東京都中央区銀座に本社を構える株式会社東京中央建物は、1997年の創業以来、不動産業界で着実な成長を遂げてきた一方で、バブル期の名残をいまだに残し、前時代的な慣習、社員の高齢化などたくさんの課題を抱えていました。
そんな東京中央建物は今、転換期を迎えています。2021年4月、創業者の息子である三田正明が代表取締役社長に就任し、「第二創業」を掲げブランディングを会社の軸にして、大胆な改革を進めているのです。一口にブランディングといっても、大企業が取り組むブランディングと、中小企業が取り組むべきブランディングでは、アプローチの仕方が異なります。社長就任後3年が経ち、自分たちの規模や特徴を踏まえた改革が実を結び、社員の若返り、採用の改革、若手社員の活躍、SUUMO AWARD2年連続受賞、直近10年では最高売上記録を達成するなど、目に見える結果が出始めました。
本記事では、事業承継を機に始まった東京中央建物の変革と成果についての「第二創業ストーリー」を紹介します。
1. 深刻な課題を抱えた会社の若返りのために。二代目社長就任への決意と、掲げた「第二創業」
東京中央建物現社長の三田正明は、1999年大学卒業後、就職氷河期であったこともあり父のすすめで東京中央建物に入社しました。自身のことを「決して優秀な社員ではなかった」と三田は語ります。
入社後は周りから「次期社長」「二代目」と言われるものの、営業は得意ではなく、期待によるプレッシャーに押しつぶされ、営業時代の10年間はパッとしない社員だったと言います。営業では「7回連続キャンセル」「平社員降格」など、ネガティブな記録もうちたてました。卒業後そのまま入社したこともあり、他の会社を知らないことはコンプレックスのひとつでもありました。自分が社長になるとは正直考えていなかったのだと言います。
ただ、自身が常務になり、45歳になったときに、会社を見回し自問自答して愕然としたのだと言います。「もしも、自分がいま転職を考えていたら、東京中央建物に入社したいか?」「もしも、知り合いが仕事を探していたら、東京中央建物を勧められるか?」自分に問いかけたとき「答えはNOだ」と思ったのだという。「自分が役員をしている会社なのに、ひどい矛盾だと思いました」三田は続けます。
覚悟のきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言下。「出勤できない状況で、社員の健康診断の手配をしているときに、会社の平均年齢が49歳だと知りました。そのとき、自分が社長になる以外に会社の未来はないと強く感じたんです」と振り返ります。
アナログ、根性論がまかり通り、前時代的な慣習に縛られ、若手の離職や深刻な社員の高齢化、社内制度や人事面にも深刻な問題を多数抱えていたのだと言います。深刻な人手不足でありながら、若手は接客すらさせてもらえずチラシ配りばかり。会社の未来を担うはずの若手はまったく育っていませんでした。「上が変わらなければ、会社は何も変わらないだろう」そう思った三田は、逡巡したのだそう。役員のなかで最年少である自分が社長になるしか、道はないのではないかと。不安や葛藤を感じながらも、あとは自分が覚悟を決めるしかないと社長就任を決心しました。
2020年6月29日の幹部会議で、「会社の若返りのために僕が社長をやる」と宣言。自分の元上司ばかりのなか、社長就任のための準備を進めていきます。同年8月には全社会議で、社員に向けて社長就任への決意表明を行いました。そして、2021年4月、正式に代表取締役社長に就任。「第二創業」という言葉を掲げ、会社の大きな変革に着手しました。
2. 事業承継後の主な変革
三田は社長に就任して3年間、さまざまな改革に取り組んできました。どのような取り組みが、どんな想いでなされ、会社はどのように変化してきたのかを以下にまとめます。
a. 社員の平均年齢をマイナス4歳に。最初に着手したのは「第二創業」「未経験」を強く打ち出した採用戦略の刷新だった
社長就任後、最初に取り組んだのが、採用戦略の見直しでした。社長就任の宣言をした2020年から、営業の採用も自身が担当することにしました。それまでの経験者採用から、未経験者採用へと大きく舵を切りました。
「リスタートにふさわしい、擦れていない、業界のクセの付いていない人材を採用したいと考えました。そのため、『第二創業のメンバーを募集します』というメッセージを前面に打ち出しました。ちなみに未経験は営業未経験・業界未経験の両方を含みます」と三田は語ります。
あれもこれもとメッセージを重ねず、「第二創業」「未経験」を最優先にしたこの新しいアプローチは功を奏し、応募者が大幅に増加しました。採用面接では、自身が直接面談をし、東京中央建物の未来を担う若手を採用したいと自分の口で伝えました。
選考の結果女性・20代を含む4名の若手を採用しました。社長就任前後で、社員の平均年齢はマイナス4歳、若返りました。なぜ優秀な人材が採用できたのか、なぜそもそも応募してくれたのか、を三田に尋ねるとこんなことを回答してくれました。
「自分たちが目指したい会社の姿、ビジョンを明確に説明できたことが理由だと思います。募集でもあれもこれもと欲張らず、『第二創業』と『未経験』の言葉のみを強く打ち出しました。会社の目指すものを明確にし、言葉で表現できたのは、会社をブランディングする過程で研ぎ澄ませていった一点に“絞り込む”感覚が役に立ちました。ブランディングの成果だと思います」と三田は語ってくれました。
