1961年設立の鈴茂器工株式会社(旧鈴茂商事株式会社)は、設立当時は菓子の製造機器メーカーでしたが、今では、世界80か国以上で使われる寿司や丼、おにぎりの米飯ロボットメーカーです。
1981年に寿司ロボットの1号機が開発されてから40年以上の月日が流れておりますが、寿司ロボットは少しずつ進化し成長を続けてきました。そんな寿司ロボットの歴史を当時の資料を振り返りながらご紹介します。
国の減反政策への怒りがきっかけに。米への愛情と徹底したこだわり「寿司ロボット」誕生で“寿司の大衆化”を実現
鈴茂器工の創業者である鈴木喜作は1970年代に行われた減反政策の様子を当時のテレビで目にした際に、米飯食文化がないがしろにされ、コメの消費と生産のバランスが崩れてしまうことを憂いていました。
会社の将来性を考え、ビジネスの転換を検討している際に、この減反政策の様子から、「鈴茂」の機械技術を米の消費拡大と米飯文化の普及に役立てたいという持ち前のチャレンジ精神から、当時高嶺の花だった“寿司の大衆化”に目を向けました。職人の高度な「握り」の技術を機械化することで、もっと身近に寿司を味わえる時代になると考えたからです。
職人からの厳しい反応。試作を続け、約4年の歳月を経て原型ロボットが完成
開発に取り組んでから2年後、試作機が完成。シャリ玉の型に酢飯を詰める単純な方式でした。助言役を頼んだ寿司職人からは、「こんなものは寿司じゃない」「団子みたいだ」と言われ認めてはもらえませんでした。握り寿司のシャリ玉と言えば、つまんで崩れず、口の中でホロリとほぐれる加減が極意です。試作品の食感はまるで押し寿司のようでした。
当時の開発者たちは内心では不安になりながらも「お客様が待っているよ。がんばろう」と鼓舞しあいながら開発を続けました。それから1年後、試作機の第2号機が完成します。台に乗った1貫分のシャリを2つの金属で挟む方式でした。助言役の寿司職人は進歩を認めながら、シャリ玉としては「まだ固い」と一言。「人間の掌(たなごころ)の弾力を真似してみては?」とアドバイスをくれました。
そのヒントを元に、鈴木喜作は技術陣と一緒に工夫を重ね、シャリと接する金属にスポンジのような弾力のあるウレタン系ゴムを貼り付ける方法を考案。寿司ロボットの原型となる試作機が1981年の夏に完成。開発に取り組んでから実に4年の歳月が経っていました。
発想のドッキングで市場を切り拓く。寿司ロボット1号機の誕生
実は「寿司ロボット」のネーミングは鈴木喜作がつけたものではなく、当時番組出演した際のアナウンサーによる命名だったのです。販売を始めた頃は「江戸前寿司自動にぎり機」と称していたそうです。
番組のニュースレポートでアナウンサーが自ら操作した際に「これはまさにロボットですなぁ」「これからの時代、このような機械が寿司屋の経営に参入する時代がやってくるでしょう」と言われたことから、「江戸前寿司自動にぎり機」と称していた名称そのものをズバリ、「寿司ロボット」という商品名にしたそうです。
以降、巷では○○ロボットなるネーミングで多数機械を出現していく、時代の流れだったそうです。「米を扱うビジネス」と「今まで機械化できないとされていた職人芸の領域の機械化」という2つの発想がドッキングされて、寿司ロボットという発想が生み出されました。
寿司ロボットの第1号機開発により品質の高いシャリ玉を1時間1200貫のペースでの量産化を実現したことで、シャリ玉を握る職人の手間を省力化、機械化され、多数の注文に対応できる仕組みを構築し、寿司の大衆化に大きく貢献しました。開発当初は、既存寿司店の導入が中心になると想定していましたが、飲食業の経験がない企業や個人からの注文、問い合わせも多かったため、外部企業とも連携し、寿司店開業に必要な設備一式をセット販売するなどの取り組みもしていました。
そんな寿司の市場拡大、消費拡大に貢献した寿司ロボット1号機は数々の賞を受賞し、機械遺産に認定されております。
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進化を続ける寿司ロボット。今につながる技術の系譜
寿司ロボットは現代では、“シャリ玉を握る”だけではなく、海苔巻きを作る機械や海苔巻きをカットする機械、酢合わせをする機械などを総称して呼ばれておりますが、ここで現代につながる寿司ロボット(シャリ玉を握る)の進化の系譜を当時のカタログを元に紹介いたします。
1995年 ST-77SS
シャリ玉がテーブルいっぱいになると回り込み防止センサーが作動、自動的に停止し、「シャリ玉を取ることにより自動的に動きだす。」という現在に通ずる仕様が採用されています。
1997年 ST-77SN
注文時に毎時1000貫、2000貫、3000貫と調整することが可能になりました。
ピンク、青、緑とカラフルなラインナップが、“魅せる”ロボットにも通じるものがあります。
2004年 SSN-ELA/ERA
現在最も市場に出ているSSNタイプがこのあたりから登場。生産能力は最大3,600貫/毎時まで増え、シャリを切らずによりふっくら、ソフトに握れるようになりました。
この製品から本体ボディが樹脂製に変わり、ベルトコンベア機構が一掃されました。
2008年 SSN-FLA/FRA
現在の仕様にかなり近づいてきております。液晶タッチパネルも現在のものに近づいており、従来製品より大きく文字情報が表示され操作性が格段にアップしました。また、洗浄部品点数も大幅に削減され、普段使いのサニタリー性、洗浄性の改善がうたわれています。それらのことが評価され、日本食糧新聞社の第12回日食優秀食品機械資材・素材賞(機械部門)を受賞しました。
