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ロームは1954年に京都で創業した半導体メーカーです。抵抗器からはじまり、トランジスタやダイオード、ICと開発を進めています。最近では、脱炭素社会の実現に高効率化で貢献する半導体技術として期待されているSiCやGaNなど新素材のパワーデバイスの開発にも注力。
1971年には日系企業として初めて米国シリコンバレーに進出。現在では全世界に営業、開発、生産拠点を持ち、日本発のグローバル企業として歩みを続けています。
お客さまをはじめとする世界中のステークホルダーの皆さまから選ばれる企業になるためには、品質第一の考えを大切にしたものづくりが最も重要だとロームは考えています。今回は、次世代パワー半導体のひとつであり、アプリケーションの省エネ・小型化への貢献が期待される「GaNパワーデバイス」の実用化に向けた挑戦を紹介します。
通信分野などで期待が高まる次世代パワーデバイス「GaN」
化合物半導体であるGaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)は、次世代パワー半導体の材料のひとつです。半導体材料では一般的なSi(シリコン)デバイスより、GaNデバイスなら優れた高速スイッチング特性が特長でアプリケーションの省エネ化と小型化に貢献します。
主に100V~600Vの中耐圧かつ高周波で動作するアプリケーションで強みを発揮します。近年では特にスマートフォンなどの急速充電器やACアダプター、データセンターや基地局などの通信分野でニーズが見込まれています。
中でも世界の電力消費量の3%~5%を占めるといわれる通信分野は、今後AI用サーバーの増加や本格的な自動運転時代の到来により通信量が100倍にも1,000倍にも増えるといわれており、省電力化に寄与するGaNデバイスに期待が高まっています。
しかし、世界中がGaNに注目する一方で、「高品質な結晶を安定的に作ることが難しい」、「スイッチング速度が速く、扱いが難しい」といったことが長年の開発課題とされていました。
お客さまの声からみえたGaNデバイス開発の新しい方向性
ロームでは、これまでパワー半導体として、Siの高耐圧トランジスタやダイオードに加え、業界に先駆けてSiC(シリコンカーバイド)のトランジスタやダイオードを開発し、世の中に提供してきました。またSiC製品の開発と時を同じく2000年代からGaNをパワー半導体の材料に用いるべく研究開発を進め、GaNデバイスの性能を高めるために試行錯誤を続けていました。
そうした中、お客さまの話を聞いていると、GaNデバイスの採用に至らない本当の理由がわかってきたと、基礎研究の時代から15年以上にわたって第一線で開発に関わってきた大嶽(おおたけ)は言います。
「驚いたことに、GaNデバイスの採用に踏み切れていない理由の多くは、“扱いづらさ”にありました。
確かにGaNデバイスは非常に扱いにくいデバイスで、とにかく駆動がやっかい!というのが業界内でも半ば定説化していました。高周波におけるスイッチング特性がGaNの優位点なのですが、1MHzを超える領域の電源を安定して制御するには、GaNデバイス単体の特性だけを追求しても限界があるんです。
そこで、GaNデバイスとそれを駆動させるICを1パッケージ化するという新しい方向性が浮上してきました。そうすることでお客さまが安心して使える製品になり、GaN市場の発展にもつながるのではないかと考え始めました。」
パワーステージ商品開発部 GaNデバイス開発課 課長 大嶽 浩隆
ロームは総合半導体メーカーとして、これまでパワーデバイス単体での性能向上はもちろん、その性能を最大限に引き出すアナログIC(駆動IC・制御IC)や抵抗器などの周辺部品を組み合わせ、アプリケーションに合わせた最適なソリューションを提供してきました。GaNデバイスもアナログICとの両輪で事業化を目指し、2020年代からプロジェクトを立ち上げ、それぞれの技術とノウハウを持つ技術者を集結し、本格的な開発を加速させていきました。
お客さまが「扱いやすいGaN」の提供に向けて
お客さまが「扱いやすいGaN」の提供を目指し、GaNデバイスとアナログICの両方から検討しました。
GaNデバイス開発で取り組んだのは、業界の課題とされていた「高品質な結晶を安定的に作ることが難しい」、「スイッチング速度が速く、扱いが難しい」の解決でした。
