千葉県で害獣として駆除された野生動物の皮を資源として活用し、獣害対策や農業の現場に還元するサーキュラーエコノミーの仕組みづくりを目指しています。今まで借りていた原皮保管用冷凍庫および作業所が使えなくなったため、新たに作業所を整え、今後安定した持続的な皮活用を行う取り組みにチャレンジします!
地方の少子高齢化は今すごいスピードで進んでいます。
私が今住む三芳村で四季折々の美しい田園風景をつくっている農家さん
そのほとんどが60~70歳以上です。
おととし、家の周りの田んぼを耕していた農家さんが亡くなりました。
あっという間に耕作放棄地が増え、イノシシが闊歩しています。
そのイノシシが、ほかの農地を荒らし、獣害問題につながっています。
今頑張っている農家さんが頑張れているうちに
この地域の景色を、農家さんを、田畑を守る「しくみ」と「仲間」をつくりたい。
その思いから自分にできることを模索して始まったプロジェクトです。
私は千葉県館山市と南房総市にまたがって地域の里山素材を活用したものづくりをしている大阪谷未久(おおさかだにみく)と申します。
今は主に千葉県内にて捕獲駆除される野生動物の廃棄される皮を活用した革製品の製造をしています。
私は、千葉県佐倉市というところで幼少期を過ごし、早稲田大学に進学しました。
そこで、千葉県南房総の「三芳村」という地域へ農家さんのお手伝いを行うイベントを企画運営する学生団体に所属。日本有機農業先駆けの地であり、50年もの間地域的に有機農業をグループで行っている三芳の農家さんたちにほれ込み、農業に興味を持つようになりました。
大学生当時の稲刈り・はざかけ援農
そのため、卒業後は農業の情報が集まるところを意識して、農家向けの情報雑誌を出版する会社で編集者として就職。就職してからも週末お手伝いに三芳村に通っていました。そのうち、農家さんからだんだんと「今日もイノシシにやられたよ」という声を聞くようになり、獣害問題を意識するようになりました。
イノシシに入られた田んぼ。稲が倒されたのは一部分だが、
獣臭がお米について全体が出荷できなくなる。
私は、学生の頃から通った南房総や館山という地域が大好きなのですが、そんな地域の風景がだんだんと変わりつつあります。高齢化や鳥獣被害を要因に農家が減り、耕作放棄地や放棄竹林、空き家が増え、季節ごとに表情を変える美しい田んぼが一年ごとに失われていきます。
放棄竹林の様子。倒れた竹が日差しを遮り新しい植物が育たない
地域の美しい農村風景を50年先、100年先の未来に繋ぎたいですが、自分一人ではできることがあまりにも少ない。そもそもの「地域に人が少ない」という現実を変えるために、里山の魅力あるものを発信して、少しでも多くの人たちがこの地域に興味をもってくれるきっかけを作りたいと思いました。
そんなおり、かねてから狩猟や解体を教えてくれていた方が、館山でジビエセンターを立ち上げることとなりました。その際、「ジビエとして食肉を流通させるうえで出てくる皮や骨の産業廃棄物の利活用をやってくれないか」とお話をいただき、2022年3月、「館山ジビエセンター」の指定管理者である、合同会社アルコに転職しました。
捕獲者が苦慮する駆除個体の処理の部分について、肩代わりの機能を持つジビエ加工処理施設。しかし、ジビエ加工処理施設が経営を続けるためには、駆除された動物たちのお肉を売るだけでは厳しいのが実情です。そこで、そのままだと産業廃棄物となってしまう皮や骨を製品化しようという取り組みを始めました。
イノシシ、キョンの原皮。この状態は肉と一緒で腐っていきます。
当初、革製品製作のスキルはもちろん、「皮」をどのように「革」にするのかという知識もないままに活用を考えねばなりませんでした。しかし、とある縁で東京の両国にある100年続く革小物製作会社「東屋」さんがジビエに興味を持ってくださり、出向という形で修業をさせていただけることになりました。
そのため、ジビエ事業を始めて3年ほどは月の半分は南房総、もう半分を両国で仕事をする二拠点生活を行っていました。
同じ思いの仲間と立ち上げた「シシノメラボ」
ジビエレザーの製品化を進めていく一方で、個人の活動としての限界も感じており、横の連携を強めたいと考えていました。
シシノメラボは、そんな思いを持った害獣として駆除された野生動物の皮を素材として扱う革職人3名で立ち上げた千葉県ジビエレザー協議会です。「環境負荷が少なく、土に還すことのできる革」をテーマに「チバレザー」という地域的なブランドを創ろうとしています。
私がジビエレザーの加工をお願いしているタンナー様は、世界トップレベルの安全な繊維製品の証“エコテックススタンダード100”を取得しています。350を超える有害化学物質が対象となる厳しい分析試験にクリアした製品だけに与えられる世界最高水準の安全規格です。もちろん、最後は土に還すこともできます。
皮に「レザー」としての価値をもたせることで、その命を余すことなく地域経済に還元できる方法を模索し、「地域のなかで捕獲する、そのお肉を食す、革を作って地域のことを学ぶ、その素材を土に還す」という地域資源の循環の実現を千葉県という大きなつながりのなかで目指しています。
