米国に本社を置くJ.D. パワーは消費者インサイト、アドバイザリーサービス、データと分析における国際的なマーケティングリサーチカンパニーです。1968年の設立以来、50年以上に渡って、自動車業界をはじめ様々な業界の企業に、業界インテリジェンスや消費者インサイト、アドバイザリー、ソリューションを提供しています。
このストーリーでは、J.D. パワーのグローバル・ビジネス・インテリジェンス部門でファイナンス業界を担当する西川 健太郎に、近年関心が高まっている資産形成や投資信託について、また来月発表予定の新調査「アクティブ型投資信託満足度調査」について話を聞きました。
Global Business Intelligence 部門 ファイナンシャルサービスインダストリー
ディレクター 西川 健太郎
―西川さんが現在J.D. パワーで担当している業務について教えていただけますか。
主に銀行、証券会社、保険会社といった金融機関を対象とした満足度調査を実施し、実際にサービスを利用している顧客の声(Voice of Customer)を、業界各社へお届けする活動をしています。
刻々と変わる事業環境の変化や顧客ニーズに応えるため、またお客様から選ばれるために、金融機関各社では提供するサービスの差別化や利便性向上に取り組み、日進月歩で進化しています。J.D. パワーは、金融機関各社に対して、自主企画によるCS(顧客満足)、CX(顧客体験)に特化した業界ベンチマーク調査を通して、業界全体の顧客満足度や顧客ニーズの変化への理解を深め、効果的なビジネス戦略を立てるお手伝いをしています。調査結果から得られるインサイトや顧客満足度ランキングは、クライアント企業へご案内すると共に、プレスリリースを通じて広く公表しています。
また、最新の市場動向や顧客ニーズの変化を把握するため、より実効性の高い調査テーマや分析手法を取り入れることにも力を入れています。具体的には、資産運用の調査において"NISA"に関するより詳しい設問を追加したり、生命保険の調査において、"変額保険"のニーズを問う設問を追加したりしています。業界のトレンドを踏まえて、聴取内容をアップデートすることで、業界各社の皆様のニーズに沿い、より魅力的に感じていただく調査を心がけています。
―J.D. パワーの仕事で、どんな時にやりがいや面白さを感じますか?
調査結果がクライアント企業の経営戦略やサービス改善に活かされ、実際に顧客満足度の向上に繋がったというお声をいただいた時です。企業ごとに、おかれている環境や競合状況、考え方や課題への取り組み方は異なります。加えて業界のトレンドも日々変化しています。各社が不断の改善活動を行う中、その取り組みの成果が、弊社の調査でデータとして明確な変化が見られた瞬間は、とても嬉しいですね。またデータ分析によりインサイトを導き出し、クライアント企業も気づけていなかった課題やチャンスについてお伝えできた時にも、やりがいを感じます。社会インフラを支える金融業界に対して、弊社の調査データやインサイトの提供を通じて、顧客視点での価値向上に貢献できることに誇りを持っています。
―この度、アクティブ投信のCS(顧客満足度)調査を発足させると伺いました。その経緯や思いについてお聞かせください。
近年、個人の資産形成への関心が高まる中で、投資信託の役割はますます重要になっています。昨今、インデックス型の投資信託が人気ですが、純資産総額ではアクティブ型の投資信託(アクティブ・ファンド)の方が、未だにボリューム面で大きく上回っています。アクティブ投信を始める個人投資家の数が増えるにつれ、異なる経験値や多様化するリスクの取り方に対応するため、アクティブ・ファンドの役割はますます重要になってくると考えています。
しかしながら、以前より、多様な商品の中から個人投資家がどのようにファンドを選んでいるのか、どのような点に満足あるいは不満を感じているのか、アクティブ・ファンドに何を期待し、どのような情報やサポートを求めているのかといった、個人投資家に関する体系的な情報が日本では不足していると感じていました。そこで、それらを明らかにする調査の必要性を強く感じ、この調査を立ち上げることとしました。
この調査を通じて、運用会社の情報開示のあり方や顧客の期待値とのギャップなどを明確にし、最終的には個人投資家にとってより良いアクティブ・ファンドの選択と、より満足度の高い投資体験の実現に貢献したいと考えています。
―調査の概要を教えてください。
アクティブ・ファンドを保有する20歳~79歳の個人投資家を対象に、3か月以上保有するアクティブ・ファンドのうち、最も保有額(時価評価額)の大きい1商品についての満足度やロイヤルティを聴取しています。総合的な満足度に影響を与えるものとして、「運用方針」、「運用実績」、「情報提供」、「コスト」の4ファクターを設定し、総合的な満足度を1,000ポイント満点で測定します 。また、ロイヤルティについては、今後の「継続保有・運用意向」や「追加購入意向」、そして家族・友人・知人への「推奨意向」の3項目について聴取します。調査結果の一部や、運用会社各社が提供する商品別の満足度ランキングはプレスリリースで発表いたします。
―日本での投資信託を取り巻く状況や市場環境について、西川さんの考えをお聞かせください。
日本における投資信託市場は、NISA(少額投資非課税制度)の拡充などを背景に、個人投資家の裾野が着実に広がっています。一方で、低金利環境の長期化や、人生100年時代における資産形成の必要性の高まりから、より多様な投資商品へのニーズが存在するようになっています。
アクティブ・ファンドにおいては、運用成績やコストといった実利について着目するだけではなく、その投資哲学や運用体制、コミュニケーションの質などで選定する顧客が増加することが期待されます。運用会社においては、顧客一人ひとりのニーズに寄り添った、よりパーソナライズされた情報提供やアドバイスがより求められるでしょう。質の高い情報を、タイムリーに分かりやすく提供し、顧客エンゲージメントを高める活動をする運用会社も今後増えてくるのではないかと考えています。
―ファイナンス業界においてほかに注目していることを教えてください。
いくつか注目すべき点があると考えています。
まず一つ目は、テクノロジーの進化と活用です。AI(人工知能)やビッグデータ分析を活用した、より高度な顧客分析やパーソナライズされた金融商品の開発、そして効率的な業務プロセスの構築などが進むでしょう。
二つ目は、デジタルと人的サービスの融合です。
様々な顧客接点でデジタル技術が効率化と利便性を高める一方で、高度な判断や顧客との深い関係構築には人的サービスが不可欠で、両者の融合がカギとなります。どのように均衡を図り、レベルアップを重ねるのか。各社の取り組みに注目しています。
三つ目は、顧客中心主義の深化です。単に金融商品を販売するだけでなく、顧客のライフプランや目標に寄り添い、長期的な視点でのアドバイスやサポートを提供することが、より重要になります。そのためには、顧客理解を深めるためのデータ分析や、質の高いコミュニケーションが不可欠となるでしょう。
―今後、西川さんがJ.D. パワーで取り組みたいと思っていることなどあれば、教えてください。
顧客の真のニーズを深く理解するための調査手法の進化と、その結果を金融機関の具体的なアクションに繋げるための分析、またそれを実行していくためのコンサルティング機能の強化です。アクティブ・ファンドの調査はその一環ですが、今後は他の金融商品やサービス領域においても、顧客体験を最適化するための調査企画を推進していきたいと考えています。
また、調査結果をご説明するだけに留まらず、お客様と共に課題解決に取り組み、具体的な改善策を実行支援することで、より本質的な価値を提供していきたいと考えています。テクノロジーの活用も積極的に進め、より効率的かつ精緻な調査分析を実現し、お客様の意思決定を強力にサポートしていきたいと考えています。