次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、全国各地で海に関するさまざまなイベント等を行う「日本財団 海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」は、2022年より三陸鉄道と協働で、岩手県内での海洋ごみ問題の周知啓発・対策を目的に、人気劇画「ゴルゴ13」とコラボレーションした特別ラッピング列車の運行、オリジナルごみ箱の設置を行っています。
(2022年のセレモニーの様子)
取り組み3年目を迎えた今年、日本財団 海野光行常務理事と三陸鉄道 石川義晃社長が本取り組みの背景や今後の展望をテーマに対談を行いました。
海洋ごみを削減し美しい海を守る。「ゴルゴ13」コラボ列車でインパクトのある啓発活動を目指す
海に流出するごみの約8割は陸域で発生していると言われており、発生の原因はごみの「ポイ捨て」等があげられます。このプロジェクトは、世界的に深刻化する海洋ごみ問題の周知啓発を図るために実施しているもので、三陸鉄道の列車に「ゴルゴ13」に登場する鋭い目線の主人公「デューク東郷」の絵をラッピングし、海洋ごみを減らすためにポイ捨てをしないよう、地域の方や観光で三陸鉄道を利用した方に呼びかけてきました。
海野常務:日本財団は世界的に問題となっている海洋ごみ問題を解決するための活動として、10年ほど前から「海と日本プロジェクト」を手掛けています。その一環として2018年から海洋ごみ対策のCHANGE FOR THE BLUE(CFB)事業をスタートし、ごみ拾い活動はもちろん、自然科学的、社会学的な調査研究なども含めて全国規模で進めています。三陸鉄道様とは2年半前から一緒に取り組んでいて、岩手県にゆかりのあるさいとう・たかを先生が描かれた「ゴルゴ13」のラッピング列車や、等身大のゴルゴが後ろに立っているごみ箱を設置していただいています。
石川社長:三陸沿岸にとって、美しい海は地域の宝であり重要な観光資源ですから、そのため、このプロジェクトは本当に素晴らしい取り組みだと思っています。最初に「ゴルゴ13」とコラボするお話を伺ったときには、海洋ごみとどう結びつくのか直ぐには想像できませんでしたが、意外性も含めて面白いと感じました。また、実際にラッピング列車のデザインを見たときには、一度見たら忘れられないほどインパクトが強かったことを覚えています。
海野常務:ゴルゴ13を選んだのは、岩手にゆかりがあることはもちろん、日常との“意外な親和性”を重視したためです。海洋ごみの約8割は街から出たものが川や水路を流れて行き着いたものなので、大半は日常のごみということになります。またゴルゴというキャラクターに関しても、非常に深く作り込まれた世界観を持つ作品なので、読んでいるうちに日常の中にゴルゴが実在しているような気持ちになってきます。
だからこそ長く愛され続けているのだと思いますし、そうした日常との親和性が高い魅力的なキャラクターを起用することで、より印象的な啓発活動につなげられるのではないかと考えています。特に「ポイ捨てをするな。海ごみは街から出ている」や「俺のうしろにごみを捨てるな!」というセリフは、ゴルゴ13ならではのインパクトだと思います。
多くの反響を得たラッピング列車。海洋ごみについての問題意識をより深く人々の心へ届けられると確信
地元住民や乗客から多くの反響を得た「ゴルゴ13」ラッピング列車ですが、「ゴルゴ13」のイメージを崩さず、伝わりやすいメッセージを考えることに当初は苦労したとのこと。また、ラッピング列車の取り組みは初めてだったため、デューク東郷のイラストの配置もだいぶ工夫を重ねたようです。
石川社長:ラッピング列車を初めてお披露目したときは、多くのメディアに取り上げていただきました。お客様からは「ゴルゴ13のラッピング列車に乗りたいから発着時間を教えてほしい」などの問い合わせもたくさんいただき、注目度の高さを実感しました。
