100年に一度の変革が進む自動車に、「材料」で新たな価値を届ける

2024.03.21 10:00
気候変動がもたらす影響が深刻さを増す中、カーボンニュートラルは世界共通の長期目標になっている。日本政府も2050年の実現を目指しており、あらゆる業界で脱炭素に向けた取り組みが進む。そこで、注目されるのが自動車産業だ。日本におけるCO2排出量のうち、自動車を含む運輸部門の排出は17.4%(2021年度)を占めており、クルマから脱炭素を目指す打ち手は重みを持つ。


折しも、自動車業界は「100年に一度」と呼ばれる大変革のまっただ中にある。CO2の排出を抑えつつ、新たなモビリティのかたちが模索されている。そこで価値を創出するのが、自動車のパフォーマンスや安全性、快適性を担保する「素材」だ。積水化学は電動化が進む自動車に欠かせない製品を提供し、次代の自動車を支えていく。環境問題を背景に加速する「自動車の電動化」の現在と、イノベーションをもたらす高付加価値素材にかかる期待とは。高機能プラスチックスカンパニー、そして積水ポリマテックで事業に携わるメンバーに聞く。
カーボンニュートラル×EV時代を新材料が支えていく
今、自動車産業には「CASE」と呼ばれるパラダイムシフトが到来している。これは「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字を取ったものだ。カーボンニュートラルに向け、自動車産業がフォーカスするのはCASEの「E」(電動化)である。


動力源の100%を電気でまかなう「EV(電気自動車)」をはじめ、ガソリンと電気の両方を使う「HV・HEV(ハイブリッド自動車)」や「PHV・PHEV(プラグイン・ハイブリッド自動車)」、水素を使って電気をつくる「FCV・FCEV(燃料電池自動車)」など、自動車の電動化はさまざまなアプローチで進む。CO2を排出するガソリン車からEVへ――。しかし、EVが私たちの移動を支え、次代のモビリティとして浸透するためには障壁もある。その一つが、ガソリン車に比べて「航続距離が短い」という課題だ。
積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 中間膜事業部 製品戦略グループ 山本聖樹


積水化学は車両向けの材料として「中間膜(合わせガラス用中間膜)」と「放熱材」を提供している。この二つの製品が、航続距離の課題に対するソリューションとなる。高機能プラスチックスカンパニーで中間膜の製品戦略を担当する山本聖樹が、EV領域における起点を解説する。


「自動車のフロントガラスやサイドウインドー、ルーフガラスなどには、2枚のガラスに「中間膜」という透明なフィルムを挟み込んで合わせた、合わせガラスが採用されています。中間膜の基本性能はガラスの強度を高めて飛散を防ぎ、安全性や防犯性を高めること。中間膜という透明なフィルムを挟むことで、ガラスにいろいろな機能を持たせることができます。弊社は、この中間膜の製造・販売をグローバルに展開しています。近年はEV向けとして、熱を遮断する遮熱機能や音を遮断する遮音機能のニーズが高まっています」


遮熱中間膜は、車窓を通して車内に入り込む日差しを遮って車内環境を快適にするとともに、エアコンの消費電力を抑えることで、EVの航続距離の延長に貢献する。「遮熱膜は、積水化学が独自に開発した世界初のナノ微粒子分散中間膜です」と語るのは、山本と同グループで前線に立つ瀧浪だ。
積水化学工業 高機能プラスチックスカンパニー 中間膜事業部 製品戦略グループ 瀧浪剛教


「私たちは、ナノ単位の赤外線吸収微粒子を中間膜に均一に分散する技術を世界で初めて確立しました。積水化学は、自動車産業のサプライチェーンではTier1(部品1次メーカー)であるガラスメーカーに中間膜を提供するTier2(部品2次メーカー)にあたります。EV化時代を見据えて遮熱性能を向上させるべく、製品のグレードアップや実験を繰り返していました。消費電力を抑えてEVの航続距離の延長に貢献する製品を送り出しています」


中間膜の機能では、遮熱に加えて「遮音」にも注目が集まっている。瀧浪によると、EV時代ならではの背景があるという。


「EVは静粛性の高さが特徴ですが、それはエンジン音に埋もれていた騒音が表面化することでもあります。私たちが開発した遮音中間膜は、車外から飛び込んでくる騒音の透過を低減し、車内の快適性の向上に貢献できます。ミラーの風切り音やワイパーが発生させる乱流など、騒音は車外のさまざまなところから発生します。このため、遮音中間膜はフロントガラスに限らずサイドドアガラスやルーフガラスなどにも用途が広がってきているのです」
EVの内部で駆動を支えるバッテリーや充電器から、航続距離の延長を目指すアプローチもある。キーになるのはデバイスが発する熱を制御し、温度を適切に管理することだ。バッテリーや充電器パック内で熱がこもるとパフォーマンスが不均衡になり、自動車の安全性やバッテリーの寿命に大きく影響することもある。


