千住に店舗を構える「洋かつらセンタールミアン」。足立区で昭和48年に創業、昨年50周年を迎えたウィッグ(かつら)専門店です。「足立ブランド」に認定された優良店として、おしゃれ用から医療用まで幅広い品揃えとリーズナブルな価格で、半世紀。髪の悩みを抱える多くのお客様に愛されています。
◆足立ブランドに入るきっかけ
「最近は、徐々にSNSにも力を入れようと思い、Instagram(lemien_kitasenjyu)も始めました。スタッフの協力も得て1日1本アップするのを目標にしています」
そう語るのは『洋かつらセンタールミアン』の2代目社長、中島貴司氏。
もともと『ルミアン』は51年前、中島氏のお父様が、奥様(つまり貴司氏のお母様)の実家があった足立区で起こした会社なのだそうです。
「父は元々商社勤めで、そこでかつらの卸事業を担当していました。ところが千葉の工場が別の業種に鞍替えし、かつら製造を辞めてしまったんです。それで、父が海外工場を探し、脱サラして会社を起こしました」と語ります。
当時は女性用を中心に展開。男性用も扱っていましたが、かつらのカットや調整もあるため、理容室に委託して販売していました。
「かつらは数年使用すると劣化し、新調する必要があるのですが、委託理容室で勧められた別のメーカーのものを買ったら粗悪品だったと、別会社のかつらなのにクレームがうちの会社に入ったのです。そこで私に白羽の矢が立ちました」と中島社長。
当時、中島氏は専門学校を卒業し、北千住の駅ビルの中の理容室に就職していました。就職して5年ほど経ったころ、そうした事件が起こり、お父様から戻って男性のかつらを自社で売らないか、という申し出を受け入社します。
足立生まれの足立育ち、最初の就職も足立という生粋の足立っ子の中島氏は、その後、お父様が起こした『ルミアン』を引き継ぎます。自社だけでなく、足立のビジネスの活性化に強い思いがあることは至極、当然のこと。
<北千住駅を出てすぐの場所にある北千住店。全国に5つの代理店もあります>
「足立区の異業種交流会は4つくらいあるのですが、私は『オンリーワン』という会に所属しています。そこで初めて「足立ブランド」が発足する話を区の担当者から聞きました。けれど、私の会社は精密機械やもの作り、町工場などの会社ではないし、“産業”というイメージとはちょっと違う気がしていました。ですから第1回目の募集には応募しなかったのです」
結局、「オンリーワン」から応募したのは1社のみ。これではいけないと思う足立っ子の心意気もあり、翌年の平成20年に「足立ブランド」に応募、認定されることとなります。
「認定されてよかったと思うことは、認定企業として『ギフト・ショー』に出展できるところでしょうか。それ以前も単独で出展したことはありましたが、個人ですと搬入やら展示やらとにかく手間がかかるのです」
<「医療用ウィッグ」展示の様子、帽子やバンダナなども販売しています>
◆増加する医療用かつらの需要と取り組み
現在『ルミアン』ではファッション性の高いおしゃれウィッグと医療用かつらを扱っています。その割合は半々くらいだそうです。
PR活動は「あだち広報」の広告掲載などいくつか。集客のために積極的な宣伝はそこまでしていません。その理由のひとつとして「おしゃれウィッグの愛用者は、一度購入して気に入ったら長くファンになってくれる方が多いのです。何度もリピートしてくださいますから。またその方を通して別の方へ紹介してくださったり、評判を聞いていらしてくださるお客様も多いのです」
お客様に合わせたウィッグの調整、ちょっとしたカットなども店舗で行なっているのも人気の秘密。
「うちは事務スタッフを除いてみんな美容師資格を持っています。スタッフは転勤もなければ定年もありませんから、古くからリピートしてくださる方とは長いお付き合いで、担当として商品やスタイルの好みを熟知しています。そうした安心感のある信頼の間柄で、ファンになってくださる方も少なくありません」
<スタッフの多くが美容師資格を持ち、お客様と長い関係性を築いています>
一方で、今需要が増えているのが医療用のかつら。
「こちらは抗がん剤などで髪の毛がなくなっても一過性のもの。治療が終わればまた、髪は戻ってきます。短期間の利用ですから、価格は抑えたいと思うのではないでしょうか。ですから中心価格も4〜6万円にしています」
中には、何十万、場合によっては何百万もするものが医療用かつらの市場に出回っているのも現状。
「ある時、がんの患者さんを数多く診られている大学病院のお医者様が、身分を明かさずに来店されたことがあります。後でご自身が医師であることを明かされましたが、その時、患者は治療費やそのほかの費用もたくさんかかるし、なるべく節約したいものです。ましてや病気のこと、髪の毛が抜けることで精神的にもダメージを受けています。こうした良心的な価格設定でしたら患者さんも喜びますね、と太鼓判を押してくださいました」
<高額になりがちな医療かつら市場で、中心価格は4〜6万円と非常に良心的>
『ルミアン』では、オーダーやセミオーダーのかつらの受注も受けていますが、特に既製品に力を入れ、常時300種類ほど用意しています。
「病気が確定してから、迅速に治療計画が立てられ、抗がん剤治療が始まります。薬を投与すれば髪はすぐ抜けますから、その前にかつらを用意しなければなりません。一から作っていては時間的に間に合いませんし、長期間の使用や常時使用するわけでありませんから、手軽な既製品を数多くご用意しているのです。実際、何百というアイテムはありますが、実際はひとつのスタイルで白髪入りものや、ブラウンのものなど数種類あるので実際は60スタイルほどでしょうか」
同じスタイルで数種類のパターンを用意するのはその方の年代や好みによって選択肢を増やすためなのです。
<様々なカラーとスタイルで常時300種類ほどのウィッグが揃います>
