この記事をまとめると
■セダンやワゴンのラインアップは国産車では大幅に数を減らした
■いまは世界的にSUVやミニバンが売れ筋モデルとなっている
■ワゴンは全高の低さやラゲッジの広さなどが武器でまだまだ魅力が多い
いつからセダンやワゴンは売れなくなったのか
かつてセダンはクルマのステイタスを誇る存在だった。「いつかはクラウン」のトヨタ・クラウンがその代表例であり、その車内の静かさで世界の自動車メーカーを驚愕させたトヨタ・セルシオの登場もセダン(サルーン)=ステータスの象徴だった。
また、1980年代末から1990年代にかけては、日本でもステーションワゴンブームが勃発。1989年の初代スバル・レガシィが登場し、GTグレードの高性能ワゴンが一世風靡。「スポーツカーが嫉妬する」トヨタ・カルディナや日産ステージアなどのハイパワーステーションワゴンが台頭。
当時は国産車の販売のうち、約30%に迫る台数がステーションワゴンだったのである。ホンダ・フィットのステーションワゴン版であるシャトルも一時期、人気だった。
しかし、いまではセダン、ステーションワゴンに代わって、SUVの人気が沸騰。日本の自動車メーカーはもちろん、かの欧州スーパーカーメーカー、ハイエンドメーカーでさえ、続々とクロスオーバーモデル、SUVを登場させ、屋台骨になっているほどで、自動車先進国の北米でも、セダンが駆逐されつつあるのだから時代の変化は著しい。何しろ、国産セダンの代表格だったトヨタ・クラウンの最新型が、最初にSUVルックのクラウン・クロスオーバーとしてデビューしたほどなのだから……。
ちなみに2024年4月の国産車の乗用車ブランド別ランキングでは、上位10台に占める割合は、コンパクトカー、ミニバン、SUVだらけ。20位まで見ても、セダン、ステーションワゴンは見当たらない(カローラとクラウンは一部あり)。
ステーションワゴンでいえば、いま、新車で買える国産車はスバル・レヴォーグ(31位)、トヨタ・カローラツーリング、カローラフィルダーのみと寂しい。ただし、スバル・レヴォーグのクロスオーバー版であるレイバックや、北米市場中心のスバル・レガシイのクロスオーバー版のアウトバックは、背が高く最低地上高に余裕あるステーションワゴンのAWDモデルということができるのだが……。また、マツダのフラッグシップセダンのMAZDA6も国内向けモデルの生産終了がアナウンスされている。
では、セダンが世界的に衰退した理由はなんだろうか。日本においては、1996年の初代ホンダ・ステップワゴンの発売がきっかけとなったミニバンブームだったかも知れない。セダンは低重心で走りがいい……ミニバン(ワンボックス)は重心が高く、重く、走りがイマイチ……という、それまでの常識を覆した乗用車プラットフォーム採用の多人数乗用車の登場である。それはホンダ・オデッセイやトヨタ・ノア&ヴォクシーにも引き継がれ、日本における空前のミニバンブームが長きに渡って続いたのである。
大空間によって、すでにステータス性が薄れたセダンや遊び心をくすぐるステーションワゴンでは乗り切れない乗員を乗せられ(最大8人)、セダンでは積めない荷物を積みこむことができ、その上でセダンライクな走りが得られたのだから、たとえば狭小住宅に住む人に夢を与えたことは間違いなく、また、アルファードに代表される高級ミニバンの登場で、社長族、VIPに愛用され続けてきたのも事実。
VIPが乗るのに、大型セダンより高級ミニバンのほうが、スライドドアによる乗降性のよさ、そしてなんといってもセダンでは得られない大空間のゆとり、車内での仕事のしやすさなどで優位に立つことは間違いないところ。国産ハイエンドミニバンでは、一流ホテルのエントランスに乗りつけても堂々と似合うトヨタ・アルファード、レクサスLMがその象徴だろう。
一度、乗ってしまえば(一般ユーザーを含め)、もうセダンに戻ることはできない世界がそこにある。
SUVでは無理なワゴンの魅力
そしてここ10年来のSUVブームの到来である。レンジローバーやディフェンダー、Gクラス、ジムニーなどは古くから不動の人気車種だが、いまや国産車はもちろん、欧米の自動車メーカーがこぞってSUVを発売。ドイツ御三家のBMW、メルセデスベンツ、アウディもSUVが主役の座についているし、ポルシェ、ベントレー、ランボルギーニ、マセラティといった超高級自動車メーカーも、いまではSUVをラインアップしているほどだ。もはや、SUVをもたない自動車メーカーに未来はない……みたいな様相である。
もっとも、ステーションワゴンは日本、アメリカでは絶滅の危機に瀕しているものの、欧州ではセダンと並んでステーションワゴンの用意を欠かしていない。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなどを見れば、しっかりとステーションワゴンがあるのだから……。