年に1度、社員を表彰するアワードもリブランディングして開催
b. 「サーバントリーダーシップ」の考え方を取り入れ、社内制度や研修を大幅に拡充し、働きやすい環境づくりを推進
採用戦略の変更と並行して、社内の制度や研修も大幅に拡充しました。従来行っていた研修を整理して、ネーミングも刷新。3つの研修制度にリニューアルしました。
1)TCT ACADEMY:社内知識の共有を目的とした研修
2)CORE COLLEGE:ベテラン社員のノウハウを共有する隔週開催の研修
3)CULTURE MEETING:社員によるプレゼンテーションを含む全体会議
研修制度の根幹には三田のこんな考えがあるのだと語ってくれました。「一人ひとりが役割を持って、スポットライトがあたる、活躍できる場をつくりたかったんです」自分自身が先頭に立って引っ張るリーダーシップは自分には合っていない。そう考え、リーダーとしての自分の在り方を描いたときにしっくりきたのが「サーバントリーダーシップ」の考え方でした。
サーバントは奉仕者を意味し、支援型リーダーシップと訳されます。社員の成功の後押しをする後方支援型のリーダーシップ像です。ベテランと若手が融合する研修制度を目指すこれらの取り組みにより、社員間の相互理解が深まり、風通しの良い社風づくりにつながったのだと言います。若手の活躍はもちろん喜ばしいことですが、60歳を超えた営業パーソンが現役で活躍していることも当社の自慢のひとつです、と三田は語ります。
また、経理・財務を担当していた役員時代から、働き方改革に着手していたことが現在につながっています。完全週休二日制の導入や残業時間の削減など、働きやすい環境づくりを進めました。サービス残業がまかり通り、残業の概念すらあやふやだった時代から大きく変わり、現在は月の平均残業時間は8時間まで減少しました。またコロナ禍以前から、社内のデジタル化・DX化をひそかに推し進めていたことは、コロナ禍に社内運営の力になったと言います。
c. 若手社員の割合は大幅に上昇。売り上げ成績の上位を若手社員が独占するという快挙を達成
新たな採用戦略と研修制度の相乗効果により、若手社員の活躍が目覚ましくなっています。2023年度の営業成績では、2020年三田が採用方針を変えてからの1期生となる入社3年目の2名が売上成績で1位・2位を独占するという快挙を達成しました。
ちなみに両者とも、営業未経験・業界未経験からの採用でした。1位となったのは平岡香織。「第二創業への期待感が入社の決め手でした。三田社長が会社を変えようとしていることが伝わり、自分もその一員になりたいと思いました」と入社の理由を語ります。
東京中央建物 営業部 平岡香織
三田は、採用面接のときのことをとても印象的に覚えていると言います。面接に入ってきた瞬間に「絶対にこの人に入社してほしい」と思い、自身の第二創業に対する熱い思いを伝えたのだとか。「女性のリーダーとしてこの会社で活躍してほしい」と三田が語ったことを平岡も鮮明に覚えていると語ります。
三田の社長就任前(2018年9月時点)12.5%だった20代~30代の割合は、2024年10月時点35.7%まで上昇しています。「若手が活躍してくれているのはもちろん嬉しいです。また自分たちが成果を残してくれているだけではなくて、この会社の発展を願ってくれている、改革に賛同して会社の挑戦を応援し、協力してくれていることもありがたいなと思っているんです」嬉しそうに語ってくれました。
3. 音楽をキーワードにターゲットを絞った、東京中央建物の未来を担う自社ブランド「RITMO the CONDO」
東京中央建物は、既存事業の強化だけでなく、新規事業にも積極的に取り組んでいます。音楽を愛する人に向けた中古マンションのリノベーション事業「RITMO the CONDO(リトモザコンド)」です。
音楽をキーワードにターゲットを絞ったブランディングを行ったリノベーションマンションシリーズです。世界観を大切にして商品開発を進めています。2022年にブランドがデビューしてからトライ&エラーを繰り返し、ノウハウを蓄積。必勝パターンのようなものが見つかり、新規事業の成功イメージが描けてきた状況です。「RITMO the CONDOは会社の未来を担う商品だと社員が理解してくれています。最初はブランディングのコンサルタントに伴走してもらいながら進めていましたが、世界観を社員が理解し始め内製化が着実に進んできています」と三田は語ります。
広報を担当する経営企画室佐川晶は「社長がぶれずに成功させる覚悟を持っていることも、社員の士気を高めています」と語ってくれました。会社をブランディングする、という経験を社員が一度しているので、新規事業のブランディングはある意味2回目のブランディング。社員の共通理解が早い段階でできたのが成功要因だと思いますと佐川は続けます。三田はこう語ります。「RITMO the CONDOはまだまだこれからですが、東京中央建物の未来を担う自社ブランドに成長してくれると信じています」
音楽を愛する人に向けたリノベーションブランド「RITMOtheCONDO」の第一弾物件
4. 若手の活躍・研修制度改革の結果、お客様の満足度が向上。SUUMO AWARD2年連続受賞の成果を収める
東京中央建物の事業承継後の改革の成果として、SUUMO AWARDの2年連続受賞が挙げられます。接客満足度部門にて、大手が名を連ねるなか中小企業としては唯一、2023年最優秀賞を受賞、2024年にも優秀賞を受賞しました。
