スタッフ全員退職の危機を乗り越え、訪問件数100倍に。訪問看護ステーションピースコネクトの1年

2023.12.25 09:00
「自分以外、誰もいなくなった。もう休業届を出すしかないと思った」
訪問看護ステーションピースコネクトの管理者兼看護師である茅野翼は振り返ります。


誰もが訪問看護未経験の状態からステーションを開設して1年。今だから話せることとはー。
子育ては社会みんなで楽しみながらするもの。ステーション開設の経緯
ステーションを運営する株式会社ピースコネクトでは、「誰かの犠牲で成り立つ育児を終わらせ、社会全体で子育てを楽しむ世の中をつくる」ことを目標に、2021年より産前産後ケアサービスを提供してきました。


昨年には、病気や障がい、特性とともに生きる親子がいるご家庭にも、医療的ケアを提供し、おうちで安心して楽しく生活できる環境づくりをサポートしたいとの想いから、訪問看護ステーションDaisy MUSEを開設。


今でこそ管理者として勤務している私ですが、入社したのはステーションの開設が決まった後でした。
総合病院の手術室管理者から、未経験の訪問看護へ
私は前職では、総合病院で部署の管理者を任されていました。
朝は早く、帰りは遅く、土日は夜勤が入ることが多かったので、当時3歳の息子が休みの日でも、私は昼まで寝ていてそのまま出勤、夜勤を終えると翌日のお昼頃に帰宅し、夕方まで就寝するという生活。週末に家族で出かけるなんて、ほとんどありませんでした。


また、自分より年齢や立場が上の看護師が「仕事辞めたい」「疲れた」と言いながら働いている姿は、生き生き楽しく働くという自分の理想とは大きくかけ離れたものでした。長期的な視点で考えた時に「このままでは自分も同じような状況になっていくだけではないか…」と感じ、転職を決意したんです。


転職活動を進めていたある日、2人目を妊娠しながらも生き生きと楽しそうに仕事をしていた妻が「訪問看護ステーションを立ち上げる予定があるけど、うちの会社に来る?」と言ってきました。後から聞きましたが、私の転職活動を案じた妻が、当時の管理者に相談してくれたそうです。


私自身、訪問看護に従事していた経験はありませんでした。しかし、いつか訪問看護をやってみたいという気持ちから、看護師2〜3年目の頃に訪問看護の立ち上げを調べていたこともあり、二つ返事で入社を決めました。
3ヶ月遅れでの開設と利用者ゼロの日々
私の入社時にはステーションは開設されている予定だったのですが、なかなか厚生局の認可が進まず、さらに認識違いもあり、開設までにかなりの時間を要しました。
結局、仙台市での認可に切り替えて、予定より3ヶ月遅れでのステーション開設となりました。


元々勤めていた看護師2名のところに私が入社し、最初は看護師3名体制でのスタート。全員が訪問看護は未経験だったため、暗中模索のような状況でした。
開設当初の利用者はゼロで、営業活動もほぼしていない状態。開設から2ヶ月くらいは、利用者ゼロの状態が続きました。


私はステーション開設から4ヶ月で、管理者を引き継ぎました。それまでの累計利用者数はたった1人。他にも解決しなければならない課題は山積みでした。
スタッフが全員退職。残ったのは自分だけ
訪問看護ステーションを開設してから半年が経過する頃、私以外のスタッフが全員退職しました。その頃在籍していたスタッフは、前管理者の縁で入社したスタッフばかり。そのため、前管理者の退社に伴って全員が退職し、スタッフは私一人になりました。


「このままでは訪問看護の常勤換算を満たさなくなる」
「自分自身もこのまま続けていくことが出来るのだろうか…」
寝ても覚めてもそんな不安を抱えながら過ごす毎日で、正直今までの人生の中で一番辛かったですね。


この頃まで利用者は1人だったので、訪問自体もほとんど実施できていない状況でした。
「このまま辞めるのは時間を無駄にしただけになってしまう。」
そう思った私は、「自分の考えている訪問看護のスタイルをゼロから構築できる機会」と捉え、アクションを起こすことにしました。
名称を変更し、営業未経験から積極的に外へ
イメージを一新するため「訪問看護ステーションDaisy MUSE」という名称を「訪問看護ステーションピースコネクト」に変更し、新たなスタートを切りました。
まず取り組んだのは、営業活動。
前管理者の営業状況は残されていないので不明ですが、それまではSNSでの発信やこれまでの人脈に頼っていたのだと思います。その結果が利用者1名という数字でした。
私は「どこから利用者が生まれるのか」を考え、毎日営業に回り続けました。


