【積水化学グループ】ウォーターPPPで加速する安心・安全なまちづくり 技術とサービスで自治体の強力なパートナーへ

2024.11.07 10:00
上下水道や工業用水は、都市機能や生活環境の維持に重要な役割を果たしている。生活に欠かせないインフラだ。しかし、その多くが老朽化に直面している。下水道については耐用年数の50年を超える下水道管が急増しており、無視できない社会課題になっているのだ。しかし、自治体は職員数が減少しており、対策の予算が十分に確保できない現状もある。


この状況を打破するため、注目されているのが「ウォーターPPP(Public-Private Partnership)」である。これは地方自治体と民間企業が協力して、上下水道や工業用水の維持管理・改築修繕計画の策定やその計画に基づく事業運営を行う新しい仕組みだ。安全で、そして安心できる生活環境の維持に大きな期待がかかる。環境・ライフラインカンパニーで下水道管路施設の管理・更新マネジメントに携わる4名に登場いただき、ウォーターPPPはどのようなメリットがあり、いかにして進められているのか、そして社会課題の解決にどのように寄与していくのかを探る。
インフラの課題を解決する「ウォーターPPP」とは何か
大雨が降っても道路が冠水せず、トイレや台所で使った水が安全に処理されるのは、すべて下水道のおかげである。私たちの生活は、この見えないインフラに支えられているのだ。日本のインフラ資産総額は993兆円に達し、その中で下水道は約101兆円を占めている。そして、その下水道の8割が管路施設で構成されている*。管路施設とは、下水を家庭やビルから処理場まで安全に運ぶための地下に埋設された管やトンネルのことだ。しかし、この下水インフラは現在、大きな課題に直面している。環境・ライフラインカンパニーの官需事業企画開発室で室長を務める田中俊介がその現状を解説する。


「他のインフラと同様に、下水道施設の老朽化が深刻です。下水道管路の耐用年数は約50年と言われていますが、今後、耐用年数を超えて使われる老朽管が急増するのです。老朽管は道路の陥没や、雨水の浸入による処理場への負担増、さらには悪臭や詰まりなどのトラブルが発生しやすくなります。私たちの生活に直接影響を与えるリスクが高まるのです」


*「日本の社会資本 2023」(内閣府政策統括官)
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 官需事業企画開発室 田中俊介室長


同グループで官公庁との折衝を担当してきた取越浩三は、この現状を次のように補足する。


「施設の老朽化は『モノ』の問題ですが、それを解決するための人手や資金も不足しているのが現状です。つまり、『ヒト』『カネ』も課題です。下水道の整備は1950年代に始まり、1990~2000年にピークを迎えましたが、当時と比べて自治体や公共団体の職員数は大幅に減少しています。さらに、下水道使用料の収入も減る中で多くの自治体は財政が厳しい状況にあります。インフラの整備に手が回りにくいのです」


こうした課題に対処するために、官と民が連携した解決策として注目を集めているのがウォーターPPPである。自治体と民間企業が協力して下水道の管理や保全を行う仕組みについて、田中が解説する。


「さまざまな課題を抱えるインフラにおいて、国は民間にできることはどんどん任せていこうという動きを進めています。これが官民連携のPPPです。2000年代に庁舎や学校、病院などの建物から始まり、2010年代からは土木分野でもこの流れが広がり、民間企業が管理や保全を担うようになっています。2023年6月には政府がPPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改訂版)を決定し、上下水道分野でウォーターPPPが創設され、官民連携をさらに強力に進める方針が打ち出されました」


ウォーターPPPはインフラの課題をどのように解決するのか。取越が強調したのは「人手不足へのソリューションになる」ということだ。


「民間に業務を任せることで、モノ・ヒト・カネの課題を解決するものです。国土交通省がまとめたウォーターPPPのガイドラインによると、維持管理と更新を一体的に行うマネジメントで、原則10年という長期契約のもと、民間企業が一括して取り組むことになります。私たちが受託した案件には、包括的に業務を発注したことで管路のリニューアルが従来より大幅にスピードアップし、市民に大きなメリットを還元できた事例がありました」
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 官需事業企画開発室 取越浩三部長
自治体を技術とサービスで支える強力なパートナーへ
積水化学は、2014年に大阪府河内長野市で開始したプロジェクトを皮切りに、自治体の下水道改築や更新を一括して手がけてきた。2018年から千葉県柏市で受託したプロジェクトでは、全国で初めて下水道管の更生を主な業務とし、問題が発生する前に対策を講じる「予防保全」を重視した新しい形態の民間委託に取り組んだ。以降も全国で順調に包括事業を受託し、2024年3月には、東京都武蔵野市が発注した下水道管理業務の契約を締結。これが同様のプロジェクトで6自治体目の受託事例になる。


メーカーである積水化学が、なぜウォーターPPPで強みを発揮できるのか。この問いに対して、田中は「多様な工法を手がける技術力」と「製品と技術を統合したワンストップのサービス力」を挙げる。