分譲マンションを成約したお客様からのアンケートに基づいて受賞が決定するというこの賞。「説明の丁寧さ」、そしてお客様の背中を押す「説得力」が評価されました。事業承継にあたって未来を担う存在として2021年に入社した若手社員の活躍、それに刺激を受けたベテラン層の活躍、販売件数の増加が要因として考えられます。東京中央建物では営業の決まったマニュアルなどは設けておらず、個性にあった多様な営業スタイルを許容しています。
ただ、三田の改革のひとつとして始めた研修制度(CORE COLLEGE)では、小手先のテクニックやノウハウではなく、営業の本質を問う研修を行っています。CULTURE MEETINGでは社員がプレゼンを実施する機会を増やしたことが、お客様へのプレゼンや提案の向上にもつながったと考えています。若手の活躍、研修制度の改革が、結果的にお客様の満足度アップにつながり、SUUMO AWARD受賞にもつながったと分析しています。
「SUUMO AWARD」表彰式の様子(2024年6月5日株式会社リクルートより提供)
5.「不動産業界の常識にとらわれず、一人ひとりが輝ける会社をつくりたい」。東京中央建物が描く展望
三田は就任以前を思い出してこう語ってくれました。
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「自分が社長になろう」と決めたとき、僕の耳に聞こえていたのは「社員の悲鳴」でした。名ばかりの役職、自分の役割が分からない不安、評価基準の不透明さ、接客の機会がない、研修制度がない…。ではどうなってほしいのかを考えたとき、仕事に楽しさややりがい、誇りを持ってほしい、達成感や成長のプロセスを感じてほしい、たくさん稼いでほしいし、充実したオフも過ごしてほしい。そう思ったら自分が願うことは、社員の願いや思いと一緒のはずだと思ったんです。まだまだ制度的に不完全なことも、できていないこともたくさんありますが、このとき思ったことや、社長になると覚悟したときの気持ちを忘れずに会社を良くしていきたいと思い続けています。
オフィス改革、働き方改革、情報発信、DX、SDGs、就任3年でたくさんのことにチャレンジしてきて、成果も出始めていますが、まだまだ道半ばです。やってきた施策を検証し、課題を抽出して、対策を考え実施する、PDCAの必要性を痛感しています。当たり前のことを当たり前にできるように仕組みをつくろうと、2024年は経営企画室を立ち上げました。私の右腕となって会社の経営をサポートしてくれる存在です。中小企業も事業承継でここまで変われる、成果を出せるという好例になれるように、今後も改革を進めていきたいと思っています。
ちなみに、実は社長就任の覚悟を決めたときに最初に始めたことのひとつが、自分自身の見た目を変えること、パーソナルブランディングでした。経営者として自信をもって強くなれるように見た目をガラリと変化させたんです。「社長も変わろうとしてる」ということが口だけでなく行動からも伝わることも大切なことかなと思っています。自身のビジュアルのBefore/Afterはある意味持ちネタのひとつです(笑)。会社を変えていきたいと思ったとき、誰よりも社長自身が変わろうとしているということを、目に見える形で示していくことが大切だと私は考えています。
パーソナルブランディングに取り組んだ三田のBefore/After
最後に、社長に就任して3年目を迎え、経営の大変さや難しさを身に染みて感じてもいます。先代社長である父の偉大さを改めて感じています。自分が社長になることを決意したとき、背中を押してくれたのは父でした。これまで東京中央建物を支えてきてくれた方、入社してから伸び悩んでいた私を根気強く指導してくれた当時の上司たち、お世話になった方々へのリスペクトと感謝を持ちながら、この会社をもっと良くすることで恩を返していきたいと思います。社員は、ともに学び、ともに挑戦し、ともに喜び、ともに成長し合う仲間です。私たちの挑戦はまだまだ続きます。
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東京中央建物の事業承継は、単なるバトンタッチではなく、会社の大きな転換点となりました。社長である三田のリーダーシップのもと、採用戦略の刷新、社内制度の充実、若手の登用、新規事業への挑戦など、多角的なアプローチで会社の変革を進めています。「不動産業界の常識にとらわれず、一人ひとりが輝ける会社をつくっていきたい」と三田は強く語ります。東京中央建物は今後も変化し続けます。
東京中央建物社内のスタジオでスタッフと一緒に
株式会社東京中央建物
本社所在地:〒104-0061東京都中央区銀座2-13-19 銀座アルカビル 4F
代表取締役:三田 正明
設立:1997年10月16日
資本金:4,500万円
HP:https://www.t-c-t.co.jp/
東京中央建物
[HP] https://www.t-c-t.co.jp/
[instagrram] https://www.instagram.com/tokyo.chuo.tatemono/
RITMO the CONDO
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