コブラと同じ手法でアメリカンV8をぶち込んだ英国車! なのにコブラに比べて激マイナーな「サンビーム・タイガー」ってナニモノ?

2024.10.31 17:30
この記事をまとめると
■シェルビーはコブラと同じ手法でサンビーム・タイガーを製作
■サンビーム・タイガーは162馬力仕様がリリースされエクストラで245馬力仕様もあった
■ル・マンやGTカテゴリーやラリーに参戦するなどモータースポーツでも活躍した
伝説のシェルビー・コブラと同じ手法をサンビームで再現
  ACコブラで有名なキャロル・シェルビーは、1960年代に入ると目が回りそうな忙しさだったに違いありません。イギリスのACカーズとのコブラ計画にはじまり、太客のフォードからは打倒フェラーリという命題を課され、さらにはルーツ社からもV8換装モデルの打診まで。なるほど、これじゃ心臓だって悪くなろうというもの。とはいえ、いずれのジョブについてもシェルビーはコンプリート!
  ところで、前者のふたつは大成功を収めたことは超有名ですが、彼にとってコブラに次ぐイギリス車+V8マシンとなったサンビーム・タイガーについてはさほど知られていないかもしれません。
  サンビーム・タイガーは1964年に発売された2ドアオープンのスポーツカー。発売当時こそ、ルーツ社傘下に収まっていましたが、サンビームは1905年創業の老舗ブランド。その昔は、同じくタイガーの名を冠したスポーツカーをリリースして速度記録(1925年)を樹立するなど、スポーツカーメーカーとしてはトップランナーだったといっても過言ではありません。
  ですが、例によって財政困難からルーツに買収されてしばらくは、これまた買収されていたタルボットとのダブルネームなど、バッジエンジニアリング的なクルマに終始。それでも徐々にサンビームの名声は回復していくのですが、決定打となったのは2代目サンビーム・アルパインの登場、時に1959年のことでした。
  そもそも初代アルパインもその名のとおりアルパインラリーでの活躍を果たし、2代目にいたってはラリーモンテカルロやル・マンでも好成績を収めたほか、映画「ドクター・ノオ」ではショーン・コネリーがステアリングを握り、スクリーン上で最初のボンドカーとなるなど、サンビームにとって忘れがたいモデルにほかなりません。
  アルパインの活躍による名声回復をさらに伸ばそうと、ルーツのトップ、ウィリアム・エドワード・ルーツ卿はアルパインをグローバルモデルとすることを命じました。すなわち、1.5リッターほどのエンジンでは当時のスポーツカーシーンでは埋もれてしまい、とりわけ巨大マーケットとなるアメリカでは存在感がいまひとつなことが要因だったとされています。
  そこで、アメリカ西海岸のルーツ社セールスマネージャー、イアン・ギャラッドに本社からのミッションが通達され、彼は近所にあったシェルビーのファクトリーを訪れたのでした。すでにコブラやGT40で大忙しだったファクトリーですが、どうやらジャック・ブラバムが間を取り次いだらしく、シェルビーはアルパインのV8換装プロジェクトを請け負うことに。
  面白いのは、シェルビーの多忙さに不安を感じたギャラッドは同時期に(こちらもご近所だった)ケン・マイルズにもV8アルパインの試作をオーダーしていたこと。シェルビーが8週間、1万ドルの予算が与えられたのに比べ、マイルズはわずか800ドルをもらって1週間で試作車を完成させたとか。
フォードエンジン搭載なのにクライスラーのペンタスター
  とはいえ、アルパインのエンジンベイにフォードのスモールブロック(260ci)を収めるのは文字どおりギリギリの寸法でした。実際の製造を担ったイギリスのジェンセンでも、スレッジハンマーでもってアルパインのフロントスカットルを叩いてスペースを作るという荒業だったとか。
  もともと4気筒のコンパクトなエンジンを想定して設計されたアルパインですが、V8を搭載してもさほど大きなカスタムなしに走れたようです。重量は2割ほど増加したものの、前後バランスは51.7:48.3とまぁまぁな数値。また、リサーキュレーティングボール式ステアリングから、スペースの都合で変更されたラック&ピニオンはむしろ良好なハンドリングさえもたらしたといわれ、このあたりさすがキャロル・シェルビーといえるポイントかもしれません。
  とはいえ、前述のとおり製造はシェルビーでなく、ボルボP1800の製造がキャンセルされてしまったばかりのジェンセンに白羽の矢が立てられました。この際、シェルビーにはルーツからロイヤリティが支払われる契約となり、おそらくはホッと胸をなでおろしたことでしょう。
  タイガーのリリースは1964年から開始されましたが、ほとんど北米向けの左ハンドルで、英国仕様はほんの数台しか作られなかったと記録されています。また、ディーラーでは162馬力仕様がストックとして扱われましたが、250ドルのエクストラを支払うことで最高245馬力までパワーアップが可能とされ、大半の顧客がこちらを選んだ模様。バルブスプリングの強化、オイルクーラーの追加、はたまた強化クラッチやワイドレシオのギヤなど、イギリスらしいいじり方ですが、むしろハイパワー仕様のほうが壊れづらかったとする史家もいるようです。
  なお、最終モデルとなったマーク2では、エンジンが289ci(4.7リッター)へと強化され、0-60 mph(97 km/h)加速:7.5秒、最高速:122mph(196 km/h)といったパフォーマンスとなりました。
  ちなみに、タイガーの価格はマーク1:3499ドル、マーク2:3842ドルで、同時代のマスタングは2900ドル程度ですから、ちょっとしたプレミアムモデル的な値付け。それでも、総生産台数は7128台に及んだとされていますので、スペシャリティモデルとしては大健闘ではないでしょうか。
  サンビーム・タイガーの売上げとは裏腹に、ルーツ社は慢性的な赤字体勢が続いており、じつは1964年時点でクライスラーの資本が入り、1967年には完全傘下に。勘のいい方なら「だったら、フォードのエンジンが使えなかったはず」と思いつくでしょうが、クライスラーのV8はディストリビューターの位置が災いしてタイガーのエンジンベイにどうしても入らなかったとか。苦肉の策として、車体に例の五角形ステッカーを貼り、フォード製エンジンの在庫が尽きた時点で生産中止を命じたのでした。
  こうして、サンビーム・タイガーは短い生涯を終えてしまったのですが、コブラ同様にレースシーンでもそれなりに爪痕を残しています。
  たとえば、1964年のル・マンへのエントリーに始まって(残念ながらリタイヤ)、北米のBプロダクション(いわゆるGTカテゴリー)ではファクトリー&プライベーターともに数回の入賞、あるいはヨーロッパではアルパインのあとを継いでラリーに参戦し、ジュネーブラリーでは1・2・3位という輝かしい成績(1964年)を収めています。
  ともあれ、伝説にはちと遠いマシンかもしれませんが、英国車+アメリカンV8というキャラとしてはなかなか趣きのある存在だったといえるのではないでしょうか。