これまでずっと看護師として働いてきたので、もちろん営業の経験はありません。ですがグループ会社に在籍している金融や不動産の営業担当者にアドバイスをもらいつつ、これまでの病院勤務の経験から「忙しい病院スタッフにどうしたら伝えられるか?」などを考え、様々な工夫をしながら営業に回った結果、私の顔を覚えてくださる方が増え、一人、また一人と訪問看護の依頼が増えていきました。


営業活動と同時進行で、その頃入社してくれたスタッフと一緒にマニュアルを一つ一つ自分たちの状況に合わせて作り直していきました。
元々作成されていたマニュアルは、ほとんど中身がない状況。典型的な「使用されないマニュアル」を、「うちのスタッフが使えるマニュアル」に整備することで、スタッフが安心して業務に従事できるようにしました。


また、小児領域や訪問看護未経験のスタッフへの教育も課題としていました。私自身2児の父ではありますが、小児も訪問看護も未経験だったので、自分が必要としたことの他にも個々に合わせて必要なことなど、柔軟に学習できる環境を整えました。Eラーニングなどの座学もありますが、重症心身障害児のいる施設へ研修に行かせていただき、実際に現場で体感する教育なども進めていきました。


そして他の訪問看護ステーションとも連携することで、情報交換などを活発に行い、地域全体で訪問看護ステーションの質を上げていくことができるようにしました。
「断らない」ステーション
課題を少しずつ解決し、着実に変化させていったことで、徐々に利用者も増え、現状スタッフ3名で月200件近くを訪問。


「いただいた訪問看護の依頼は断らない」ことを原則としており、事業所は仙台市にありますが、高速道路を利用して白石市などへも訪問しています。
これは時間やコストなどが多少かかったとしても、「訪問看護を必要とする利用者様やご家族様の力になりたい」という想いからです。


実際、利用者様からは「来ていただいて助かる」「訪問看護が来てくれて安心できる」「訪問看護が入っていなかったら、産後うつになっていたと思う」など、ありがたいお言葉をいただいております。


何のための訪問看護なのか、利用者様・ご家族様は何をサポートして欲しいのか、自分たちは何をサポートすることができるのか。
日々の訪問での「検討・提案・実践」を繰り返し続けた結果が、利用者様の声として反映されていると感じています。
未経験からのチャレンジ
この1年、本当に怒涛の日々でしたが、振り返って感じることは、やはりピンチはチャンス、というかチャンスと捉えて行動するしかない、ということです。
自分以外のスタッフがいなくなり何も整備されていないステーションから、半年でここまで成長させることができるなんて、正直思っていませんでした。


これは私一人の成果ではありません。
ピンチの時に入社してきてくれたスタッフやグループ会社の社員、そして利用者様や関係者の方々のお力添えがあって実現できたこと。感謝してもしきれません。


ただ、私にできたことが、他の人にできないわけがありません。もし訪問看護にチャレンジしてみたいけど迷っている、という方がいたら、背中を押してあげたいですね。スタッフが誰もいなくなるなんて、滅多にありませんから(笑)
今よりも「最幸」を感じることができるように
訪問看護ステーションの運営会社を含むグループ会社全体で、社員の仕事と家庭のバランスを大切にしています。訪問看護ステーションでは変形労働時間制をとっており、現在スタッフの残業はゼロに近い状態です。


これからもスタッフの仕事と家庭のバランスを大切にしながら、利用者様やそのご家族様がその人らしく安心して楽しくできるよう、今よりも「最幸」を感じることができるようにお手伝いしていけたらと思っています。
そして長期的には、訪問看護事業から地域医療の発展に寄与していくことが目標です。


看護や介護は、頑張る必要も我慢する必要もありません。
私たちは、病気があっても障がいがあっても、その人らしく生活できることを大切にしていきます。おうちで安心して楽しく生活できる環境を作り、利用者様・ご家族様・サポートしてくれる人、それぞれが今よりも「最幸」を感じることができるように。私たちにお手伝いさせてください。

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