2024年6月17日、日本シグマックス株式会社としても、世の中としても初めてとなる、小型・軽量の超音波骨密度測定装置「LIAQUS(リアクス)ポータブル」を新たに発売しました※。
約7年もの月日を経て発売した「LIAQUSポータブル」。その開発に携わったメンバーに、製品開発の裏側と、医療機器であるLIAQUSポータブルを通して解決したい社会課題についてインタビューを行いました。
※自社調べ(2024年10月 医療機器として登録されている「超音波骨密度測定装置」として最小・最軽量)
ーLIAQUSポータブルのコンセプトを教えてください
「誰もが手軽に、自分の骨の状態を知ることができる社会を実現する」。これがLIAQUSポータブルが目指す姿です。
というのも、「骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折(骨がもろくなることによっておこる骨折)」は要介護度が上がる大きな要因であり、健康寿命と平均寿命のギャップの要因にもなります。それを予防するために、定期的に骨密度検診を受け、骨の状態を知っておくことが大事です。一方で、検診受診率は全国平均でたったの5.3%(※)と非常に低い状況です。
また、従来の超音波骨密度測定装置は10kg以上と、重く大きいため持ち運ぶことが難しかったほか、骨密度を測定するには、「受診者は測定装置が設置されている場所に行く」必要があったんです。
そこで私たちは、どうすればもっと多くの人が検査を受けるようになるかを考えました。その結果、測定装置を改良して、もっと手軽に検査ができるようにすることが一つの解決策だと考えました。
LIAQUSポータブルはQUS(定量的超音波測定法)という原理を用いて、骨を通る超音波の速度を測定し、骨量を推定します。
使い方はとても簡単で、測定時間は1人あたりたったの10秒程度しかかかりません。本体重量は約2kgと小型軽量なのに加え、バッテリーを内蔵しているので、電源がない場所でも使えます。「ポータブル」の名前が示すように、たとえば訪問診療で患者さんの家に持ち込んで測定するなど、あらゆる場所での利用を想定しています。
「時間がかからない」「場所を選ばない」「使い方が簡単」これらを実現したことで、より多くの人が骨の状態を知るチャンスが増えるのではと期待しています。
※公益財団法人 骨粗鬆症財団「
―愛称(ペットネーム)である「LIAQUS」の由来は何でしょうか?
骨を介して伝わる超音波の速度や減衰を測り、骨量を推定する方法の「定量的超音波測定法」を意味する「QUS(Quantitative Ultrasound)」と、骨粗鬆症リエゾンサービスを意味する「OLS(Osteoporosis Liaison Service)」のうち、「橋渡し」や「連携」といった意味合いを持つ「LIAISON(リエゾン)」が由来となっています。
実は、ペットネームのアイデアはLIAQUSのほかにも40種類以上考えており、計算するという意味の「calculation」と「QUS」を組み合わせた「CALQUS(カルクス)」や、「LIAISON」と超音波を意味する「ultrasound」を組み合わせた「LIASUS(リアサス)」も候補に挙がっていました。
ですが、本製品が骨密度の測定や骨粗鬆症の受診の必要性が高い人たちに受診の機会を創出する「橋渡し」となってほしいという想いから、「LIAISON」、「QUS」を組み合わせた「LIAQUS」という愛称に決まりました。
▲LIAQUSポータブル ロゴ。超音波骨密度測定装置であることが伝わるよう、
「Q」は製品から超音波が出ているようなデザインにした
―LIAQUSポータブルの開発はいつごろから始めましたか?
2017年1月にLIAQUSポータブルの「試作モデル」の開発を始めたのですが、実は開発から量産開始まで7年ほどかかっているんです。助成金を使った試作モデルの開発に4年、完成形である販売モデルの開発に3年に加え、販売モデルのなかでも5回以上試作を繰り返し、丁寧に丁寧に開発を進めました。
おそらく当社の製品の中で最も開発期間が長かったと思います。
―なぜ7年もかかったのでしょうか?
