【AYA×ソイナース 代表対談】医療的ケア児や障がいのある子どもたちの〝お出かけ〟が当たり前になる社会へ向けて(前編)

2024.09.24 11:35
医療的ケア児や障がいのある子どもに寄り添う小児専門の看護師ケアリングサービス「ソイナース」を展開する株式会社Medi Blanca(東京都千代田区、代表取締役:横山佳野)は、2023年に「ソイナース」の利用者32名の両親に対し、家庭内での医療的ケア児のケアや「医療的ケア児支援法」に対する満足度などについて調査を実施。アンケート結果から、医療的ケア児を持つご家庭が、お出かけや学びの機会を求めていることがわかりました。


*(別タブリンク)【参考】
医療的ケア児支援法施行から9月18日で2年 医療的ケア児とその家庭に寄り添う看護師ケアリングサービス「Soi Nurse(ソイナース)」が利用者調査を実施
この結果を受け、ソイナースでは2023年12月に、看護師が帯同しホテルに宿泊する企画を実施しました。


今回、全国各地でインクルーシブ(包括的な、誰もが参加できる)イベントを開催し、スポーツ・芸術・文化との出会いや触れ合いを通して、病気と闘っている・障がいと共に生きている・医療的ケアが必要である子どもたちの世界観を広げる機会を提供する「特定非営利活動法人AYA(以下、AYA)」の代表理事 中川悠樹さんと、ソイナース代表の横山佳野の対談が実現しました。


前編では、AYAの設立背景やイベント開催時に工夫をしている点、障がいを持ったお子さんの家庭における「お出かけ」に対する現状の課題や実情について、後編では社会全体で変化が求められることと今後の展望についてお話しいただきました。
AYAの原点は幼馴染の妹「あやこちゃん」
――はじめに、中川さんがAYAを設立した背景やきっかけについてお話いただけますか?


中川さん:はい、私の原点は幼馴染の妹「あやこちゃん」です。小さい頃から家族で仲良くしていたんですが、ある時あやこちゃんが麻疹に罹り、数年後に亜急性硬化性全脳炎(SSPE)というかたちで脳で再発してしまい、長い闘病生活の末、亡くなったんです。私が医師の道に進んだのも、あやこちゃんの存在が大きかったですね。小児科ではなく最終的には外科医・救急医の道に進みましたが、あやこちゃんのことがいつも頭のどこかにありました。


そこからAYAの設立までに、ある大きなきっかけがあったんです。医師になってから、私が大好きなバスケットボールの日本代表チームの帯同医として、偶然携わることになりました。空港に向かうバスの中で、初めてスポーツ選手の帯同医として参加する私に声を掛けてくれた方がいたんです。「これからもスポーツドクターとしてやっていかれるんですか?」と質問をされた時に、自然と「病気や障がいのある子どもたちやその家族に関わることをやっていきたいんです」と答えていました。ヨルダンに2週間ほど滞在したのですが、その期間にバスケットボールの関係者にそのことを話すと「いいね!」と言ってもらえて、自然と繋がりができていきました。2021年10月頃、あやこちゃんの兄である弘章にそのことを話して、2022年1月にAYAを立ち上げたんです。


「初めから小児科」という選択肢もありましたが、今となっては経験したのが救急医でよかったと思っています。もし小児科出身だったら、イベントを実施する際に、ちょっとしたしがらみなどが原因で、他の方からの協力を得づらくなったかもしれません。一方で「救急医ならまぁ安心か」と言っていただけることも多い実感があるからです。


横山さん:今のお話を伺って、私にも共通している部分があるなと思いました。私も小児科出身ではありませんが「だからこそ得られたもの」があると考えているんです。違う視点でものごとを捉えられるというか。その点で、中川さんにとても共感します。
――横山さんは、AYAのイベントに実際に参加されてみていかがでしたか?


横山さん:たくさんの方が集まっている光景を目にして、とにかく驚きました。参加者だけでなく、ボランティアスタッフの方もたくさんいらっしゃって、中川さんの人望の厚さを実感しましたね。私たちも事業をしている中で日々「一般的な家庭であればできる当たり前のことが、医療的ケア児を持つご家庭ではできていない」という課題を肌で感じています。今までのサービスに加え、これからはお出かけをしたいご家族の思いも叶えていきたいと思っているんです。


*(別タブリンク)【参考】医療的ケア児と看護師の課題を掛け合わせWin-Winを実現。訪問看護サービス「Soi Nurse(ソイナース)」が目指す〝健やかな未来〟
中川さん:横山さんに対して、大きく2つの部分に共感しています。一つ目は個人的な部分で、さまざまなことをまずやってみる中で、結果として自然と繋がりができてきたんだろうなと。もう一つが、親御さん目線であること。AYAも子どもたちを対象にしていますが、どちらかというと親御さん目線なんです。「親御さんやご家族にこうなってほしい」という部分が、私と共通しているなと感じています。


横山さん:そうですね、私たちは「親御さんたちが健やかでないと、子どもたちも健やかにならない」と考えています。そうでないと経済も発展していきませんし、医療はそういった部分のインフラだと思っているんです。
声を出してもOK!イベント参加者に安心感と繋がりを与える工夫
――中川さんはなぜ、イベントの開催から始められたのでしょうか?