ニーズに合わせて開発した数々の寿司ロボット。機能や設計にはこだわりと思いやりがこもる
近年では、寿司ロボットシェアNo.1を獲得しております。(出典:富士経済「労働人口不足の未来予測から見たロボット潜在需要に関する考察」すしロボット販売数量・金額2022年実績)
現在、市場で活躍している寿司ロボット(シャリ玉を握る)のラインナップをご紹介いたします。
■小型シャリ玉ロボット SSN-JLA/JRA シリーズ
2016年登場以降、回転寿司・スーパーマーケットなどで主に活用されている最も市場で活躍しているシャリ玉ロボットです。
酢飯を投入すると機械内でほぐし、成形し、握り寿司のシャリ玉を最大4,800貫/毎時生産する業界最速の能力を誇ります。オプションパーツの型を組み合わせることで色々なバリエ―ションのシャリ玉も生産可能です。
酢飯が触れる部品は青色に。これは青色の食べ物はないので万が一異物が混入しても目で見てすぐわかるようにとの開発者の思いやりが反映されております。
他にも、工具なしで着脱可能なため、日々のメンテナンスが容易に、ツバつき蓋でエンボス手袋でも開けやすい などの細かい点までこだわりが詰まっております。
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■寿司・おむすび兼用 お櫃型ロボット SSG-GTO
発売当時は「(寿司を握るのに)ロボットを目の前で見せられては客は興ざめだ」という店主の声もあり、大手チェーンへの大量生産への対応が求められる一方で、個人営業の寿司店などでは店内演出も重要なポイントとなっておりました。見た目はお櫃そのものですが、実はお櫃に精巧な機械を収容するために、機構を極限までコンパクト化した特許技術の塊なのです。自動的に成形されて出てくるシャリを取り出し、ワサビをつけ、ネタをのせて形を整えれば、寿司が提供できます。さらにオプションパーツを付け替えることで、おにぎりもつくれてしまう優れものです。
1999年に発売以降現在の形に改良を重ね、進化を遂げてまいりました。2001年度のグッドデザイン賞も受賞しております。
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■上出し式シャリ玉ロボット SSN-UJA
新発想の寿司ユニット機! 今までにない店内設置を可能にします。レーン内に設置すれば、寿司ロボットと分かりません。1貫ずつ出てくるシャリ玉を取り出し、ネタをのせて軽く握るだけ。2019年発売。
参考URL:
寿司ロボットは、どちらかと言えば、店舗の厨房内の裏方で職人さんを支える機械でした。
寿司の新規業態店舗にも導入を広げ、国内外の寿司職人不足にも対応
■コンパクトシャリ玉ロボットS-Cube (エスキューブ) 2024年
寿司文化を世界に広めるためのグローバルスタンダードを目指して設計した、寿司に欠かせない「シャリ玉」を自動で作るコンパクトタイプの寿司マシンです。コンセプトは、Small,Smart,Simpleな使い心地の「3S」。
コンパクトながらもスズモクオリティの本当に美味しい「シャリ玉」を安定的に生産することができます。 これから寿司ビジネスを始めたい人のエントリーモデルとしても適しております。
参考:コンパクトシャリ玉ロボットS-Cube(エスキューブ)の製品リリース
職人や人手不足で悩む飲食企業を寿司ロボットが救う
少子高齢化により労働人口の減少は深刻な社会課題であり、2030年における「サービス業」の不足人数は400万人と分析(出典:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計2030」)され、今後多くの飲食企業では人手不足に陥る可能性が高いと考えられております。
海外日本食レストランの数は2006年から2021年の15年ほどで約2.4万店から約15.9万店と大幅に増加しており、最新の令和5年(2023年)の農林水産省のデータでは18.7万店と世界的に急拡大が続いております。
とりわけ日本食の代表でもある寿司に関しては、世界的に寿司職人不足の状況にあると言われております。海外での寿司の業態も低価格の食べ放題店舗から高級業態まで多様化してきているようです。
寿司文化は海外にも。伝統だけでなく、新たなカルチャーが生まれることにも期待
寿司ロボットは極論、届いたその日から、電源を入れ、酢飯を投入して、お好みのグラム量を設定したら、寿司職人がいない店舗でも本格的なシャリ玉を提供できます。その簡単さは、今までにない新たな寿司を生み出す可能性を秘めています。
現在もカリフォルニアロールやドラゴンロールなど、それぞれの嗜好やカルチャーに合った新たな寿司が生み出され、日本に逆輸入されている様な状態です。伝統的な寿司が世界に広がることは嬉しいことですが、ローカライズされ新たな形が生まれることも素晴らしいことだと思います。
寿司ロボットを通じて新たな寿司文化が生み出されることをSUZUMOも楽しみにしております。
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■【鈴茂器工公式/SUZUMO】会社紹介ムービー
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■参考:ご飯盛り付けロボットFuwarica(ふわりか)の開発ストーリー
■参考:寿司ロボット シェアNo.1獲得のお知らせ