1番の理由は、持ち運べるほど小型軽量なQUSを開発するのが、当社はもちろん、世の中にとって初の試みだったからです。
品質や使いやすさには妥協したくなかったので、測定精度の検証や足を乗せたときの安定性には、特に時間を費やしました。
製品開発においては、医療機関に勤められている整形外科医や理学療法士、看護師の方に見ていただき、製品仕様や本体の操作性、当社が小型QUSの開発に取り組むことの意義についてご意見を頂きました。医療従事者の方々のご意見を組み込み、LIAQUSポータブルの開発を進めてきました。
また、小型QUSの開発期間がちょうどコロナ禍であったことも、時間がかかった要因です。
2020年春に新型コロナウイルスが流行し、緊急事態宣言が発出されたのに加え、世界的に半導体が不足したため、思うように開発を進めることができませんでした。コロナ前であれば1カ月以内に入手できていた電子部品が、コロナ禍では半年以上かかっていたんです。納期が150週(3年)の部品を見つけた時は衝撃を受けました。
それでも、社内外の関係者や取引先にあたって部品を集め、試作に必要な部品を何とか工面していました。
また、出社制限により開発メンバーや関係者が集まり対面での打ち合わせができなかったのですが、その代わりに、WEB打ち合わせで密に情報共有をして、LIAQUSの開発を進めました。
―開発するうえで苦労したことはありましたか?
まずはやはり製品本体の小型化・軽量化の実現です。
実現のためには、本体に内蔵されている電子回路基板を小さくする技術が必要でした。
これまでの製品開発では使ったことのない技術であり、LIAQUSポータブルの開発に必要な知識・技術を習得するために、セミナーや勉強会に何度も参加しました。
また、小型化・軽量化と製品本体の安定性は相反する部分であり、そこをどう克服するかで苦労しましたね。
片脚の重さは体重の約15%と言われており、体重60kgの人だと、片脚で9kg前後になります。LIAQUSポータブルの本体重量は約2kgと軽く、足置きプレートが前に飛び出した構造なので、測定の際に製品本体に足を置くと、重心バランスの関係で機器本体が前に倒れやすくなります。そのため、測定時に機器本体がぐらつかないよう、製品の底面の形状も工夫しました。
さらに、LIAQUSポータブルで骨密度を測定する際、受診者は椅子に座って測定するのですが、受診者が機器に足を置いたときに、姿勢がつらくならないよう、適切な角度を検討しました。
足を置いたときに負荷がかからず、かつ機器が倒れにくい角度を決められた時は、開発メンバーみんなで喜び合いました。
▲機器本体に足を置いたときの足の角度や製品の重心を何度も模索
あとは測定値に大きなばらつきが生じないよう、超音波プローブの開発にも苦労しましたね。
超音波は温度の影響を受けやすいです。このため、温度の影響を受けにくくなるよう、超音波を出したり受けたりするプローブという部分の先端の厚みや形状、材質を工夫することが必要でした。
そのため、ありとあらゆる環境パターンを作り検証を重ねることで、改善を図っていきました。
※LIAQUSポータブルには温度補正機能はございません。
▲超音波を出したり、受けたりする部分である「プローブ」
―プロジェクトを成功に導いた一番の要因はなんだったのでしょうか?