日本でのステーションワゴンの衰退の理由のひとつに、かつてのミニバンブームがあったと筆者は考えている。子育て時代にミニバンを体験し、その大空間、運転視界の高さ、そして3列目席の格納によって得られる大容量のラゲッジスペースを知ってしまえば、ステーションワゴンの低重心な走り、立体駐車場への入庫容易性を知りつつも、もうステーションワゴンには戻れない……ということだ。
それに追い打ちをかけたのが、繰り返すが、空前のSUVブームだ。その堂々としたスタイル、最低地上高の余裕、4WDによる悪路走破性、ミニバン愛用者だった人も納得の視界の高さ、見晴らしのよさ、ステーションワゴンに準じたラゲッジルームのゆとり、シートアレンジ性、ブームの空気などもあって、アウトドア派だけでなく、セレブ、ファミリーユーザーにも受け入れられたのである。
そして何といっても、SUVでも静かで乗り心地よく、安定感抜群のクルマができるようになったのだから、ステーションワゴンの出番(購入意欲)が減少して当然。自動車メーカーも売れるクルマを作らなければならないから、かつて北欧のワゴンメーカー(240/850/V60エステートが代表格)として一世風靡したボルボも、いまではラインアップのほとんどが電動SUVであり、日本のステーションワゴンブームをけん引していたスバルもレガシィではなく、そのクロスオーバー版であるアウトバックを残し、レヴォーグとともにこれまたそのクロスオーバー版であるレイバックを登場させたわけだ。実際、極悪路を好んで走るユーザーなどごく一部だろうが、そこに、どこへでも走って行ける期待、夢があるというわけだ。
ただし、である。筆者は1990年代から2000年代にかけて国産(逆輸入)ステーションワゴンを2台、2014年から現在に至るまでの10年間、2台のドイツ製ステーションワゴンに乗り継いでいる。きっかけはかつてメルセデス・ベンツEクラスセダンに乗っていたとき、大型犬のゴールデンレトリーバーを飼い始め、みるみる大きくなる愛犬「ナナ」のために、ステーションワゴンに乗り換えたのである。
いま乗っているステーションワゴンのポイントは、低重心な走行性能、SUVに比べて軽量ゆえの燃費性能のよさ(ガソリンターボにして高速走行中心なら20km/L近くはいく)、ラゲッジにルームの低さ(世界のステーションワゴンの平均値約620mm/SUVは700mm前後)による重い荷物の出し入れの容易性、全長約1000mmのペットカートをラゲッジルーム奥に横積みできる積載効率の高さ、シートアレンジによる車中泊のしやすさ(災害時に犬連れで避難所の室内に入れないため)、そして、たまに使う立体駐車場への入庫容易性などが挙げられる。
先日も横浜のコンサート会場にクルマで行った際、開演1時間以上前にもかかわらず、周囲の背高SUVやミニバンも止められる平面駐車場はどこも満車。しかし、こちらはステーションワゴンだからその近くにある全高制限1550mmの立体駐車場にすんなり止めることができ(全高は1485mm)、多くのコンサート来場者であろうクルマが周囲の道路で右往左往しているなか、余裕で開演に間に合ったこともある。
決定的だったのは、先代の愛犬、ラブラドールレトリバーのマリアが高齢になったときだ。やむを得ずラゲッジルームに乗せる際に、ステーションワゴンのラゲッジルームの低さは絶対条件だったのだ。ノーマル状態で630mmだった開口部地上高を、ローダウンサスペンションで600mmまで下げたほどである。
現在は小型犬と中型犬の2頭と暮らしているが、犬をラゲッジルームに乗せることはなくても、ステーションワゴンのラゲッジルームの使いやすさから、SUVの魅力、メリットを知りながらも、ステーションワゴンに乗り続けている少数派(!?)のひとりなのである。
しかしながら、この5月に軽井沢の「レジーナリゾート旧軽井沢」という愛犬同伴専門のリゾートホテル、レジーナリゾートのフラッグシップとなるホテルを訪れたら、駐車場に止まっているクルマの約7割が国産、輸入車のSUVだった。愛犬家にも広がるSUVブームの凄さを改めて痛感。
そのほかはミニバン1台、コンパクトカー1台、ステーションワゴンは筆者のクルマを含め、2台だけだった(もう1台のドイツ製大型ステーションワゴンはなんと、偶然にも、筆者の愛犬とのドライブ旅行記事、試乗記を熱心に読んでくださっている大型犬3頭連れの読者であった)。
軽井沢のように、冬、雪国となるリゾート地を訪れるのには、なるほど、最低地上高に余裕があり走破性に優れた4WDのオールラウンダー=SUVにメリットがあることも確かではある。根っからのステ―ションワゴン派の筆者も、燃費性能に優れたHVまたはPHEVで、災害時の愛犬との避難にも役立つAC100V/1500Wコンセント付きのSUVであれば、SUVに浮気する可能性もないではない。予算が許せば、の話だが。