「生成AIに全振り宣言」──ネットイヤーグループが挑む新しいコミュニケーションモデルの創造

2025.07.01 10:00
急速に進化を遂げ、世界中で開発競争が激化している生成AI。インターネット以来の技術革新といわれ、社会のあらゆる場面で活用が進んでいます。2025年、ネットイヤーグループは「すべての経営資源を生成AIに振る」と代表取締役社長CEOの廣中龍蔵が宣言。社内に生成AIタスクフォースを立ち上げ、さまざまな活用事例を生み出しています。その動きをさらに加速させるべく、廣中が生成AI推進担当顧問として招聘したのが、エンジェル投資家の川崎裕一氏です。黎明期のネットイヤーグループで活躍し、株式会社はてな取締役副社長、株式会社ミクシィ取締役、スマートニュース株式会社執行役員などを歴任した川崎氏と廣中が、生成AIの現在と未来について、対談を行いました。
左)ネットイヤーグループ 代表取締役社長CEO 廣中、右)生成AI推進担当顧問 川崎氏
企業の生成AI活用は当たり前、 “生成AIに全振り”しないと生き残れない
――今年、廣中さんは「すべての経営資源を生成AIに振る」と社内で宣言し、生成AI推進の戦略アドバイザーに川崎さんを招聘されました。その狙いを聞かせてください。


廣中:全ての経営資源を生成AIに全振りすると決心したとき、「忌憚のない意見をくれる、心強いアドバイザーがほしい、誰だろう?」と考えて、真っ先に思いついたのが川崎君です。川崎君は、かつて一緒に、Peer to Peerの事業化に取り組んだこともある、ネットイヤーグループ創業時のメンバー。退社後の活躍にも注目し、時々会って情報交換してきました。川崎君は、技術的な知見を持つだけでなく、市場・金融・トレンドなどあらゆる面から生成AIのトレンドを見ていて、リサーチ力も好奇心も強い。一つのことを徹底的に理解しないと気が済まないタイプと知っていたので、アドバイザーは彼しかいないと思って招聘しました。


川崎:僕はスタートアップでしか生きられないんです。かつてネットイヤーグループに入社したのも、当時はスタートアップだったから。ネットイヤーグループ退社後はスタートアップを起業し、スタートアップの創業期に経営に携わってということを繰り返し、現在はスタートアップ企業に出資並びに支援しています。0から1にするという面倒なことに挑戦する人を支援したいからです。本来、上場している会社の支援はしないのですが、20年以上付き合いのある廣中さんの想いを知り、ちょっとこれは無下にできないなと。火中の栗を拾うくらいの気持ちで、顧問を引き受けました。経営資源を生成AIに全振りというのも、廣中さんがネットイヤーグループの代表に就任したときから、やるだろうなとは思っていました。


廣中:今の生成AIの潮流は、2000年代の始めにインターネットが商業化され、我々の生活様式が大きく変わっていったときに匹敵する衝撃度を持っています。新しい技術が出てきたら、社会・生活・経済にフィットさせてより良い暮らしができるよう、貢献することがネットイヤーグループのオリジンであり、その最大のチャンスが到来したのです。社内でも若い世代をリーダーにした生成AIタスクフォースを立ち上げましたが、しっかりとした道標がほしい。川崎君ならその役割を果たしてくれると思います。


――ネットイヤーグループの軸足を生成AIにしていかなければならないと思ったのはなぜでしょうか。


廣中:私には大学4年生の息子がいるのですが、もう検索なんて一切しない、すべて生成AIのツールで解決しています。これまでの検索エンジンのアルゴリズム/SEOの常識が、すでに通用しなくなりつつあるということです。今のままだと、私たちの業界は数年後にはなくなるかもしれない。“生成AIに全振り”くらいの強いメッセージを発信しないと、この会社は生き残れないと思いました。


川崎:2年くらい前ならAIがラベルについていることで企業価値が上がりました。投資家として言わせてもらうと、今はAIというラベルに投資すること自体がナンセンスです。生成AIを活用しているかどうか、聞くこと自体ばからしい。今や生成AIは所与であり、企業が生成AIを活用しないことはあり得ないです。スタンフォード大学の人間中心AI研究所(HAI)が毎年発行する『AI Index Report 2025』によると、推論コストは、約18カ月で280分の1になっています。ということは、1年前と同じことをやっていたら280倍コストがかかるということ。前と同じやり方では、競合に負けてしまいます。私が投資したスタートアップ企業は、みんなそれをわかっているし、生成AI活用は今や当たり前です。
生成AI活用事例発表会で見えてきたのは、お客様のリアルを知る強さ
――もともと持っているネットイヤーグループの強みは、生成AI活用でどうなるのでしょうか。他社とどう差別化を図っていくのでしょうか。