課題1:高品質な結晶を安定的に作ることが難しい
GaNウエハの結晶を高品質かつ安定的に作ることが難しく、量産化の課題となっていました。しかしロームは早くからGaN材料を用いた青色LEDの量産実績と社内の知見を活かし、独自のデバイス設計技術とプロセス技術、製造技術のすり合わせなどの垂直統合型生産体制の強みを発揮することで、課題を解決し量産化の体制を構築できました。
ローム浜松株式会社(浜松市)のGaNウエハ製造ライン
課題2:スイッチング速度が速く、扱いが難しい
GaNデバイスは、ゲート耐圧(ゲート・ソース定格電圧)と呼ばれる電圧が低いため、高速でスイッチングする際に発生する一時的な高電圧(オーバーシュート電圧)がデバイスの劣化や破壊などにつながる可能性があり、問題となっていました。
一般的なGaNデバイスの多くは、5V駆動でゲート耐圧が最大6Vで電圧のマージンが1V程度しか確保できておらず、GaNデバイスの扱いが難しい要因のひとつとなっていました。
ロームでも回路内に抵抗器を追加する対策や、GaNデバイスと制御ICを同梱してモジュール化する対策など、課題を解決すべく約2年間にわたり試行錯誤を繰り返しました。こうした多角的な開発の中、偶然生じた失敗構造の特性から着想を得て、デバイス構造から製造装置までを大幅に見直すことで、GaNデバイスのゲート耐圧を業界最高※の8Vまで拡大することに成功。電圧のマージンが1Vから3Vの3倍になったことで信頼性が向上し、GaNデバイスの扱いづらさの解消にもつながりました。
コントローラ、ゲートドライバ、GaNデバイスの概略図
またGaNデバイスの開発と並行して、デバイス駆動に欠かせないアナログICの開発にも着手。
まず開発したのは、GaNデバイスを駆動させるのに必要なゲートドライバIC。GaNデバイス専用のゲートドライバICは世界でもそれほど多くはありません。そうした中2つの特殊な回路により、業界最速レベル(※)であるナノ秒オーダーの超高速スイッチングを実現できる、GaNデバイス専用のゲートドライバICを開発しました。
続いてGaNデバイスの超高速駆動を制御させるために必要不可欠な制御ICも開発着手。高電圧から低電圧への変換をひとつの電源ICで構成できるローム独自の電源技術「Nano Pulse Control™」を駆使し、GaNデバイスの超高速駆動を制御する技術確立に成功。
※2023年7月 ローム調べ
IC設計エンジニアとして「パワーステージ商品開発部」に参入した篠崎氏
GaNデバイスとその性能を最大限に引き出すアナログIC、この両方が提供できるメーカーは、世界でもローム以外にはそうはありません。こうした総合半導体メーカーならではのソリューションが、お客さまの求める「GaN」につながると信じ、今後も新しい技術・製品の開発を進めています。
Nano Pulse Control™技術の担当者として「パワーステージ商品開発部」に参入した安藤氏
お客さまからの信頼を積み上げて、GaNパワー半導体の価値を最大化していく
ロームは2023年にGaNデバイス・専用ゲート駆動用ドライバを1パッケージ化したGaNパワーステージICを開発。
今後の目標について、大嶽はこう語ります。
「2022年を皮切りにEcoGaN™製品を順次量産スタートさせてきましたが、これは我々にとってファーストステップに過ぎません。お客さまの現在のニーズ、将来的なニーズを的確に捉えた商品をご提案しながら、信頼をひとつひとつ積み上げていくこと。そして、お客さまが扱いやすいGaNパワーステージICをどんどん増やしていくことが、我々のミッションです。」
GaNデバイス市場は国内外の大手半導体メーカーも次々と参入を表明し、ますます活性化が予想されています。
そうした中GaNデバイスとアナログICの両方から「GaN」の価値を最大化していくメーカーとしてロームは存在感を発揮していきます。成長するGaN市場で、卓越した技術力と豊富なラインアップを武器にお客さまとともに歩み、常に未来を見据えた技術・製品を開発し続けます。ロームの挑戦は、これからも止まりません。
ロームの公式Webサイトでは、常に高い品質をお客さまにご提供するロームの「ものづくり」とそこに情熱を注ぐ人の物語を、動画でお届けしています。
省エネ・小型化を極めるロームの革新的な「Nano」電源技術 特設ページ
EcoGaN™及びNano Pulse Control™は、ローム株式会社の商標または登録商標です。