「積水化学グループは、これまで磨いてきた接合・放熱・成型技術を基盤に、バッテリーの安全性・性能向上に貢献する素材――放熱材料を提供しています」と語るのは、積水ポリマテックで放熱材の販売に携わってきた田口だ。
積水ポリマテック Global Strategic Planning 田口睦人


「最初に2液硬化型グリス放熱材料に着目したのは欧州の自動車メーカーです。私たちの製品は欧州車のEVバッテリー用として高い評価と信頼を得て、グローバルでも先行優位性をキープ。販売は欧州から北米をはじめ、世界へと広がっています」と、放熱材料のプレゼンスを語る田口の言葉には力がこもる。EV内部には断熱・保温効果に優れたシートタイプ、そしてこのグリスタイプの放熱材料が用いられる。高い熱伝導率や柔軟性を持つシートが主流だが、EVの普及とともに、生産性を高める自動化に最適な放熱材料、少量でも放熱効果を発揮するグリスタイプのニーズが高まってきた。


「放熱材料そのものの放熱特性が前提ですが、生産現場でどれだけ使いやすい材料を提供できるかがポイントです。キーワードは『カスタマイゼーション』。Tier1の生産工程にフィットし、より使いやすい材料です。私たちは欧州自動車メーカーのニーズを聞き取り、ものづくりの現場に貢献する製品として開発、提供しています」
世界同品質でサービスを提供。スピード感を持った実装が進む
遮熱性を高めた中間膜がエアコン負荷を低減し、EVの消費電力の削減を支えていく。EV時代にフィットする中間膜をどのように開発し、リリースしていくのか。「製品ありきのプロダクトアウトではなく、市場のニーズを把握するマーケットインの思想でものづくりをしてきた」と瀧浪は振り返る。


「私はオランダに駐在し、欧州でマーケティングと営業に携わった経験があります。自動車メーカーがどのような材料を求めているのか、ヒアリングを重ねたことを思い出します。いかに変遷していくのか、市場の将来を展望しながら開発を支えてきました。欧州現地での情報収集という地の利を生かし、市場を分析するだけではなく、メーカーのニーズを深掘りし、求められる材料を見いだしていく。そこに、積水化学らしいものづくりのイズムがあると考えています」


「中間膜のR&Dは各国リサーチセンターが牽引しており、製品の販売とサービスは各国の製造拠点の営業・技術の連携が支えています」と、山本はグローバルネットワークの強みに触れる。


「日本の開発センターに加え、欧州や中国、米国にリサーチセンターがあり、現地のニーズに即した高機能中間膜の研究開発を進めています。自動車市場のCASE領域では、欧州や中国から先進的な車載製品がタイムリーに発信されており、自動運転の分野でも技術の革新は目覚ましいものがあります。中間膜の新製品は世界各国で進むイノベーションをキャッチアップしながら開発、実装されていくのです。


そして、積水化学は世界6カ所に製造拠点を構えていますが、各拠点には営業と技術サービスのメンバーが活動しており、製品の販売とサービスの提供をワンストップで行っています。これにより、技術上の課題は全ローカルで共有して解決に臨めますし、グローバルで統一したクオリティーの製品を販売し、共通したサービスの提供ができるのです」


「まず、ものを作ってみる――。カスタムが得意な技術風土があります」と、田口は、放熱材の領域から「積水化学ならではのものづくり」に言及する。


「フットワークよく取り組める技術基盤があるため、時代の風を読んだ製品開発や、メーカーのフィードバックを反映した改善もスピード感を持って進められます。2023年には積水ポリマテックがアメリカに生産拠点を新設。EVなどの放熱材料の生産をスタートさせています。生産能力を拡充し、グローバルの供給体制を強化するだけではなく、北米や欧州でのマーケティング活動も加速し、モビリティの新製品の開発に注力していく拠点になります」
パノラマルーフやヘッドアップディスプレイ――トレンドに先んじて製品を供給
モビリティ分野は各社が開発にしのぎを削る戦略領域になりつつある。中間膜と放熱材はどのようなニーズとトレンドを読み取り、新製品を開発・提供していくのか。


新たな中間膜の実装を進める山本は、EVならではのレイアウト、エクステリアの進化を注視する。EVは座席下にバッテリーを積むため、運転シートの位置は従来よりも高めにレイアウトされる傾向にある。そうなるとシーティングポジションが上がりヘッドスペースが狭まるため圧迫感が生まれてしまう。そこでドライバーに開放感をもたらすため、自動車デザイナーがフォーカスするのがパノラマルーフガラスだ。