廣中:ネットイヤーグループといえばユーザーエクスペリエンス(以下、UX)です。時々、「これまで培ってきたUXを捨てるのですか? 生成AIに転換するのですか?」と聞かれるのですが、捨てるのでも転換でもありません。UXは全社員に浸透しています。UXという前提があり、そこにアドオンで生成AIを活用するということです。今後必要なのは、ユーザーにとって便利かつ信頼できるAIエージェントです。どのようなユーザー体験にすればそれが向上するのか。UXで培ったものをゼロにして捨て去るつもりはありません。生成AIがアドオンした世界で、どういうものが求められるのか。我々がこれまで培ってきた経験値があるからこそ、クライアントと一緒につくりあげて、次のステージにいくことができるのです。


――先日、社内で生成AIの活用事例発表会を開催されましたね。


川崎:私が発表会の審査をしたのですが、もうみなさん普通に生成AIを活用されているのだなと思いました。そのときに実感したのは、お客様のリアルを知る強さです。商売の原則は、お客様の課題を集めた量で決まります。一番儲かっている会社は、お客様の課題をたくさん解決している会社。今、OpenAI社の企業価値が上がっているのは、多くの問題を解決しているからです。当然のことですが、スタートアップ企業には、最初はお客様がいません。だから、お客様のニーズを見つけるところから始めないといけない。しかし、ネットイヤーグループには、多くのお客様がいます。そして、お客様がどういう取り組みをして、何に困っているかをよく知っています。発表会では、お客様が抱えている課題を生成AIでスピーディーに解決し、そこに付加価値をつけた活用例がいくつも紹介されていました。


廣中:私も、お客様の課題を解決している生成AI活用例が印象に残りました。例えば、ホテル業のお客様。夜間の宿泊客からの電話での問い合わせ、膨大な量のサンキューメール作成に、さらにクレーム対応といった課題に生成AIを活用している例が紹介されました。また、行政機関のパブリックコメントを振り分けて対応している例も印象的でしたね。どれもお客様に喜ばれている実例です。こうした例はお客様のコスト削減となっているだけでなく、心地よいUXにもつながっている。生成AIを活用しても、やっていることの本質は変わらないと思います。


川崎:PayPalの創業者の一人、ピーター・ティールが「スタートアップ企業は新しい価値を想像して、根本的に人々の生活を変えるくらいでないとだめ。二番手よりも少なくとも10倍は優れていなければならない。」と言ってたんです。その発言をさらに上回るのが、1/280コスト削減ですよね。こうした飛躍的な変化が起こっていることを、僕らは厳しく理解しないといけません。


廣中:データ分析も、生成AIによって大きく変わりつつありますね。


川崎:そうですね。以前はデータがたまったら分析し、その分析結果をもとに人が施策を考えて実行へ、という流れでした。ところが、生成AIはデータを取得したら、即分析して考えて、即実行するんです。すべてリアルタイム。例えば、廣中さんがヘッドホンの商品ページをタップしたら、タップした瞬間に、この商品情報を見ているということは、あの商品にも興味あるだろう、関連する情報を表示しようというのを即実行します。以前はそのためのプログラムが必要だったのに、これがもういらないんです。ユーザーがタップした瞬間、好まれそうな情報をリアルタイムで生成AIが引っ張ってくる。コンシェルジュ的なものが、ユーザー側にも企業側にもいて、高速に動いています。コンシェルジュというか、もう小さな脳ですよね。そうなると、ウェブサイトの形も変化してくると思います。


廣中:まさに、ネットイヤーグループが進めようとしているABACモデルがそれにあたりますね。
企業側とカスタマー側、AIエージェント同士の会話が当たり前に
――ABAC(AI agent-Based Autonomous Communication)モデルについて教えてください。