現在は、入院せずに働きながら治療を行う方も多いため、人目を気にせず普段の生活を送れるように、とさらに需要が高まっているのだとか。
「女性ばかりでなく、営業職の男性などが、抗がん剤治療を始める前に購入することも増えています」と話す中島さん。
また、抗がん剤以外にも病気で髪の問題を抱える方は数多くいます。
「知人女性がくも膜下出血で入院し、剃毛して手術に臨んだのですが、そのあと髪が伸びるまでと、かつらを購入されました。実際その間に使用したのは3回ほどだったそうですが、人目に触れても大丈夫という安心感は何よりも代え難いもの。今でもお守りとして持っています、と感謝の気持ちを伝えていただきました」
こうした言葉が病気や怪我、やけどなどで髪の問題を抱えている方の悩みにお役に立てているという実感は、中島さんの原動力となっているそうです。
<試着はもちろんのこと、ウィッグの調整やカットなども店舗で承ります>
◆試行錯誤の連続だった医療用かつらの開発
医療用かつらは、おしゃれウィッグでは対応できないことも多いそうです。そのため開発にも大変、悪戦苦闘したと話します。
「抗がん剤などでは免疫抑制などもあり、地肌が敏感になっている方も多いのです。かぶった時に刺激にならないようなソフトで薄いネットを土台に、そこに手植えで毛髪を植え込んでいったのですが、ネットが柔らかいので植毛の際に型くずれしてしまい、きれいなラインのスタイルに仕上げるのが難しいのです」
ネットのメーカーや植毛職人などを巻き込み、ネット生地の選定など、研究、工夫に長い時間を費やしたのだとか。
「また、透けにくい薄いネットを使っても、おしゃれ用のように髪のある状態に被せて着けるのと違い、抗がん剤の副反応のように全て脱毛してしまうとどうしても地肌が透けて見えてしまう方がいることも問題でした。ですからその下にもう1枚、目の細かい黒いネットをかぶっていただくことで解決しました」
透けにくいのに、通気性が良く蒸れにくい土台だけではなく、そのほかいくつもの工夫が、1台の医療用かつらには込められています。
「毛髪の素材にもこだわっています。人毛が何よりも勝ると考える方も多いと思いますが、そうとは限りません。おしゃれ用を長年使っている方はいいのでしょうが、人毛100パーセントのものは、手入れやセットなど扱いが難しいのです。普段かつらを使用していない方が突然、治療の間だけ着けるかつらとしては、セットが楽な方がいいですよね。それでなくても身体が辛いのに面倒なブローなどは大変だと思いますから」
辿り着いた『ルミアン』の医療用かつらの黄金比は、人毛7:人工毛3の混合。
「手入れが簡単なのが一番です。人工毛はドライヤーなど熱にも強い化学繊維を使用しています。またその割合で全体にまんべんなく配してしているのではなく、襟足は人毛を多くといった具合に、より自然に見えるような植毛の割合を手植えで加減しています。髪の長さやスタイルによっても割合は変えます。何度も何個も試作を繰り返し、やっとの思いで完成を見たかつらばかりです」
<より自然に見えるよう、人口毛と天然毛の割合を1つ1つ手植えで調整>
中島氏は、髪があることで、病気に立ち向かえる気力を持っていただければ何より嬉しいと語ります。
「いつでもかつらを着けて外出できるという安心感は大きいと思います。もちろん病気なんだからそこまでしなくても帽子をかぶっているだけでいいよ、という方もいると思います。けれど、冠婚葬祭などフォーマルな場などでは、キャップやバンダナをして出席するのには少し勇気がいるのではないでしょうか」
時には本人だけでなく家族の支えになることもあるといいます。
「数十年前、まだ20代の息子さんが脱毛症かなにかの原因で髪が薄かったそうです。最初、お母様が相談に来られました。髪が薄く、みんなに見られ噂されているというような気持ちになり、仕事にも行けず内向的になってしまったと。次回は実際にご本人と一緒にお越しください。どうしても外出するのがいやなら、私どもが伺いますとお伝えしたら、息子さんと一緒に来店され、かつらを購入されました。その後、その方は定職にも就き、ご結婚され、お子さんも生まれたそうです。お母様からは孫の顔も見ることができて本当に感謝していますと、時節のお手紙などを今だにいただきます」
病気の辛さを前向きにするお手伝いをする『ルミアン』のかつら。時には家族や身の周りの方も幸せにすることがあります。
「けれど、跡継ぎはいません。このままでは私の代で終わりです。志を継いでやってくれる人、この仕事をやりたいなという人がいればいいと思います」と、話を締めくくりました。
<髪があることで得られる安心感が、病気に立ち向かう気力になりますように>
企業情報
株式会社洋かつらセンタールミアン
会社名:株式会社洋かつらセンタールミアン
住 所:東京都足立区千住1丁目39-7
電話番号:03-3870-2662
代表者:中島貴司
事業内容:男性、女性かつら製造、販売、卸
創業:1973年
「足立ブランド」は、区内企業の優れた製品・技術を認定して、その素晴らしさを全国に広く発信することで、区内産業のより一層の発展と足立区のイメージアップを図ることを目的とした事業です。『株式会社洋かつらセンタールミアン』は、この「足立ブランド」認定企業です。
----------------------------------------------------------------------------------------
取材など掲載情報に関するお問い合わせは、「足立ブランド」の運営事務局でもある足立区役所産業経済部産業振興課ものづくり振興係でも受け付けております。
足立区役所産業経済部 産業振興課 ものづくり振興係
電話番号:03-3880-5869
ファクス:03-3880-5605
足立ブランド公式Webサイト