姫路獨協大学とKCJ GROUP、「アウト オブ キッザニア」への挑戦
少子化に伴う入学者数の減少や、専門職に対する若年層の関心低下など、地方大学が抱える課題はますます顕在化しています。そんな中、こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」を運営するKCJ GROUP 株式会社による監修のもと、大学を舞台にした“職業体験”イベント「Out of KidZania in 姫路獨協大学」を、2025年2月8日(土)~2月9日(日)に実施しました。
今回は、この取り組みの監修を担当したKCJ GROUP 株式会社の工藤さんと、会場となった姫路獨協大学 地域連携課の陸井さんに、「Out of KidZania」(以下 アウト オブ キッザニア)の狙いや手応え、そして若年層の職業体験がもたらす効果について語っていただきました。
地方大学の課題にどう向き合うか
――今回の取り組みに至る背景として、大学側が抱えていた課題にはどのようなものがありましたか?
姫路獨協大学 地域連携課 陸井さん
陸井(姫路獨協大学 地域連携課):
ご存知のように、地方の大学は少子化による入学者数の減少が大きな問題となっており、姫路獨協大学としても、学科や研究の魅力を広くアピールしたいですが、なかなか都市部の大規模大学と同じようなプロモーションができないという厳しさがあります。さらに、私たちの大学では、医療保健学部や看護学部、人間社会学群などのエッセンシャルワークにかかわる分野を学ぶ学部も多くあり、実際に高校生や小・中学生にとっては「リハビリテーション」や「臨床工学技士」、「言語聴覚士」といった専門職のイメージが湧きにくい。そうした仕事の大切さをもっと早い段階で知ってもらえれば、将来の進学や就職の選択肢に入ってくるのではないかと考えていました。
大学で“職業体験”? 始動のきっかけ
――そこでキッザニアに協力を要請されたのですね。大学のキャンパスを舞台にする「アウト オブ キッザニア」は今回が初めてと伺いました。
KCJ GROUP 株式会社 LX推進部 工藤さん
工藤(KCJ GROUP):
はい、今回が初めてでした。これまでの「アウト オブ キッザニア」では、自治体や企業と連携して、地域ならではの職業体験を企画することが多く、たとえば一次産業や伝統工芸といった、その土地ならではの仕事をこども達に体験してもらう取り組みなどでした。
一方で、大学には高度な専門知識や研究施設、そして現場経験豊富な先生方がそろっているので、そこにキッザニアの“こども向けにわかりやすく職業体験を提供するノウハウ”を掛け合わせることで、「大学の学び」をリアルな仕事としてこども達に体験してもらうという、新しい形ができるのではないかと感じました。姫路獨協大学さんからのお声がけは、まさに新たなの挑戦への絶好の機会でした。
キッザニアによる仕事体験のノウハウを大学のキャンパスでどう生かすか
――大学の授業内容はこども達には難しそうな印象もあります。工藤さんはどのように工夫を?
工藤:
大学の先生方が教えている専門領域は、小・中学生のこども達からすると未知の世界な部分もあり、授業そのものは「ちょっと難しい」となるのではと感じておりました。そこで、まずは「こどもが興味を持ちやすい入り口」をつくることから始めました。たとえば理学療法士や作業療法士の仕事を体験するブースでは、まず自分の身体の動きを確認したあと、“患者役”と“施術者役”に分かれて交互に体験できるようにしました。また、臨床工学技士や言語聴覚士といった少し馴染みの薄い仕事に対しては、大学にある実習用の機器や本格的な設備の見学を行い、ワクワクしながら学んでもらう仕掛けをつくりました。
<言語聴覚士の仕事体験をする様子>
陸井:
こども達にとって一番楽しいと感じてくれたのは、実際に車いすや普段触れることの出来ない医療機器を使う場面だったようです。「これで困っている人を助けられるんだ」という感覚が伝わるようで、さらに本格的な白衣を着て体験をした事も大きかったみたいです。実際、「大人になったらリハビリの仕事をやってみたい!」という声を聞けたのも、とても嬉しかったですね。
この企画を進めるにあたり、「教職員の本務は教育・研究が最優先」との反対意見もありましたが、教職員全員が「より良い大学にする」という思いで協力し、全員で運営することができたのだと考えています。
また、このイベントを通して、話をしたことのない教職員同士が交流する機会を得たり、親睦を深めたりすることができ、私自身もイベントの成功と同じくらい多くの学びや気づきを得られた時間となりました。
エッセンシャルワークの認知不足を変える
――大学としては、エッセンシャルワークへの関心を高めるという狙いもあったわけですね。
陸井:
はい。私たちの大学には医療系の学科をはじめ、地域に欠かせない仕事を担う人材を育成する学部・学群が多くあります。ところが「理学療法士」や「看護師」のように、名前は知っていても詳しい仕事の中身まではあまり知られていない職種もあります。
特に小学生や中学生の段階でエッセンシャルワークの“本来の社会的意義”を理解するのは難しいですが、こういう職業体験の機会を通じて、「病気や怪我をした人を支える」「自分たちの生活を豊かにする役割がある」などの価値を感じてもらう機会になったと思います。
<図書館司書の仕事体験をする様子>
工藤:
キッザニアを含め、職業体験の現場では、「お菓子工場でお菓子を作る」「テレビ局でキャスターをする」といったこども達に生活に馴染みのある仕事がわかりやすく取り組みやすいようです。もちろんそういった仕事も大切ですが、医療・福祉・公共サービスのような縁の下の力持ち的な職業も、社会を支える重要な領域だと伝えていきたい。今回の取り組みは、そこに一石を投じる意味でも価値があったのではないかと感じています。
若年層からの職業体験がもたらす効果
――今回の取り組みに参加したこども達や保護者の方の反応はいかがでしたか?