中川さん:私は、昔からイベントや飲み会など、たくさんの人が集まる「場」を作るのが好きだったんです。企画をしたり人に声を掛けたりすることがまったく苦ではなく、むしろ進んでやりたいくらいで。イベントから始めたのは、あやこちゃんのお話も関係しています。あやこちゃんのお母さんが、「寝たきりだったけれど、無理をしてでも、あやこが行きたいと言っていた場所に連れて行ってあげたかった」といまだに後悔をしているんです。お出かけをさせてあげたかったけどできなかった。今の事業の根元はすべてそこにあります。


横山さん:そもそも、みなさんが楽しめるインクルーシブイベント自体がまだまだ少ないですよね。健常児向けのイベントはあるものの、そこにいくと「周囲の方に迷惑をかけてしまうのでは」と避けている親御さんもいます。そんな中で、AYA主催の映画イベントでは中川さんが「声を出してもOKだよ!」「医療機器のアラーム音が鳴っても、吸痰などの医療ケアをしても大丈夫だよ!」と声掛けをしていて、参加している方に安心感を与えられているのが素敵だと思いましたね。


――イベントを開催するにあたって、他に工夫されていることはありますか?


中川さん:イベントの開始前に「1分間で前後の方とご挨拶をしましょう」と声を掛けて、交流の時間を設けています。このちょっとした会話だけでも、「お互い一緒に楽しみましょうね」という雰囲気が醸成されると考えています。アンケートを取ってみると「他の親御さんやお子さんと繋がりたい」という声もあるんです。現在は、映画館のあるショッピングモールに協力してもらい、鑑賞が終わった後に交流ができる場を設ける企画も動いているところです。
お出かけの高いハードルと事業者側の課題
――心理的な部分以外では、お出かけのハードルの高さはどこにありますか?


横山さん:物理的な部分にも課題がありますね。ご家族は、お子さん用のデバイスや呼吸器などを持って移動しなければいけませんし、すべての場所がバリアフリーになっているわけではありません。乗り物に乗るだけでも、とても大変なんです。そんな状況なので、長時間外にいることで疲れてしまうのが実情だと思います。


中川さん:「お出かけをしたい」と思っている家族がいるのは事実ですよね。ただ、横山さんがおっしゃったように、物理的なハードルが高いと感じている親御さんは多いと思います。目的地までのアクセスビリティ(移動手段・トイレの場所)や現地対応の有無など、さまざまなことを考えなくてはいけませんからね。新幹線や飛行機に乗るとしても、エレベーターの場所まで考慮する必要がありますし、途中で何か起きたらどう対処するかも考えなくてはいけない。これらをすべて家族だけでやろうとすると、とてもハードルが高いと思います。


CSRやSDGsの流れから、施設側も「何かやってあげたい」「受け入れたい」とは思っているものの、非医療者なので「こわさ」があると思います。そこで「AYAが医療面のサポートは請け負いますので、子どもたちや家族の願いを一緒に叶えませんか?」と提案し、イベントの実現に至っている感じですね。


ただ、AYAのスタンスは「やりすぎないこと」。参加者からはさまざまな要望を頂戴しますが、敢えてすべてに応えようとはしていません。イベントの場を提供してくださる事業主の立場も考慮し、AYAは参加者と事業主をつなぐ「架け橋」のような第三者的立場として、双方にメリットがあるように心がけています。


これによって、イベントが単発でなく、サステナブルなものになると信じているからです。たとえば、昨年開催した小笠原諸島へ行くプログラムでも「フェリー乗り場までは各自自力で来てください」というスタンスでした。手厚いサポートをしすぎて、イベント実施に負担がかかりすぎないようにしています。そんな中、来て楽しんでいただいた方々から、その「楽しかった!」という想いが他の人に伝搬して、AYAのイベントへの参加者が増えていったらと思っています。


――敢えて親御さんたちが考える部分があることで、次に自分たちだけでお出かけをするための学びにもなりそうですね。


中川さん:そうですね。中には「ユニバーサルシートがないからお出かけができない」と言う方もいますが、私は「そのままだと、一生ユニバーサルシートはできませんよ」とお伝えするようにしています。事業者側としては、話題に挙がったとしても、そもそも対象となる子どもたちを見たことがないので、なぜ必要なのか、リアルな体験がなく、自分ごとに落とし込みづらいんです。 そもそも、ユニバーサルシートの需要があることもわかっていないということもあるでしょう。


だからこそ「ユニバーサルシートがないかもしれないけど、サポートはAYAがしますので、まずはイベントを存分に楽しむ」「その楽しかった声を事業主に届ける」、これに加えて「もしユニバーサルシートがあればもっと外出しやすくなりますので、ぜひ検討してください!」と伝えることで、事業主も自分ごと化でき、もっと多くのお客さんに楽しんでもらうためには設置が必要だな、と思ってくれるのではないかと考えています。


横山さん:同感です。私たちも、ソイナースの学校看護で同じことを感じています。学校、行政も非医療者なので「こわさ」があると思うんです。そこに私たちが入ることで、安全を担保しながら学校に通えるようにする。そういうスタンスでやっています。不満がある方の気持ちもとても理解できる一方で、医療的ケア児が普通に学校に通えるようにするためにも、当事者たちが「相互作用」していかないといけないなと感じますね。


*後編へ続く

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