また、ゴルゴの等身大パネルを付けたごみ箱は、三陸鉄道の主要駅である久慈駅、宮古駅、釜石駅、盛駅に設置していて、ここで記念撮影をされる人も多いようです。これは余談になりますが、このラッピング列車を見たことがきっかけで三陸鉄道へ入社を決意した社員がいて、今は運転士として活躍しています。
海野常務:それはすごいですね。
石川社長:近年は全国の地方鉄道で運転士不足が共通の課題となっている中、思わぬ所でうれしい効果がありました。
海野常務:三陸鉄道様の場合は、インバウンドの利用も多いと思います。海外では、漫画を通して日本の文化や語学に興味を持つ人が珍しくなく、それが高じて通訳やガイドの仕事に就く人もいるようです。漫画は世代を問わず受け入れやすいコンテンツですし、特に若い世代に対しては環境や政治の問題などをわかりやすい言葉とストーリーで表現しているため教育的な効果もあります。
そういった面から見ても、ゴルゴ13のようなインパクトのあるキャラクターを通して海洋ごみ問題を伝えることで、より深く、より多くの人の心に届けられるのではないかと思っています。
今後の展望は、より多くの地域と連携しながら、海洋ごみ問題解決に向けた取組みの輪を広げること
海野常務:私たちは三陸鉄道様をはじめ、全国各地の企業様や行政の皆様と協力しながら活動しています。今後もさまざまな取り組みを通して、海洋ごみは身近な所から出ていることをご理解いただくとともに、一人一人の心の在り方次第で美しい海を維持することができるのだということを伝えていきたいです。そのためにも三陸鉄道様のように、観光客や地域の皆さんに見ていただいて行動変容を促すきっかけになるような機会を増やしていけたらと思っています。
石川社長:三陸鉄道の沿線には、きれいな海が見えるスポットがいくつかあり、一時的に列車を停めたりゆっくり走ったりすることで乗客の皆様に三陸の絶景を眺めていただいています。
また、地元のサッカーチームとコラボをして、子どもたちを対象としたサッカー教室を開き、その中で海のごみを拾う時間も設けました。今後もたくさんの方々に美しい海を見ていただくことはもちろん、海洋ごみに関する体験の場を作ることで、環境に対する意識付けに貢献できればと考えています。三陸鉄道と日本財団様のコラボにより、海洋ごみ問題を解決するための取り組みが着実に進んでいます。
ゴルゴ13 との協働による特別ラッピング列車や、ごみ箱設置といったユニークな活動が地域に浸透し、多くの人々に海洋環境保護の大切さを伝えています。今後、より多くの地域と連携し、この取り組みがさらに広がることを期待しています。
対談についてまとめたリーフレットは三陸鉄道各駅・岩手銀行で無料配布いたしますので、多くの方に見ていただければと思います。(なくなり次第配布終了)
三陸鉄道株式会社 代表取締役社長 石川義晃
1962年、岩手県宮古市生まれ。岩手県庁に入庁後、教育、交通、観光、防災等の業務を経て、沿岸広域振興局長、文化スポーツ部長、政策企画部長などを歴任。2022年4月に三陸鉄道株式会社 代表取締役社長に就任。
日本財団 常務理事 海野光行
海洋事業部を統括。「次世代に豊かな海を引き継ぐ」をテーマに「海と日本プロジェクト」などのさまざまな事業を展開。国内外における、政府、国際機関、メディア、企業、大学、研究機関、研究者、NPO・NGO等とのネットワークを駆使してソーシャルインパクトを生み出し、地球環境問題をはじめ、海洋において国際的なイニシアティブを発揮できるよう、新しい時代を創るプロジェクト開発や戦略的パートナーシップの構築を進めている。
CHANGE FOR THE BLUE
国民一人ひとりが海洋ごみの問題を自分ごと化し、”これ以上、海にごみを出さない”という社会全体の意識を向上させていくことを目標に、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として2018年11月から推進しているプロジェクトです。
産官学民からなるステークホルダーと連携して海洋ごみの削減モデルを作り、国内外に発信していきます。
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。