企業の生産活動を支える設備や機械ですが、万が一トラブルが発生すれば、納期やコストに影響が及ぶだけでなく、安全面でのリスクも高まります。そうした事態を未然に防ぎ、生産効率の向上や設備稼働率の最大化を図るために不可欠なのが「設備保全」です。
本記事では、設備保全の基本的な考え方や代表的な手法に加え、現場担当者から管理職・経営層まで幅広く活用いただける実践的なポイントをまとめています。
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■設備保全の定義
設備保全とは、生産設備を常に安全・安定稼働できる状態を維持するために、点検・修理・清掃・消耗品の交換などを計画的に行う活動を指します。設備に不具合が生じれば、生産ラインが停止して顧客への納品スケジュールが大幅に遅れたり、従業員の作業の安全性に悪影響を及ぼす可能性があります。
■保守・メンテナンスとの違い
保守・メンテナンスという言葉からは「壊れたら修理する」という受動的なイメージを抱かれるかもしれません。しかし、設備保全が特に重視するのは、故障が発生する前に異常を検知・対処する「予防的」な観点です。もちろん、トラブル発生時には迅速な修理や交換が求められますが、設備保全の本質は「未然に手を打つ」点にあります。
設備保全の5つの種類
設備保全は大きく「予防保全」と「事後保全」に分けられます。さらに予防保全は「定期保全」「状態監視保全」「予知保全」の3つに分類され、合計5つのタイプとなります。
■予防保全
故障が起こる前に計画的な対策を実施し、トラブルやダウンタイムを防ぐ保全方法です。企業活動において、生産の安定性や安全性を高めるうえで欠かせない手法といえます。
定期保全
メーカー推奨連続運転時間や法令によって定められた期間を基準に、計画的に設備を点検・整備する保全手法です。たとえば「運転時間が○時間を超えたらベアリングにグリースを補充する」「○か月ごとにモーターを分解・清掃する」といったルールをあらかじめ設定し、それに沿って点検・交換を実施します。
状態監視保全
センサーなどを用いて設備の状態を常時監視し、異常の兆候が見られた場合に保全を行う方法です。振動や温度、騒音などの変化を継続的に観察し、あらかじめ設定した閾値を超えた場合に点検・修理を実施します。
予知保全
収集したデータを解析し、故障の時期やリスクを「予測」したうえで最適な保全を実施する方法です。IoTやAI技術の進歩により近年注目度が高まっており、振動・温度・電流など多角的なデータを解析して、設備の状態を正確に把握します。
■事後保全(Reactive Maintenance)
設備が実際に故障してから修理を行う保全手法です。稼働停止のリスクを許容できる設備や低価値の機器に適用される場合が多く、低コスト運用が可能な反面、予測できないトラブルが発生しやすい点に注意が必要です。
■目安は「RAVの5%以下」
一般的には、企業が保有する設備にかける保全費用を、RAV(Replacement Asset Value:資産代替価値)の5%以内にとどめるのが理想といわれています。
RAVとは、古くなった設備を新たな設備に置き換える際に必要となる、大まかな買い替えコストを金額で示したものです。たとえば老朽化した生産設備を、同等の機能や性能を持つ新しい設備に交換する場合、その費用がRAVの目安になります。
RAV = (年間メンテナンス費用 × 100) ÷ 交換コスト
■RAVを指標にした予算
保全費をRAVの「2~5%」に設定するのが推奨されています。具体的には、1年間の保全関連費用の合計を100倍してRAVで割ると、全体のうち保全費がどの程度を占めるのかが分かります。これが2~5%に収まっていれば、一般的には適正範囲と見なされます。
■事後保全だけに頼った場合のリスク
故障のたびに修理し続けているケースでは、RAVに対する保全費が20%以上になる場合も起こります。突発的な修理コストに加えて、生産計画の見直しや納期遅延による顧客信頼の低下、製品廃棄が発生する可能性を考えると、計画的に予防保全や予知保全を導入することが、結果的にコスト削減につながると考えられます。
設備保全を円滑に進めるための業務ポイント
効率的な設備保全を行うためには、センサーを活用した異常検知や点検業務のデジタル化、情報共有の仕組みづくりなど、多方面にわたる取り組みが求められます。ここでは、保全担当者が押さえておきたい重要なポイントを具体的に解説していきます。