ウォーターPPPでは、工事費や維持管理費を契約時の見積もりより減らした分を官民で分配する「プロフィットシェア」の仕組みが要件化されている。また、業務全般の要求水準は原則として達成すべき性能のみが示され、仕様は基本的に民間に任せる「性能発注」が採用される。積水化学が独自に開発し、蓄積してきた技術が存分に発揮できる環境があるのだ。


「管路更生、つまり下水管を内面から補修する技術にはさまざまな工法がありますが、当社が開発し、優位性を保っているのがSPR工法です。これは管の内側に硬質塩化ビニール製の更生管をつくり、更生管と既設管を一体化するものです。道路を掘り起こす必要がなく、下水を通しながら施工できるため、交通規制などで住民に不便を強いることがありません。積水化学は多様な工法を開発し、豊富な製品ラインアップを持っています。これにより、それぞれの自治体に寄り添った提案ができるのです」


官需事業企画開発室がリードするプロジェクトは、計画・実施設計のエンジニアリングから管路更生の材料販売、さらに下水道管の調査・診断までをカバーしている。武蔵野市をはじめ、現地事務所に統括責任者を配置して業務全体をマネジメントする体制もある。「ワンストップのサービス力」について、技術担当の浅野雅則がさらに詳しく解説する。


「2022年には、従来のSPR工法をベースに中口径の管路更生技術『エキスパンドタイプ』を開発し、施工性をさらに向上させました。設計・施工から維持管理までワンストップで対応できるのが、私たち積水化学の強みです。


近年は、管路更生工法だけではなく調査・診断に関する技術も目覚ましく進化を遂げています。管路の状態を確認する技術は、カメラを使用した目視調査が規格化され、客観的な基準で管路の状態を評価できるようになりました。財政難に悩む自治体に向け、簡易的に調査するスクリーニング技術も注目されています。これにより、重大な問題箇所を優先的に対処するなどメリハリをつけた管路施設の予防保全が進められます。




また、AIによる映像解析の活用やビッグデータの分析による効率化も視野に入ってきています。これらのテクノロジーを現場に実装することで、私たちが新たな提案を行う機会も増えてくるでしょう。その先に目指すのは、より効率的で持続可能なインフラの管理です」
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 官需事業企画開発室 浅野雅則課長
ウォーターPPPが創出する、地域の連携と技術革新のかたち
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー 官需事業企画開発室 岩井浩典係長


武蔵野市でプロジェクトが好スタートを切ったことを受け、近隣の自治体でも発注の検討が進む。ウォーターPPPの都市型モデルの起点として期待が高まる。一方、北海道岩見沢市では、2015年から積水化学北海道が管路施設の維持管理を受託しており、2024年現在で第3期のプロジェクトが進む。積水化学北海道から出向し、ウォーターPPPに携わる岩井が、背景と期待を語る。


「ウォーターPPPは契約期間が原則10年と長期にわたるのも特徴です。短期契約では計画・実行・評価・改善のPDCAサイクルを機能させることが制約されますが、10年というスパンであれば、PDCAサイクルを回すことで人材や設備への投資を含む長期的視点でのマネジメントができるからです。


地方自治体との取り組みでは、地元業者との協力体制が大切だと感じます。北海道の厳冬期には土壌が凍結して隆起することで、マンホール付近に段差が生じることもあります。このような地域特有の課題を解決するため、私たちはメーカーとしてさまざまな提案を行い、地元企業と連携して自治体の悩みを解決してきました。この連携が、自治体のインフラ整備に大きなメリットをもたらし、住民にも還元されると信じて取り組んでいます」


政府は2022年度から2031年度の10年間で、下水道分野において100件のウォーターPPP導入を目標としているが、鍵になるのは2027年度だ。この年から、下水道管路の改築に国庫補助を受けるには、ウォーターPPPの導入が必須条件となる。この節目に向け、積水化学は導入準備を進める自治体と「あるべき姿」を模索しつつ、きめ細かく支援していく。


取越と岩井は自治体や地元業者との連携を強調し、浅野は製品と技術のさらなる向上に注力することで「ウォーターPPPの推進を支えていきたい」と語る。メンバーを統括する田中は「ウォーターPPPの加速こそ社会課題の解決につながる」と確信している。リーダーとして、市民生活の未来を支えるプロジェクトの進路を力強く語った。


「私たちの強みである管路更生技術を軸に、調査・診断などの優れた技術を取り入れ、ウォーターPPPを支えるプロジェクトの最適化を進めていきます。積水化学には、防災に訴求する災害用マンホールトイレや、水害の被害を抑える雨水貯留システムなど、管路更生以外にもさまざまなソリューションがあります。


自治体との協力体制を強化し、積水化学が提供するソリューションが各地で広く採用されることで、社会的な貢献も果たしていければと考えています。『常に、創造的で魅力的な提案を』――これが私たちチームの合言葉です」




【関連リンク】
エスロンタイムズ(積水化学のウォーターPPP・管路包括)
【SEKISUI|Connect with】
⼈々の暮らしの多様な分野で積⽔化学の製品・技術がどのように活かされているのか。
その開発にはどんな想いや物語があり、それは地球に暮らす⼈々や社会とどのようにつながっていくのか。
「SEKISUI|Connect with」は、積⽔化学とつながる未来創造メディアです。

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