新刊『零戦搭乗員と私の「戦後80年」』発売。300人以上の元零戦搭乗員と向き合い、丹念に証言を集めていった軌跡の記録

2025.07.14 11:30
株式会社講談社
NHK朝ドラ「あんぱん」の戦時考証を担った著者の入魂の最新作
今年、大日本帝国が無条件降伏を受け入れてから、80回目の夏を迎える。あの戦争で、前線で敵と交戦した経験がある元零戦搭乗員の中でいまだ存命な方はもうわずかしかおらず、直接戦争体験を聞くことは難しくなっている。

国のため、家族のため、そして何よりも愛する人のために命懸けで戦った零戦搭乗員たちだが、敗戦後は労われることもなく、石つぶてをもって追われた者もいた……。戦中・戦後の過酷な体験に、傷つき、貝のごとく口を閉ざしていた元零戦搭乗員たち。

本書の著者神立さんは、戦後50年をきっかけに、元零戦搭乗員たちの取材をはじめた。ときに門前払いに遭いながらも、彼らの心を解きほぐし、これまで一度も語られることがなかった言葉を集めてきた。ここに記録されているのは、もう直接聞くことは叶わない、貴重な証言である。

【商品概要】
商品名:零戦搭乗員と私の「戦後80年」
著者:神立尚紀
定価:本体1800円(税別)
発売日:7月16日
判型/ページ:四六版/288ページ
ISBN978-4-06-540387-7
発行:講談社ビーシー/講談社
■きっかけは1995年。零戦の里帰り飛行取材だった
1995年、戦後50年にあたるこの年に、アメリカの航空博物館が所有する、オリジナルの「栄」エンジンで飛行可能な零戦が一時里帰りして日本の空を飛ぶというイベントがあった。

1995年といえばたいへんな年でもあった。1月17日に阪神淡路大震災、3月20日にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生、当時写真週刊誌フライデーの専属カメラマンを務めていた神立さんは多忙を極めていた。

そんな日々の合間をぬって零戦イベントの取材に出かけた神立さんは、そこで出会った海軍の艦内帽を被った老人から話を聞こうとして、こう断られる。

「勘弁してください。死にぞこないですから」

半世紀の時を経てもなお、こう言わしめる体験とはどれほど過酷だったのだろう……。この言葉に衝撃を受け、その後、零戦で戦った人たちの戦中、戦後をテーマにした取材に取り組むきっかけとなったのだった。

■出逢い。幼稚園の園長を務める歴戦の零戦搭乗員
神立さんが初めて出会った元零戦搭乗員は、長野県に住む原田要(はらだかなめ)さんだった。原田さんは昭和9(1933)年生まれ。真珠湾作戦、ミッドウェー海戦にも参戦している。

戦後は、地元の長野に戻り、農業など様々な職業で苦労を重ね、昭和40年代以降は、地元住民の要請に応え、幼稚園を経営していた。

「戦争のことなど思い出したくもない」と言う原田さんが、神立さんのインタビューに答えてくれたのは、戦後50年の節目ということが一つと、もう一つは1991年の湾岸戦争がきっかけでもあった。

ニュース映像を見た若い人が、「ミサイルが飛び交うのが花火のようできれい」とか、「まるでゲームのようだ」と感想を漏らすのを聞き、「冗談じゃない、あのミサイルの先には人がいる。このままでは戦争に対する感覚が麻痺して、ふたたび悲劇を繰り返してしまうのではないか」と危機感を持ったという。戦争体験を語り伝えないといけない、と意識が変わったからだった。
幼稚園園長を務めていた晩年の原田さん


■伝説の零戦隊指揮官が語った戦後日本への失望
進藤三郎さんは、明治44(1911)年生まれ。零戦初空戦で中国空軍を圧倒した零戦戦闘機隊の隊長を務めた伝説の指揮官だ。

