私たち株式会社Lico perkは2022年10月より、『大人も子どももキラキラと夢を語る社会』をテーマに「ファミリアナース」として主に医療的ケアが必要なお子さんやご病気や発達の特性のあるお子さんを対象に小児特化の訪問看護ステーションと看護師による認可外保育(シッター)を運営しています。産前産後からAYA世代(若年成人)までのサービスの充実化を図ることで、大人も子どももそれぞれにその人らしく地域で充実した生活を営めるようにと日々試行錯誤しています。
その中でも私たちが大切にしている「看護・保育・教育の協働」を地域で生活するスペシャルニーズのある子どもたちにどのように届けるか、その挑戦についてご説明します。
気切バンド交換中の保育士によるディストラクションの様子
在宅で生活する子どもたちに当たり前に「医療・保育・教育の協働」を届けるために
代表の宮川や看護スタッフの中には小児の専門病院などで勤務をしていた看護師もおり、病院で生活をする子どもたちの姿をリアルにみてきています。もちろん、病院は「治療」をするための場所ですが『子ども憲章』でも掲げられているように療養の場でも「遊びや学習をする権利」を守る必要があります。
子ども憲章:
平成10年には厚生省により病棟保母導入促進事業が予算化されたり、近年では院内学級が整備されている病院も増えてきています。
そのため、病棟保育士も設置され、日々子どもたちに介入をしてくださっています。CLS(Child Life Specialist)などの子どもにとって絶対的な味方も小児科病棟に配置されることも増えてきました。
参考文献:病児の発達を促すための援助 一院内保育,院内学級の意義についてー,家族看護学研究第 5巻 第2号 2000年,
病棟保育士やCLS、院内学級の教諭方の関わり、原籍校の教諭やお友達との関係は子どもたちにとってとても大切な意味があります。
これについては在宅においても変わらないと日々感じており、地域の通所施設などに通うことができるお子さんはお家の外でそれぞれの権利を満たされていることもありますが、外出や集団に入ることが難しいお子さんはこれらの権利が充足しきれないこともあります。
そこで保育士と一緒に訪問することで必要な医療的ケアや看護を展開している中でも、看護と保育の双方の視点や捉え方で多角的に関わることで子どもたちとご家族にとってより有用な時間を過ごせるように「ファミリアナースの保育士」という役割の検討をしてきました。
HPS(Hospital Play Specialist)を取得した看護師と保育士による「医療・保育・教育の協働」への一歩。訪問看護という限られた時間の中での遊びを通したサポート。
私たちのメイン事業は訪問看護であり、医療的ケアが必要なお子さんや発達の特性や疾患により配慮が必要なお子さんやご家族の対応をさせていただくことが多いです。もちろん、訪問看護ですので、国の制度の決まりの中で、限られた時間で安全に医療的なケアや体調管理のサポート、育児相談などをすることも大切な役割です。私たちは、この役割に加えてより健やかにその子らしく、またそのご家族らしく生活していただけるように関わらせていただくことも重要な役割と考えています。
近年では、感覚統合という日常生活で感じる様々な刺激や感覚情報をうまく処理し、統合する能力についても注目されています。幼少期に様々な刺激に触れることも重要といわれており、医療的なケアや医療機器の管理、感染リスクなどの理由で通所や保育園、幼稚園などにすぐに参加することが難しくても色々な遊びを通してその発達を促していくことも子どもにとって健やかな生活のために大切なことであると私たちは考えています。
その子らしく、より健やかに関わらせていただくために病院勤務時代からその重要性を感じていた「医療・保育・教育の協働」ができるように限られた時間の中で何ができるか検討していく中で、看護スタッフがHPS(Hospital Play Specialist)というCLSに近い考え方の資格を取得したことがきっかけでその動きは加速しました。
子ども自身がその後の日々のケアを習得、自己管理できる必要のある場合には「メディカルプレイ」としてHPSを取得している看護師が中心に遊びを通して理解のサポートをしたりと少しずつ、私たちだからできることを検討していきました。
2024年4月からHPSを取得した保育士が参画したことにより、トライアルとしていくつかのご家族のご了承を得て、訪問に保育士も同行させていただくことになりました。
ゆくゆくは自身で血糖管理が必要となるため、幼児さんでも処置に参加しやすいように本物そっくりの血糖測定器を手作りし、日々行っているケアに遊びながら参加できるようにしました。
お子さん一人ひとりの状態や興味に合わせたサポートの事例
ターミナルケアとしてのご訪問の際には、退院前カンファレンスからその関係性が始まり、1週間から1ヶ月程度の短期間で、お子さんとご家族が大切にされていることをキャッチしながら「最期の時間を自宅でどのように過ごしたいか」を刻々と変化していく体調の中で、より安楽に過ごせるようにサポートしていく必要があります。
