衰退する日本酒の酒蔵を救いたい ~浄酎のNaorai代表 三宅さんインタビュー(後編)~

2025.02.28 12:00
「低温浄留ⓒ」という新たな技術で衰退する日本酒の酒蔵を救おうとしているNaorai代表の三宅さんのインタビュー。前編に続く後編では、三宅さんの「大きな発見」と日本酒の革新を促すプロジェクトについてお伝えします。

Naorai代表 三宅 紘一郎 さん
プロフィール
広島県呉市出身。親族に酒蔵関係者が多いことから日本酒に興味を持ち、大学時代は日本酒を中国で広げたいと上海へ留学。20代は上海で日本酒を売り歩き、2015年ナオライを創業。

■日本酒を革新する低温浄溜技術
――前編ではブランディングの一つとして広島名産のレモンを使った、スパークリングレモン酒MIKADO LEMONを開発したことをお聞きしました。この過程で、日本酒の酒蔵を救う大きな発見があったそうですね。

MIKADO LEMONでは日本酒にレモンの果汁を使いますが、その時皮を有効活用できないか考え、レモンの風味豊かに抽出できるよう、成分を壊さない39度以下の低温で蒸留していました。この低温での蒸留技術を日本酒に応用できるのではないかと考えたのです。

――日本酒を蒸留するということですか?

そうです。日本酒を蒸留したお酒、つまり蒸留酒にすることで常温保管での輸送が可能になるのです。「冷蔵保管し続けなければならない」という海外で日本酒を展開する際の大きなハードルを乗り越え、課題だったビジネスモデルを大きく変えることができると考えたのです。

――蒸留すると日本酒の魅力が失われてしまうのではありませんか?

たしかに高温で蒸留すると香りや風味が損なわれてしまいます。しかし、39度以下の低温蒸留なら日本酒の豊かな香りと風味をそのまま凝縮することが可能なのです。3年間、実験を繰り返し開発したこの製法を「低温浄留ⓒ」と命名し、この技術で作られるお酒を「浄酎」と名付けて販売を開始しました。
――浄酎はどこで造られているのですか。

「酒蔵跡地で浄溜所を造ってみたい」と全国の酒蔵を探していました。探していく中で、広島県神石郡の神石高原に、以前酒蔵を醸していた拠点を見つけました。1,000年以上の歴史を誇る神社があり、昔からの伝統が残る素敵な町です。町の真ん中にあった酒蔵を見た瞬間に「ここで造りたい」と決めました。
――神石高原で造られた浄酎がいま注目を集めているということですね。

はい。浄酎はいま3種類あります。
一つ目が低温浄留の技術を最大限に生かし、日本酒の香りを残した「浄酎 白紙垂」。
二つ目が三角島のレモンを加えた「琥珀浄酎」。
三つ目が蒸留した後に洋酒のように木樽で熟成した「浄酎 金紙垂」。
――浄酎-金紙垂や琥珀浄酎はまるでウィスキーのようですね。

はい。「新しいほどおいしい。1年以内に飲んでほしい」というこれまでの日本酒の概念を覆し、「時間が経つほど丸くなり、深みを増す」という時間経過を楽しめるお酒になりました。
――まさに日本酒の洋酒化ですね。常温保管が可能で時間を味方につけられるから、海外展開がしやすくなりそうです。

情報源が複数あるのですが、あるデータによれば日本酒の海外輸出実績は約500億円の一方で、ウィスキーの海外市場は10兆円規模と言われています。

――日本酒と比べてウィスキーの海外市場はケタ違いに大きいですね。

日本酒の酒蔵は、小さな市場を奪い合って廃業を余儀なくされてきました。次の一手として低温浄溜ⓒによる浄酎に取り組めば、巨大なウィスキーの市場に軸足を変えて勝負をすることができます。もう一つ、低温浄溜ⓒの過程で生まれる副産物もビジネス拡大のカギを握ります。

■副産物の活用
――副産物ですか?

釜で日本酒を低温蒸留してアルコール分や日本酒の豊かな成分が抽出されたあと、釜の中には抽出・揮発されなかったものが残ります。茶色い水あめのような見た目なのですが、成分を解析したところ多様なアミノ酸が含まれていることがわかりました。日本酒は米を醸してつくります。アルコール分が抜けた後の、まさに「発酵」の副産物であり、天然のアミノ酸エキスを生産できるのではないかと研究を続けています。

――アルコールが抜けた後の天然アミノ酸エキスというのは面白いですね。

天然アミノ酸エキスの効能は幅広く、例えば「子どもたちの腸活」や、「高血圧の人の血圧を下げる」などの効果が期待されています。これらを「BIO TECH」として研究開発を続けています。ちなみに、発酵期間を長くとって丁寧に作られた日本酒ほどアミノ酸の良い数値がでています。経済合理性優先ではなく伝統に根付いた丁寧なものづくりをすればするほど付加価値が生まれるところが面白いと感じています。

――日本酒から、アルコールを嗜まない人たちの健康づくりに役立つ副産物ができるとは、面白いですね。

■日本酒の酒蔵を救う浄酎ビジネスモデル
ーーこれから目指していることを教えてください。

地域でつくられた日本酒を「低温浄留ⓒ」して、海外輸出に適した常温保管できる「浄酎」に仕立て、巨大な国内外のウィスキー市場に軸足を変えて勝負する。さらに副産物である「BIO TECH」から天然アミノ酸エキスで健康づくりに役立ててもらう。この浄酎ビジネスモデルが廃業の危機にある各地の酒蔵が生き残っていく次の一手になると考え、私たちの神石高原の酒蔵だけでなく全国に広げる取り組みをしています。

――横展開ということでしょうか。

そうです。その地域を代表する日本酒を「低温浄留ⓒ」することで、それぞれの日本酒が持つ豊かな風味を味わえる「浄酎」ができます。また、複数の日本酒をブレンドすることもできますから、ブレンデッドウィスキーのように、その地域の代表的な日本酒を組み合わせ、木樽で熟成させた「琥珀浄酎」ができます。地域の日本酒を活かした「浄酎」と「琥珀浄酎」で、オリジナルのブランディングも可能になるはずです。

――全国各地にナオライ浄留所が広まっていく夢が膨らみますね。

目標は現在ある約1,200の日本酒の酒蔵の50%と提携して、47都道府県にナオライ浄留所を設立すること。衰退する日本酒の酒蔵が生き残っていくための次の一手として、ぜひとも広めていきたいと思います。すでに、新潟県長岡市、石川県中能登町では計画が具体的に走り始めています。

――それは楽しみですね! 神石高原はもちろん、全国に広がっていくナオライ浄溜所を見に行きたいです。またお話を聞かせてください。



Naorai 代表 三宅紘一郎さんのインタビュー、いかがでしたか。
衰退する日本酒の酒蔵を救う革新的な取り組みをワクワクしながら聴かせていただきました。Public Mindは、各地のナオライ浄留所の取材などを続けていきたいと思います。

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