「パノラマルーフガラスはドライバーや同乗者のヘッドスペースを確保しつつ、開放的なドライブといったベネフィットを提供します。そこで、機能的な自動車ガラスをエクステリアに採用し、差別化を図るメーカーが増えつつあるのです。
先述の遮熱中間膜にプライバシーカラーな着色をかけ合わせた新製品をリリースしてきました。これはトレンドを先んじてキャッチした好例と言えるでしょう」
「パノラマルーフ用中間膜はデザインやカラーリングだけではなく、製品に求められるスペックを高めることにも力を入れています」と、瀧浪は技術面のポイントをフォローする。


「田口さんが放熱材料で触れたように、カスタム力は私たちの強みの一つです。遮熱と着色のかけ合わせと言っても、求められるカラーと遮熱を両立するためには透過率や色素組成の調整が必須です。EVに最適な中間膜を提供できるのは、微粒子分散や光学特性の制御など、私たちが磨き上げてきたテクノロジーがあってこそです。
新たなプライバシー機能として調光ガラスの搭載が増えていますし、走行時に速度や車線に関する情報をフロントガラスに表示するヘッドアップディスプレイ(HUD)が普及していく期待があります。今後もイノベーティブなアイデアが続々生まれ、EVに実装されていくでしょう。私たちはグローバルネットワークの技術力や提案力をフルに生かし、新たな中間膜をタイムリーに提供していきます」


放熱材料の分野では、環境への配慮や運転時の安全性を支える材料へのニーズが高まっている、と田口は説く。


「私たちが提供する放熱材料は低熱抵抗・低比重・低揮発で評価されてきましたが、難燃・吸熱性も兼ね備えて安全性を高めたり、放熱材をリサイクルしたりする製品の技術も持っています。放熱材のリサイクル化を進めることでCO2排出量の削減に貢献し、吸熱性を持ち合わせた放熱材料には発火時に延焼を防ぐ狙いがあります。環境に配慮しつつ、ドライバーの安心・安全にもリーチしていければと思います」
素材が創出する価値でEV新時代を先導し、新たな未来を描く
EV時代のマーケットトレンドを見通しつつ、視座を高く持ってグローバルに製品を届けていく。中間膜・放熱材料の開発・提供に携わるメンバーは、「製品の開発・営業はサステナビリティと分かちがたく結びついている」と口をそろえる。


瀧浪は「自動車業界が100年に一度の変革期を迎える中、人とクルマのあり方も大きく変わっていくでしょう」と展望する。営業として短期的な数字にフォーカスしがちだが、事業体として持続的にビジネスを続けていくためには、長期的な視点も必要だ、と明言した。


「ここまでEVを支える材料について語ってきましたが、その先の未来はどうでしょうか? 自動運転ではレーザー光で外界の状況を把握するLiDARが搭載され、自動車のデザインが大きく変わるかもしれません。また、いわゆる『空飛ぶ車』が登場したら、フロントガラスや中間膜には何が求められるのか――。メンバーや社外のパートナーと議論を重ね、求められるソリューションをイメージしていきたいですね」


「積水化学の中間膜の事業の強みは営業・技術の連携と、グローバルネットワークにある」と強調するのは山本だ。「その強みをさらに発揮し、この領域をリードする存在でありたい」と抱負を語る。


「技術を結集し、解決策を提案していく。このスタンスはどのような時代でも変わることがありません。まずは、社内の各部門を横断して、しっかりと横串を通すこと。開発と技術と営業、サービスとマーケティング、異なる部門も横断活動を活発化させ、EV時代ならではの困りごと、ニーズに応えていければと思います。しっかり通った横串活動は、社外のパートナーともつながり、共創していくハブになるでしょう」


放熱材料を巡るR&Dと実装のプロセスを概説してきた田口は、「航続距離という課題から軽量化へ、そして生産効率や安全性へと、メーカーが放熱材料に求めるニーズも変化してきました」と振り返り、さらにその先へ、社会や地球を支えていく思いを語った。


「メーカーやOEM先から投げかけられる『こんな製品、できないかな』という何げないつぶやき、問いかけにヒントがあります。今後もアンテナを張ってお客さまの要望をすくい取り、最適な製品として提供していきます。それが安心・安全で高パフォーマンスなEVにつながり、その先の社会貢献、地球環境への貢献にもつながるのではないでしょうか」


カーボンニュートラルの実現と社会への貢献を目指して。中間膜、そして放熱材料という高付加価値素材が、「CASE」をキーワードにしたモビリティ新時代を支えていく。


(関連リンク)
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