廣中:ABACモデルとは、将来的に、企業側と個人側のそれぞれのAI エージェント同士が、自律的(Autonomous)に会話する世界を想定した、当社が提唱するモデリングです。
図の右側のAIエージェントは、カスタマーの代理です。例えばAさんがウェブ等でちらっと見て、いいなと思ったモノや情報を、このAIエージェントは理解しているわけです。するとAIエージェントは、この左側にある企業側のAIエージェントに、「Aさんがこういうのを欲しがっているのだが、そっちにあるよね?」といったかたちで、AIのエージェント同士が 勝手に話を始めます。Aさんが就寝前にそれを見たら、Aさんが寝ているあいだに、AIエージェント同士が世界中を駆け巡って全部やってくれるわけです。おそらく、そういう世界がすぐにやって来ると思います。ではそのときに、我々はどこに可能性を見出すのか。そこを準備する数年間にしないと、我々の業界のほとんどが死に絶えてしまいます。この3年間が勝負ではないでしょうか。ビジネスの方程式が大きく変わると思います。


川崎:そうなっていくでしょうね。廣中さんが、生成AIの登場はインターネット誕生に匹敵する衝撃度と言いましたが、僕には不愉快な気持ちもあるんです。なぜ不愉快かというと、想像よりもはるかに進化しているから、毎日その調査をすることがストレスになっています。昨日まではこうだったという結論が、今日になると進んでいる。だから僕は毎日疲れています(笑)。以前は、キャッチアップできている自信があったんです。今の生成AIは、進化が速すぎて口が裂けてもキャッチアップできているって言えないです。知識がある程度固定しないと、専門性って確保できない。そうなると、生成AIの専門家だと胸を張って言える人なんて、この世にいないのでは。それにどう対応するかというと、とにかく生成AIツールを使い倒すしかありません。生成AIの進化は予測できませんが、これからは、このABACモデルが大前提だと思います。


廣中:生成AIの進化のスピードがとてつもなく速いから、変化に合わせてアップデートしていかなくてはならないですね。でも、ベースにある企業の課題や人々が困っていることを解決するのが役割というのは変わらないですよね。


川崎:そうですね。人間と人間がやり取りする、おもてなしをするという点は変わらない。しかし、これまでおもてなしをできる量が1日に1個だとしたら、時間や技術の制約が取り払われたことで、1日に280個もおもてなしできますとなるわけです。そう考えると、自分たちのキャパシティが足りない。経営者は、何をやって何をやらないか、選択に頭を使うことになるでしょう。
生成AI活用でも、ビジネスの根本は変わらない。重要なのは応用力
――今後、ネットイヤーグループはどうなっていくのでしょう。


廣中:ABACモデルの話をしましたが、もしかしたら企業とカスタマーのAIエージェントの間に、総合的なAIエージェントや、ある分野・業種に特化した専門的なAIエージェントが出てくるかもしれない。いや、もはやそういう概念さえなくなるかもしれません。正直言うと苦しい戦いだと思いますが、そこに自分たちのポジションを置かないと先はありません。テック業界の中でマーケティングを生業としているのなら、ここに踏み込まなくては。これまでネットイヤーグループは、お客様に向き合って課題解決をしてきた会社です。この生成AIビジネスで、さまざまな人がネットイヤーグループで働きたい、プロジェクトをやりたいと思える会社にさせてみます。


川崎:やってみて失敗することがあってもいいと思うんです。間違えや失敗によって、学べることはたくさんあります。過去の知見だけに頼るのではなく、新たな発見をしていきたいですね。今日またこんな新しいのが出てきた、明日になったらもっと進むから、今日ここ頑張っておこう、みたいな。お客さまは自分たちの想像より、2倍3倍4倍の速さで進化している、そう想像しながら仕事することが大切だと思います。


廣中:ビジネスの根本は変わっていないと思います。重要なのは応用力。生成AIの技術がわからなかったとしても、それをどう活用して、そのために誰と組むかです。「間違いを起こせ」って川崎君が言いましたが、挑戦してどんどんおもしろいことをやったらいいんです。インターネットでワクワクした私が、今度は生成AIでワクワクしている。こういうワクワクが、新しいものをつくりだします。こんなチャンス、そうそうあるわけじゃない。社員と共に楽しみながらチャレンジしていきたいです。
■さらに詳しい情報はこちら
今回の対談でご紹介した川崎裕一氏の生成AI推進担当顧問就任に関するニュースリリース、およびネットイヤーグループの生成AI活用への取り組みについては、以下のリンクから詳細をご覧いただけます。

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