ネパールと中国チベット自治区の国境に位置する世界最高峰エベレスト。標高8,848.86mの頂を目指し、世界各地から登山者が毎年訪れています。
ベースキャンプとなる標高5,000m付近では酸素濃度が平地と比較して半分になります。標高8,000m付近ともなると、酸素濃度は3分の1程度にまで薄くなり、ヘリコプターによる救助も困難なため「デス・ゾーン」とも呼ばれており、登頂するためには入念な準備、トレーニング、計画、そして資金が必要になります。
ハイレベルかつ常に危険と隣り合わせのエベレストですが、「エベレスト街道」と呼ばれるトレッキング・コースもあります。エベレスト登山隊も必ず通る道で、壮大な自然と対峙することができます。
今回はエベレストへの登頂を公募形式で募集し、2024年の4月に登山隊を形成して山頂へ挑んだアドベンチャーガイズの国際山岳ガイド・近藤謙司氏に同行する形でネパールへと向かった21歳の若き青年にインタビューしました。
その青年は、小川優斗さんです。小川さんは国際自然環境アウトドア専門学校ⅰ-nacを2024年に卒業し、現在は駆け出しの登山ガイドとして活動しています。
小川さんはエベレスト登山隊の中で、「ロブチェ隊」として活躍し、エベレストまでの長い道のりの中で、スタート地点となるカトマンズから標高5,000mの「ロブチェベースキャンプ」までの区間をサポート役として参加していました。
そんな小川さんは、これまでにどのようなきっかけでアウトドア業界や「山」に興味を持ったのか。若き青年が抱く純粋な気持ちや、初めての海外で感じる戸惑いに迫ります。
──そもそもアウトドアに興味を持ったきっかけは?
幼少時代から外に出るのが好きで、学校の休み時間も鬼ごっこをして遊ぶことが多かったのと、休みの日も家族でドライブがてら外に出かけることが多かったので、インドアというよりはアウトドア派でした。
──その中で、「山」に興味を持ったきっかけは?
高校3年生ぐらいの時にYouTubeで登山の動画を見たのがきっかけで、そのままの勢いで山岳部にいる友だちに話を聞いてみたりしたんです。その友だちと一緒に初心者向けの山で登山して、そこからハマっていきました。
──そこから今では仕事として活動していますね。
最初から仕事にしようとは思っていなかったんです。ただ、高校卒業後の進路を考えた時に、周りと同じように何となく大学に進学するのではなく、とにかく「アウトドア」に携わっていきたいという気持ちが強くて。アウトドア関連の学校があるんじゃないかと調べていたらアウトドアの専門学校が出てきたので即決でした。
──今のところ小川さんもガイドとしての道を進んでいこうと考えているんですか。
まずはいろんな経験を積んでいきたいです。今回は僕が通っていた専門学校の非常勤講師でもある近藤謙司さんからのお誘いもあって、ガイドの仕事に同行させてもらいました。学校の授業では登山中の「口すぼめ呼吸」という呼吸法や高山病に関することなどたくさんのことを学び、海外のいくつもの山の写真や動画を見せていただき、海外登山の魅力についても教えていただきました。
──近藤さんに同行してみて、どんなことを感じましたか。
ガイドの仕事も当然楽な仕事ではなくて、お客さんと同じかそれ以上に体力的にキツいこともあります。たとえベテランのガイドでも同じだとは思うのですが、辛いときでも謙司さんは常に笑顔でお客さんに接していました。謙司さんがお客さんに対して気さくに話しかけて場を盛り上げたりしている様子を見て、僕もそうなりたいなと思いました。
──海外自体、初めてとのことでしたが、エベレスト街道を歩いてみていかがですか。
この土地や地域の文化、人のあたたかみを肌で感じています。ネパールの街中で人が大きな荷物を抱えて運んでいる風景はテレビでこそ見たことがありましたが、ヤクやロバ、馬といった動物が荷物を運んでいる光景を自分の目で実際に見て、とても感激しましたし、同時にその光景を多くの人に見てもらいたいと思いました。自分にとっても何か特別な気持ちが芽生えた気がします。
──今回、標高約5,000mの「ロブチェ」まで行くと伺っています。心境としてはどんな気持ちですか。
心境としては初めての5,000mということもあり、すごくドキドキしていますが、ワクワクの方が勝っていて、絶対行けるぞっていう気持ちです。これまでの行程で初めてエベレストを見て、絶対エベレストにも行ってみたいなって思いました。単純かもしれませんが、エベレスト登頂したらかっこいいじゃないですか。世界で一番高いところに登ったぞって言えるのはすごいことだと思うんです。
──ガイドの仕事としてはプレッシャーもありますよね。
やっぱり新人なので、このあと自分はどういう動きをすれば良いのかがわからないという場面が多いです。かといって謙司さんがミーティングしているときに、下手に入りこんで邪魔はしたくない。でもこの先のことをちゃんと理解しておきたい気持ちもあるので、その場の空気を読むのが難しいですね。
──今回の仕事で手応えはありましたか。
初めてお客さん5人と自分1人で歩いて、割と話を絶えずできたり、途中で見えてくる山の名前も事前に予習しておいたので、自分の言葉で説明できたこともあり、お客さんとの距離を少しずつ縮められたと思います。最初は「小川さん」とか「優斗さん」だったのが「優斗」って言われるようになったときにそれを実感しました。
──そもそも、小川さんが山に行く「動機」は何ですか。
僕の場合はシンプルにワクワクとドキドキを求めて山に行きます。同じ山でも山頂に辿り着くまでにはいろんなルートがあって、初心者向けのルートもあれば、上級者向けのルートもあります。ワクワクからくる楽しみな気持ちと、不安のようなドキドキ感を感じながら山頂にたどり着いたときに得られる達成感を求めてまた山にいくんだと思います。
──最後に、今後はどんなことにチャレンジしてみたいですか。
プライベートとしては国内のみならず、世界中の山からスキーで滑り降りたいです。基本的には今と変わらず山登りもそうですし、サーフィンだったりサップだったり、沢登りや渓流釣りなど、好きなことをとことん極めていきたいです。
ガイドの仕事という面では謙司さんのようなガイドになりたいです。お客さんの安全の確保はもちろんのこと、不安にさせないような気配りを忘れずに、辛い場面でも楽しませてあげられるよう、ガイドのライセンスを取得していくつもりです。
PROFILE
小川優斗
2002年9月18日生まれ。趣味として山スキー、釣り、クライミングを楽しむ。国際自然環境アウトドア専門学校(i-nac)を2024年に卒業し、ガイド免許を取得(日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ)した山岳ガイド。2024年の4月には「Columbia Win the Summit Project Team」による世界最高峰のエベレスト登頂を目指す登山隊のサポート・ガイド役として抜擢された。
Text:Nobuo Yoshioka
Photo:Matthew Jones