独立と店舗オープン
ジビエレザーの製品化を試行錯誤してから3年。たくさんの方々のおかげで、少しずつ革製品を販売できるようになってきました。そして、さらに縁がつながり、2024年4月には館山駅近くの廃ビルをリノベーションした複合施設「YANE TATEYAMA」の1区画を借りて店舗兼工房である「atelier lab.伝右衛門製作所」をオープンすることとなりました。その際、東屋さんがなんと油圧式裁断機をゆずってくださり、定量的な革製品の製作が可能になりました。
ジビエレザーを始めてから、やはりもっとたくさんの人に気軽に触れてほしい、そして地域のことを伝えたい、という思いを実現するための大きな一歩を踏み出すことができました。
皮革事業を継続するための原皮保管所の建設
たくさんの方の応援で少しずつですが確実に一歩一歩進んでくることができました。しかし、一方で、今大きな困難にも直面することとなってしまいました。
革の加工をするには、最低30枚以上のロットが必要です。今のところ1か月に集まる革は10数枚程度ですので、ロットが溜まるまで原皮(剥いだ状態の皮)を保管しなくてはいけません。今までは、農家さんから大きな冷凍庫及び加工所を借りて保管と作業をしていたのですが、とある事情でこの5月にその施設が使えなくなってしまいました。
このままでは今年の皮の保管ができず、回収できない皮は廃棄となり、来年以降のジビエレザー事業が立ちいかなくなってしまいます。
そこで、かねてより空き家活用をしようと購入していた築80年の家を改装し、原皮保管と加工ができる作業所を新たに立ち上げることにしました。店舗名にも入っている「伝右衛門(でんえもん)」という名前は、南房総市に購入したこの空き家の屋号が由来。
空き家となった古民家は野生動物が安心して繁殖してしまう場にもなり、里で生きる野生動物が田畑の食害をしてしまい、いわゆる「獣害」につながっているという一面もあります。そのため、空き家は改装して使うか、解体するかのアクションが迫られている地域課題でもあります。だからこそ、原皮の加工所は空き家を改装して作りたい、と思っています。
空き家の現在の様子。
ただ、空き家の期間が長かったこちらの家はシロアリ被害や屋根の腐敗などに曝され、改修には1500万円以上と非常に大きなコストがかかることが分かりました。
全部の改修が難しくとも、水道と電気を通して土間にコンクリートをうち、皮を洗浄する作業スペースの改修と保管用の冷凍庫・冷蔵庫の設置を今年度中には行いたいのですが、それにも500~600万円ほどかかる見通しです。
まだ事業を始めたばかりで、大きな金額がすぐには用意できないため、皆様からのご支援をいただきたく、今回クラウドファンディングを立ち上げる運びとなりました。
未熟なところも多く、たくさんの人に支えられながらではありますが、自分ができる限り邁進していきたいと思っておりますので、ご支援のほどを何卒よろしくお願いいたします。
駆除だけではない里と山が共存する未来
獣害対策から出てきた皮の活用は、それ自体が獣害を減らすことはできません。
私が目指しているのは、田畑を荒らす動物を駆除するだけではなく、そもそも動物が出てくる地域のしくみ自体を変えていくところにあります。
今地方では人口減少がとてつもない勢いで進んでおり、今まで利用していた山に人の手が入らなくなったことで竹林の繁茂や高齢木の枯死などが進み、動物にとっても住みづらい環境となっています。
また、農家も減って耕作放棄地や空き家が増えてきています。
その結果、食べ物を求めて山から下りてきた動物たちが、耕作放棄地や空き家で安心して身を隠し、繁殖しながら田畑で栄養価が高くおいしい作物を食べていってしまうのです。
①荒れた里山を動物たちが生きていける山に戻すこと
②耕作放棄地の草刈りをきちんとすること
③空き家を活用するか解体すること
④田畑を動物が入れないように頑丈に守ること
の4点をしっかりと行い、動物と人との境界線をしっかり引くことで動物たちを駆除しなくてもよくなる未来が見えてきます。
しかし、少子高齢化が進む地域内ではもはや根本的な対策を行う余裕がありません。一方で、自然から離れた都会では、農業や狩猟などの原体験を求めている人が多くいます。だからこそ、獣害対策から出てきた革製品を含めた地域資源を活用した取り組みで興味をもつ地域外の人を呼び込み、人手と資金を地域に還していきたいのです。
肉から皮までの活用に取り組む合同会社アルコと目指す「館山ジビエ」の循環図
そこで、山と近い場所に作る加工所はいずれはイベント会場や宿泊施設など複数の機能を持たせ、地域の外から人を呼んで、大学時代からやってきたように一緒に草刈りや里山整備、田畑のお手伝いを行うイベントを定期的に開催したいと思っています。今も定期的な開催は行っているのですが、拠点ができることでより多くの人に地域を楽しんでもらえると考えています。
加工所が目指したいすがた
現在の準備状況
現在、築80年の空き家を少しずつ自分たちの手で工事が入りやすいように整えています。