振動・温度センサーの活用の一例
モーターのベアリング部に取り付けたセンサーから振動データを取得し、閾値を超えた場合に警告を出す仕組みを整備すると、早期に異常に気づくことができます。同様に温度センサーによって設備の異常や変調の兆候を検出し、稼働停止を未然に防ぐこともできます。
日常点検の実施
点検項目には、たとえば「振動値が○Hz以上になった場合は再点検が必要」といったように、定量的な基準を設定することが効果的です。表現が曖昧な場合、人によって判断が分かれ、点検の精度が低下する原因になります。
保全管理システムの例
タブレットの二次元バーコード読み取り機能を活用し、対象設備の点検項目や過去履歴を自動的に表示させるシステムを導入している企業もあります。検査結果はクラウド上に保存され、部品交換の時期をシステムがリマインドしてくれるため、人的ミスを大幅に削減できる点が注目されています。
社内データベース化
過去の故障事例を「設備名」「発生した症状」「対処方法」のように整理し、データベース化しておくことで、類似トラブルが発生した際に即座に対応できます。現場への周知も容易になり、同様の不具合を繰り返しにくくなります。
他拠点との連携
同一メーカーの設備を使用している他拠点との情報交換も有効です。共通の故障例や修理ノウハウを共有することで、保全業務の効率向上が期待できます。
経営視点で捉える設備保全の意思決定のコツ
保全戦略においては、ライフサイクルコストの最適化や投資対効果の把握など、管理職・経営層が押さえておくべき視点が多く存在します。ここでは、コストとリスクの両面から設備保全を検討する際に知っておきたい具体的なポイントを整理しました。
■コスト削減&リスクマネジメント:ライフサイクルコスト(LCC)を考える
ライフサイクルコスト(LCC)の考え方
LCCとは 設備や製品を導入してから廃棄するまでにかかるあらゆる費用の総額を指します。設備導入費だけでなく、メンテナンス費用、ダウンタイムによる生産ロス、最終的な廃棄費用などを総合的に考慮し、LCCを最小化することが重要です。
投資判断のポイント
予防保全や予知保全を導入する際には、設備停止を削減できる効果や修理費用の減少分などを定量的に試算し、投資として回収できるかを検討します。最近ではAI技術を活用し、適切な交換時期を算出して無駄な部品交換を削減する事例も増えています。
稼働率1%の重み
年間稼働率が1%向上するだけで、数千万円規模の増収を得られる製造業も存在します。稼働停止が減ることで納期遅れが回避され、顧客満足度や企業の信頼性にも良い影響を与えます。
投資対効果(ROI)のシミュレーション
保全システム導入やセンサー設置によるコストと、ダウンタイム減少による損失回避効果を比較検討し、数年以内に投資を回収できるかをシミュレーションすると、意思決定の根拠が明確になります。
保全担当者の育成
設備保全には機械や電気、ITに関する知識が求められるため、担当者のマルチスキル化が進められています。ベテランから若手へのノウハウ伝承も重要な課題であり、体系的な研修プログラムや情報共有基盤を整備する企業が増えています。ベテランの経験に基づく業務ノウハウを一元管理・共有することで、業務の属人化を防ぎ、現場力の底上げを図ることが重要です。
比較検討のポイント
データ活用を最大化するためには、保全管理システム(CMMS)やIoTセンサーなどで得られる情報を一元的に統合できる仕組みが重要です。導入時は、既存設備やシステムとの連携性、クラウド機能、サポート体制などを確認し、自社の要件に合致したプラットフォームを選択しましょう。
外部知見の活用
外部の専門家やドメインナレッジをもったベンダーを活用して現場調査を行い、設備保全の改善策を提案してダウンタイムを大幅に削減した事例も見受けられます。第三者の専門的な視点は、社内では気づきにくい問題点を可視化するうえで有効です。
PoC(実証実験)での導入
いきなり全社展開を行うのではなく、小規模ラインや一部設備で試験導入して効果と課題を把握したうえで拡大していくと、投資リスクを抑えながら導入効果を検証できます。
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