む)が作る全量只見産の酒米と、全国トップレベルである福島県の醸造技術によって生み出されるお酒です。
もちろん味わいや品質には徹底的にこだわりますが、ねっか奥会津蒸留所の存在意義は「原料に酒米を使うことで、未来にこの美しい田園風景を守りつなげること」と「雪深く農作業のできない冬期に雇用を生み出すこと」であり、この価値観が揺らぐことはありません。
寒冷地にある米焼酎蔵が酒米でウイスキーを造る、6つの理由
私たちは、地域環境を守りながら雇用を生み出すことを目的に、米焼酎造りを続けてきました。これから始めるウイスキー造りも、ベースとなる価値観は変わりません。
ここからは「特別豪雪地帯にある米焼酎蔵が酒米でウイスキーを造る理由」についてお話していきたいと思います。
その1:収穫時期が早い酒米を育て、田園風景を守る
ご存じの通りウイスキーは麦を原料にしたお酒ですが、私たちは酒米を原料にライスウイスキーの製造を始めます。
只見で盛んに栽培されている飯米よりも収穫時期が早い酒米を活用することで、米農家の作業分散が可能に。より広い面積での作付けを実現することで、これまで以上に只見の田園風景を守っていくことができます。
その2:熟成によって資産価値が高まる
米焼酎造りをスタートさせて8年。新酒にはフレッシュなおいしさがありますが、やはり蒸留酒の面白さは熟成にあることに改めて気づかされました。
味わいのレベルアップも熟成の魅力ですが、ウイスキーは熟成させることで評価が高まり、資産価値が上がります。今から40年後、残念ながら私たち世代は40年熟成のウイスキーを飲むことはできないかもしれませんが、子どもや孫の世代には確かな資産として残すことができます。
その3:雇用の創出が、若者の定住につながる
ここ只見町にはコンビニも医療機関もなく、限界集落が増え続ける一方、圧倒的な自然環境に魅せられて移住を決める人もいます。故郷にウイスキー蒸留所があり、ウイスキーが地域の資産になれば、UターンやIターンの決め手にもなります。
これまでねっか奥会津蒸留所では、冬場の仕事がなく出稼ぎに出る若者に対して、地元で安定就労できる場を提供することで定住の促進を図ってきました。
この先、ウイスキー造りという新たな産業が生まれれば、そこには必ず雇用も生まれます。冬期雇用はもちろん、通年雇用を増やすことで、UターンやIターンを検討している若者の定住にもつなげていきたいと考えています。
その4:米焼酎ねっかを造る技術をウイスキー造りに応用
ウイスキー製造では連続式蒸留が一般的ですが、私たちは単式蒸留を採用します。
米焼酎ねっかは、日本酒醸造の技術を応用した造りが最大の特徴です。この日本酒造りにおける、世界最高のアルコール(もろみの段階で約16度)を出す技術をウイスキー造りにも応用。一般的にウイスキー製造では、二度蒸留しないとアルコール度数を高めることができません(仕込みで8度、初留で15度、再留で65度といったイメージ)。
しかし、私たちが造るライスウイスキーは、もろみの段階でアルコール度数を16度まで上げることができるので(日本酒の醸造技術により)、単式蒸留が可能になります。蒸留回数が1回なので、素材の風味を逃さないというメリットがあります。また、一般的なウイスキー製造よりも蒸留回数が少ないので、エネルギー消費の軽減にも貢献します。
その5:寒冷地で造るから、エネルギー消費を軽減できる
特別豪雪地帯の只見は雪解け水が豊富で、ブナ林から生まれる軟水を潤沢に確保することができます。スコットランドに軟水地帯が多いように、ウイスキー製造には軟水が向いていると言われています。
そんな地の利を生かしたウイスキー造りをしていく予定ですが、寒冷地である只見の冬期にウイスキー造りをする一番の理由は、蒸留における冷媒コストがかからないことです。効率よく蒸留することで、エネルギー消費の大幅な削減が可能に。さらに、私たちはステンレス製蒸留装置による減圧蒸留でウイスキーを造るので、常圧蒸留と比べてエネルギー消費は約1/3に軽減できます。
その6:発起人メンバーが無類のウイスキー好き
ねっか奥会津蒸留所は、4人の米農家と1人の醸造技術者によってスタートしました。
この発起人たちが無類のウイスキー好きで、「自分たちが育てた原料でウイスキーを造ってみたい」という夢を持ち続けていました。「好きこそ物の上手なれ」という諺もありますが、好きという純粋な気持ちがねっかの蒸留技術を高めていったのも事実。米焼酎造りで培った蒸留技術にさらに磨きをかけ、これからは「自分たちが育てた米でおいしいウイスキーを造る」という夢を実現させていきます。
私たちが、ライスウイスキーのスタンダードをつくっていく
私たちは、只見産の酒米を原料に使ったライスウイスキーを造ります。麹を使わずに酒米を糖化させる独自手法でアルコール発酵させたもろみを蒸留し、樽で熟成。というのが、ざっくりとした製造工程です。
つまり、私たちのウイスキー造りは、日本酒の醸造技術と焼酎の蒸留技術を融合させた酒造りであり、伝統的なウイスキーとの違いは原料が麦か米か、モルトか発芽玄米かの違いだけです。お米の国、日本が誇るライスウイスキーのスタンダードを、私たちが確立していきたいと思っています。
私たちのウイスキープロジェクトの現在地は、ウイスキー蒸留所の建設予定地が決まり、建築家による設計が始まったところです。ウイスキー蒸留所の完成や蒸留が始まるのはもう少し先になりますが、私たちのウイスキーものがたりは定期的にお話していきたいと思っています。
第二章は只見の自然環境とウイスキーの相関性をテーマに、2025年2月頃にSTORYを配信予定。どうぞご期待ください!
合同会社ねっか/ねっか奥会津蒸留所
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福島県南会津郡只見町大字梁取字沖998
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