今回、保育士が同行させていただいたのは末期癌の乳幼児さんでした。ターミナルケアで対応させていただくお子さんは、体調の変化によって、医師と連携をとりながら、たくさんの点滴の管理や酸素投与、皮膚のケアが必要になったりすることもあります。それでも訪問看護なので、病院のようにずっと側にいられる訳ではなく、制度の中の限られた時間の中での対応となります。ご家族のご不安や想像がつかないこともある中で、ご家族とお子さんと対話をさせていただきながら、お子さんの好きなこと、やってみたいこと、行ってみたいところ、会いたい人に会えるように医療デバイスの管理や移動方法を検討したりします。
その際も看護師が点滴をミキシングしている間や処置をしている間にも保育士ならではの視点や声の掛け方で関わらせていただきました。最期の時間を最後まで子どもらしく、またその子らしく、大好きなご家族と一緒に過ごしていただけたらと思っています。
他にも長期間の入院を経て気管切開や胃管、呼吸器などを持って退院された乳幼児さんにも保育士に一緒に訪問させていただいています。気切バンドの交換や吸入の際には「ディストラクション」の遊びを提供してくれています。入院という環境で安全のために身体抑制をされていたため、表情も乏しく、そり返りも強く、手指の拘縮などもあるお子さんでしたが、児に合わせた手作りのおもちゃを持参し、今では自らおもちゃや遊びにアクセスして刺激への筋緊張も減り、情緒もとても成長しています。
吸入中の保育士によるディストラクションの様子
※遊びなどを通じて五感を刺激し、処置中に子どもの気を紛らわせる方法をディストラクションと呼びます。 処置ではなく、別のものに子どもを集中させて、不安や痛みを軽減させます。
治療の関係で、易感染状態で人混みや保育園などの集団に入ることができず、1日のほとんどの時間を自宅で過ごさなくてはならないお子さんもいらっしゃいます。その生活の中でも子どもたちは日々成長していますが、同世代のお友達や家族以外の大人からの刺激を受けることができず、遊びが単調になってしまうこともあります。ご家族のレスパイト的な意味合いもあったり、感染症により重症化しやすいため体調観察も訪問看護では大切な役割ですが、保育士と一緒に訪問することでやったことのない遊びをしたり、お歌を歌ったり、ダイナミックな遊びも提供することができ、限られた環境での発達の促しにつながったと考えています。
また、ご家族から遊び方のご質問も多く、遊びの引き出しの多い保育士がいることでご家族もお子さんに合わせた遊び方を知っていただく機会となりました。
HPSの看護師や保育士が作成したセンサリーボトルなど。お子さんの手のサイズや筋力の弱いお子さんにも配慮し色味や音も豊かに五感を刺激する工夫がされています。
「医療・保育・教育」の必要性を再認識。きょうだい児の変化にも家族看護の意義を見る。
2024年4月からHPSを取得している保育士との訪問も開始し、子どもたちの変化から短時間であってもその医療・保育・教育の協働の必要性を再確認する結果となりました。
日々、きょうだい児さんにも注目し、関わらせていただいていますが、きょうだい児さんとも季節の制作など一緒にさせていただくことで、一つのきっかけとなり、日頃の想いの表出などもあり、自宅に看護師と保育士が伺うことでの家族看護の意義も感じられました。
現行の制度内では持続が難しい保育士の訪問同行。求められる変化と試行錯誤。
今回のトライアルが子どもたちやご家族にとってより有意義な訪問となることは我々の中で明らかとなりました。
一方で、訪問看護で保育士も一緒に訪問する際には、制度の中では何も報酬として得ることができず、保育士の費用は完全に会社で負担する形となっています。認可外保育としての申請もしていますが保育無償化の制度を使うには条件が厳しく、ご家族の毎日の生活を考えると費用の請求はなかなか難しく、効果があっても費用を追加してご利用いただくのは難しいことも感じています。
どうしても「高齢者向けの大人の制度を借りた」形になってしまう小児の訪問看護のため、まだまだ小児特有のニーズに応えることは各々の民間企業側の努力に委ねられてしまっているように感じています。病院でも必要とされ予算が取られた「医療・保育・教育の協働」が自宅に帰った途端にできなくなってしまうのは、小児の現場でずっと関わってきた身としては心苦しく、子どもたちが子どもでいる「今」にここの努力は諦めずに試行錯誤していきたいと考えています。
看護師だからできることと「ファミリアナースの保育士」という役割の構築、最適なサービス提供の形を目指して、ファミリアナースの活動は続く。
まだまだ制度の狭間にあたる子どもたちやご家族も存在しており、どのようにサービスを届けていくか日々頭を悩ませており、公的制度との付き合い方についても社内で考えを巡らせています。医療的ケアや医療的視点からの判断が難しいために看護師でないとできないこともある一方で、看護師以外の専門職の視点からの介入も本当は必要な場合もあると考えています。すぐに全てとはいかなくても、生活様式の変化や少子高齢社会の中で子どもたちが子どもたちらしく、ご家族も一人の社会人として健やかにご活躍いただけるように、諦めずにこれからもファミリアナースとしてできることを考えていきます。
秋にはご利用者様ご本人とそのご家族、きょうだいさんを対象に「かぞくの日」のイベントを企画中です。