あわせて読みたい

キットカーからクワトロ、NASCARまで!プラッツ取り扱い海外プラモ、10月の新製品【CARSMEET モデルカー倶楽部】
CARSMEET WEB
シュパンポルシェの「呪われたプロジェクト」|962LMと962CRロードカーの内幕
octane.jp
あなたの動画を自然に翻訳!「AI動画翻訳くん」とは?
antenna
実用性にはほど遠いけどロマンの塊! バケモノみたいな「16気筒エンジン」を積んだクルマはやっぱり見た目も強烈だった
WEB CARTOP
連載:アナログ時代のクルマたち|Vol.35 クーパーマセラティT61M モナコ
octane.jp
約36年ぶりの新商品!歳時菓子「おはぎ新嘗(にいなめ)」新発売
PR TIMES Topics
「レースで勝てば市販車が売れるハズ」でル・マンに挑戦するもそうはうまくいかず! オランダの「スパイカーC8」が意地と根性の塊だった
WEB CARTOP
ニッチな存在?でもその魅力は無限大!V10エンジンを搭載した名車たち
octane.jp
【文明堂】期間限定の新色「黄色いこぐま焼き スイートポテト」新発売
PR TIMES Topics
世界最速はどの車か!? 頂上探求|留まることを知らないスーパーカーワールド
octane.jp
デロリアンをEVコンバージョン!これで真の「未来の車」に?
octane.jp
もちぷる新食感の新商品『スティックわらびもち』発売
PR TIMES Topics
デロリアンとフォードGTをEVで蘇らせた! 単なるEVコンバージョンじゃないリンクス・モータースの激熱な「新車」
WEB CARTOP
可愛い真っ赤な「大人のオモチャ」に激震!?…1978年最速の1台がコレ!!【アメリカンカープラモ・クロニクル】第37回
CARSMEET WEB
ハワイ発のコーヒーブランド「ホノルルコーヒー」の日本第1号店原宿にオープン
PR TIMES Topics
バカッ速ポルシェをさらに怪物化! 世界の超メジャーポルシェチューナー4選と衝撃の作品
WEB CARTOP
ジャガーXKづくしの良き休日|『Octane』UKスタッフの愛車日記
octane.jp
ロキソニンにまつわる素朴な疑問を薬の作り手が解決! 小さな錠剤に込められた想いとは
antenna
手なじみの良い波打つフォルム〈ジョージ ジェンセン〉のカトラリー【今日の逸品】
Casa BRUTUS
英国最古の現役自動車メーカーが電動スポーツカーを発表! 「ACエース クラシック・エレクトリック」
CARSMEET WEB
御代田町の複合施設「MMoP」内各店舗にてクリスマスを彩るフェア開催
PR TIMES Topics