「レースで勝てば市販車が売れるハズ」でル・マンに挑戦するもそうはうまくいかず! オランダの「スパイカーC8」が意地と根性の塊だった

2024.08.22 17:30
この記事をまとめると
■オランダにはスパイカーという個性的な自動車メーカーが存在
■2000年にスパイカーはC8というスポーツカーを発売した
■スパイカーの経営は常に火の車状態でモータースポーツに活路を見出そうとした
馬車・飛行機そして4輪へと事業を拡大してきたスパイカー
  さほど知られていませんが、オランダ人は大のクルマ好き。なんといってもドンカーブートやスパイカーといった小粒ながらも爪痕を残すようなクルマばかり作っているのですから。もっとも、両社ともに個性というかキャラが濃いものだから一般ウケがしづらいのも事実。
  とりわけ、スパイカーはC8という素性のいいマシンだったにもかかわらず、経営不振というありがちな理由で短命に終わってしまいました。が、その爪痕はル・マンや、アメリカ・ル・マン(ALMS)にもしっかりと残されていたのです。スパイカーC8 GT2-Rは思い返しても胸アツなド根性マシンに違いありません。
  そもそもスパイカーというメーカーの歴史は古く、元をただせば1880年から馬車づくりをしていたとのこと。また、1915年には航空機の製造に携わり、それがきっかけでプロペラと車輪を象ったエンブレムができあがったとされています。そして、そのエンブレムは新装開店となった1997年からも忠実に守られることに。
  ちなみに、エンブレムに彫り込まれている会社のモットーはラテン語で「Nulla tenaci invia est via」(粘り強くやり通せば、必ず道は開ける)と、オリンピックのメダリストみたいな文言です。
  そして、2000年に世界のクルマ好きをアッといわせたのがC8の登場でした。ややもすれば大福もちをつぶしたようなスタイルでしたが、これは空力性能を徹底的に追求したボディ。オープンタイプの「スパイダー」と、エアインテーク付きガラスルーフを備えた「ラヴィオレット」(クーペ)の2タイプをラインアップし、いずれもシザースタイプのドアを与えられています。
  ミッドシップレイアウトに搭載されたエンジンは、アウディS8から拝借した4.2リッター V型8気筒DOHC40バルブで、最高出力400馬力、最高速300km/hと当時としてはまずまずのパフォーマンスを発揮。また、スパイダーのパワーアップ版「スパイダーT」には525馬力の 4.2リッター V8ツインターボを搭載し、320km/hまで最高速を上げていたのです。
  歴史あるブランドを背負いつつ、なかなか意欲的なマシンができあがったものですが、残念ながらメーカーそのものは絶えず火の車状態だった模様。2005年には早くもフェラーリ株を5%所有するアブダビ政府所有の投資会社「ムバダラ・ディベロプメント・カンパニー」がスパイカー・カーズ株の17%を取得して経営に参画するなど、飛行機で行ったら錐もみ状態だったのかと(笑)。
ル・マンで活躍こそできずともクルマ好きの心には姿が刻まれたC8
  それでも、このムバダラの経営方針は「ル・マンで勝ったらクルマが売れるでしょ」というものだったのか、スパイカー首脳陣はレースカーの開発を決定。そこで生まれたのがスパイカーC8 GT2-Rだったのです。
  選ばれたベースはガラス製ルーフではレースを戦えないという判断なのか、オープンボディのスパイダー。レギュレーションの都合から3.8リッターV8に換装されたものの、ヒューランド製6速ミッションやオランダのKONI製ショックアブソーバーなどでサーキット仕様へと変身。
  真偽のほどは不確かですが、これらのトリミングはオランダのレースファクトリー「タキオンレーシング」によるものではないかと思われます。事実、ル・マン・シリーズへの参戦中、あるいは参戦後のメンテナンス、レストアも同ファクトリーが担い、スパイカーのエンジニアだったドナルド・ブラマーも深く関与している模様(ブラマーはC8が製造されなくなったあとで、スパイカーのレストアなどを担うスパイカー・スコードロン社へ転職しています)。
  マシンの細部を見ていくと、2005年デビューながら随所にオーソドクスなカスタマイズ、すなわち伝統的手法が散見でき、オールドファンなら目を細めてしまうこと間違いありません。
  ロールケージの溶接痕やバルクヘッドのアルミ工作、あるいはインパネの各種スイッチ類の作りこみや無骨なことこの上ないリヤウイングなど、どれをとっても1990年代GTカーかのよう。正直なところ、1世代前のレーシングカーといわれても仕方のないような仕上がり。
  ですが、スパイカーはこのマシンでル・マン24時間に2度出場しています。2回ともマシントラブルによるリタイヤですが、レース中はクラストップを争うなど善戦していたことがうかがえます。また、アジアン・ル・マン・シリーズ(AsLMS)では、珠海500kmでクラス5位、ドバイ500kmではクラス2位をゲットするなど、幸運だけでは手に入らないリザルトを残しています。
  そんなC8 GT2-Rのイメージを反映した市販モデル「C8 LM85」なるモデルも発売されましたが、こちらはガラスルーフ付きなうえに、19inエアロホイール、アルカンタラトリム、iPodオーディオインターフェースなど、コスメティックに近いカスタムだったため、わずか15台のみの製造・販売という結果に。
  かなり個性的で、ちょっと古臭いC8 GT2-Rですが、野心的な挑戦だったことは確か。たとえ、ル・マンで表彰台に昇れなかったとしても、その雄姿はきっとオランダの、いや世界中のクルマ好きの胸に残っているのかもしれません。

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