一番はチームワークですね。
LIAQUSポータブルは自社で設計開発した製品であり、デザイン検討の段階から多くのメンバーが関わっています。特に機器本体の開発においては、機械・電気・ソフト設計や薬事、取扱説明書の作成など、メンバーそれぞれの強みを持ち寄ったチーム体制で進めてきました。
以前自社で開発したQUS機器「ミネライザー」での開発経験やメンバーそれぞれの得意分野を活かしながら、互いに知恵を絞りあった結果、製品を完成させることができました。
▲それぞれの強みを持ち寄ったメンバーが、LIAQUSポータブルを開発
また、開発メンバー以外の、会社や当社社員の協力も大きかったです。
実は、LIAQUSポータブルは試作モデルの開発をした時点で、超音波骨密度測定装置として使用できる性能は満たせていたんです。しかし、操作レバーの位置や形状、足置きプレートの安定性といった細かな操作性・デザイン性にも妥協したくなかった。そんな思いを理解し、満足いくまで何度も時間をかけ、開発をさせてくれた会社にも感謝しています。
さらに、機器の測定数値の再現性を検証するため、多くの社外・社内の方に協力いただきました。
特に社内では、70人を超える社員に協力してもらい、本社オフィスで骨密度測定会を行いました。そこで再現性を検証できたのはもちろん、測定した社員から「こんなに小さい機器で骨密度を測定できるんだ」、「骨密度を知ることができてよかった」といった感想ももらえました。LIAQUSポータブルや自身の骨密度に興味を持ってくれていることも分かったんです。
これ以上にない製品を完成させることができたと感じたと同時に、LIAQUSポータブルが「骨粗鬆症やその予備軍を見つけ、診断・治療に繋げ、予防に貢献」することができる機器として、多くの人に使ってもらいたいと、改めて思いました。
―LIAQUSポータブルの開発において、特にこだわった点を教えて下さい
小型化・可搬性と使いやすさにこだわりました。
使いやすさという点では、実際に機器を使用する人の手間を減らすことができるデザインにしました。
足の大きさは人によって異なるため、試作モデルでは、足の大きさによって異なるプレートを用意し、付け替える設計にしていました。
ですが、持ち運ぶ手間や付け替える手間を考え、プレートのかかと部分についているゴムパーツで調整できる設計にしました。それにより、1つのプレートで受診者の足の大きさに対応することを実現できたんです。
▲試作モデル(左)と販売モデル(右) 足置きプレートの比較
また、初めて機器を使う人でも直感的に使えるよう、シンプルな操作で完結できる操作性にこだわりました。実際に販売しているモデルも、3つのボタンのみ操作してもらうだけで測定できます。
▲シンプルな操作性にこだわり、3つのボタンを押すだけで操作できる設計に
LIAQUSポータブルは、床に設置した機器本体にかかとを乗せ、かかとを2つのプローブで挟みこむ設計になっています。
プローブは、1つのレバーを上下することで動くのですが、試作モデルでは、機器本体の底面近くに2つのレバーを付けていました。いざ床に置いて使ってみると、操作しにくいことに気づいたんです。
▲試作モデル(左)、販売モデル(右)
床の上に置いて操作することを考慮し、レバーの位置は高く設計
また、使用者がレバーを掴んだり、レバーを上げ下げしたりする際に、直感的に行うことができるよう、レバーの形状や動かし方について何度も検討しました。
感覚は人それぞれ違うため、設計や部品形状の着地点をどこにするかを決めることは難しかったのですが、どんな人でも使いやすく操作がシンプルで分かりやすいと思ってもらえるような、そんな設計にする必要があると改めて感じました。
デザイン面においても、LIAQUSポータブルで骨密度の測定を受ける人が、装置に恐怖感を持たないようなデザインにしたいという思いがありました。そこで、丸みがありつつ開放的なデザインに決定しました。
▲LIAQUSポータブル 本体デザイン案。当初は4案ほど出ていた
―今後の展望を教えてください
まずはなによりも、この製品を多くの施設・自治体で導入頂いただき、できる限り多くの方に自分の骨の状態を知れる「スクリーニング」を受けて頂きたいです。そして骨粗鬆症を早期発見・早期治療できるようになることで、ひとりでも多くの方の健康寿命を延ばすことに貢献していきたいです。
医療機器には法規制があるため難しい課題ではありますが、ゆくゆくは医療機関以外でも気軽に導入できるような製品開発ができないか、方法を模索していきたいと思っています。
【LIAQUSポータブル 新発売プレスリリース】