真珠湾攻撃では第二次発進部隊の零戦隊を指揮し、その後もラバウル基地航空隊の飛行隊長、空母航空隊の飛行長として、対米軍の最前線で戦い続けた。戦時中、進藤さんが指揮した零戦初空戦は新聞各紙でも大きく報道され、帰郷すれば英雄扱いを受けていたが、戦後、故郷の広島に戻ると、近所で遊んでいた子供たちが、「見てみい、あいつは戦犯じゃ。戦犯が通りよる」と石を投げつけてきたという。

つい昨日まで、積極的に軍人をもてはやし、戦争の後押しをしてきた新聞やラジオが、掌を返して、あたかも前々から戦争に反対であったかのような報道をしている。周囲の人間を見ても、戦争中、威勢のいいことを言っていたものほど、その変節ぶりが著しい。

「それ以来、日本人というものがあんまり信じられなくなったんです」
「私は、自分はこれからの時代に生きてゆくべき人間ではないような気がしました。『生き残った』のではなく、『死に損なってしまった』という意識の方が強かった」

進藤さんは自身の人生を振り返ってこう語る。

「空しい人生だったように思いますね」
「戦争中は誠心誠意働いて、真剣に戦って、そのことにいささかの悔いもありませんが、一生懸命やってきたことが戦後、馬鹿みたいに言われてきて。つまらん人生でしたね」
昭和16年12月8日、真珠湾に向けて空母赤城から発艦する進藤さん搭乗機


■本書で取り上げた主な元零戦搭乗員たち
小町定さん/真珠湾作戦から終戦まで前線で戦い抜き、戦後は釘の行商からビルのオーナーとなった歴戦の搭乗員
志賀淑雄さん/新鋭機紫電改を育て上げ、戦後は実業界で成功した名パイロット
鈴木實さん/戦後はレコード会社の洋楽部長となりカーペンターズの大ヒットアルバムを送り出した無敵の飛行隊長
岩井勉さん/「ゼロファイターゴッド(零戦の神様)」と呼ばれた男の矜持
宮崎勇さん/「空戦が恐ろしくなった」と率直に語ったベテラン搭乗員
佐々木原正夫さん/負け戦の経験がない名手にとって戦争とはなんだったのか
土方敏夫さん/戦後、数学教師として教育に身を捧げた学徒出身搭乗員は何のために戦ったか

■著者・神立尚紀さんからのメッセージ
私は「戦史研究家」でも「評論家」でもない一介の取材者に過ぎないが、ここまで一つのテーマを取材し続けてきた以上、日本海軍戦闘機隊を最後の一機まで見届け、その生きた証を残し、いっぽうでは子孫の方々に祖父たちの「軌跡」と、いま自分が存在することの「奇跡」を伝えていく責任があると思う。

一人一人のルーツを知ることで命の大切さを考える――強いて言うならば、それが「戦後八十年」の節目の年に戦争を振り返ることの意味ではないだろうか。
(本文「おわりに」より抜粋)
神立尚紀氏


著者/神立尚紀(こうだち・なおき)
1963年、大阪府生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。1986年より講談社「FRIDAY」専属カメラマンを務め、主に事件、政治、経済、スポーツ等の取材に従事する。1997年からフリーランスに。1995年、日本の大空を零戦が飛ぶというイベントの取材をきっかけに、零戦搭乗員約300人、旧軍人や遺族関係者を合わせると500人以上の貴重な証言を記録している。著書に『太平洋戦争の真実』『戦士たちの遺言』(いずれも講談社ビーシー)『証言 零戦 生存率二割の戦場を生き抜いた男たち』『証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち』『証言 零戦 真珠湾攻撃、激戦地ラバウル、そして特攻の真実』(いずれも講談社+α文庫)、『祖父たちの零戦』(講談社文庫)、『太平洋戦争 運命の瞬間』『太平洋戦争 空白の史実』『零戦隊長 二〇四空飛行隊長宮野善治郎の生涯』(いずれも潮書房光人新社)、『特攻の真意 大西瀧治郎はなぜ「特攻」を命じたのか』(文春文庫/光人社NF文庫)などがある。

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