業界初の製品開発に至ったきっかけは、苦手分野からの発想の転換。~ソフトモーションコントローラ『WMX』開発秘話~

2024.10.02 09:00
1998年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者によって創業されたモベンシス株式会社(旧ソフトサーボシステムズ、以下「モベンシス」)は、FA業界において最先端のソフトウエアベースモーション制御技術(以下「ソフトモーション」)を長年開発して、半導体製造装置等の各種装置メーカに提供してきました。
創立から26年、モベンシスはソフトモーション一筋で開発を続けてきました。2023年にはFA界の巨人・三菱電機株式会社と業務提携投資契約を締結するなど、年々大きな注目を集めています。
開発当初は顧客から「すごい技術だけど、導入するには10年早い、クレイジーな製品だ」と言われ、思うように採用が進まなかったソフトモーション技術。しかし今は「脱PLC」「PC制御・ソフト制御」がFA業界のトレンドとなり、ソフトモーション一筋で開発してきたモベンシスに追い風が吹いています。
「ハード」が主流だった時代に、なぜあえて「ハード」ではなく「ソフト」の開発を進めたのか。製品誕生までにどんな苦労を乗り越えてきたのか。創業者の梁(ヤン)に、話を聞きました。
梁 富好(ヤン ブホ)
京都大学工学部数理工学科卒業。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院機械工学科ロボット工学の分野で博士号( Ph.D. )取得。産業用ロボットなどの各種産業装置の制御機能を向上させる制御ソフトウェアを開発。その研究成果をもとに1998年、米国ボストンでSoft Servo Systems, Inc.を創業。その後、日本法人、韓国法人を設立し、代表取締役社長を務める。2023年3月からモベンシスグループ会長に就任。




――「ハード」が主流だった時代に、なぜ「ソフトモーション」の研究開発に至ったのですか?
ひとことで言えば、「ハードウエアコントローラが苦手だったから」です。
私は京都大学工学部数理工学科を卒業したあと、MITの大学院に入学しました。MITに誘ってくれた教授が機械工学専門だったため、その縁があって機械工学科に進んだのですが、それまで学んできた数学や物理、情報などと機械工学は毛色が違う。優秀なMITの学生たちはハードウエアコントローラを自分で作っていたけれど自分は彼らのように得意になれず、それならいっそのこと自分が得意なソフトでやっちゃえ!と思ったのが、きっかけのひとつです。ハードウエアは一度作ってしまうとシステム変更が難しいけれど、ソフトウエアは毎日でも変更ができるため、柔軟性が高いところも気に入りました。


もうひとつのきっかけは、ちょうどその頃にPCの性能が格段に向上したこと。それまでのPCのCPUはシングルコアしかなく、そのシングルコアでWindowsとRTXの両方を動かしていたけれど、マルチコアのCPUが発売されたことで状況が大きく変わりました。WindowsとRTXを分けて動かすことができ、リアルタイム演算処理の性能が大きく上がったのです。


世界中の天才たちが一堂に会するMITで切磋琢磨し、加えて時代の潮流にうまく乗ることができたため、市販PC・ソフトウエアだけで自由に制御理論を実装できる「ソフトモーション技術」の開発に至りました。
創業当初のソフトサーボシステム社(米国ボストン)


――弊社が現在販売しているソフトモーションコントローラは、主に半導体製造装置メーカに導入いただいています。当時から装置メーカをターゲットに開発していたのでしょうか?
当時は、工作機械を制御するコントローラであるCNCを開発していました。日本の大手工作機械メーカがMITのスポンサーのひとつだったことがきっかけのひとつです。そのためターゲットは今と異なり、工作機械メーカが主でした。
当時は、日本で初めてNC制御を開発したF社が圧倒的な採用率を誇っていました。独占的な市場で、製品も高価。そのため、工作機械メーカの多くはF社に依存する形となっていました。
その状態を改善するために、新しいPCでの制御を作ってほしいとMITに研究資金が送られたことも、もうひとつのきっかけです。


それから10年間ほどCNCでのビジネスを行っていましたが、結果は“それなり”。なぜなら我々の新しい技術がどれほど素晴らしくても、F社の仕様に慣れているエンドユーザーにとっては「使い勝手が良くない」と判断されてしまうからです。


一方で、CPUの性能が向上したパソコンの登場で、リアルタイム演算処置の性能がさらに向上しました。CNCは最大16軸しか制御できませんでしたが、『WMX1』※では最大64軸まで制御できるようになりました。
※現在販売しているソフトモーションコントローラ『WMX3』の旧製品版


これを機に弊社はCNC開発をクローズし、軸数が多く複雑な制御が求められる半導体製造装置メーカがターゲットとなる、汎用性の高いモーションコントローラの開発に切り替えました。こうしてソフトモーションコントローラ『WMX』が誕生しました。ただそれは今までのソースコードを全部捨て、文字通りゼロからの開発をすることとなったので、今思えば清水の舞台から飛び降りるような転換点だったと思います。
洗浄機・コータ&デベロッパ・検査機等で導入されています


――『WMX1』から現在開発販売中の『WMX3』に至るまでは、どのような苦労がありましたか?
韓国の大手半導体製造装置メーカ・S社に採用いただいた時のことです。
当時S社はEtherCATが使用できる製品を探しており、アジアで初めてEtherCATソフトマスタを開発した弊社に声がかかりました。しかしまだモーション機能が少なかった弊社の製品ではできることも少なく、機能充実が喫緊の課題でした。そこでS社と弊社は膝を突き合わせ、何度も何度もテストを行いました。その結果機能が向上し、S社の求める製品を提供することができました。
我々の技術を大きく向上させてくれたプロジェクトのひとつですし、技術が向上したおかげでWMXが世界発信コンペティションで東京都ベンチャー技術特別賞を受賞するという快挙を成し遂げることができましたが、当時のことを思い返すと本当に大変な日々だったことを覚えています。


また、弊社は“世界で初めて”CC-Link IE TSN・MECHATROLINK-4のソフトマスタを開発しました。この開発にチャレンジするにあたり、WMX1とWMX2ではアーキテクチャ的にネットワーク機能拡張に課題があり、せっかくなのでWMXアーキテクチャを設計し直すという決断をしました。それがきっかけで、弊社独自の最新ソフトモーションアーキテクチャが誕生しました。当アーキテクチャの特徴は、高度にモジュラー化されていて、さまざまなモーション機能やネットワーク機能の追加や連動が容易になるということと、WIndowsのような非リアルタイムOSとリアルタイムOS間の情報やデータのやりとりが最速、最適になるということです。ある意味ソフトモーションのコア技術と呼べる技術で、世界各国で25件以上のアーキテクチャ特許も取得できました。ここでもゼロからの開発に取り組んだので非常に大変でしたが、このアーキテクチャに基づいて開発されたWMX3は、モーション制御・通信の機能と性能、安定性が飛躍的に向上しました。ユーザも独自に制御機能の拡張や追加を容易にできるようになりました。


これまでの歴史を振り返ると、開発のきっかけや技術の向上の際には必ず苦労がありました。簡単なことなど何ひとつありませんでした。壁に直面して、そこから悩み苦しんだり、いったんゼロからの開発に立ち戻ったりすることで、ようやく新たな一歩を踏み出すことができたように思います。
それはもちろん私ひとりだけでできたものではありません。優秀なエンジニアたちの知能が合わさって生まれた傑物が、弊社の製品です。
弊社は現在業務規模拡大に伴い、エンジニアを積極採用しています。創業者・代表取締役社長として、そしてひとりの技術者として、新たな出会いを心よりお待ちしております。

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