長くマネキンを手掛けてきたアディスミューズが開発した、ダイバーシティを体現する「PICT / ピクト」。あらゆるユーザーへの配慮を実現した新商品の誕生秘話

2024.09.27 11:50
ファッション・アパレル業界において、衣服展示に欠かせないアイテムであるマネキン。アディスミューズはマネキン原型作家を国内有数の規模で抱え、50年の長きにわたって幅広くディスプレイ業界をリードしてきました。
昨今、店舗でのリアルな顧客体験が見直される中で「マネキンの価値を再び高めたい」との想いから、ジェンダーレスを意識した「FEIM / フェム」や、日本人の平均的な体型を表した「Comon / コモン」など、絶やすことなく時代に即した新作マネキンを発表し続けています。


マネキンの開発においては“創造性”と“実用性”の両立を基本ポリシーとし、新しい価値を市場に提案する企業であり続けるべく日々挑戦を重ねています。


今回は、“創造性”のアイコン的商品でもあるマネキン「PICT / ピクト」について、商品開発にいたる想いや、多様性・サステナビリティなどの社会的課題に向き合った背景を交えて紹介します。
「PICT / ピクト」
日常で見かけるピクトグラムがきっかけに。今求められている多様性をマネキンへ。
「前面背面どちらでも使えるマネキンはできないだろうか?」
2023年春、ひとりの原型作家のそんな思いから開発は始まります。
その発想のきっかけとなったのは、日常のあらゆる場面で目にする“ピクトグラム”でした。


当時の様子について、担当した原型作家はこのように振り返ります。


「以前から『前面背面どちらでも使えるマネキンはできないだろうか?』とずっと考えていました。通勤時に非常階段やエスカレーターのピクトグラムを見ていて、誰にでもわかる記号のようなデザイン要素を生かしたいと思いました。
マネキンは洋服を着せることでより良く商品を見せるものですが、ジェンダーレス、サステナブル、ユニバーサルデザインといった言葉が定着して使い方も変化してきました。
多様性が求められる今だからこそ「PICT/ピクト」シリーズの開発をしようと決めました。」
アパレル業界でも重要性の高まる社会的な課題。マネキン特有の難しさを乗り越える開発がスタート。
物を大切に扱うこと、差別のない社会を目指すこと…などの意識が高まっている昨今、アパレル業界においても「サステナビリティ」と「ダイバーシティ(多様性)」を重視した取り組みが進んでいます。このようなSDGsの流れに伴い、マネキンボディもまた、社会的な役割に対応することが重要であると考えました。


サステナビリティについては、今や企業や消費者レベルでの認識が広まり、身近な領域でも活発な活動がなされている一方で、ダイバーシティについては個々の背景が非常に多岐にわたるため、その定義やアプローチが難しい分野です。特に、人体を模した「マネキンボディ」のような領域では、一定の形状を設定せざるを得ないため、この取り組みを一層難しくしてしまいます。
これらの社会的な課題も踏まえ、ピクトグラムからヒントを得た「PICT / ピクト」の開発を本格的にスタートさせました。
通常、マネキンは衣服の魅力を最大限に引き立てるためスタイルが良いモデル体型で、年齢やポージングは使用シーンを想定し企画・制作されます。婦人マネキンは女性らしいしなやかさと優美さを強調し、紳士マネキンは男性的な力強さと構造美を追求しています。
マネキンを極限まで抽象化し、本来の役割を追求。「見る側」と「使う側」双方の多様性を実現するまで。
性別や年齢、スタイル、前面背面、すべてのカテゴライズを無くし、極限まで抽象化されたマネキンを目指して開発が進められました。
着る人やその背景をも想起させない、見る人にとっての不要なバイアスを取り払う形状。しかしながら、当然マネキン本来の役割である「衣服を綺麗に着こなす」「商品の魅力を引き立てる」という点は外せません。
「PICT / ピクト」制作時のエスキース


マネキン本来の役割である「着こなしの美しさ」「使いやすさ」を保持したままコンセプトを表現するという点においてはこれまでにない苦労がありました。


性別や年齢・スタイル・前後があって“当たり前”としてきた従来の固定概念を取り払いながらの制作は困難を極めます。
実現までの過程について、担当の原型作家はこのように話します。


「『PICT / ピクト』の制作は、従来の型にはまらない革新的なコンセプトに基づいて進められました。前後左右、性別に縛られないフォルムのバランスを実現するため、エスキースで何度も研究を重ねた上で本制作に取り掛かりました。
特異な形状であるがゆえの細かいプロポーションの調整や、『見る人』『使う人』に訴えかける美しさと使いやすさの追求など、盛り込みたい要素が多く『写真撮影→確認・修正』のプロセスを幾度となく繰り返し行いました。
この作業には多くの時間と労力がかかり、足が棒になるほど歩いて確認しました。」


