この記事をまとめると
■過去のモデルに遡るとジャガーのネーミングが迷走気味だった
■ジャガー創業時のブランド名は「スワロー」でイマイチ迫力に欠けていた
■アルファベットや数字などの順序をまったく無視した脈絡のない車名ばかりだった
一貫性を完全度外視したジャガーのネーミング
ジャガーのネーミングはいじりやすいと、クルマ好きならご承知かと。そもそもは意味不明とされるSSから始まって、その次はXを頭文字に選び、AやBがないのにCDEFはあるという脈絡のなさ。イタリア人がやってるフェラーリさえルールがあり、農機メーカーからスタートしたランボルギーニだって牛由来(例外あり)です。
もっとも、創始者コンビのライオン氏とウォムズレー氏はそこそこキチンとしていたようですが、ジョン・イーガンがトップになったり、フォード傘下に収まったりしたころから迷走気味。それなりのプレミアムブランドを標榜するわりに、ライバルたちに水をあけられている感のあるジャガーですが、ここはやっぱりネーミングから再考するというのもありかもしれません。
いまでこそジャガー、ジャガーと呼ばれていますが、創業当時は「スワロー」または「スワローサイドカーカンパニー」、いうまでもなくツバメを意味するスワローですから、どこをどう押したらジャガーが出てきたのやら。また、ジャガーを名乗る前にスワローではちと弱いとばかりに、「SS」というブランド名を用いたこともありました。
が、この際にリリースしたモデル「SS1」や「SS2」が見てくれは良かったにもかかわらず、汎用エンジンを搭載したがために(そのぶん価格が抑えられヒット作に)自動車の専門家やクルマ好きからは「見かけ倒しのまがい物」とけちょんけちょんないわれよう。
で、SSシリーズの新型をリリースする際、まがい物と区別されることを祈って「SSジャガー2 1/2」とか「SSジャガー90」と初めてジャガーの名前を用いたわけです。
これまた、値段が安くて(当時のベントレーの3分の1程度)スタイルがイケてたから売れに売れまくったわけです。ちなみに、ジャガーは「英国の気品と伝統」とか「英国王室御用達」とかもち上げられていますが、根幹は「カッコいいわりにお手頃価格」というイケアとかニトリみたいな商法だったことお忘れなく。
で、ジャガーカーズに変更した途端、ライオン氏は「これからはXじゃね!」と思いつき、サルーンからレーシングカーまですべてがXを用いた車名となりました。たとえば、流麗なスタイリングでいまでもジャガーのマスターピースとされるXK120、これに搭載されるエンジンもまたXKエンジンと呼ばれ、ル・マンに初めて出場したCタイプも「XK120 Cタイプ」と呼ばれることすらあったのです。
続くDタイプのネーミングは単純で、Cタイプを引き続きチューンアップしたモデルだったから。実際、ル・マンでは1954年に最高速度記録、1955/56年は総合優勝を遂げています。ちなみに、これに気をよくしたのか、ジャガーはXKSSという昔の名前といまの名前をミックスしたみたいなレーシングカーを開発したのですが、これは工場が火災に見舞われるという災難で活躍することはありませんでした。
Dタイプの好成績を市販車の名前に反映させたかったジャガーでしたが、シトロエンとの係争を避け、また新たなアウタースキンであることを主張すべく、新型はEタイプを名乗ることに。2シーター、ロングノーズのオープン/クーペ/2+2いずれも売れまくり、XK120に続く北米のドル箱モデルとなりました。
車格に対しちぐはぐ感しかない名前に仰天
そして、この当時にリリースされたサルーンはFタイプとなるかと思いきや、予想外のSタイプというネーミング。SSだったり、Sだったり、ほんと脈絡が感じられませんが、一応スポーツとかサルーンのSだと主張する歴史家もいらっしゃいます。
で、このSタイプを完コピ(笑)したのが、フォード傘下にはいって最初にリリースされた2代目「Sタイプ」。リンカーンLSというミドルクラスセダンをベースに、レトロというか昔風のボディを架装しただけで、インテリアのクオリティなどは昔日の面影すらありませんでした。なるほど、アメリカ人がイメージするジャガーとは「こんなにダサいのか!」と頭を抱えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もっとも、アメリカ国内だけでなく、日本でもそこそこ売れたようで、フォードとしてはホクホクしながら次のモデル「Xタイプ」をリリースしたのではないでしょうか。Sタイプよりもひとまわり小さなボディで2001年に登場したXタイプは、これまたフォードの普及モデル「モンデオ」からシャシーやエンジンを流用。こうした考え方、コンストラクションはサー・ウィリアム・ライオン氏(1代限りでナイトの称号、サーを頂いてます)に一脈通じるわけですが、ちょっと料理の仕方が大雑把に過ぎませんかね。
それまでのXJサルーンの面影を追求した結果、車内空間が犠牲となって狭いのなんの! とりわけ後席の垂直な背もたれやタバコの箱も置けないほどのレッグスペースには筆者自身、辟易した記憶があります。フォード製だけに、S/Xともにスーパーチャージャーなどで商品力をアップしたモデルもあるっちゃありますが、ベースがベースだけに化けることはついぞなかったように思います。
さて、現行モデルにはFタイプというイカしたクーペがあり、Eタイプの正統的な後継車といえるかと。これには、フォードからPAGへ経営が移り、そのPAGからジャガーを買い取ったインドのタタ・グループの見識の高さがうかがえます。また、フォードと違ってゼロからクルマを作っていますから、ジャガーなのにジャガーじゃない的なちぐはぐ感もありません。
ちなみに、このFのシュッとしたイメージをうまいことSUV化させたFペースはさほど評価が高くありません。これはライバルたちが実績あるシャシーを巧みに流用してSUV化させたのと対照的で、タタにはそのリソースが足りなかったのかもしれません。
いずれにしろ、後世のクルマ歴史家、そしてクルマ好きたちはジャガーのネーミングについては謎、というより混乱しか見いだせないのではないでしょうか。ブランド自体が流転の歴史を刻んできたわけですから、ネーミングの迷走も仕方ないといえばそれまで。ですが、いまは亡きライオン氏はきっと頭を抱えていたりするのではないでしょうか。