工藤:
こども達も保護者の皆さんも、大学のキャンパスに足を踏み入れるだけで、「わぁ、広い!」「本格的な設備がある!」と興味津々でした。特に今回、大学の先生方が、こども達の“先輩役”やサポート役として一緒に企画・運営をしてくださったので、雰囲気がとてもあたたかかったですね。
終わってからのアンケートでは、「身近なところにこんな施設や勉強できる環境があると初めて知った」「将来、大学でこういうことを学べるならやってみたい」という声が多く寄せられました。若年層のうちから大学やさまざまな職業に触れると、やはり将来の選択肢が広がる可能性がある、とあらためて実感しました。
陸井:
私たちの大学にはこういった機器があって、こんなふうに実践的な学びができる、と実際に見せられたのは本当に大きいですね。少子化が進むなか、大学が地域社会から「何を学べる場」と認識されるかは死活問題です。今回のようなオープンなイベントで、大学の学びが将来の仕事に直結していると感じてもらえたことは、私たちにとっても新たな発見でした。
地方大学の未来×キッザニアの展望
――今回の連携がもつ意味としては、地方大学の課題解決に対してどのような示唆があるでしょうか?
陸井:
「大学のなかに小学生たちを招き入れて、本格的な職業体験イベントをする」というのは全国でも珍しい試みです。従来ですと、オープンキャンパスは高校生以上を対象にやることが多いですよね。でも今回、もっと若い世代から関心を持ってもらうことは進路選択の機会を早めるだけでなく、エッセンシャルワークをはじめとする多様な職業に対する理解を深めるきっかけにもなることが分かりました。
地方大学が、こうしたアウトリーチ活動や地域連携を通じて存在感を示していくことで、少子化の時代だからこそ、「この大学だからこそ学べる分野がある」「地域でこういう人材を必要としている」という認識を広められると思います。
工藤:
KCJ GROUPとしても、今回の姫路獨協大学さんとの取り組みは非常に大きな学びがありました。私たちはもともとキッザニア施設の中で完結していた職業体験のノウハウを、「アウト オブ キッザニア」でどんどん社会に出していきたいと考えています。
特に大学という場所は、専門性の高い人材や施設があるだけでなく、地域企業や自治体とも結びつきやすい。そこに職業体験のノウハウが加わることで、よりリアルで多面的な仕事体験をつくれるんです。今後は姫路獨協大学さんのように地域に根差す大学さんと連携を広げ、こども達の「社会を知る入口」を増やしていきたいですね。
今後の展望と次なる一手
――最後に、今回の成功を踏まえて今後のビジョンをお聞かせください。
陸井:
実は意外と知られていないですが、姫路獨協大学は、獨協学園と姫路市との全国初の公私協力方式により誕生した、新鋭的な大学です。そんな地域の皆さまの声によってできた大学として、キャンパス内外の施設を活用した公開講座の実施や、今回初でしたが、大規模なコラボレーション企画など、地域住民と連携し「地域に根差した大学」としてさまざまな取り組みを進めています。教育機関として、今回のようなイベントを単発で終わらせることなく、何らかの形で続けていきたいと思っております。こども達が、「大学って面白い、将来行きたい」と思える場になるように、さらに発展させたいです。こじんまりしているけれど色々やってる文理総合大学として、これからも地域の皆さまと共に進んでいきたいと思っています。
工藤:
私たちKCJ GROUPも、他の大学との連携や産官学の協力を視野に入れています。職業体験は今や“キャリア教育”の一部として多くの自治体・学校が注目しており、そのニーズは高まる一方です。
今回の姫路獨協大学さんの事例は地方大学が地域で果たす役割を深め、同時にこども達の好奇心や進路意識を高める可能性を示した、非常に有意義な取り組みだったと思います。私たちもこの経験を糧に、さまざまな領域で「アウト オブ キッザニア」を展開しながら、こども達が将来への夢を描くサポートを続けていきたいです。
おわりに
少子化や地域の人材不足といった課題が浮き彫りになるなか、大学の専門性とキッザニアの職業・社会体験のノウハウが組み合わさった今回の「アウト オブ キッザニア」は、大きな可能性を感じさせる事例となりました。若年層のうちから多彩な仕事や大学の学びに触れることで、将来の進路の幅を広げるだけでなく、医療・看護などエッセンシャルワークの大切さを体感し、社会を支える職業への理解を深めることも期待できます。
今後も大学と地域社会、そしてこども達の未来を結びつけるこの新たな取り組みが、全国各地でどのように広がっていくのか注目です。