検討から実現までには1年以上かかったものの、最終的には2024年5月に完成を迎えました。
多様性を表現しながらも、環境への配慮と軽量化を実現。ついに実現した「PICT / ピクト」のレンタル開始。
そうして「PICT/ピクト」は、ようやく製品化されリリースされました。
全身が抽象化されたデザインは着衣時に体型を表面化させず、衣服を見せることに特化した形状になりました。


サイズ展開は110cm、176cm、185cmの3種類に加え、脚をクロスさせた動きのあるタイプを含む全4種類をラインナップ。


また、一部の個体では通常使用されるFRP(ガラス繊維強化プラスチック)をBFRP(バサルト繊維強化プラスチック)に置き換えることで、製造エネルギーの削減や廃棄時の環境負荷軽減など、地球や人に優しい素材研究にも取り組んでいます。
肩や胴体の接合部材には、洋服を傷めないように軽いABS素材を採用するなど、部材にも細かい配慮を心がけました。特に肩と腰の部分は何度もフィッティングを行い、最適なサイズと形状を検証し決定しています。計算されたスリムな腕や脚は服や靴を簡単に装着できる設計で、売り場での扱いやすさを追求しました。
これらのボディ形状の再検討により、衣服を着用するために必要な最小限の造作に抑えたことで重量も大幅に軽減し、176cmタイプの場合、約4kgと通常のマネキンの約60%の重さを実現し、使用する原料の削減にも貢献しています。
また、軽量化により売り場での移動や設置が容易になり、利便性が大幅に向上しています。
各部材の形状は様々な使用シーンを想定し開発されました
リリース後大反響を得た「PICT / ピクト」。今後も原型作家の手作業により革新的な商品を開発していく。
さまざまな試行錯誤を経て開発された「PICT / ピクト」。
「多様性」「ジェンダーレス」などのコンセプトに共感いただいたお客様よりご使用いただいております。そして、担当した原型作家からは制作を終えての想いを聞くことができました。


「『PICT / ピクト』の企画〜制作においては、アパレル市場はもちろん、社内や業界的に受け入れられるか…?という不安もありつつ、これがウィンドウに並んだ時の面白さや期待感など、さまざまな感情が入り混じる中での作業になりました。
リリース後は有難いことに反響が多く、当初からターゲットとしていたデザイナーズブランド様や衣裳展示に採用していただき、大変喜ばしく一層の達成感を得ています。」


マネキン業界を牽引する存在として
「私はマネキンの原型作家として、伝統的な粘土を使った手作業による原型制作を最も大切にしています。
3D技術が進化している今でも、最終的に重要な部分は指先で触れながら確認し、手仕事で形を作ることが必要だと感じています。
1人の原型作家が1体の粘土原型を作り上げる技術は今や大変希少であり、自由自在に人の形を作ることができるその技術は、希望する形やサイズに応じて製作することが可能です。
今後開発していくマネキンに関しても『洋服を着せてみたくなるデザイン』見る方や使う方々の『イマジネーションを刺激する商品』を目指して、引き続き研究・製品化に取り組んでいきたいと考えています。
マネキンは単に洋服を引き立たせる黒子としての役割だけでなく、もっと多様な可能性を秘めた存在として使っていただけたら幸せです。」
私たちアディスミューズは国内有数の規模でマネキン原型作家を抱えており、伝統を受け継ぎながら新しい価値を市場に提案する企業であり続けるべく、常に時代のニーズに応じた創造的かつ実用的なマネキンを提供し、ファッション・アパレル業界の発展に貢献していきます。
アディスミューズのSDGsへの取り組みについて
アディスミューズは一度作ったモノを再利用し、廃棄物を減らすレンタル事業者として、サステナブルなビジネス環境の構築に貢献しています。
企業概要
私たちアディスミューズは、お客様の「商品・サービスをもっと知ってもらいたい」という想いをお手伝いし、総合ディスプレイ企業として「笑顔あふれる売場作り・会場作り」を追求しています。創業50年以来、長年培った経験と持てるアイディアの全てで、お客様の想いをワンストップで叶える企業、社会に寄り添える企業を目指します。


会社名:株式会社アディスミューズ
代表者:代表取締役社長 髙橋 拓也
設立:1978年 9月
資本金:9,750万円
住所:〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町 1-6-4 ミューズ日本橋ビル
TEL:03-3865-9322(代)URL:

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