すでに工事車両が入る道の整備や不要な部分の解体なども進めています。
イノシシは千葉県では一度絶滅したといわれています。数十年前に人が離して増えたといわれています。畑では作物を根から掘り返し、農道も崩してしまうため、地域では最も被害額が最も大きい野生動物です。山では固い土を掘り返して土をふかふかにする自然界のブルドーザーです。
その革は水や傷に強くて丈夫。欧州では親子3代で使えるほどといわれています。
もともと中国や台湾で生息する柴犬くらいの大きさのちいさいシカです。30年ほど前に千葉県内のとある施設で逃げ出し、大繁殖している外来生物です。跳躍力とその小ささから田畑の防御が難しく、葉物や苗の食害が多発しています。その革は、人工繊維では再現できないほど繊維が細く、z「革のシルク」ともいえる極上の手触りになります。
他にも千葉県産のシカ革もあり、製品はこの3種の革の長所が活きるように組み合わせてつくっています。
私の妹は「matagot(マタゴ)」というペンネームで活動している画家/アーティストです。
独特な色彩とタッチで生み出される唯一無二の世界観を描き出します。本プロジェクトのロゴや工房の壁画も彼女の作品です。
さらに、皮よりも活用が難しい骨への絵付けをするなどジビエ素材×アートの作品を多く生み出しています。そんな普段販売をしていない彼女の原画もリターン品として登場いたします。
2024年
10月 クラウドファンディングスタート
12月 電気工事スタート
2025年
2月 土間解体作業
3月 水道工事・土間打ち作業スタート
4月 冷凍庫・冷蔵庫の購入・設置
クラウドファンディングリターン発送
大阪谷さんに初めて会ったのはヤマナハウスでの狩猟イベント。参加者だった大阪谷さんはいつの間にかイベントスタッフになるほど積極的で、次にはヤマナメンバーとなり解体したキョンの毛皮で腰当を作って、それから獣害という課題に全力で向き合うために東京での仕事を辞めて南房総へシフトすると聞いて翌年には弊社で働いてもらっていました。その情熱と推進力、献身的な姿勢に応えなくてはと自分も引き締まりましたが、それを魅せるための芸術的なセンスも彼女は持ち合わせています。
彼女の「やってみたい!」というエネルギーは留まることを知りません。普通なら捨ててしまっていた野生動物の皮を、革製品としてよみがえらせ、さらにその売上を地域や自然環境の保全に還元するという、地域の課題を解決することと還元するためのアイデアを実践しています。
だからこそ、彼女の挑戦を応援していただけたら嬉しいです。突然の革事業存続の危機を迎えたこのクラウドファンディングは、大阪谷さんの未来の一歩を支えるものです。あなたの支援が、地域と自然を守るための力となり、新たな価値を生み出す原動力になります。大阪谷さんの夢を一緒に応援していただけると幸いです。
大阪谷未久は、いつも忙しい。
あれやこれやをたくさん抱えて、走り回っている。思わず「オオイソガシミク」なんて呼んでしまったこともあるくらいだ。そんな忙しい彼女がいま夢中になって取り組んでいることが、このクラウドファンディングにはぎゅっと詰まっている。
僕は「ヤマナハウス」というシェア里山の活動をしている。「自分たちが楽しめることを自分たちでつくる」を合言葉に、仲間たちと衣食住をDIYしたり、イベントや講座をつくっている。それが結果的に、里山だったり地域だったりの課題へのアプローチにもつながることを目指している。
大阪谷さんは、それを体現している一人だ。
彼女は三芳の有機農家に通い、ヤマナでジビエと出会った。そして、ジビエの革活用という、世の中的には限りなくニッチな事業に挑み、苦戦しながらも狭い道を突き進み、里山全体の素材活用へと道を拡げようとしている。それが彼女の楽しみかた、なのだと思う。
大阪谷未久は、いつも夢中だ。常にやりたいことやアイデアで頭がいっぱいで、その中を泳いでいる。まさに夢の中にいる。楽しいってのは、楽とは違う。忙しいけれど、心はなくしていない。夢中だからこそ、楽しい。
クラウドファンディングを通して、彼女の夢のなかを一緒に泳いでみませんか。みなさんの支援が彼女の夢を後押しし、地域を支える一助となることを願っています。
最後に
「野生動物の駆除」という現場に関わっていて思うのは、多くの人が動物を積極的に殺したいわけではないということです。やらなければならない現状が全国の地方に存在しており、多くの方が責任感や使命感のみで農業や獣害対策を支えています。
この現場が崩れれば、日本の農業そのものが成り立たなくなり、私たち一人ひとりの食卓に影響が出ます。しかし、どうしても地方からの情報発信は届かないことが多いため、革製品を通じて少しでも興味をもってもらえると嬉しいです。そして、革製品の一部売上は様々な形で農家さんや捕獲者さんに還元していきたいと考えています。「人」と「資金」が地域に還る仕組みづくりについて、応援と参画をしていただけると幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。